2007年07月12日
前週のフランスGPに続いてフェラーリのライコネンが連勝し、ルイス・ハミルトンの独走にひとまず歯止めが掛かったF1イギリスGP。そのハミルトンも日曜日の決勝ではピットストップでミスを犯し、レースペースでも「フェラーリの速さについていけなかった……」と今回は素直に白旗をあげたものの、チームメートのアロンソに次ぐ3位入賞で、開幕以来の連続表彰台記録を9へと更新! 地元、シルバーストンに詰め掛けた多くのイギリス人ファンの声援に応えてみせた。
だが、この週末、そのハミルトンと同じぐらい大きな話題となったのが、なんとF1を舞台にした産業スパイ事件! 元フェラーリのチームメカニックとマクラーレンのチーフデザイナー宅に当局の家宅捜索が入り、マクラーレン関係者の自宅から、計780ページ分にも相当するフェラーリの機密情報が記録されたディスクが発見されたというのである。
疑惑の渦中にあるのは、フェラーリの元チーフメカニックでシューマッハー全盛時代のレース現場を支えたキーパーソンのひとりでもあったイギリス人のナイジェル・ステップニーと、マクラーレンのマシンデザイン部門を統括する立場のマイク・コフランの2人。シューマッハー引退以来、フェラーリで孤立気味の状況にあったステップニーがチームから機密情報を持ち出し、かつてベネトン(現在のルノーF1)時代の同僚でもあったコフランに渡したというのが、「とりあえず」このスパイ事件の基本的な骨格だ。
イタリアとイギリスの当局にフェラーリがこの2人のスパイ行為を告発し、イギリスGP直前という、これまた絶妙なタイミングでコフラン宅の家宅捜索が行われた結果、一気に表面化することになったこのスパイ疑惑。だが、今シーズンのF1でタイトルを争う「2強」であるフェラーリとマクラーレンの、しかも中枢にいる人物が関わる事件だけに、そのインパクトは大きく、特にボーダフォン・マクラーレンにとって、地元イギリスGPという重要なイベントを控えたスキャンダルはイメージ的にも大打撃。即刻、コフランを休職処分にしたチーム代表のロン・デニスは木曜日に行われたチームの新たなモーターホーム(と表現するにはあまりにも巨大で豪華。正式名称はボーダフォン・ブランドセンターというらしい)のお披露目で、珍しく目に涙を浮かべ「マクラーレンが他のチームの機密情報を自分たちのマシンに使ったという事実は断じて無い……」と訴えた。
ちなみにステップニーとフェラーリ上層部の軋轢い関しては、このスパイ疑惑以前から様々な情報が流れており、フェラーリは「チームに対する意図的な妨害工作」があったとして既にステップニーを告発中。一方のステップニーも今季不振にあえぐホンダへの移籍に向けて水面下で動いていると見られていた。果たして、フェラーリ上層部に恨みを持つステップニーがチームの機密情報を盗み出し、それを旧友であるコフランに渡したのか? コフランはそのデータをマクラーレンのマシンに使ったのか? ところがイギリスGPの金曜日になると、新たな事実が浮上し、スパイ事件はさらに複雑さを増すことになる。 この日、定例のFIA記者会見に出席したマクラーレンのロン・デニス代表がフェラーリ、マクラーレン以外の「第3のチーム」の関与を示唆。それを受ける形でホンダが渦中の人物であるステップニーとコフランと6月に採用に関する面接を行っていたことを公式声明の中で明らかにしたのだ。
「4月の末にステップニー側からホンダへの移籍に関して打診があり、彼が「もう1人ホンダ入りを望んでいる人物がいる」といって連れてきたのがマクラーレンのコフランで、2度ほど面接をしたのは事実だ」とホンダF1のチーム代表を務めるニック・フライ。「ただし、その場でウワサになっているようなフェラーリの機密情報提供をオファーされたことは一切無い。我々にとっては単なる採用面接でしかなかったし、それも結果的には流れてしまったワケだからね……」
ステップニーとコフランが盗み出したフェラーリの機密情報がホンダへの「手土産」だったという疑惑を全面的に否定したフライを実際、普段はホンダいじめが大好きな? FIAの会長、マックス・モズレーも今回に関しては珍しくホンダの立場を擁護。「現時点でホンダがこの一件に与しているという認識はない」としていることから見ても、ホンダは単にこの事件の「トバッチリ」を受けたと見たほうが良さそうだ。
ちなみに、疑惑の当事者であるステップニーは現在「身の危険を感じて」ヨーロッパ某所に潜伏中。潜伏先からイギリスメディアの取材に応え「すべては内部情報に通じた自分の他チーム入りを防ごうとするフェラーリのでっち上げ、データを盗み出そうにも数ヶ月前からチームに行動を逐一監視されており、現実的にそんな事は不可能だった」とフェラーリの陰謀説を主張。一旦はイタリアに帰国したものの「クルマに発信機を取り付けられ、謎の男たちが乗ったクルマ数台に追跡されて、家族にも危険が迫っていると感じた」と国外逃亡した理由を語る。また、一方のコフランは最新情報によるとフェラーリとの取引に応じ、事実関係を明らかにする意思を示したということだが、複雑怪奇な事件の真相が明らかになるかは、今後の司法当局の捜査を待つしかなさそうだ。
ジェームズ・ボンドの故郷、イギリスを舞台にスパイ映画さながらの事件が繰り広げられた今回の「ステップニーゲート事件」。この一件が今後もF1界に大きな影響を及ぼすことは間違いないだろうが、これが「ペナルティ」といった形でコース上のレースやリザルトに直接的な影響を与えることだけは何としても避けて欲しいと思う。
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