2006年04月25日

プレーオフ第3戦

4月18日。第3戦は、第2戦と同様、ウエストヴァージニア州ウイーリングで開催された。ピッツバーグから車で1時間弱の位置にあるウイーリングは、ひっそりした小さな街だ。福藤豊が所属するECHLレディング・ロイヤルズの対戦相手、ウイーリング・ネイラーズの本拠地ウエスバンコアリーナは、北米の他のアリーナの例に漏れず古めかしい雰囲気を装っていた。コンクリートの塊といった外観、内部はやや暗めの照明という、北米のマイナーリーグにはお約束のうらぶれた趣き。さらにプレーオフだというのに、集まった観客数はわずかに2003人というのが、物寂しさを増長させる。北米ホッケー観戦につきものの沸き上がるようなグルーヴは、ここには感じられない。冷えた空気とともに、重い静けさが会場に漂う。かえってその静けさゆえに、一部熱狂ファンたちの罵声だけが、やけに耳に貼り付いてくる。

故障を抱えながら第2戦で見事にチームの勝利に貢献した豊は、「第3戦、第4戦と連勝で決めますよ。ウイーリングにはショッピングモールがあるんですが、そのために第5戦でここに戻りたいとは絶対思わないし」と語っていた。その言葉を裏切らず、この第3戦での第1ピリオドはミスのない安定したプレーを見せる。かなり難しいシュートが飛んではくるのだが、冷静にパックを弾くほぼ完璧な守りだ。リバウンドショットに対するリカバリーも、故障の影響を感じさせないような本来のスピードで立て直している。だが、ところどころ、彼本来でない動きが見え隠れし、ヒヤリとさせられる。やはり故障箇所の状態はかなり厳しいのだろうか。

そんな豊の状況も見据え、チームメートは早々に2点のリードを与えてくれた。ロイヤルズにとってはいいペースだ。被シュートが多いのが気になるが、少ないチャンスを確実にモノにしている。第2戦の流れをそのままキープし、第3戦もこのまま勝利すれば、豊の予言通り地元レディングに戻った第4戦でシリーズの決着がつく。そんなシナリオも至極可能かと思われた。

しかし第2ピリオド序盤、またもや豊にアクシデントが襲う。相手のパワープレーとなったところで、ネイラーズは2人対1人の形でカウンターアタックを仕掛けてきた。早いタイミングで放たれたショットに、豊はうまく左脚を出して反応する。ナイスセーブ。しかしこのプレーで脚を突き出した刹那、また故障箇所が暴れ出した。

ゴールクリーズにうずくまるようにして、歯を食いしばる豊の表情が苦痛で歪む。アイスホッケーでは試合続行中に負傷者が出た場合、味方がパックをキープしていればレフェリーの裁量で試合を止めることは可能だ。しかしレフェリーは逆エンドで試合の流れを追うのに夢中で、豊をかまう様子など全くない。試合を続けなければ。

その様を嘲るネイラーズファンの罵声を背中で浴びながら、豊はゆっくり両脚で立ち上がり、ひと呼吸ついた。ホイッスルが吹かれた後で、チームメートが心配そうに駆け寄る。トレーナーもベンチから飛び出してくるが、自らそれを制する。まだ行ける。なんとか試合続行だ。

しかし、その後の豊のプレーは、明らかに本来ののびやかさとキレを欠いていた。通常ならバタフライのスタンスに入るべき場面で、小さくスタンドアップにしたり、ローショットを抑えるのに前屈みになったり。故障箇所に相当のダメージを負った現状でできる精一杯のプレーを続けていた。

第2ピリオド後半、ネイラーズはロイヤルズのメジャーペナルティに乗じて、猛攻撃を仕掛けてきた。同ディビジョンでも最も攻撃力のあるチームとして定評のある、その底力を発揮し始めたのだ。まずはゴール前にスライドしてきた相手シューターが、豊のスティックサイド肩口にバックハンドでパックをすくい上げた。そのわずか1分後には、ロイヤルズのDFを切り込むようにゴール前に現れた選手が放ったシュートが、足元を抜き去る。さらに第2ピリオド残り22秒の場面で、またノーマークでゴール前に入ってきた選手に対し、今度は豊はクリーズ外に出てチャレンジアウト。しかし相手のシュートは、豊のグラブサイドをするりと通り抜けた。あっという間にスコアは2−3と逆転。いずれも味方のミスから招かれたピンチであったが、本来の豊の動きであれば異なる結果になっていたのでは、とも思える一連の展開であった。

それでもロイヤルズは食い下がった。第3ピリオド序盤には3−3と同点に追いつくも、ネイラーズはパワープレーのチャンスをものにして、4−3と勝ち越し。ゴール右の角度の悪いところから相手が浮かせたパックに対応できず、豊はショートサイドを抜かれてしまったのだ。たとえ相手のシュートがよかったからと言って、ショートサイドを固めなかったのは、ゴーリーのミスとして責められる。自らのポジショニングのミスを悔いて、豊はしばらくクリーズ内にうなだれた。重い、重い1点だった。これが決勝点となり、ロイヤルズは3−4と第3戦に敗退。崖っぷちでホームでの第4戦を迎えることになった。

試合後、豊は思いの外、サバサバした表情で現れた。

「最後の1点は明らかに僕のミスです・・・でもあの場面で、味方はペナルティをしちゃいけない。僕も含めて、チーム全員がステップアップしないと勝てないですね。脚ですか? まだ全然行けます。ここまで来たら、もうやるしかないでしょう?」

着替えを終えて、用具を次々に運び出すロイヤルズの選手たち。うち数名が、モヒカンヘアにしているのが目につく。その頭の中央部分を走る毛髪を、チームカラーのパープルに染めている選手もいる。こうした現象は、北米ではよくあるゲンかつぎとして、いわばプレーオフ期間中の風物詩ともなっている。選手によってはプレーオフ期間中ずっとヒゲを剃らなかったり、はたまた髪をプラチナブロンドに染めたり、チームカラーのメッシュを入れたり、と、そうしたプレーオフならではの儀式は近年かなり多様化している。

豊にこの儀式について尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「僕がモヒカンにしていたら、みんなが真似し始めたんですよ。僕がチームのファッションリーダーなんです」

故障箇所の状態はどうにせよ、気持ちは揺らぐことなく強く保っている。手負いとなったが、AHLマンチェスター取材時よりも威風堂々とした豊の姿が、この苦々しい1シーズンで彼が得た何かを物語っていた。

April 25, 2006 08:33 AM


コメント

3年前からMichiganに赴任している者です。

福藤選手、頑張っていますが怪我が心配です。
あまり無理をして後々の選手生活に影響しなければ
良いのですが。

次ラウンド、Toledoに来たら応援に行きたかったです。

来シーズンはNHL,AHL,ECHL(UHL?)を
問わずに応援に行きたいです。

投稿者 かん@Michigan : 2006年04月25日 12:39