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2008年02月13日

岡田ジャパン大勝の陰で見えてきた課題

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<W杯アジア3次予選:日本4-1タイ>◇2組◇2月6日◇埼玉
 岡田ジャパンの本番初戦がタイと行われた。久方ぶりの更新となるが、こちらをレポートしたい。また、長らくお待たせしたことを最初にお詫び申し上げたい。

 この試合はW杯の3次予選ということで、結果がすべての「本番」であるし、その結果も4-1と点差も離れ、よい試合だったように見える。私ごとになるが、ここ1年程ずっと本業が忙しく、なかなか時間が取れなかったのだが、今回も仕事の都合上リアルタイムでは見れず、結果を知ってからの録画観戦であった。よって、日本が点差通りタイを圧倒したのかな、という先入観のもとに試合を見始めたのだが、率直に言って、点は入ったが眠い試合だった。失点のシーンは実に初歩的なミスであったし、攻撃面でもセットプレーから3点が入ったが、流れの中では遅く、創造性に乏しく、見るべきものは少なかった。岡田ジャパンが今後アジア・世界の強豪に対して、どのように戦っていくのか、その糸口はまだ見えて来なかったように思う。

★初歩的なミスからの失点

 遠藤の鮮やかな得点シーンの直後の22分に失点したが、これは集中力というか、守備の基本的な連係が取れていないことを如実に示していたように思う。マンツーマンディフェンスの崩し方の基本的な形の1つに、相手のDFを重ならせるというのがある。つまり、あえてFWが味方FWに寄っていくことで、それぞれについているDFのポジションを重ならせ、前線にスペースを作るのだ。そのスペースに、2列目の選手が飛び込んでいけば、ビックチャンスになりやすい。
 今回は、8番の選手(MFスチャオ)が前線で阿部を引き連れたまま、中沢に向かって走り、ぽっかり空いたスペースを14番(FWティーラテープ)が使って、シュートを打っている。ティーラテープはその後ろに居た13番(MFスティー)からパスを受けているが、スティーには日本の選手が2人付いており、中沢もマークする選手を持っていないため、数的優位はあった状況だ。だが、阿部と中沢の間でのマークの受け渡し、あるいは縦の関係にある時のカバーリングに対する共通意識がなかったことと、誰かはテレビからは判然としなかったが、そもそも日本のMFがスティーに2名付いて、ティーラテープには誰も付いていないというミスが重なっての失点となった。MFの件は、単なるミスというよりは、ボランチとバックラインの間のスペースを相手にどう与えるか、という基本的な守備の合意事項が詰まってなかったからのように見受けられた。これらは守備の連係を考える上では、かなり初歩的な部分であり、岡田ジャパンが誕生してまだ間がないとはいえ、あまり褒められる状況ではないだろう。

 この守備におけるモジュールごとの連係不足は、試合を通じて、バックラインとボランチ、サイドバックの関係において散見された。タイの攻撃力はそれほどないため、日本は序盤から実質2バックとなり、サイドは両方とも上がっているシーンが多かったが、例えば守備的MFである鈴木が、バックライン近くで守るのか、マークに付くのか、バックラインの前で防衛線を引くのか、という線引きはよく判らなかった。ユーザーの方も、いつもならボールを中盤でカットするシーンを連発する彼が、今ひとつ画面に登場しないと思ったのではないだろうか。ジーコ監督のころはあまり守備にルールがなかったが、オシムジャパンには極めて単純なルールがバックラインにあり、それはよく知られた、意図的に4バックを試している時以外は、基本は1人余るマンツーマン、というものである。

 鈴木は、このルールに沿って、相手が2トップの布陣なら深い位置でシャドーストライカー的なプレーヤーの方に付き、1トップなら2列目の選手をマークしていることが多く、当時の役割分担は明確であった。今回は、彼もシングルボランチに戸惑いながらプレーしていたのではないだろうか。

 また、タイはサイドをほとんど使わなかったので、問題が出なかったものの、その数少ないサイドアタックのシーンでは、誰がサイドのスペースを埋めに行き、そのために空いた中央のスペースを誰が埋めるのか、そういった連係にややバタついたものを感じた。

 これらは、タイ相手だからこそ問題として噴出しなかったが、アジア杯におけるサウジアラビアのような、強くて速い相手なら、何点取られてもおかしくない致命的なポイントと思われ、修復が急務であろう。

★接近で勝てず、展開は不足した

 攻撃も、点は入ったが、ボールが持てるだけにスピードが遅く、ふ、と中田英寿・中村俊輔なきジーコジャパンという概念があるのならば、こういうチームだろうか、と思う時間がしばしであった。タイが比較的中盤に人を掛けてきた前半は、中盤で数的優位が作れずに、早い段階で攻撃が潰されることも多かったし、タイが徐々に引き出すと完全に攻めあぐねて、単発で入るクサビのパスが続かずに終わるシーンが多発した。

 高原はフランクフルトに移ってからずい分とボールを持つだけで相手にとって危険な香りを醸(かも)し出す磐田全盛の時の雰囲気に戻ってきたが、相当マシになったとは言え、トラップは小さくないプレーヤーである。高原が得意なのは、動きがある中でのダイレクト、あるいいはワントラップの速いプレーであり、狭い所で動かずにボールを受けて、プレッシャーの中でキープしたり、2列目に出したりという、イングランドのFW的プレーはそれほど得意ではない。ましてや大久保は、高原より動きの中に活路を見出すタイプのプレーヤーである。よって、相手に引かれた時間帯に、この2名がFWでポストプレーをするというのは実にミスマッチであり、他にもっとうまい攻め手がなかったか疑問を持った。

 こういった、攻撃面での改善点は他にもあって、オシムジャパンの時にあれほど繰り返された「第3の選手の動き」どころか、今回は第2の選手の動きもあまり見られず、ボールを持った選手が出し所がなく、迷うシーンが非常に多かった。また、左サイドを使うことが多かったが、選手が左サイドにゆっくりと密集するだけで、スピードも逆サイドのサポートも十分でなく、あまり有用ではなかった。サイドアタックは、中央と比べるとゴールは遠い上にゴールマウスは角度の関係で小さくなるが、相手のサイドが中央に比べると一般に手薄なのと、両サイドをワイドに使えば、相手の選手の密度を減らせて、スペースが生まれる、という理由で正当化されるものだ。なのに、左サイドにスピード感なく味方が密集すると、相手も寄せてきて手薄とは言えなくなる上に、真ん中あるいは逆サイドでパスの出し所となる味方も少なくなってしまう。大久保が比較的サイドに流れるプレーヤーであるがゆえに、大久保、山瀬、遠藤まで左サイドにいることもあり、そこから真ん中に出そうにも、高原は相手に囲まれていて、中途半端な位置の内田しか出し所がなく、攻撃が組み立て直し、というシーンも散見された。

 オシムジャパンにキーワードが豊富だったこともあり、岡田ジャパンでも「接近・展開・連続」に注目が集まり、日経が特集を組む位であったが、接近においてはスピードが不足して突破できず、展開の段階においては、MFの押し上げ等、相手の手薄な所へのアタックが不足していたように思う。

★布陣の妙

 また、相手に引かれた場合には、サイドを広く使って何とかスペースを捻出するか、速いクロスを入れてダイレクトプレーを呼ぶか、ドリブルと速いショートパスで突破を図るとか、あるいは1列目が人を引き付けて流れて2列目が飛び込む等など、いくつか典型的な攻め手があると思うが、このような相手に対応した崩しを意識的に行えたシーンはあまり多くはなかった。ただ、その少ない仕掛けの中で、何度かボールを取られても、大久保や山瀬が果敢にドリブルを試みたのは特筆に値する。その結果、後半に入って山瀬のドリブルを契機に大久保が1点を取ったのは、この試合で最も見応えのあるシーンであり、また布陣の妙があった部分であった。

 僕はW杯アメリカ大会予選におけるラモス瑠偉の記憶があまりに鮮烈だったために、どうも日本にパサー信仰みたいなのが生まれ、その後MFと言えば、名波・中田英・中村俊に代表されるパサーがその代名詞となる一方、森島や奥のようなドリブラーはトルシエ監督の時代以外は軽視されていたように思う。

 パスは、有効な攻撃手段ではあるが、パスの受け手のパフォーマンスに依存するというのが、大きな特徴である。受け手がイマイチであれば、いかに日本に優れたパサーがいようとも、その威力は半減する。日本に優れたパスの出し手がそろっていた時代に、柳沢がオフ・ザ・ボールの動きの質の高さを賞賛され、代表FWの第1選択となったこともあったが、残念ながら結果は出なかった。一部にはシュートを打たないからだという説もあったが、僕は原因は違うと思う。柳沢はドリブラーでもポストプレーヤーでもなく、スペースへの走り込みが特徴のFWだが、彼の速さと動きの質をもってしても、巨大なDFがスペースを消し合う現代のサッカーでは、なかなか強国相手に特徴を発揮出来なかったのではないだろうか。

 少々脱線したが、かたがたドリブルは個人技である。従って、どんなに引かれていてパスの出し所が潰されていても、ドリブルで突破できればチャンスになるし、ドリブルをすることによって、2、3人が誘い出され、スペースが生まれることも多い。ドリブルには、このように突破だけでなく、個人で相手の布陣を崩す効用がある。大久保の得点は、山瀬のドリブルによって、タイ守備陣が何人もチェックに誘い出され、空いたスペースに大久保が走り込んで、こぼれ球を押し込んでいる。ドリブルがなければ、あのスペースは生まれず、パスが出ても難なくクリアされていたかもしれない。

 その観点では、大久保や山瀬の様なドリブラーが遠藤や中村憲などのパサーと適度に混ざっていた布陣は、収穫の1つと言えるのではないだろうか。ただ、ドリブルを得意としない他のプレーヤーまで、試合途中攻めあぐねて、ボールをこね出していたのは感心できないが。

★今後について

 大差で勝ったのに、手厳しい内容になったが、これは勝って当たり前の相手であったからである。トルシエジャパンは組織的な守備と左サイドと1・5-2列目の突破力、ジーコジャパンは中盤のタレントとポゼッション、オシムジャパンはムービングフットボールと、それぞれ特徴があったが、今回の試合では、格下を相手にしてなお、岡田ジャパンの特徴は見えて来なかった。

 今も昔も日本人の特性を生かして世界で戦うには、という問いには、常に敏捷(しょう)性がその答えとなってきたと思うが、残念ながら今回の試合では遅攻となることが多かった。敏捷性を生かすなら戦術を徹底する、ポゼッションとタレントに頼るなら布陣を構成し直す、どちらか旗をはっきりしないと、上に書いた、中田英・中村俊なきジーコジャパンなる恐ろしい代物となってしまう可能性もあり得る。今回はうまくいったが、大久保・山瀬のドリブルとセットプレーでアジアを崩せるのか、崩せないなら、組織的にどう攻めるか、地力で勝る相手と戦ううちに整理を終えないと、最終予選は厳しい戦いを強いられるように思う。

※写真は前線に鋭いパスを送るMF中村憲剛(撮影・宇治久裕)

市川雄介 科学的サッカーのススメ
市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。  大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。  また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。  本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。

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