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2007年07月25日

豪州戦はオシムジャパンのベストゲーム

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<アジア杯:日本1-1(PK4-3)オーストラリア>◇21日◇準々決勝◇ハノイ
 オーストラリア戦は引き分けという結果だったが、オシムジャパンのベストゲームであろう。収穫は偏(ひとえ)に監督の資質と選手の柔軟な対応力が確認できたことである。

 4バックがどう、人もボールも動くサッカーがどう、という個々の戦術を超えた、さらにハイレベルな部分でチームのポテンシャルが極めて良く理解できた。

★ビドゥカの抑え方

 まず監督だが、相手をよく研究し、脅威をつぶし、弱点をついて「うまくゲームをした」。そんな試合を代表レベルで見たのは久方記憶がない。ある程度狙いに合理性は感じられたが、練習したことのない三都主がFWでW杯ノックアウトラウンドに臨んだフランス人、母国相手にポゼッションサッカーで挑んだブラジル人、そして「日本のサッカーが出来れば勝てる」とコメントする多くの日本人。ある程度強い相手であれば、相手に対応した戦術を取らないといけないのが、サッカーであり、またすべての勝負事である。日本のサッカーをすれば勝つのではなく、日本のサッカーが出来る環境を主体的に作り出したから勝つのである。企業で言えば、トヨタ相手に真っ向からフルライン、かつ価格訴求で戦った15年前のマツダは一敗地にまみれたが、スポーティーさ、統一感のあるデザインのテーストというトヨタにない無形の価値を訴求する今のマツダは1000億円を超える利益を挙げている。

 オーストラリアはトヨタではないが、日本もトヨタでもホンダでもない。いわばマツダ対マツダで、実力は拮抗している。今回の日本は、実力の拮抗を認識し、オーストラリアを十分に警戒した上で、よく考えたサッカーをしていた。顕著な例はビドゥカ対策である。ビドゥカはフィジカルがずば抜け、頭も足も使える実に危険なFWである。しかし、残念ながら彼はアンリでも小野でもないので、ロングボールのトラップはあまりうまくない。ボランチとCBで挟み込む守備というのをメディアは強調していたし、それも1つの理解ではあるのだが、僕は抑え込めた理由は、3つあると思う。

 (1)中盤でチェイスしたり、ボランチが守備ラインを形成したりすることによって、相手に前線で繋(つな)がせず、ロングボールを出させる
 (2)最終ラインはペナルティーエリアの前で高めに取り、ロングボールをヘディングシュートにさせず、必ずワントラップしないといけない距離にビドゥカの位置をコントロールする
 (3)後は、ヘタくそなトラップの後のボールを取るだけ

 要は、挟み込んで取っていたのではなく、挟み込める状況を作っていたのである。

★ドリブルの復活

 攻撃の方も、工夫が見られた。まずショートパスやドリブルを多用していたことである。ショートパスはともかく、これまではシンプルなプレーがオシムジャパンでは推奨されていたので、ドリブルはどちらかと言うとやってはいけないプレーだった。しかし、この試合では日本選手が盛んにドリブルを仕掛けていた。変化の影にはもちろん意図がある。僕は、これは相手のディフェンス陣にイングランド・プレミアリーグの選手が多いことに目を付けた選択だと見ている。プレミアと言っても、リバプールのキューウェル以外は中下位のチームに属している。かつてボルトンでプレーした中田英寿氏は「ロングボールで中盤が飛ばされる」と不満を漏らしていたが、プレミアはキック&ラッシュの伝統をひきずり、下位になればなるほど、放り込むサッカーが増える。従って、ディフェンスも高く屈強で、ロングボールに強い選手が求められるが、逆にスピードや足元はさほどでもない。オーストラリアのディフェンス陣にもこのタイプが多かった。この試合、日本は普通のクロスではほとんど危険なシーンが作れなかったが、ドリブルやショートパスで足元をかき回すと、相手ディフェンスはなす術もないことが多々あった。

 結局、ドリブルから点は取れなかったが、これはむしろ不運と言っても良いだろう。クロスやCKもいつもの高いところから落ちてくるボールでなくは、速いボールをニアに出すパターンが多かった。これは日本の得意パターンを捨てている選択だが、相手の高さと屈強さを発揮させないという観点では妥当だと思われた。

 オシムが、これまで余り見せなかった基本戦術を曲げてまでの個々の試合対策を今回強く行ったという事実は、彼のこのゲームへの並々ならぬ執着を示している。前任者が負けた相手に勝つことによって、今後3年の仕事がとても安定すると判断したのだろう。こういう政治的に重要な試合に、何はともあれ勝利したことで、まずはオシムの勝ち運を寿ぐべきであろう。加えて、オシムが、日常のチーム強化の為に必要な施策と、負けられない試合での個別の戦術・対策をきっちり分けて考えられる監督であり、また、その個別の戦術・対策が実に理にかなっていて、効果を出せることが証明された。これは、代表監督であれば、当たり前の資質ではあるのだが、過去、当日の対策がズバっと当たって、いいゲームをしたケースというのは、あんまり記憶に無い。

★選手の柔軟性

 これまで監督の戦術を述べてきたが、選手も数日の練習で見事に戦術を吸収し、フィールド上で狙い通りの仕事が出来ていたと思う。また、臨機応変な修正も効いていた。

 今回、たまたま相手が3バックだっとこともあり、また3バックがほぼペナルティーエリアの幅程度にしか展開せず、これは定石ではあるが、球を持たない日本のサイドの選手をバックは追わなかったため、両サイドに広いスペースがあった。3バックは、このサイドのスペースを埋めるのはあきらめて、ゴールの正面を固める戦術である。また、サイドに実際にボールが出た時には、3バックの一角とサイドハーフの2人でボールを取りに行くのが3バックの守り方である。前半は、相手の術中にはまっていた感もあり、サイドにボールを出しては、この2人につぶされて、中盤のボール支配をむだにすることが多かったが、途中から修正し、サイドは余り深くえぐらず、サイドのプレイヤーは早めに斜めにドリブルで切れ込む様になった。ドリブルの有用性は上に述べた通りである。また、サイドを利用するのは、ラストパスの一つ手前など、十分にゴールに近付いてからのことが増えた。ゴールに近付けば、少なくとも敵のサイドハーフを相手することは無い。前半途中から、サイドに進出するのが、加地や駒野ではなく、遠藤や巻になっていたのはこのせいだ。
(但し、後半25分過ぎて、相手の足が止まってくると、再度サイドバックが深い所まで進出する様になった)

 守備でも、アーノルド監督が全くワークしていなかったビドゥカをたまらず下げ、キューウェルというロングボール以外のボールの運び手を入れたあと、いったんラインを深くして、相手のフォーメーションの変化に対応する姿が見て取れた。しかし、その後アロイージが1人前線にいて、キューウェルとブレシアーノがそこから相当離れてボールを受けることを確認すると、縦パス一発を警戒して、再びラインを上げていた。オシムジャパンは中盤のコンパクトさは追求しないため、過去の代表と比べるとラインコントロールの持つ意味合いは小さいが、それでもこの試合でのラインの位置は見事であり、相手の攻撃のバリエーションは少なくする役目を果たしていた。

★川口の味

 PKについては特にコメントはない。オシムの言う通り、これは運だからである。たまたま僕は川口と同い年で、高校時代には母校が対戦した事もあるが、非常事態に陥いった時に見せる妙に落ち着いた表情は、若い頃から全く変わらない。彼ほど個性の立っているプレイヤーはなかなか今の日本に居ないだろう。剣が峰の最初の2本を止めて、勝てそうになった途端に、あっさりその後の3本、まったくかすりもせずに決められてしまったのも、実に川口らしい、川口のチームには欠かせないスパイスである。

※写真は勝利後ピッチに現れFW高原と笑顔で握手するオシム監督

市川雄介 科学的サッカーのススメ
市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。  大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。  また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。  本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。

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