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2006年10月11日

ワールドクラスと戦って見えたもの、示唆に富むガーナ戦

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★オシムサッカーの浸透

<国際親善試合・キリンチャレンジ杯:ガーナ1-0日本>◇4日◇日産ス
 ガーナ戦は、オシムジャパンになってから、最も見ていて面白く、かつ示唆に富むゲームだった。良かった点と、良かった点を踏まえた上での新たな課題、そして最後に少しだけゲームの感想を述べようと思う。

 良かった点は、まずオシムのサッカーがチームに浸透してきているのが、明らかであったことだ。もうジーコジャパンとは完全に別のチームと言っていいだろう。ポジションチェンジを繰り返してもバランスを崩さず、選手はどこの場所に入っても、一定のクオリティーでプレーができる。正直、ガーナとは個人技のレベルはかけ離れていたと思うのだが、ゲームとしては互角以上の戦いができていたのは、浸透しつつあるオシムサッカーの有効性を示すものであろう。

 僕は途中見ていて、W杯ドイツ大会の決勝トーナメント、アルゼンチン対ドイツの試合を思い出した。アルゼンチンは1点をリードした後、守りに入ってチームの大黒柱であるリケルメを下げるのだが、その後同点に追いつかれた。アルゼンチンの攻撃はリケルメが起点になることが多かったから、彼を下げてしまった後、攻め手がなくてゲームを作るのも難しいだろうと思ったのだが、守備的なラインを修正すると、その後延長終了まで、何事もなかったかのように本来のパスサッカーを繰り広げ、ドイツをあと一歩の所まで追い詰めた。リケルメという傑出したプレーヤーの個人技に依存せず、誰がどこに入っても一定のレベルで高いクオリティーのサッカーができるアルゼンチンに心底感嘆したのだが、今の日本は、レベルの差はまだあるが、同じようなことができつつあると思う。

 サイドの選手が中に入っても、トップの選手がサイドに開いても、DFの選手が攻め上がっても不安定にならず、流動的にプレーできている。特に前半のガーナは、日本の選手を捕まえきれず、非常に守備が不安定で、あと一歩で日本が1点というシーンも多かった。これは、この日本の目指すサッカーが有効に働いた証左であろう。「家を作るには土台が大事」とオシムは選手に言ったと述べていたが、この土台は出来つつあるように思う。フランス人監督の時のような、長い合宿でチームとしての熟成を図ることができず、かつ有望選手のほとんどが海外でプレーしているとまでは言えない日本の現状を鑑みると、Jリーグの選手を中心にチームの土台を作り、その土台の上に個人技に優れる欧州組を厳選して入れるというアプローチは正しいアプローチであろう。願わくば、欧州組にリケルメやメッシがいるといいのだが。

 また、ジーコ時代から人材が豊富とは言えなかったストッパーに水本裕貴(21=千葉)という若手が出てきたのは1つ光明である。彼はアサモア・ギャンとピンポンという速いプレーヤーをマークしていたが、スピード勝負に持ち込ませず、うまく守っていた。マンマークがラインディフェンスと比べて優れているのは、前線の選手をフリーにさせる確率が相対的に低いことだが、彼はねちっこい守備でほとんどフリーにさせず、後半開始からガーナの得点シーンまでは中盤を支配されている時間が続いたにも関わらず、最後の最後で攻撃の芽は摘み取れていた。

 バロンドールクラスの選手でなければ、なかなかフリーでない状況で点は取れないものだ。坪井も速い選手だが、マークして最後ボールを奪う所のタイミングやスキルはハイレベルだがトップレベルではない。今回の試合では、水本のハイボールの処理の力はほとんど知る機会がなかったが、グラウンドでボールを取ってしまう技術には相当秀でたものがあると感じた。相手次第では水本の方がフィットする場合もあるだろう。

★イニシアチブの作り方

 次に課題である。今回は考えて走るサッカーができつつあるという状況を踏まえた上での、更に高いレベルでの注文なのだが、それはゲームのイニシアチブをどう握るかというイシューである。ガーナの戦術は明快だった。ガーナはレッドスター・ベオグラードでプレーしていたデュイコビッチ監督の時代と同様に、ゲーム開始早々から極めて高いラインで、数的優位な状況を作って攻め、1点取るとさっと引いてセーフティーファーストでプレーをする。結果として、ゲームのイニシアチブはガーナの方にあった。ガーナが攻撃をしたい時、守備したい時という相手の都合に合わせてプレーしてしまったのが日本である。

 これは、マンマークシステムの功罪の罪の方であって、相手のFWに対して1人余って付くというコンセプト上、どうしても受動的にならざるを得ないから、ラインの押し上げ・押し下げでリズムを作れないのである。後半押し込まれた時や、1点取られた後など、攻撃を行うことで相手を押し戻したり、流れを断ち切ったりせねばならない局面があった。しかし、DFが相手に釣られて低い位置のままだったため、全般的にラインが間延びして攻め手が相手陣内で孤立し、三都主や遠藤の個人技でなんとか形を作るという、かつての悪い形がその局面では出てしまっていた。この種の個人技勝負になると、このチームは中村俊輔も小野伸二もいないから、難しいゲームになる。

 こういう時は、マーカー以外の選手が押し上げたり、クリエイティブにいったんディフェンスがラインを形成してポジションを上げて、相手のトップをオフサイドポジションにして戻らせる等、積極的な戦略が有効だ。この辺の駆け引きは世界ではポルトガルがうまい。自陣で行われる相手のセットプレーの時に、何人もの選手が敵陣に残って、相手を数的不利に追い込んだり、最終ラインをゲームの文脈に応じて上げ下げして、中盤にスペースを作ったり、相手のフォーメーションの特定部分に圧力をかけてリズムを崩させたり、となかなか見ていて飽きないものがある。こういった静的なラインの駆け引きというのは、ムービングフットボールを志向するオシムのサッカーとは少し異質なものだが、動く中でどこかに数的優位を作って圧力をかけたり、相手を引かせたりという、「イニシアチブの作り方」は、1つ今後の研究テーマとしてあり得るだろう。

 ただ、ここで1つ状況の変化の対応という点でオシムをフォローしておくと、オシムは前半のようにガーナのラインが高くて(相手DFの裏に)スペースがある時は佐藤寿人、点が入って相手が引いてスペースがなくなると長谷部を投入していた。佐藤寿人はラインの裏に走り込むプレーが得意なため、ラインが高くスペースのあった前半は極めて良くゲームにフィットしていたが、点を取られるとプレーの自由度がなくなり、パフォーマンスは目に見えて悪化していた。本来はそこでスペースがなくても体の下でボールが扱える田中達也を入れたい所なのだが、今回は招集されなかったので、小刻みなステップのドリブルができて、技術の質は違えどスペースがない所でプレーできる長谷部を入れ、高い位置でプレーさせたのだろう。これはこれで非常に有効だったと思われる。

★ガーナの可能性

 最後に少々雑感めいた話になるが、こういった日本のホームの親善試合だと、たまにとんでもなくパフォーマンスが悪いチームが来たりするが、ガーナは極めてまじめに戦っていたと思う。僕が数週間前にガーナを旅行していた際に触れた、ガーナ人のまじめさ、気配り、みたいなものは代表選手にも共通した気質のように思えた。ガーナ人はまじめなのである。タバコも吸わないし、何かを要望すれば一生懸命対応するし、清潔好きである。なんとなくユルくて油断ならぬ雰囲気の漂う隣国コートジボワールとは随分違う。コートジボワールは、首都に高層ビルの立ち並ぶ都会で、ガーナは首都と言えどもビルはない“田舎”という違いが気質にも出ているのかも知れない。日本も、ビルこそ立ち並べど、国民性には昔ながらの“田舎のまじめな国”の面影を残している。そういう意味では、ガーナと日本は、似ている所があると思う。

 今回来たガーナ代表チームも、日本と同じ様な“田舎のまじめな国”が、まじめに国中から才能を集めてきたチーム、そんな印象を受けた。前のアーティクルで、ガーナのクラブチームは全くクロスボールを使わないと書いたが、今回代表の試合を見ても、ほとんどクロスやサイドチェンジは行わず、ひたすら真ん中を個人と個人の連係で突破してくるようなスタイルだった。それでも、これだけのパフォーマンスが出るのである。日本もオシムの下で“お勉強中”であるが、ガーナが今後、新監督の下で欧州の戦術を吸収して、洗練度を増してきたら、どこまで行けるのか、若いチームだけに空恐ろしい。ポルトガルやオランダの様にスピードを生かした、3トップによるサイドからの攻撃などを身に付け出したら、もともと中盤に才能が集うだけに、次の2010年南アフリカW杯ではベスト4以上も狙えるのではないか、そんな風に思った。

※写真はGKのR・キングストン(右)と激突するMF今野(撮影・蔦林史峰)

市川雄介 科学的サッカーのススメ
市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。  大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。  また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。  本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。

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