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2006年09月06日

前半15分の入りの悪さ

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<アジア杯予選:サウジアラビア1-0日本>◇9月3日◇A組◇サウジアラビア・ジッダ

 観戦していた方は皆思っただろうが、もったいない試合だった。

 日韓W杯の決勝トーナメント1回戦のトルコ戦、ドイツW杯のオーストラリア、クロアチア戦などは、日本がちょっとツイてれば勝てたなという試合だったが、この試合は普通未満の運に泣いたゲームだった。サウジアラビアはドイツW杯出場国であり、かつ監督が日本のように替わっていないため、W杯出場メンバーがかなり残っている。そんなW杯クラスの強力な相手だったにもかかわらず、日本の急造チームの方が、全体にパフォーマンスが良かった。

 これは、日本の選手層が厚いことか、個の集合としてのチームのパフォーマンスが良くなっていることのどちらか、ないしは両方を示している。アンラッキーであっても結果は負けであり、そこは問われてしかるべきだが、この地力に勝っていた点は明るいニュースだと言えよう。
 加えて、まずまずのパフォーマンスであった中で、これほど改善点・問題点が明らかになった試合も珍しい。誰が見てもツッこみたくなるポイントがいくつもあった。確かにパフォーマンスは良くて、不運に泣いた試合ではあったが、今後も常に不運に襲われる可能性は存在するから、パフォーマンスはもっと上げねばならない。ゆえ、今回はまず修正点を追ってみたい。

 最初に指摘すべきは、前半の15分の入り方の悪さである。正直、高校サッカーの初戦を見ているかのようだった。これほど「浮き足立っている」状態がA代表で見られるのは珍しい。パスの出し手からのボールは大事にいき過ぎて緩く、パスの受け手は動いていないがゆえに相手にコースを読まれ、結果的にほとんどパスが相手へのプレゼントになっていた。また、この状態が数分続くと、浮き足立っているのが選手たちにも理解されて、今度は落ち着かせようと中盤がズルズル下がり、前線と中盤がぽっかりと空いてしまった。このせいで中盤での横パスか、とりあえず前に放り込むロングパスが増えた。これではなかなか通らない。若いとか経験不足だとかという話は出ているが、4人のMFと2人のサイドバックという、主にパスを回していた6人については、鈴木啓太以外は、W杯かオリンピックのメンバーなのである。個々の赫々(かくかく)たる戦歴からすると、少々残念なパフォーマンスだったと思う。

 結局、この前半15分はことなきを得たのだが、一方で仮に日本がもう15分通常のリズムで戦ったら、1点取れた可能性は相応に高いように思うので、ことなきを得たことで良しとは出来ない。サッカーは、クリケットと違ってプレー時間の限られたスポーツであり、いかに自分のリズムで戦う時間を多くし、相手のペースの時間を短くするかというタイムマネジメントは、勝敗を分ける1つのスキルである。中東の国に多い、リードした際のケガを装った時間稼ぎや、イタリアのベタ引きの守備、南米のボール回しやライン際でのボールキープなど、時間の使い方は様々だが、1つの戦術的共通理解としてチームに存在するものでもある。今回の日本代表も15分で修正できたのだから、なぜ修正できたかをチームで追究して、再発に備えて時間短縮策を講じておくべきだろう。

 あと、タイムマネジメントの観点で1つ付け加えるならば、オシムは高温多湿という状況から必然的に発生する疲労を考慮して、ハーフタイムの時間をずい分長く取っていた。もちろん疲労回復をもくろんで、規程にチャレンジしたのだろうが、敵地でこの宮本武蔵戦術を採るとはなかなか大胆である。幸い、サウジアラビアのサポーターはあまり意図を理解できなかったのか、登場したときにブーイングの雨ということもなく、後半はうまく入れたように思う。

★孤立する攻撃

 次は前線と中盤の乖離(かいり)である。これは従来から課題とされており、今回も試合早々から目立っていたものである。巻などは当初ほとんどテレビ画面に出てこなかった。日本代表が攻めあぐねてパスを戻したり、単純なクロスを上げて跳ね返されたり、ルーズボールを相手に拾われていたりという結果の原因は、ほぼ、これに帰結する。サウジアラビアは比較的サイドにスペースがあったので、加地が持ってペナルティーエリア横まで侵入した時は、中盤もようやく押し上げて、真ん中に人数が足りないというシーンは少なかったが、逆に加地が持たないとなかなか攻めの形を作れなかった。フォーメーション的には、開始時の4-2-2-2が、相手の2トップに合わせて、3-5-2のような形に変ったが、5が鈴木啓太がやや下がり気味なこと以外は、フラットに横に並び過ぎたように思う。

 もちろん、ドイツW杯の時のドイツチームのように、フラットな中盤というフォーメーションは存在するのだが、これはコンパクトなラインとセットの戦術である。オシムのサッカーはラインのコンパクトさとゾーンプレスで勝負するタイプのサッカーではない。最終ラインはマンマーク的に1人余る人数で守るため、必然的にそれほど浅いラインにならないのである。また、中盤より前については、密度より動きでスペースを消したり、作ったりすることから、攻める時には当たり前のことだが、広いフィールドの方が効果が高いサッカーだ。そうすると、窮屈にMFがフラットに並ぶよりは、前後の関係をもっと作って、1人当たりのスペースを広くした方が、いいプレーが出やすい。今回は、サウジアラビアの極めて深い最終ラインにFWが釣り出されたこともあって、よけいに前線と中盤の乖離(かいり)が目立つことになり、攻めあぐねることになった。

★サウジアラビアとの再戦に向けて

 さて、上記以外にもW杯のオーストラリア戦から引き続き、大舞台になるとプレーに迷いの大きい駒野のパフォーマンスであるとか、1点を争う終盤でろくにパワープレーも出来なかった基礎戦術への理解度の低さなども考えるべきポイントだが、やや散漫になるため、ここからは視点を変えて、次は日本のホームで戦うことになるサウジアラビアについてもコメントしたい。

 試合が始まって、まず目が行ったのは実にブラジル的なそのプレースタイルである。監督がブラジル人だとかくもスタイルが似るのだろうか。ボールの出し手受け手のみが動く優雅なパス回しを見ているうちに、ジーコジャパンと戦っているような錯覚まで生じた。前線と中盤が離れてしまった日本と違い、サウジアラビアは前線と中盤とボランチがきれいに2~3列のラインを形成し、そのライン間で自在にボールを回し、すきあらば前線がドリブルかショートパスで突破を図るという、いわゆる遅攻が多い。正直、足技は日本より優れていたかも知れないが、数的に守りの駒がそろっている局面が多く、あまり怖さの感じない攻撃だった。

 ただ、こういった攻撃に対して、日本代表が相手の2列目にほとんどプレッシャーが掛けられていなかったのはリズムを悪くした一因である。さすがにボールを持ったら厳しく行くのだが、ボールを持ってない時はほとんど捕まえきれておらず、このせいで最終ラインで跳ね返ったボールが軒並みフリーな相手の2列目に拾われていたのである。もし、2列目に対して、もっと厳しいプレッシャーを掛けていたら、高い位置でボールを奪って速攻という、今回ほとんど見られなかったシーンを作ることが出来ていただろう。ジーコジャパンが、相手から中盤にプレッシャーを掛けられると、試合を作れなかったのと同じ理屈である。

 あと気になったのは、セットプレーの時のサウジアラビアの守備のまずさである。壁の人数も少ない上に、動いている相手への対応が鈍い。走り込む闘莉王に合わせたフリーキックがあったが、ボールこそ合わなかったものの、闘莉王自体はフリーに近い状態だった。こういうシンプルな仕掛けは次回も有効だろうし、日本人フリーキッカーなら直接、枠を狙えるような壁の状態の時もあるだろう。今回は、あまりフリーキックで見せ場がなかったが、ここは狙い目のように思う。

★誰がリーダーとなるか

 さて、日本については修正点、サウジアラビアについては弱点について一通りお伝えしたが、もう1つ大きなイシューを日本代表について付言しておきたい。それは、イシニアチブとリーダーシップの欠如である。試合中、ベンチからの指示が非常に目立ったが、選手の声はほとんど聞こえて来なかった。この試合はユースではなく、日本代表なのである。ベンチからずっと指示を受けてサッカーをするレベルではなく、選手はプロフェッショナルとして一定のパフォーマンスを求められる。トルシエ監督の時は、その独特の戦術観とアロガント(ごう慢)さへの半ば反発の中から選手にイニシアチブが生まれた。ジーコ監督の時は、自由という方針のもと、一部溝が感じられた選手があったが、宮本を中心としたまとまりのようなものも自然に出来ていた。

 オシムジャパンはまだ始まったばかりだが、先生と生徒の関係性が強すぎるように見える。オシムは、極めて経験豊富なコーチだけに、とにかくオシムのサッカーを学ぼうと受け身になり過ぎては居ないだろうか。「考えて走る」ことを標榜していたにも関わらず、負け戦の終盤で、相手の176センチと179センチという低いセンターバックに対して、パワープレーに出るという単純なアイデアすら自ら出てこなかったのは、まったくもって戦略的なレベルでは思考が止まり、受け身な姿勢になっていたことを示す。
 オシムは、その真逆を望んで「考えろ」と言っているのだと思うが、現実はそのアイデア自体を消化するのに選手は必死という感じなのだろう。時間が解決する問題なのかもしれないが、こういった選手側のイニシチブの不十分さと、その裏返しであるベンチワークへの依存が非常に気になった。

 また、このチームが今後誰が引っ張るのかというリーダーシップの萌芽もまだ見えてこない。前回の中国で行われたアジア杯では、反日感情渦巻く敵地で試合を重ねることにより、中村俊輔や宮本のフィールドにおけるリーダーシップは長足の成長があったように感じたが、今回のアジア杯では、果たして誰が台頭するのだろうか。オシムが、国内勢のみで試合を重ねていることの意味合いの1つに、このリーダーの養成という狙いがあることは間違いないだろうから、要注目である。

 最後に余談だが、報道によれば今回の放映権はサウジアラビアサイドに値段を吹っかけられたせいでなかなか決まらず、直前でテレビ東京が粘り強い交渉の結果、ほぼ相場の値段で手に入れた模様である。そのお陰で我々はテレビ中継を楽しめたのだが、一方でCMに番宣(番組の宣伝)が多く、スポンサーのCMがあまり入っていないのが気になった。きっと、あまりに直前の決定だったので、十分なスポンサーが集まらなかったのだろう。果たしてこの状態で放送はペイしたのだろうかと心配になってしまうが、こういうリスクを取って中継を行ってくれたテレビ東京の心意気には感謝したい。
 内容的にも、無意味に煽(あお)り立てる事なく、極めて分かりやすい、長年サッカー中継に携わっていたテレビ東京らしいレベルの高い中継だったように思う。


※写真はサウジアラビア戦で、選手に指示を出すオシム監督(撮影・鹿野芳博)

市川雄介 科学的サッカーのススメ
市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。  大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。  また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。  本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。

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