記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年12月25日

トリノ届け父の愛:横田和幸

 大阪は冬季五輪に関心が薄いといわれる。今年は積雪を記録しているが、基本的に雪とは無縁な温暖な土地で、野球文化が突出しているからか、話題になることも少ない。私も大阪人の多数派層だったが、今回はそうではない。

 先日、ある人から電話をいただいた。声の主は成田隆史さん(56)。トリノ五輪スノーボード・ハーフパイプ代表に、兄妹で内定している成田童夢(20=キスマーク)と、今井メロ(18=ロシニョール・ディナスターク)のお父さん。今春まで約15年、2人を大阪市内の自宅で指導し続けてきた人物だ。

 だが、2人は父の“独走的”な指導に対立し、童夢は4月に独立、メロは7月に家を出た。メロはそれまでの「成田夢露」を捨て、自分が4歳の時に離婚していた実母今井多美江さん(47)の元で「今井メロ」に戸籍を変えた。多感な時期に、兄妹の決断はよほどのことだったのだろう。

 お父さんからの連絡は、童夢がカナダ・ウィスラーのW杯で優勝を飾り、五輪代表を確実にした12月中旬だった。

 「童夢がやりよった。根性みせよったよ。ほんまにね…。メロは(今回の遠征で)2戦連続で予選落ちやから、まだまだ修業が足りん。オレが指導していた時は、そんなことなかったからね。でも、頑張ってほしいねん。応援してる」。声は穏やかで優しかった。

 父は京大出身で天才肌。以前は青年実業家で行動派ときたから、指導もすべて自分の感性で行わないと気が済まない。異文化吸収のために乗馬をさせたり、歌手デビューさせたり、自分の子供の進む道を自由に操縦してきた。私は取材して、この方法がいつか、ひずみを生むと思っていた。しかし、愛情はあった。

 だから、メロが家出した時のお父さんは、夜も眠れなかった。取材にきた記者を怒鳴った。涙をためながら「心配や、17歳(当時)の女の子やで」と叫んだ。1週間以上も満足な睡眠、食事もしていないから、無理もない。

 9月にメロが離婚していた母の元で、名前を変えた時も「何もかも終わった…」と泣いていた。3カ月後の今回、だから、お父さんなりに立ち直ったと感じたし、同じ男親として、尊敬の念が生まれる。

 もう1つうれしい話もあった。童夢とメロには、成田緑夢(ぐりむ)君(11)という弟がいる。彼も天才スノーボーダーとして将来は五輪を狙えるが、兄と姉が家を出て精神的に落ち込んだ。競技をやめると言い出した。それが、童夢が五輪行きを決めて表情が一変してきたという。「童夢は同じ成田姓やから、友達がお兄ちゃんはすごいね、と言ってくれて、うれしいらしい。またスノボーを始めるよ」とお父さん。

 父と2人の子供は事実上の絶縁関係にあるが、いつか再び、心のどこかで理解し合える時がくればいいと思う。冬の祭典まで、あと1カ月半。トリノ五輪には、成田親子が流した涙と汗が詰まっている。

December 25, 2005 10:34 AM