2006年07月06日
<F1:第10戦米国GP>◇決勝◇2日◇米インディアナポリス・モータースピードウェイ(1周4・192キロ×73周)
日曜日のインディアナポリス、巨大なグランドスタンドに多くの観客が集まっているのを見て、僕は正直、信じられない気分だった。1年前の米国GP、ミシュランタイヤの欠陥に端を発し混乱で結果的に7チーム、14台がレースへの出走をボイコット。ブリヂストンタイヤを装着するフェラーリ、ジョーダン、ミナルディの計6台のみで決勝を行うという「茶番劇」にアメリカの観衆は激しいブーイングを浴びせ、5年の歳月とともにようやく定着しつつあった「アメリカのF1」への信頼は地に落ち、人々は怒りをあらわにした。
タイヤの欠陥という予想外の事態が原因であり「安全性が確保できないため…」というのがボイコットの理由ではあったが、主催者のFIAや各チーム、そして原因を作ってしまったミシュランの様々な思惑が交錯した結果、F1が有効な妥協案を見つけることなく、結果的にインディアナポリスを訪れた多くのファンを見殺しにしたことは事実であり、その現場にいた僕もまた、F1に関わる人間のひとりとして、どうしようもなく恥ずかしい気持ちになったものだ。「アメリカのファンは2度とF1を許さないだろう…」何ともやりきれない、悲しい気持ちで、そう書いたのを今でもよく覚えている。
だが、今年の米国GPには多くのファンがインディアナポリスに詰めかけ、まるで何事も無かったかのようにF1を楽しんでいた。サーキットからは公式の入場者数に関する発表が無かったものの、地元の新聞によればその数、約10万人! アメリカのレースの殿堂、インディアナポリスモータースピードウェイという「器」が余りにも巨大なので、さすがに「超満員」というわけにはいかないが、それでも十分な熱気に包まれたサーキットの雰囲気から1年前の出来事の傷跡を想像することは難しい。そんなグランドスタンドを見て、僕は正直ホッとしたし、何だかとてもうれしい気持ちになった。
「アメリカ人は悪い思い出を忘れ去るという事に関しては“天才”なのさ、ふたつの例外、9月11日とパールハーバーを除いてはね!」とあるインディアナポリスの関係者は冗談交じりに話してくれた。ちなみに、これと全く同じ事を他のアメリカ人も言っていたところを見るとまんざら冗談でもないのだろう。1年前はあんなに怒り狂っていたアメリカのファンの多くは、昨年の悲劇をもう水に流してF1に笑顔で手を差し伸べてくれているようだった。逆に言うと、そんなアメリカ人が「絶対に忘れない」という9月11日とパールハーバーの恨みはかなり深いということか…。「パールハーバー」はそろそろ忘れてくれてもいいように思うんだけど、やっぱりダメだろうか?
ともかく、そんな「うれしい誤算」とともにサーキットを見渡すと、普段のF1とは違う「インディアナポリスならでは」の雰囲気にあらためて感慨を受ける部分も多い。中でも感心させられるのがこのイベントを支えるボランティアの人たちの「献身的な」働きぶりだ。ただし、その「流儀」はあくまでもインディ流。基本的にどのサーキットでも「FIA」の定めたスタンダードを強要される現代のF1だが、このインディだけは例外で、長年のインディ500開催で培われた彼ら独自のスタイルが、かたくななまでに貫かれ、これがまた鮮やかなのだ。メディアの働きやすさを考えたプレスルームでの情報提供。10万人の観衆を集めながら、ほとんど渋滞すら作らない完ぺきな交通規制、場内の交通整理…。インディからF1が学べるものは少なくないし、そのきぜんとした働きぶりからは、長年、伝統のインディ500を支えてきた彼らのプライドと自信がひしひしと伝わってくるのである。
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