2006年09月11日

★オシム時代の楽しみ方
<アジア杯予選:日本1-0イエメン>◇6日◇A組◇イエメン・サヌア
9月6日の試合は、前回8月16日のイエメン戦より得点差は縮まり、冷や汗ものの勝利だったが、徐々に試合内容が良くなってきていることを感じさせられた。
引いた相手に対しての戦いを評価するのは難しいが、前回よりは工夫して攻めていたと思う。単にクロスを入れるだけでなく、少し持って相手を引きつけてから出したり、結果には結びつかなかったが、いくつか研究のあとは見られた。まだ熟成途上のチームだから、前の試合より良くなるのは当たり前かも知れないが、ジーコジャパンの時は課題解決にどうトライしたかが、いまひとつ見えず、突発的に良くなったり、一夜にして悪くなったりを繰り返していた。これと比較すると、オシムジャパンは結果どこまで行くかは分からないが、成長の過程が理解可能な形で試合で示されると思う。
この理解のし易さは、オシムの是非を判断する上でも極めて有益だし、考えてみれば、監督が一定のポリシーをもって教育すれば、それに伴ってチームが変化するのは当たり前のことである。トルシエ時代の前半も、ウエーブの動きだとか、フラット3だとかを選手が消化してチームが良くなっているのを感じたが、トルシエの後期やジーコ時代は、いまひとつチームの変化の方向性が見えなかった。結果として、協会幹部からも「監督の持っているツキに期待している」というようなニュアンスの発言が当時出たと記憶しているのだが、誰も2人を客観的に評価できない状況に陥っていたのは、監督と協会、あるいは監督とファンとの関係において、実に不幸な時代だったように思う。
世の企業経営者でも、呪術師的に、なぜかは分からないが結果だけは出ているというタイプはいるのだが、オシムはそれとは真逆の、きちんと経営方針を示し、それを定期的にトラックして評価修正するという、いわば真っ当にPDCA(※)を回すタイプの経営者に似ている。こういったタイプのリーダーを前に、結果と内容をきちんと区分けしてそれぞれ評価できるか、そのあたりに株主と経営者とのゲームにも似た、新しいサッカーの楽しみ方があるように思うし、また日本のファンの洗練度も試されているのかもしれない。
★ゴール前での判断力
さて、少々話がずれたが、試合に話を戻して、今度は修正点を考えてみたい。イエメン側は前半は相当引いていて、日本がクロスを上げる時には真ん中に6~7人いることもざらであった。ただ、右サイドから日本が攻撃する時と左サイドから行う時とで、若干状況が異なっていて、右サイドの加地はペナルティーエリア横のスペースを使うためイエメンは通常2人が加地のカバーに行き、その2人に最終ラインの選手が入っていることが多かった。左サイドの三都主は、ペナルティーエリアの前からクロスを上げることが多かったので、カバーに行くのはイエメンのMFである。この違いによって、加地が攻めた時の方が相手の守備陣は数が少ないことが多かった。
この意味で、加地は良いトライをしていたのだが、クロスがやや単調だったのが惜しい。加地が持つと逆サイドは完全にフリーになっていたから、ゴール前で素早くサイドチェンジして、逆から攻めても面白かった。そうすれば斜めからのシュートというダイレクトオプションに加えて、イエメンの守備陣は右左に振られて真ん中がより手薄になっただろうから、さらに2列目の選手が連動して飛び込むという攻撃の確度も上がっただろう。こういった、ゴール前で適切な選択肢を素早く行うという判断力は、ボールの持ち手、受け手とも改善はしてきたが、まだ“伸びしろ”は十分あると思う。
一方で、良かった点は守備の安定度が高まったことだ。これはイエメンが後半の一局面を除いて、ほとんど攻めてこなかったことにも起因しているだろうが、ボールの取りどころが中盤の底できっちりと定まっていて、破綻(はたん)したシーンは少なかった。オシムの1トップには2バック、2トップには3バックという1人余る守備が徐々にこなれてきたと思う。アジアレベルではオランダやポルトガルのような本格的な3トップのチームは少ないが、こういったサイド攻撃が得意な強豪に対して、きっちりと4バックで守れるか、強化の過程でその様な経験が積めると、W杯本番で慌てなくて済むだろう。
★選手交代
また、今回は選手交代が理にかなっていて、良く機能していた。ハーフタイムのオシムのコメントで「サポートの選手の動きが無いから、ドリブルシュートが多くなる」というのがあったが、これに沿った形で、佐藤を入れたのは非常に効果的だった。田中達也は下がり目、つまり相手ディフェンス陣の前でボールを受けてドリブルで自らボールを前に運ぶタイプの選手であり、佐藤はディフェンス陣のウラを突く動き、つまり相手ディフェンス陣の後ろでのプレイに特徴のある選手である。
相手ディフェンス陣は、セットプレーの時に顕著だったが、動いてペナルティーエリアに入ってくる選手を捕まえきれていなかった。セットプレーでは残念ながらボールが合わなかったが、中盤でボールが持てる状況下では、田中達也のパフォーマンスが悪かった訳では無いが、佐藤のように動いてフリーでゴール前に入ってくる選手の方が明らかにフィットしていたと思う。実際、この交替によって、前線は活性化し、後半はあと一歩のシーンも増加した。我那覇の投入も、焦燥(しょうそう)感が漂う後半、FWを3人にしてパワープレーへの意図が明確になったのは良かったと思う。
トルシエもジーコもバランスを重視した監督だったから、あまりこうしたリスクを取って勝ちにいくオプションを採らなかった。パワープレーらしいパワープレーを思い出すと、フランスW杯予選のウズベキスタン戦(97年10月11日、タシケント)で秋田が終盤トップに上がってカズ、城、呂比須と4トップになったシーンを思い出したが、これは岡田監督の初陣まで遡(さかのぼ)る。ヒディンク(豪州、韓国代表監督など)も良く劣勢の後半にリスクを取った攻撃を仕掛け、結果を出してもいるが、これまでどうにも終わり方が淡泊だった日本代表に、1つオプションが加わるのは歓迎したい。サウジアラビア戦の時は、パワープレー自体に戸惑いがあったが、今回はプレッシャーの少ないサイドに出して、そこから持たずにすぐボールを上げるという定石がさまになっていた。格好の良い勝ち方では無いが、サッカーとは不確実性の多いスポーツだから、いつ何時、どんな相手でもパワープレーが必要になる局面は存在する。
さて、次は大分間隔が開くが、まだ予選は2試合残っており、その後にアジア杯本番が控えている。今回明らかになった修正点をどのように解決するか、オシムのPDCAを見守っていきたい。
※PDCA ビジネスでよく使われる言葉で、P(plan=計画)、D(do=実行)、C(check=評価)、A(ACT=改善)のプロセスを順に実施し、最後の改善を次の計画に結びつけ、業務改善活動などを推進する。
写真はイエメン戦終了直前にゴールを決めた我那覇(撮影・蔦林史峰)
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