2005年10月06日
AHLマンチェスター残留に賭けて
「何て言ったらいいんだろう・・・う~ん。まだシーズンが始まっていないので、何とも言えないですね」
自らの現状について、福藤豊が開いた口は重かった。
福藤の現在の居場所は、ニューハンプシャー州マンチェスター。すでに秋色深まりつつある小ぢんまりしたこの街には、福藤がドラフト指名を受けたNHLロサンゼルス・キングズの2軍にあたる、マンチェスター・モナークスというチームがある。9月21日、キングズのキャンプ放出を言い渡された福藤は、ロサンゼルスで調整後、9月24日にマンチェスター入り。26日からモナークスのキャンプに参加しているのだ。現在はモナークスの本拠地、ヴェライゾンワイアレスアリーナ近くのとあるホテルにて、チームメートとのホテル暮らしが続いている。
キングズのキャンプでは、左膝や左太もも付け根と相次ぐ故障に見舞われたが、マンチェスター入り後は調子はいいと福藤は断言する。実際、9月30日、10月1日には、2試合連続で紅白戦に出場。10月1日の試合では、19セーブ1失点と安定した出来だった。かなり厳しい状況も見事なセーブを連発したし、与えた1失点は味方の身体に当たって入ったというGKとしては仕方ないゴールのひとつであった。ここに来て、ちゃんと結果は出したという手応えがあった。
なのに現状は甘くない。まだモナークスでの仕事が確約されたわけではないのだ。10月4日、モナークスは「2005−06年オープニングロースター」と銘打ち、23人の選手を発表した。その中には福藤の名前がちゃんと含まれていたが、福藤以外に2人のGK(アダム・ハウザー、バリー・ブラスト)の名前も記されていた。
うち、ハウザーというGKは、昨季このモナークスで1シーズン通していい数字を残した実績(19勝11敗、防御率1.93、セーブ率。933、完封5)があり、今季開幕はモナークス1番手GKの座を確約されている。シーズン中にモナークスが抱えるGKは、このハウザーとその控えの2人のみ。つまり福藤とブラストの2人が、いまだこの控えの座を巡って争いを続けているという状態なのだ。
ただ、争いを続けようにも、今季モナークスはレギュラーシーズン開幕前には、1試合もプレシーズンゲームが組まれていない。福藤にとっても、ブラストにとっても、これでは実力の示しようがない。
今季AHLではNHL同様、試合の高得点化を狙った様々なルール改正が実施されている。モナークスのヘッドコーチに今季就任したばかりのジム・ヒューズは、敢えてプレシーズンゲームを実施せずに、チーム内練習で戦略を徹底させることで開幕に備えようと、目論んだという。
だがこの目論みは、GK評価という点について考えれば、誤算だったといっていいだろう。マンチェスター入り後の福藤とブラストを評価するにあたり、きっちりとした結果が出ているのは紅白戦の2試合のみ。モナークス首脳陣にとって、明らかに評価材料不足である。
ヒューズコーチは、現在の2人の争いについてこう説明する。
「福藤はここ1年でよく成長した。スキルが非常にアップしているし、パックハンドリングも上達している。いい経験を積んで来ているという印象がある。(2005年7月LAでの)ルーキーキャンプでも非常にハードに練習していた」
「我々としては、1番手のハウザーを補い、脅かすような控えGKが欲しいと思っているが、福藤とブラストはともにその能力がある選手。2人とも非常に僅差の争いをしている。確かに紅白戦2試合めでは、福藤の方がいいプレーをしていたとは思う。しかし福藤が反射神経と速い動きを生かしたスタイル、ブラストは恵まれたサイズでゴールネットをカバーするスタイルと、2人のスタイルが異なることで、我々の比較評価がより難しくなっていることも確かだ」
福藤とブラストという異なる2人のGKの存在が、ヒューズコーチを悩ませている。
それなら、ここで実際に2人のGKの比較をしてみたいと思う。
福藤豊
<生年月日>1982年9月17日(23歳)、北海道・釧路出身
<身長体重>185センチ、84キロ(日本出発時は86キロだったが、最新の発表では84キロ)
<ドラフト&契約>2004年キングズ全体238位指名。2005年8月9日、キングズと2年契約。
<ここ数年のキャリア>コクド(2001−02)、ECHLシンシナティ(2002−03)、コクド(2003−04)、ECHLベイカーズフィールド(2004−05)
<昨季の成績>ECHLベイカーズフィールド所属、27勝9敗5分、防御率2.48、セーブ率.919、3完封
<今季ここまで>
ルーキートーナメント@サンノゼ(9月7日~12日):9月7日試合前半出場(vsアナハイム)16セーブ2失点。9月10日vsサンノゼ戦第3ピリオド途中まで出場、33セーブ3失点(第3ピリオド5分22秒で左膝負傷退場、1アシスト)。
NHLキングズキャンプ(9月13日~):9月16日紅白戦(30分、対戦相手GKはテイラー)30分で1失点。翌日17日朝の練習で太もも付け根を痛めてプレシーズンゲームは出場機会なし。9月21日AHLマンチェスター行き通告。
AHLモナークスキャンプ(9月26日~):9月30日:1試合全部出場、32セーブ2失点(勝利)、10月1日:1試合全部出場19セーブ1失点(勝利)
<プレースタイル>優れた反射神経と横の動き、超速バタフライセーブ(*)を基本とする。(*バタフライセーブとは、下方向へのシュートに対応するため、両膝を氷に付けて合わせブロックするセービングスタイルを言う)
バリー・ブラスト
<生年月日>1983年8月8日(22歳)、カナダ・マニトバ州出身。
<身長体重>188センチ、97キロ
<ドラフト&契約>2002年ミネソタ全体87位指名。その後FAとなり2004年7月9日、キングズと3年契約。
<ここ数年のキャリア>*WHLスポケーン(2000〜03)、WHLカルガリー(2003−04)、ECHLレディング(2004−05)(*WHLとは、カナダのジュニアリーグではトップのひとつで、NHL選手も多く輩出しているリーグ)
<昨季の成績>ECHLレディング所属、27勝9敗、防御率1.96、セーブ率.928、4完封
<今季ここまで>
ルーキートーナメント@サンノゼ(9月7日~12日):9月9日試合前半出場(vsフェニックス)9セーブ2失点。9月10日vsサンノゼ戦第3ピリオド途中から福藤のリリーフとして出場、13セーブ1失点。9月11日vsアナハイム戦試合全部に出場、21セーブ4失点(負け)。
NHLキングズキャンプ(9月13日~):9月16日紅白戦(30分、対戦相手GKはラバーベラ)30分で4失点。うち2分で3失点と崩れる。その後はケガもしていたが、9月18日AHLゲームvsシャークス戦に出場し、2失点で勝利。9月21日AHLマンチェスター行き通告。
AHLモナークスキャンプ(9月26日~):9月30日は試合前半のみ出場、15セーブ1失点、10月1日は1試合通して出場し、20セーブ4失点(敗戦)。
<プレースタイル>恵まれたサイズを生かして、ゴールネットをカバーする。
あくまで福藤に対するひいきめ抜きで言うが、反射神経、バタフライセーブ、リバウンドのコントロールなど、セービングスキル全般は、圧倒的に福藤に軍配が上がる。ブラストの場合、反射神経やフットスピード、バタフライセーブからのリカバリーという基礎能力において、かなり深刻な欠陥が見られており、ここ1年であまり向上も見られていない。
また、キングズやモナークスのキャンプで出場した試合では、福藤はかなり厳しい攻めも見事にセーブし、首脳陣やファンの注目を集めた。9月16日紅白戦の試合後には、キングズのヘッドコーチ、アンディ・マレーに「今日プレーした6人のGKの中で福藤が一番よかった」に言わしめた。この日、同じチームでプレーしたキングズの主力FW、クレイグ・コンロイも「彼の反射神経と俊敏性、横への動きが素晴らしいし、ハングリーな姿勢もいい。最終的にNHLに上がってくる選手だろう」と、福藤を絶賛していた。一方のブラストは、安定している日もあれば、連続失点をあっさり許したりと、ムラのある内容で評価を落としていた。
だが、ブラストにとって有利な点もある。恵まれたサイズを生かしたスタイルにより、ゴールネット前でのポジションさえ間違わなければ、相手のシュートは自分の身体のどこかに当たってくれる。日本では頭ひとつ抜け出る長身の福藤も、大型選手がひしめくキングズGK陣の中では、平均か、むしろ小さい方に位置するほどなのだ。
また福藤が、日本では少ない試合スケジュール(レギュラーシーズンは30~40試合、プレシーズン、レギュラーシーズン、ナショナルチームなどを合わせてもせいぜい40試合出場)を消化してきたのに対し、ブラストはジュニア時代からWHLでレギュラーシーズン72試合予定を3年間フルに戦ってきた実績があり、スタミナでは福藤を凌ぐものを持っている。今季ここまでも、ケガに泣かされた福藤に対し、多少のケガはあったにせよ試合数をコンスタントにこなしてきた。
ヒューズコーチによれば、今季モナークス開幕時の控えGKの名前が発表されるのは、モナークスの開幕戦(10月8日@ハートフォード)が開催される前日の10月7日昼頃とか。「開幕にどちらが残るかについては、2人のうちどちらのGKが精神的にも技術的にも準備が出来ているかという点で評価するつもり(ヒューズコーチ)」。つまり、毎日の練習が評価材料となるわけだ。
「今はチームに残れるよう、頑張るしかないです」と、福藤はあくまでも控え目だ。
一騎打ちになっているブラストとは、昨年7月のキングズ若手育成キャンプ以来ちょくちょく顔を合わせている。世代の近いGK同士ということもあり、今では軽口をたたき合うほどの仲になった。
「ライバル意識はもちろんあるけど、それを敢えて練習で出し過ぎる必要はないし、お互い表に出さないようにしています。オレが・・という気持ちも多少は必要かも知れないけど、やり過ぎると嫌な雰囲気になる。自分中心になったら相手が嫌な思いをすると、2人ともよく分かってるつもりです。今でも、ブラストとはちゃんと話はするし、特に2人の関係は変わっていません(福藤)」
かように敬意を払い合う福藤とブラスト。10月8日、ハートフォードでのシーズン開幕試合にベンチ入りを果たすのは、どちらのGKであろうか?
October 6, 2005 08:18 AM
