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2006年06月30日

あまりに行き当たりばったりなホンダ人事

 カナダGP直前に発表されたホンダの「人事異動」はF1界に大きな驚きをもって迎えられた。これまでHRD(ホンダ・レーシング・デベロップメント)の“エンジニアリングディレクター”という肩書きで旧BARホンダを母体とするホンダレーシングのF1レースチーム運営に「アドバイザー」的な立場で関わってきた中本修平氏が、今後は実質的にホンダレーシングの技術部門全体を統括する「シニア・テクニカル・ディレクター」に就任。組織の上ではチーム代表のニック・フライのすぐ下という大ばってきを受けることになったのである。

 しかも、モントリオールで行われたフライの記者会見によれば、これまで技術部門のトップとしてマシンデザインの中核を担ってきたテクニカル・ディレクターのジェフ・ウィリスは現在、通称「ガーデニングリーブ」と呼ばれる休職状態にあり、彼の今後については「これから数週間をかけて話し合うことになる…」のだという。シーズン途中のこの大事な時期に技術部門の中核が数週間も「休職状態」になってしまうというのだから、チーム首脳がいくら「ジェフとの関係は良好だ」と言ったところで、一体誰が信じるだろうか?

 「日本で開発に携わるホンダのエンジニアとイギリスのチームとの融合をより高いレベルで実現することがこの人事の目的だ。ナカモトサンは過去6年間、イギリスでF1のプロジェクトに携わり、日本では17年間もホンダのレース部門で働いてきた人物で、日英双方の状況に対する深い理解がある。また、レースの現場での運営を独立させることで、これまでジェフ(ウィリス)に集中しすぎていた負担を減らし、効率的なチーム運営ができるようになる」と今回の組織変更を説明するフライ。なるほど、これだけを聞けばそれなりに説得力があるし、事実、マシン開発とレース現場の両方をウィリスが統括する体制はいささか無理があったと思う。

 だが、そうした目的をウィリスが理解した上で今回の人事が行われたとすれば、彼がこのタイミングで「休職状態」になるはずはなく、レースの現場運営は中本氏、マシンの開発はウィリス、という分業を基本に両者の新しい役割が同じタイミングで発表されていたはずだ。それが現実にそうなっていないのは、ウィリスがこの人事に納得していないからにほかならず、「休職状態」は一種の「抗議行動」と見たほうがはるかに自然だろう。フライが述べたような目的は確かに存在するかもしれないが、今起きていることの本質はむしろ、名目上、一体化したはずの旧BARとホンダによる主導権争いという「権力闘争」だ。

 今年からホンダの100%資本となり、昨年までのBARホンダから純ワークス体制のホンダレーシングへと名称も変更したホンダF1だが、少なくとも今回の人事異動までは昨年のBARホンダとほぼ同じ体制を引き継いでいた。第3期F1活動を開始したホンダがはじめてBARと組んでから7年目「ようやくワークス体制になったのだから、もう少し日本側の意向を直接反映できる体制にしてはどうか?」という声も少なからずあったのだが、ホンダは買収と同時に大きく組織をいじることによる摩擦のリスクを避け、とりあえず現状を維持することを選んだのだ。

 ところが、シーズン半ばまで来てようやく「このままではダメだ」と気づいたのだろう。もちろん、仮に問題があるのならば、それを放置するよりは、今何かの手を打ったほうがいいのは分かる。だが、シーズン途中で、しかもこのような形で組織を大きく変更することはチーム内部に大きなマイナス要素をもたらすことになる。今、こんな形で大手術を行うぐらいなら、なぜ100%買収した時点で組織改変に手をつけなかったのか? そのタイミングで改革を行えばはるかに周囲も納得しやすかったろうし、ウィリスの負担軽減や効率的な分業化という説明もより説得力を持ったはずだ。それをいったんは「放置」しておきながら、ここにきて突然「改革」の荒療治に出る…。そんな行き当たりばったりのチーム運営に一体誰がついてくるだろう? ホンダが一番避けたかったはずの「日英スタッフ間の摩擦」という意味でも、正直、これほどマズイやり方はないと思う。

 ホンダの第3期F1活動がこれまで歩んだ7年間はそのままBARという英国のパートナーとの関係構築を模索し続けた7年だったといえるだろう。中本さんはその中で早くから双方の立場を取り持ち、2輪のレースで培った「レース屋」としての経験をベースに双方の信頼を築き上げてきた「現場派」の人物だ。ニック・フライが言うとおり、もし今のホンダ日本人スタッフの中からF1チームの統括を任せるとしたら中本さんをおいてほかにないというのは、僕も同意見だ。ただ、チームが不振にあえいでいる今、シーズン途中のこのタイミングで、しかもこんな乱暴な形で突然チームの舵取りを任せられた中本さん自身は一体どんな気持ちなのだろう。

 ウィリスの現場離脱に象徴されるように、ただでさえデリケートな日英両陣営の感情的な摩擦はこの組織変更で更に緊張が高まることが予想されるし、2週間ごとにレースが続くシーズンの真っ只中に大きな組織改変を行い、チームをまとめ直すという作業は想像を絶するぐらい難しい。この組織変更ですぐにチームの状況が改善するどころか、しばらくは改革に伴うマイナス面の重荷の方が大きいはずで、これほど「損な役回り」は無いのではないか? と心配になってしまうのだ。

 実を言えば、中本さんは去年の段階からチームの「組織改変」の必要性を主張し続けてきた。だが、残念ながらこの提案はホンダ上層部に取り入れられず、チームは昨年のままの状態で開幕を迎えることになったのだ。「もし、あの時点でホンダが組織改革に着手していれば…」。今回の人事を見ていてつくづくそう思う。もちろん、今回のように絶体絶命の大ピンチになってから、突然マウンドに送り込まれても、中本さんは決して言い訳をしたり、弱音を吐いたりはしないだろう。だが、ベンチの采配はどうみてもあまりに行き当たりばったりだ。第3期のホンダF1がいつまでも勝てない大きな原因の一つは、そうした場当たり的姿勢にあると思う。


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