記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年07月02日

さらば愛しの巨人軍:松田秀彦

 巨人戦を見なくなった。今年に入って、東京ドームに行こうと思った瞬間すらない。テレビ中継も全く見ていない。結果も気にならない。

 物心ついた時から、巨人ファンだった。小学校時代は毎日、日が暮れるまで野球をした。あこがれは巨人の4番打者王貞治。母親が作った弁当を手に、片道1時間半をかけ、友だちと後楽園球場に何度も行った。バッティング練習で、軽々とボールを飛ばす姿がとにかく格好良かった。あこがれのヒーローだった。

 大学を卒業して、この会社に入った。3年目に写真部から文化社会部に移った。映画担当になった。思わぬ機会が訪れた。米映画「バットマン&ロビン Mrフリーズの逆襲」のPRで、アーノルド・シュワルツェネッガーが来日した。飛行機を使って東京、大阪、福岡を1日で回るキャンペーンの同行取材。福岡ドームで、シュワちゃんとダイエー王監督が対面する企画があった。簡単なセレモニーと2人の歓談を取材した。試合開始前だったのに「せっかくですから、ぜひ」と、王監督は控室に私たちを呼んでくれた。短い時間だったが、映画キャンペーンとは全く関係ないどんな質問も、真摯(しんし)な態度で答えてくれた。

 その後も映画を通して、長嶋茂雄さん、松井秀喜選手の取材機会があった。野球記者ならともかく、普段接することのない芸能記者に対しても、とても気さくに、そして真剣に対応する姿が印象的だった。

 新聞社に入って「勝つため」とはいえ、企業としての「読売巨人軍」のやり方を知っていけばいくほど、好きにはなれなくなった。それでも王さん、長嶋さん、松井選手との取材機会を通じて、個々の魅力、大きさを感じることで、自分と巨人とのつながりは保つことができた。

 そのつながりも、自分の中で今年、切れた。正月にハワイを訪れる芸能人の取材を終えて帰国した後輩記者から「巨人のある選手に名刺を引きちぎられ、目の前で捨てられました」との話を聞いた。その選手は、元アナウンサーでタレント活動もしている妻と焼き肉店で食事をしていた。2人に少しだけ話を聞こうと店の外で待った。食事を終え、出てきた2人はファンに囲まれ、写真撮影に応じていた。ひとしきり終わったところで、取材を申し込もうと名刺を差し出したら、いきなり破られて地面にたたきつけられたという。「オフなんだから取材するなよ!」。にらみつけてきた。去り際に「もう1枚名刺よこせ。巨人担当の記者に『こんな失礼なやつがいた』と言っておくぞ」とすごんだという。

 休暇を楽しんでいる時に突然取材を申し込まれて困るのは当然かもしれない。しかし記者は、無断で写真をいきなり撮ったわけでもなく、名刺を差し出し、丁寧にお願いしただけだ。断られれば、食い下がる気持ちなど毛頭なかった。

 記者じゃなければ、こんな場面には遭遇しないかもしれない。ただ、社会人として普通のやりとりもできない選手が、先輩面してベンチにいる。王さんも長嶋さんも松井選手のような人もいない。そう思うだけで、個人的なつながりは切れた。そんなことも、巨人の人気低迷の遠因かもしれない。

July 2, 2005 12:56 PM