2007年06月04日

開幕から5戦連続表彰台というトンでもない記録を打ちたてた、驚異の新人、ルイス・ハミルトン。伝統の一戦、モナコでもチャンピオンのフェルナンド・アロンソと緊迫した優勝争いを展開し、共倒れを恐れたマクラーレンがナンバー1ドライバーのアロンソを優先する「チームオーダー」を出したのではないかとレース後には物議をかもすほどに、その存在感は高まる一方だが、彼の活躍で注目度が上がっているのが、昨年、ハミルトンがタイトルを獲得し、それ以外にも、ウイリアムズのニコ・ロズベルグやルノーのヘイキ・コバライネン、トロ・ロッソのスコット・スピードなど、過去2年で多くのF1ドライバーを輩出しているGP2シリーズである。
F1と違って全ドライバーが同じ車体、同じエンジンを使用するGP2は、いわゆる「ワンメイクフォーミュラ」ながらその性能はF1にかなり近く、マシンの差が出にくいためにドライバーの力量がハッキリと現れる。しかも、それを操るのはF1を目指して世界中から集まった才能豊かな野心にあふれた若手ドライバーたち……。当然、コース上の戦いはヒートアップし、厳しい競争のレベルと白熱のバトルに「レースだけ見てればF1より面白いかも?」という声すら少なくないほど。
従来の国際F3000に代わる形で2005年からスタートし、そのほとんどのレースがF1のサポートレースとして併催されるGP2は、過去2年の実績と卒業生たちの活躍によって、今やしっかりと「F1予備校」としての地位を確立したと言っていい。また、今シーズンはこのGP2に昨年、スーパーアグリでF1を戦った山本左近とトヨタの若手ドライバー育成プログラム“TDP”の支援を受ける中嶋一貴、平手晃平という3人の日本人ドライバーが参戦していることもあり、日本のメディアでも紹介される機会が増えてきているようだ。
ところで、そのGP2パドックで取材をしていると、ドライバーやチーム関係者、エンジニアなどから毎回のように聞かれるのが「ヒロキはどうしてるんだ?」という質問だ。
ヒロキとは昨年そして、一昨年に「唯一の日本人ドライバー」としてこのGP2シリーズを戦った吉本大樹のこと。今年から戦いの場を日本に戻し、現在、フォーミュラニッポンに参戦中の吉本だが、今でも多くのGP2関係者が彼のことを気にかけてきて、日本人プレスである僕にその近況を聞きたがるのだ。
実際、彼らの吉本に対する評価は驚くほど高い。チーム体制や運にも恵まれず、2年間のGP2参戦で表彰台に1回しか上がることができなかった吉本、ただし、それだって国際F3000移行、F1に準ずるフォーミュラで日本人が表彰台に上がったのは野田秀樹に続いて2人目という快挙なのだが、かつてのチームメイトやライバルチームの関係者はそうした表面的な結果だけでなく「内容」で吉本に強い印象を受けたようだ。「どうしてヒロキはGP2に残れなかったんだ? アイツは絶対に速いし、いい体制で戦えれば優勝争いに食い込めるのに!」とかつて吉本を担当したエンジニア。
また、GP2シリーズの広報担当者も「彼は本当にGP2のパドックで愛されていたよ、イイやつだし、アタマも良くて、英語でのコミュニケーション能力もバッチリだ。それに彼が何よりドライバーとして優れていた。それは過去2年のリザルトを見れば明らかだよ、ヒロキは同じチームでコンビを組んでいたティモ・グロックやエルネスト・ヴィソを圧倒していたからね! 今年、チャンピオンの有力候補になっているグロックをだぜ!」
日本の大手スポンサーや自動車メーカーの支援もなく、たったひとりでヨーロッパのレースに挑んだ吉本は、結果的に2年とも十分な体制で戦うことができず、自分がコンビを組んだドライバーが他チームに移籍するのを、さぞかし悔しい気持ちで眺めていたに違いない。あのルイス・ハミルトンとコース上で激しいバトルを展開したこともあったのに、たった1度のF1テストドライブのチャンスも彼のところには巡ってこなかった……。でも、彼とともにGP2を戦った多くの「仲間」たちの記憶には「ヒロキ」の才能とチャーミングな人柄がしっかりと刻み込まれていることを、今でもGP2のパドックを訪れるたびに実感させられ、それは僕にとってもちょっと嬉しいことなのだ。
もちろん、吉本が本当にF1へと進むべきドライバーだったのか? あるいはそうでないかったのか? と問われれば、それは正直なところ分からない。様々な事情はあったにせよ、レースとは最終的に「結果」がモノを言う世界であり、体制面や運、不運を含め、様々な要素が「結果」には反映されるからだ。だが、これだけ国際化が進んだ今でも、日本人が世界の舞台で1人の人間として「プロフェッショナル」として認められることは簡単ではなく、そんな欧州の厳しいレースの現場で、しかもたった1人で、しっかりとその存在をアピールできた吉本はさすがだと思う。そして、本当に残念なのは、そんな彼の挑戦に日本の企業や自動車メーカーから多くのサポートが得られなかったことだ。いや、僕だってF1を頂点とするモータスポーツの世界が、それほど単純なモノではないことは分かっている。でも、GP2の連中がそれこそ「単純」に吉本の価値を認め、評価しているのを見るたびに、僕も単純に「もったいない……」と思うのである。
※写真は大舞台での活躍が待たれる吉本大樹
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