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2006年08月19日

羽生は横、三都主は縦

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★勝つには勝ったが…

 イエメン戦は、勝ったこと以外には価値を見出しにくい試合だった。その理由は、試合後のオシム監督のコメントに集約されていたように思う。

 ただ、究極的には4年後のW杯が目標であっても、それにいたるこういった大会を落としていいはずがない。その意味では、何であっても勝ったこと自体をもって及第点だろう。
 試合の総括としてオシムは、ディフェンスラインでのボール回しが遅く、スペースを作ることが出来なかった点が不満だと述べた。これは確かに試合を通じてほぼ変化なく、ジーコ時代の遅攻に数日にして戻ってしまった印象を受けた。むしろ「黄金の中盤」のようなパサーがいない分だけ、エレガントさもない遅攻になってしまった感じだ。

★ディフェンスライン

 こうなってしまった1つの原因は、今回先発したディフェンスラインのプレーヤーがそもそも正確で速いパスを得意としていないことだと思われる。前のトリニダード・トバゴ戦では、相手もベタ引きではなかったため、日本も通常の陣形を保ち、ディフェンスがボールを取ると、4バックながら途中から中盤に位置した田中隼磨を含めて、中盤の足元の技術に優れたプレーヤーに預けて、そこからゲームを作っていた。

 今回のイエメン戦は相手が少なくとも7人以上が引いて守っている状況が続いていたため、日本の中盤の選手は軒並みポジションを上げており、ディフェンスラインの選手がボールを取った後、自らゲームを作るシーンが目立った。センターバックの闘莉王と坪井は素晴らしい身体能力を持つ優れたプレーヤーだが、マルディーニの様なボトムからのゲームメイクを得意とする訳ではない。

 こういった場合、ディフェンスラインは得意ではないプレーをするべきではなく、ボールを取ったらすぐに前に出した方が良いのは間違いないが、ミッドフィールダーの選手のポジショニングもあまり良くなかったように思う。位置的には阿部が素早くディフェンダーからボールをもらって、ゲームメークをすべきだと思うのだが、ディフェンスラインがボールを持った段にはイエメンの1トップの下にいた2名の攻撃的MF(実質的に攻撃はしていなかったが)と位置がかぶっていることが多かったので、闘莉王と坪井は、阿部に出すのを躊躇(ちゅうちょ)していたように見えた。確かに、そのポジションで阿部に出して仮にカットされると、2バック対相手1トップ+2攻撃的MFによる、2対3という数的不利な危険な状況を現出させてしまう。従って、こういった結果が求められる大会では、よりセーファーなチョイスを選択しようとするのは致し方ないと思われる。

 結果的に、ディフェンスラインは出し所がなく、かつプレーヤーの特性としてスペースに乏しい前線に速く正確なパスを出せるタイプではないがゆえに、慎重なパス回しに終始した。このため、後半始まってすぐなど、ややイエメンが前がかりになった瞬間にボールを奪って速攻のチャンスが出来ても、それを有効に生かすことは出来なかった。これがリズムが悪く、攻めが遅かった1つの理由である。

★三都主の動きは果たして悪かったのか

 あと、前の試合で自由に動いて良いプレーを見せていた三都主が、この試合ではアシストはしたものの、サイドでボールを持ちすぎて「昔に戻った」と論評されていたが、これは少々酷な評価のように思った。トリニダード・トバゴ戦では、長谷部や山瀬など近くのプレーヤーがよく動き、スペースを作ってボールの出し所があったが、今回の試合では三都主が下がってディフェンスラインからボールをもらった後、どこにもボールを出せない状況が多かった。それはむろん相手が引いていたことが大きく、かつ日本代表も全体に中盤から前線に動きが乏しいため、スペースが作れていなかったこともあるだろう。結果として、ボールを持っても出す所がなければ、ボールを持つしかなくなってしまうのである。これはやむを得ないことのように思われる。

 では、この状況はどうやったら解決できるだろうか。ここから少し脱線するが、日常のビジネスシーンでも、よく売り上げが下がったから売り上げを上げろという指示が出たりする。これは結果に対して、結果の裏返しの指示を与えているに過ぎず、実効性に乏しい。結果が出たら原因を突き止めて、それを解決しないと実効性は上がらない。そのためには、物事を要素に分けて考えることが必要だ。例えば一般的な食品メーカーで有れば、売り上げは

○導入されたスーパーの店数×1店あたりの棚のスペース×スペースあたりの効率

 に分解される。こういう分解が出来れば、売り上げの減少はスペースあたりの効率の落ちが主因であり、その原因は商品性が落ちていることである等と原因が突き止められるから、新商品開発やリニューアルをせよという具体性のある指示が可能になる。

 同様に、三都主がボールを持ちすぎていたから、ボールをもっと速く出すべきだというのは結果の裏返しだから、解決するためには、なぜボールを長く持たざるを得なかったかを考える必要がある。
 サッカーというのは相手ゴールに近づけば近づくほどゴールの可能性は上がるスポーツなので、ゴールに十分に近づくまでは前にボールを運ぶことがプレーヤーの目的になる。そこで、ボールを保持する時間が長いというのは、ボールを持った選手が正常な判断力を有しているという前提であれば、パスよりもドリブルの方が効率が高い状況だったことを示す。プレーの効率は、ゲインする距離と可能性のかけ算であり、通常は明らかにパスの方が距離の効率は高いから、結局可能性が低いと判断される状況だったのだろう。

 では、可能性が低い状況がなぜ出現していたかを考えてみよう。パスが成功する可能性が低いということは、すなわちスペースがなくてフリーの選手もいないということを意味する。この結果を作っている要素は3つあって、
 (1)相手がスペースを消している
 (2)味方選手がスペースを作れていない
 (3)ボールを持った選手自体がスペースを作るような動きをしていない
 だと思われる。前の2つについては、すでに本稿でも触れたようにイエメンがベタ引きで日本代表は足が止まっていたことが原因なので割愛するが、(3)についてさらに突っ込んでみたい。

 三都主はプレーヤーの特徴として、縦の動きが得意な選手である。ボールを持ってからの縦への個人技での突破は日本代表名物と言っていい。ただ、今回の様に相手に引かれると縦方向のスペースは狭まり、突破は難しくなる。この様な時は、1つのアイディアとして、素早いサイドチェンジや、横へのフリーランによって、マーカーを外したり、フィールドに分散させたりしてスペースを作る、横の動きが重要になる。
 例えば、最終ラインが5人いたとして、それがペナルティーエリアの幅の中に収まっていたら、相当の名手でも縦に突破するのは難しいだろう。しかし、5人がフィールドの幅に分散していたら、突破は相当容易になる。最終目的はゴールに近づくために縦に動くことなのだが、そのためにいったん横に振って、相手のラインを横方向に間延びさせるというのは、サッカーの基本戦術の1つだ。この試合でもペナルティーエリアに近い所では、横に動いて相手を引き付けて、空いたスペースに走りこんでシュートというシーンが後半に何回かあったが、これは中盤でも有効である。

 ジーコジャパンでは、横に動いてスペースを作る役目は、主に柳沢と中村俊輔が担っていたが、三都主に限らず今回の日本代表の中盤は、あまり横に動けるプレーヤーがいなかった。これではスペースができない。僕は、パスが出せず、攻めあぐねた原因は、この横への動きの欠如ではなかろうかとにらんでいる。オシムがそう思っていたかは想像の域を出ないが、羽生を入れたことによって、明らかに横方向に動きが出たことは書いておかねばなるまい。羽生は、縦だけではなく横にも動くことで相手の守備的MFを引き付けてスペースを作っていた。もし仮に三都主が横に動いて自らスペースを作れる選手であれば、羽生の投入は無かったかも知れない。

 ただ、オシムとしても、ディフェンスラインから前線までの過程で、ボールのほとんどが三都主か加地を経由していたこと自体は評価していたのだろう。だから、スペースを作れないからといって三都主を代えることはせず、逆に彼にプレーできるスペースを与えるようなプレーヤーを投入していたのだと思う。まとめれば、三都主がボールを持ちすぎていた原因は、上記の(1)(2)(3)すべてにわたっているが、オシムは三都主のプレー自体は評価し、存在を所与として(2)により状況を打開しようとしたという事になるだろうか。

★プレーのお国柄

 さて、次戦はサウジアラビアであり、その次は再びイエメンと中東勢が続く。サウジアラビアは言わずと知れたアジアの強国であるが、アウエーでのイエメン戦も、サナアという標高2300メートルの高地で行われ、明らかに相手に地の利がある厳しい戦いが予想される。今回の試合でも相変わらず中東の選手はコロコロとよく倒れて時間を使っていたが、次の2連戦も倒れて痛がる選手は多そうだ。昔はこういったシーンを見るだけでもイライラして、ブーイングを上げてたものだが、最近これは中東の国々との試合を見る上での欠かせないスパイスではないかと思い始めている。

 ゲルマン系の国々とやる時の火花が出るようなハードチャージや、ラテン系の国々との試合でよくある、ビデオのリプレーでは明らかにファウルなのに、なぜか審判は取ってくれない狡猾(こうかつ)さとか、その逆の見事なシミュレーション等と似たような名物みたいなものである。リードしているのに後半スムーズにプレーするイラン、ペナルティーエリアにドリブルで入ってきて転ばないC・ロナウドでは、かえってツマらない。やはり中東の国々とやる時は、そのお国柄をイライラしつつも楽しみたい。

※イエメン戦はMF羽生の投入が流れを変えた(撮影・宇治久裕)

市川雄介 科学的サッカーのススメ
市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。  大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。  また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。  本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。

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