Hangin' Around The NBA Wit Kaoru

2005年07月07日

力石ベンさん

NBAもオフに入り、私にも少しのサマーブレークがやってきた。とはいっても「バスケットボール・シティー」とうたわれるNYに住む私、夏は夏でストリートボール取材も待ち受けているので、あまりのんびりはできない。それでも、NYの夏も蒸し蒸しと嫌な暑さだし、ついだらけてしまいがち。こんなとき、<ストイック>な人には文句なく感動してしまう。

<ストイック>といって私の頭にまず浮かぶのは、かの<明日のジョー>の力石徹だ。極限まで己を厳しく律し、目標に向かって真摯(しんし)に取り組む姿はとても男っぽく、官能的ですらある。そんな男がアメリカにいるとするならば…。

私が、<あなたは力石徹で賞>を勝手にもうけるとするならば、鋼鉄のブルーワーカー、ピストンズのべン・ウォーレスに授けたい。

ドラフトもされず、地道にサマーリーグからトライ。カットされてもめげずにイタリアでプレーし、そのうちロースターの最後、12番目のベンチ・ウォーマーとして何とかNBAに入り込み、そこからフランチャイズプレーヤー、ディフェンシブ・オブ・ジ・イヤー、オールスターまで上り詰め、ついにチャンピオンリングまで手にした男だ。

今でも変わらず黙々と、ダーティーワークに励む。リバウンドをもぎ取り、ショットをハエたたきのように弾き、鍛え上げられた黒い腕に汗の珠を伝わらせる。無口に、懸命に。なんて力石なんでしょう(ちなみに、<ジョーで賞>はアレン・アイバーソンに授けたけれども、どうでしょう?)。

余談だが、そんな彼を勝手に「ベンさん」と呼んでいる。その人のキャラによって、例えばレイ・アレンなら間違いなく<レイさま>なのだけど、彼の場合は…ベンちゃん=うーん可愛すぎ、ベンさま=うーん、美しい野生動物のような彼にはちと優雅すぎ、ベン殿!?=うふふふ、ベンさん=うん、ベンさんでしょ、やっぱ、となったのである。真田の愉快な仲間たち!? の間では、おおむね賛同を得ているようだ。

そんなベンさんは、アラバマのホワイトホールというところに、11人兄弟の10番目として生まれた。ベンさんママは、大所帯のファミリーをやりくりしていくために、野菜などを栽培し、綿花も育て、一家の服はすべて手作り。それでも余分なお金はなかったから、ベンさんは、ピーカンを売ったりしてお小遣いを作らねばならなかった。ベンさんら子供たちの楽しみは、魚釣りとバスケットボール。でも、その中で一番体の小さいベンさんには、なかなかボールは回ってこない。ボールが欲しかったら、フープに当たって跳ね返ったボールを追う--つまりリバウンドか、スティールなどで手にするしかなかった。

兄弟にもまれながら、ベンさんはとても優秀なアスリートに成長した。何でもできたが、中でも秀でていたのはフットボール。背が高くてクイックなため、優れたディフェンダーになれると言われていた。しかし、1番好きなのは、バスケットボール。アラバマで行われるという、当時ニックスにいたオークリーのキャンプに参加したいベンさんは、参加費を作らねばならなくなった。

ベンさんの趣味を聞いたことがあるけれど、

「うん、ラジコンカーの、修理」

と、ポツ、と答えてくれたものだ。あの超合金のような体をして、意外にも手先が器用なのだった。そんなベンさんは、近所の人のヘアカットを1人3ドルで引き受けてお金をつくり出し、オークリーのキャンプに参加できることになる。<Fear The Flo>は、なかなか優秀なヘアスタイリストだったようだ。

このキャンプは、後々のバスケットボール人生において、大きなヘルプになった。オークリーとの1on1で、そのハードワーカーぶりを示せたベンさんは、オークリーに強い印象を残して、その後の転機ごとに、オークの助けを得られることになったのだ。いざカレッジに進む年齢になったが、来るのはどれもフットボールのスカウトばかり。でもベンさんは、バスケットボールをあきらめきれなかった。「両方をやれるのなら」とオーバーン大に進んだが、彼らの認めた<両方>とは、フットボールのオフェンスとディフェンス両方、ということ。だまされた、とがっかりしていたベンさんにオークリーのヘルプが入り、バスケのできる大学に転入することに。最終的にはいい成績を残したが、ベンさんはまだまだ無名の存在であった。

NBAのドラフトでは、声もかからないどころか、だれもベンさんを知らない状態。セルティックスのサマーリーグに参加したが、「パワーフォワード(PF)としては背が低い、体が小さい、シューティングガードならいいのだが」と言われてしまう。しかしベンさんは、シュートが下手だった。カットされた彼は、イタリアでプレーすることになった。

普通なら、この辺であきらめるか、「どうして自分はみんなの言う通りフットボールを選ばなかったんだろう」などと後悔したり、行き止まったりしてしまうだろう。しかし、ベンさんは違った。粘り強くチャンスを待っているうちに、ワシントン・ブレッツから声がかかり、12番目の選手としてNBA入りを果たしたのだった。

そこからの上昇は、みなさんご存じの通りだ。ゴール下のスペシャリストになることに徹したのが功を奏し、段々に上り詰めていく。寡黙に、真摯に、バスケットボールへの情熱を忘れずに取り組むベンさんは、コーチ陣からの信用も得られ、徐々にプレータイムも増えていった。

2000年にピストンズにトレードされて6年契約を手にしたときは、苦労して育ててくれた母親に「新しい家を買ってあげたい」と申し出た。でも、しっかり者のベン・ママはすぐには同意せず。数年後にそれは実現した。
カーライル・コーチがベンさんをピュアなPFにしてからは、飛躍的に成長した。オールスターにも選ばれたが、直前に最愛の、しっかりママが突然亡くなってしまう。それでもベンさんは、はじめてのオールスターに遅れて到着した。

「ママが、俺にオールスターには出てほしいということは、分かり切っている。天国の彼女のためにも、俺は絶対にここに来なければならない、そう思って、やってきた。今日のゲームは、彼女にささげるためにプレーする」。

そりゃあ、どこの国でも、みんなママが好きなのは同じだが、アフリカン・アメリカンの男の子たちは「もーう、ママはマイ・クイーン!!」なんてうれしそうに言っちゃう程、母親とのつながりが強い人たちが多い。そんな彼らにとって、ママが亡くなるというのは、それこそ自分も床に伏してしまうくらいの、大きな悲しみだろう。このとき初めて、鋼鉄の<力石ベンさん>の目が潤むのを見た。2、3、質問をした私も、思わずもらい泣きしそうになった。

そんなベンさんの、2回目のうるうる、を目撃したのは、ピストンズが優勝した去年。シャンパンをかけあって、狂乱の渦になっているロッカールームで、<上を向いて歩こう、涙がこぼれないように>状態になっている、ベンさんを発見。そんなベンさんに、私は日本のファンへのシャウト・アウトをお願いした。

「日本のみんな、元気か。ベンだ。ピストンズは優勝したぜ。みんなも、祝ってくれ」。

って、寡黙なベンさんにしてはたくさんの単語を、渋いながらもちょっと震えた声で、マジメに、言ってくれた。

フリースロー成功率リーグ最低とか、相変わらずのシュートベタとか、オフェンスについてはいろいろ言われているが、いいのだ。今でも変わらず、黙々と頑張るんだもの。ベンさんがたまにドリブルでボールを運ぼうとしたり、ジャンパーを打ったりするときなど(今ファイナルでも、なんと3ポイントにトライした場面があったっけ)、思わず心の中で、「頑張れ!」なんて応援してしまう。そんな力石ベンさんから、日本のボーラーへ。

「好きなことで食っていきたかったら、その中で何か1つでいいから、これだけは負けない、というものをみつけろ。そしてそれをあきらめずに磨いていけば、自分なりに日の目をみるときが、きっと、来る」。

July 7, 2005 09:06 AM

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コメント

kaoruさん。Benを書いてくれてありがとう!!
大好きな選手です!!もっともピストンズの選手はみんな大好きなんだけどネ。Benの1 ON 1を観てるとワクワクするんです。もちろん彼がDのときね!!

「SGだったらよい~」と言われてたのですか。Benはあからさまにサイズにハンデありますもんね。日本でのプレイオフの中継でも「彼の身長はバッシュで3cm、頭のモサモサで3cm足してます」と言われるくらいだもの。
私には彼が感じているサイズでの苦労や、ドラフト外からここまで登りつめた苦労なんて十分にはわかりっこないけど、それでも、TVを通して彼のゴール下を見てるだけでなぜか心の底から尊敬してます。さあ!来年も暴れてくれよ、Ben!!

追伸 オリンピック残念でしたね。久々の辞退者なしのU.S.A.チームが見られる機会だったかもしれないのに。

投稿者 ゆで豆腐 : 2005年07月07日 15:38

ううう、感動しました~(泣

ええ話です、マジでええ話です。
ピストンズにはベンさんのような頑張る奴らが多いんです。
だから「チーム一丸」っていうのが見てても伝わってくるし。
どんなに格好悪くても、みっともなくてもチームのため、そして自分のため、勝利のために頑張ってると思う。
もちろん、他のチームもそうだと思うけど、
ワタシの目にはピストンズやベンやラシードは違って映ります。
これってただのひいき目?(笑

kaoruさん、今回もステキはお話をありがとうございました。
それにしてもネーミングセンスありすぎですよ(笑

投稿者 ダブルニコル : 2005年07月08日 13:29

Big Ben 本当にかっこいいですよね。
影ながらもくもくと練習する姿、想像できます。
私はベンにとって、ラシードとマクダイスは本当にいい影響を与える選手だと思い、改めてジョーの手腕を感じます。
最後に、私はやっぱりBenちゃんと呼んでしまいますね。ちょっとミスをしたときに見せるはにかみ顔があまりにかわいすぎるから。

投稿者 rip : 2005年07月08日 15:17

kaoruさんいい話をありがとう。

最近はこういう地道に這い上がってきた選手を応援したくなります。こういう話を聞くと僕らはいかに恵まれてるか痛感させられますね。こんなとこであきらめてはいけないなって思います。最後の言葉「これだけは人に負けないというものを見つけろ」。偶然にもうちの親父も普段同じことを自分に言います。
ありがとうベン親父!(笑)

投稿者 k坊 : 2005年07月08日 18:30

ベンさんの身長は公称(206cm)よりもかなり小さいんですね。
SGを勧められるぐらいだから実際は2mジャストぐらいかな?
そんなサイズでシャックやダンカンとマッチアップするのは本当に
大変でしょうね。その分クイックネスがあるから、時にはPGにまで
付く事もあり適応力の高さを感じます。彼のDは読みの鋭さと抜群の
瞬発力を活かしており、苦労しながらも自分の能力を信じて
精進してきたんだと思います。イタリアでプレーしてたのは知りませんでしたね~。

投稿者 josh : 2005年07月08日 18:38

ベンさんの話めっちゃ感動しましたぁ!!まわりがなんと言おうが地道に這い上がっていく彼の姿勢、僕はめっちゃ好きです。もちろんレブロンジェームスのように高校からスーパースターでNBAにはいる人達も、それだけ頑張ったっていうことやけど、ベンさんのように誰も知らないとこからスターになるスタイルの方が僕は何故か応援したくなるんです。今は無名な僕でもいつかバスケットの世界で通用するようになるんじゃないかって思わせくれるから。僕のまわりにもABAに挑戦する日本人の方や、カナダからアメリカの大学に挑戦する選手の人達がいます。僕はそういうバスケットに熱い人達が頑張ってるのをみるのがすごくわくわくします。ベンさんのように地道な努力を重ねて下から這い上がっていく選手がたくさんNBAで活躍できるようにこれからも応援し続けたいと思います。

投稿者 あまたこ : 2005年07月09日 03:04

DETROITのリバウンダーっていうと、どうしてもRODMANがでてきたりするんだけど、BENは違った意味で親しみの持ちやすいプレイヤーだな、って思います。どこか身近でほのぼのしてるっていうのかな。
黙々と泥臭くってイメージが強いけど、スタメン紹介の時にチームメイトとジャンプして身体をぶつけ合ったりしてるのを見てると、案外お茶目なところもあるのかな、って思います。
BENのこともそうだし、DETROITは今年一気に好きになったチームですね。。チームワークが本当に良いし、見ていて本当に好感が持てるチーム。ARENAの応援も本当に熱いし、映像見てるだけでもこっちの胸が熱くなるくらいすごいですよね。。
また来シーズン楽しみに待つとしますか。BENもDETも。。

投稿者 urota : 2005年07月09日 16:02

ベンさんってスポンサーAND1ですよね。違ったかな?AND1って言えば、森下雄一郎が今回のフロリダであったがMIX TAPEの一軍とアリーナの中で試合を行う2軍チーム3人の枠り込みました。トライアウトで約150人がトライした中で、3人の枠の中にくいこんで!今日AND1 MIX TAPE TOUR 1ST TEAM と常に全米を回ってる2NDチームと合流して、今日のフロリダ・タンパで行われたAND 1 MIX TAPE の試合に出場したんですよ。AOやプロフェッサーとマッチアップしたんだって。
日本人初ですよね。這い上がる雑草魂ですよね。

投稿者 よっしー : 2005年07月12日 18:32

かおるさん
お久しぶりです。
ステファンマーブリーの記事、参考になりました。
今までは正直申しあげ、視野の狭い自己中心的なガードと思ってましたが、貴方の記事で自分がえらい間違いをしていたことを痛感しました。。。これからも貴方らしい記事楽しみにしています。

ところで昨シーズンまでソニックスでプレーしていたジェームスがニューヨークに行きますが、そちらの反響。。どうなんでしょうか?!機会あれば教えてください。 以上

投稿者 奈佐 隆 : 2005年07月16日 06:20