健康連載ブログ

2006年11月27日

予防歯科最新情報

【第49回】かんで食べる喜び

 「はい。じゃあちょっと見ましょう」。自宅のダイニングテーブルに腰掛けたS子さん(80)は、入れ歯を外して五島朋幸医師に差し出した。「上のところが少し当たって痛いんです」。S子さんはちょっとろれつが回らない感じで話しにくそうだ。

 口の中の状態を診察した後、バッグから歯科の7つ道具を取り出した五島医師は、ビニール袋を広げ、専用のドリルで手早く入れ歯を削り、痛い場所の調整を始める。五島医師は、お年寄りや障害のある人の訪問診療を積極的に行う歯科医師だ。「ふれあい歯科ごとう」のある東京都新宿区を中心に、診察室に来ることができない患者の診察のために、自転車や地下鉄を使って自宅を訪問する。

 「入れ歯はほぼ合っていると思うのですが、ものがうまくかめない」と訴えるS子さん。「うまくかめない理由には、唾液(だえき)の分泌の量の問題、舌の動きの問題があります。歯と唾液と舌の動きがそろって食べ物をかみ、のみ込むことができるのです」。

 「ここで簡単な練習をしてみましょう」と昆布を短冊状に切って口に入れ、それを左右に動かす練習を提案する。早速試すと、昆布の味によって刺激され唾液が出てきた様子だ。S子さんのしゃべり方が少し滑らかになるのが分かる。

 S子さんは、別の歯科医院で自費の総入れ歯を作ったのだが、それがうまく合わずに何回か調整を頼んだところ、クレームの多い患者として扱われ「気に入らないなら別の歯医者に行ってくれ」と突き放されてしまった苦い経験があるという。

 「入れ歯に対する要求のレベルには、個人差がありますが、一般に女性の方が敏感ですね。でもS子さんが特別クレームの多い方とは思えない。快適にかんで食べたいというのは当たり前の欲求、それを満たすのは歯科医としての当然の仕事だと思います」。五島医師は訪問も入れ歯の調整も健康保険で行う主義だ。

 「歯医者さんには入れ歯を作っていただいたら、それで終わりと思っていたのですが、五島先生から歯だけでなく口の中の気になることをこれからも診ていただけると聞いて安心しました」とS子さんは話した。

 【ジャーナリスト月崎時央】

 ◆訪問歯科診療 2000年4月にスタートした介護保険法の施行に伴い、全国に歯科往診に取り組む歯科医師が増えてきている。

November 27, 2006 02:35 PM

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