健康連載ブログ

2006年05月31日

2006年05月31日

【第139回】初期から全摘出も/東京医科大学病院高山雅臣名誉教授

子宮頸がんの治療(下)

 子宮頸(けい)がんの治療は、妊娠を希望する人に対しては、病期の0期、1a1期では子宮の保存的療法が行われる。が、安全な手術で子宮頸がんの再発リスクを残さない方法を選択したい方には、0期から「単純子宮全摘出術」となる。

 「子宮のみを手術で摘出する方法です」と、東京医科大学病院(東京・新宿区)産科・婦人科の高山雅臣名誉教授が言うように、子宮頸がんでは初期から子宮全摘になってしまう。1a1期も同様の手術。これが1a2期を超えて2期までは「広汎(こうはん)子宮全摘出術」となる。

 ●1a2期 がんの浸潤の深さが3ミリを超えるものの、5ミリまでにとどまっている。広がりは7ミリを超えない。

 ●1b期 がんが子宮頸部に限局して、肉眼的に明らかな病巣となっている。もしくは、病巣が肉眼的に明らかではなくても、1a期を超えるケース。

 ●2期 がんが子宮頸部を超えているが、腟(ちつ)壁下から3分の1を超えていないし、骨盤壁にも達していない。

 1a2期から2期に対応する広汎子宮全摘出術は子宮のみならず、膣も3センチ程度は切除してしまう。加えて、骨盤内のリンパ節はすべて郭清する。「近くに尿管、膀胱(ぼうこう)、直腸などがあり、大事な神経も通っています。慎重に手術は行われます」。

 さらに、がんの浸潤が骨盤壁にまで達してしまった子宮頸がんの3期、膀胱・直腸粘膜にまでがんが広がったり、小骨盤腔を超えてがんが広がっている4期になると、「手術」「化学療法」「放射線療法」の組み合わせで対応する。

 「3期までであれば『ネオバンド療法』といって、手術前に化学療法を行ってから手術を行います。また、3期、4期は米国では放射線が効くというので治療の中心になっています。日本では放射線と化学療法の組み合わせ、もしくは化学療法の単独です」。

 化学療法では、数種類の抗がん剤を併用する「多剤併用療法」が行われている。最も新しい組み合わせとして「塩酸イリノテカン+シスプラチン」「塩酸イリノテカン+マイトマイシン」「パクリタキセル+カルボプラチン」が行われる。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆子宮頸がんの名医
 ▼兵庫県立成人病センター(兵庫県明石市)婦人科・西村隆一郎部長
 ▼和歌山県立医科大学付属病院(和歌山市)婦人科・梅咲直彦教授
 ▼四国がんセンター(愛媛県松山市)婦人科・日浦昌道手術部長
 ▼国立病院機構九州がんセンター(福岡市南区)婦人科・塚本直樹院長

May 31, 2006 07:44 AM | トラックバック (0)

2006年05月30日

2006年05月30日

【第138回】見出し/東京医科大学病院高山雅臣名誉教授

早期発見で術後に妊娠可能

 子宮頸(けい)がんの検査で診断がつくと、その病期によって患者と医師が十分に話し合って治療方法が決定される。

 「若年化傾向があるので、妊娠中に子宮頸がんが発見されるケースも出てきましたし、子宮頸がんの治療後にも赤ちゃんが欲しいと言われる方も多くなりました。私どもは可能な限り患者さんの希望に沿ってあげたいと考えています」と、東京医科大学病院(東京・新宿区)産科・婦人科の高山雅臣名誉教授は言う。

 「子宮頸がんの若年化」によって生まれた「赤ちゃんを産みたい」という問題。この希望に応えられる範囲は、病期分類の0期から1a1期までの初期と早期の段階である。

 ●0期 がん細胞が粘膜の上皮内にとどまっている状態。

 ●1a1期 子宮頸部にがんがとどまり、深さが3ミリ以内で、広がりが7ミリを超えない。

 「妊娠を望む方は、子宮の保存療法の『光線力学的治療』か『円錐(えんすい)切除術』が行われます」。

 ◎光線力学的治療(PDT) 光感受性物質を患者の静脈に注射し、48~72時間待って光感受性物質ががん細胞に取り込まれたころに、特殊なレーザーを照射すると、活性酸素が発生してがん細胞だけをたたいてしまう、治療時間は40~50分程度。何より患者にとってうれしいのは、子宮温存のみならず、麻酔をかける必要がない点である。ただし、治療後3週間は真っ暗な部屋で過ごすことや光を遮断する服装が義務付けられる。「光感受性物質を使っていますので、光があたるとやけど状態になるからです」。

 ◎円錐切除術 多くの医療機関で行われている。子宮頸部の一部を切り取る方法で、今日では「KTPレーザー」を使う場合と、高周波の「LEEP法」を行う場合がある。KTPレーザーは、組織変性が少なく病巣がきちっと取れたか否かの判定がしやすい。一方、LEEP法はループ形の装置が先端に付いた器具に高周波を流して円錐切除する。出血はほとんどない。手術時間は麻酔時間も入れて30分で終了。施設によっては日帰りで行っているところもある。

 このように、初期・早期に発見できると子宮を温存できるのである。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆子宮頸がんの名医
 ▼愛知県がんセンター中央病院(名古屋市千種区)婦人科・中西透部長
 ▼京都大学医学部付属病院(京都市左京区)産科婦人科・藤井信吾教授、高倉賢二助教授
 ▼大阪府成人病センター(大阪市東成区)婦人科・上浦祥司部長
 ▼近畿大学医学部付属病院(大阪府大阪狭山市)産婦人科・星合昊教授
 ▼大阪大学医学部付属病院(大阪府吹田市)産科婦人科・榎本隆之講師

May 30, 2006 09:53 AM | トラックバック (0)

2006年05月29日

2006年05月29日

【第137回】細胞診でクラス分類/東京医科大学病院高山雅臣名誉教授

子宮頸がん(下)

 子宮頸(けい)がん発症の年齢低下傾向がはっきり出ているとあって、子宮頸がん検診対象者は04年から「20歳以上」と広がった。

 子宮がんの80%を占める子宮頸がんは、初期にはほとんど症状がないだけに、検診で発見するしか道がない。検診では「細胞診」が行われている。細胞診について、東京医科大学病院(東京・新宿区)産科・婦人科の高山雅臣名誉教授は、次のように話す。「子宮頸部を綿棒でこするようにして細胞を採り、顕微鏡で調べる検査です。この検査でがんの進行期分類ではなく、細胞の形態すなわち顔つきでクラス分類をします。クラス3以上の場合はがんが疑われるので、さらに詳しく調べる必要があります」。

〈細胞診のクラス分類〉

 ★クラス1 正常。
 ★クラス2 炎症はあるが正常細胞。
 ★クラス3a 軽度の異形成の細胞がある。
 ★クラス3b 高度の異形成の細胞がある。前がん病変。
 ★クラス4 上皮内がん。がんの病期分類のステージ0期がん。
 ★クラス5 浸潤がん。がんの病期分類のステージ1a期以上。

 クラス3以上は婦人科を受診することになり、より詳しく検査を行う。がんを疑っての基本的な診察は、「視診・内診・直腸診」「細胞診」「組織診」「超音波検査」「CT・MRI検査」の順で行われる。

 (1)視診・内診・直腸診 「直腸診はがんが広がっていたら、それを察知できます。子宮の横の(靭帯=じんたい=やリンパ腺の転移は)直腸を経て触れるのが重要です」。

 (2)細胞診(前述通り)

 (3)組織診 「細胞診で疑いがあると組織診で確認することになります」。子宮頸部の粘膜を膣拡大鏡を使って観察し、狙って組織を採る。これでクラス分類が確定する。

 (4)超音波検査

 (5)CT・MRI検査

これらの影像・画像検査でがんの大きさ、深達度、転移などを詳しく調べる。「子宮頸がんでも年配の方の場合には、がん細胞が奥に入っているケースがあります。その場合には、子宮頸部を円錐(えんすい)状に切除して検査することもあります」。以上の検査から「子宮頸がんの病期」が診断される。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆子宮頸がんの名医
 ▼癌研有明病院(東京都江東区)婦人科・滝沢憲レディースセンター長兼婦人科部長
 ▼慶応義塾大学病院(東京都新宿区)産婦人科・青木大輔教授、進伸幸講師
 ▼国立がんセンター中央病院(東京都中央区)婦人科・笠松高弘医長、加藤友康医師
 ▼東邦大学医療センター大橋病院(東京都目黒区)婦人科・寺内文敏講師
 ▼神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)婦人科・中山裕樹部長

May 29, 2006 11:12 AM | トラックバック (0)

2006年05月28日

2006年05月28日

【第136回】性行動の若年化が関連/東京医科大学病院高山雅臣名誉教授

子宮頸がん(上)

 女性特有のがんの1つに子宮がんがある。年間5500人の死亡者があり、ほぼ横ばい状態を示している。

 子宮がんは子宮の粘膜にできるがんで、そのできる場所によって2つに分けられる。子宮の入り口付近(子宮頸部=けいぶ)にできるのが「子宮頸がん」、子宮の奥(子宮体部)にできるのが「子宮体がん」である。「その比率は8対2で圧倒的に子宮頸がんが多いのです。これが早期発見に結び付いているのです」と言うのは、東京医科大学病院(東京・新宿区)産婦人科の高山雅臣名誉教授。

 今回は圧倒的に患者の多い子宮頸がんを取り上げる。子宮頸がんを発症する患者は30代から増え、40代、50代がピークとなるが、最近は20代でも発見されるようになってきた。「性行動の若年化が関連があるようです」と、高山名誉教授は指摘する。

 子宮頸がんの原因がヒトパピローマウイルス(HPV)と分かってきたからである。性交渉の経験のある女性の20~30%は腟内に持っている。そこで、今日ではHPVの感染の有無のみならず、ウイルスの型を調べるDNA診断を行っている医療機関がある。「HPVの中のがん化リスクの高い型がいくつか挙がっていましたが、ここへきて、ほぼ16型と18型で確定というところまできています」。

 HPV16型や18型に感染しているのが判明した場合には、その後、定期検診をしっかりと行い、がんをより早くキャッチするようにしていくことになる。もちろん、すべてが確実に子宮頸部の細胞に変化をもたらすのではないが、10%程度は前がん病変の異形成を生み出す。そして、高度の異形成に進むと、次に「上皮内がん」となる。逆に、子宮頸がん患者の約90%からHPV16、18型が発見されている事実がある。

 DNA診断はまだまだごく一部でしか行われていないので、早期発見の基本は子宮頸がん検診を受けることである。子宮頸がんは初期段階では症状がないので、不正出血などで気付く前に、しっかりと検診を受け、早期発見に結び付けるべきである。

 ◆ヒトパピローマウイルス イボをつくるウイルスの仲間がヒトパピローマウイルスで、その種類は約100といわれている。そのうちの40種が性交渉で感染するが、免疫力が強いとウイルスは排除される。排除できずに感染するとがんの原因に-。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆子宮頸がんの名医
 ▼北海道大学病院(札幌市北区)婦人科・桜木範明教授
 ▼東北大学医学部付属病院(仙台市青葉区)産科・婦人科・八重樫伸生教授
 ▼筑波大学付属病院(茨城県つくば市)産科婦人科・吉川裕之教授
 ▼自治医科大学付属病院(栃木県南河内町)産婦人科・鈴木光明教授、大和田倫孝助教授
 ▼東京医科大学病院(東京都新宿区)産科・婦人科・中村浩講師

May 28, 2006 09:48 AM | トラックバック (0)

2006年05月27日

2006年05月27日

【第135回】日帰りで交感神経切除術/大和徳州会病院中村勝利部長

多汗症の治療(下)

 多汗症で悩む人の10人に1人は、治療の最終段階とされる手術を希望する。大和徳洲会病院(神奈川県大和市)心臓血管外科の中村勝利部長は、その手術について「胸腔(きょうくう)鏡下交感神経切除術で、傷がほとんど残らず、体に優しい手術なので日帰り手術で行っています」と言う。

 ●胸腔鏡下交感神経切除術 多汗症は交感神経が過敏なために多くの汗が手のひらや足の裏などから常に出ている。そこで、手術は腕に行く交感神経を切断する。胸腔鏡は脇の下に4ミリ程度の孔(あな)をあけて、そこから挿入する。そして第2と第3肋骨(ろっこつ)が脊椎(せきつい)から出ていく部分で交感神経を切断する。「胸腔鏡にカメラと電気メスが一緒であれば1つの孔ですみます。それが別々の場合に孔を2つあけることになります」。

 手術の成果はほぼ100%すぐに出て、一生汗に悩まされることはなくなる。ただ、副作用として「代償性発汗」がある。手、首、顔から出なくなった汗が、その分、体のほかの部分から出るのである。「左右の手から汗が出ないようにするには両方の交感神経を切断します。すると、ほかに出る汗の量が極めて多くなります。それを患者さんに十分に納得してもらわねばなりません。その上で手術を行うのがベストです」。

 ただし、中村部長らの場合は、基本的に片方の交感神経だけしか切断しないことを「ファースト・チョイス」としている。「こんなはずではなかった、と手術後に思う方もいらっしゃいます。だから片側だけを行い、その後、様子をみて次の対応を考える方法を提供しています」。悩みの80~90%は消える。手術前よりもQOL(生活の質)が下がることはない。それでも不満なときに、残るもう一方の交感神経も切ることになる。

 ●交感神経ブロック 「手術はどうしても嫌!」という人、ほかの病気のために手術ができない人には「胸部交感神経ブロック」がある。背中から交感神経のところに針を刺し、アルコールなどを注入して神経をブロックする治療。「成功率が60~70%程度と低いので、ごく限られたケースにのみ行われているのが現状です」。

 手術を受けるときは、医師と納得いくまで話し合って決めるべきである。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆多汗症の名医
 ▼二光クリニック(愛媛県砥部町)大西克幸院長
 ▼佐田病院(福岡市中央区)佐田正之院長
 ▼いけべ医院(大分市)池辺晴美院長

May 27, 2006 02:02 PM | トラックバック (8)

2006年05月26日

2006年05月26日

【第134回】手術以外の方法90%/大和徳州会病院中村勝利部長

多汗症の治療(上)

 手のひらや足の裏などにベタベタ汗をかく「多汗症」。その患者数は推定で人口の3~4%といわれているので、約350万人から500万人も悩める人がいる計算になる。

 多汗症の診断がつくと、患者と十分な話し合いの上、治療方法を決めていく。治療には「薬物療法」「制汗剤」「イオントフォレーシス」「交感神経ブロック」「胸腔(きょうくう)鏡下交感神経切除術」がある。「多汗症と診断された人の10%が手術の胸腔鏡下交感神経切除術を受けられます。90%の人は手術以外の方法で、中には治療をしない方もごく少数ですがいらっしゃいます」と、数多く多汗症の治療、手術を行っている大和徳洲会病院(神奈川県大和市)心臓血管外科の中村勝利部長は言う。

 ●薬物療法 神経遮断薬、自律神経調整薬、抗不安薬が使われる。神経遮断薬の「プロバンサイン」は胃潰瘍(かいよう)と多汗症の適応薬で、交感神経の伝達経路を遮断して汗を止める。同時に唾液(だえき)も止まるので副作用として、のどが渇くことがある。自律神経調整薬の「グランダキシン」は、自律神経失調症などに使われる薬。多汗症では交感神経が優位なので、それを抑える。抗不安薬の「デパス」や「セルシン」は不安の強いケースに使われる。「3つの薬を患者さんの訴えを聞きながら、うまく組み合わせていきます。症状が最も強いグレード3の患者さんで、汗が抑えられて手術を必要としない人もいらっしゃいます」。

 ●制汗剤 アルミニウム配合の外用薬を使う治療。塗り薬を手のひらや足の裏に塗って寝る。起床時に洗い落とすとしばらく汗が抑えられる。「汗の穴にアルミが詰まって発汗を抑えるのです」。

 ●イオントフォレーシス 「ドライオニック」という機器を使う。水道水を入れた容器に手のひらを浸す。そこに微弱電流が流れる。アルミと同じ作用でイオンが汗の穴に入って発汗を抑える。「80%の人に効果がありますが、やめると2~4週間後には、また汗が出るようになります。これはアルミニウム配合外用薬も同じです」。ドライオニックは家庭用も販売されているので、それがあると週に数回の通院がなくなる。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆多汗症の名医
 ▼国立病院機構豊橋医療センター(愛知県豊橋市)心臓血管外科・松本興治院長
 ▼兼平山本クリニック(大阪市淀川区)兼平暁夫医師、山本英博医師
 ▼シミズクリニック(兵庫県西宮市)清水唯男院長

May 26, 2006 10:16 AM | トラックバック (0)

2006年05月25日

2006年05月25日

【第133回】問診、視診、触診で3段階分類/大和徳州会病院中村勝利部長

多汗症(下)

 手のひら、足の裏などに常に汗をかく「多汗症」。患者は「握手ができない」と悩むだけでなく、さまざまに悩み苦しむ。引きこもりになったりと大きな精神的ダメージを受けている人も少なくない。

 「音楽家にとっては、楽器を持つ手が汗で滑ってうまく演奏できないというのは大きな問題ですし、美容師さんであればハサミが滑ってうまく使えない、という悩みもあります」と、患者さんの悩みを伝えるのは、大和徳洲会病院(神奈川県大和市)心臓血管外科の中村勝利部長。その多汗症の診察は、問診、視診、触診で診断がつく。

 ●問診、視診、触診 「何歳から汗が出ていたか」「1年間で汗の変動はあるか」「汗の量の多いときはどんな状態か」など、詳しく話を聞く。「1年中汗をかいている人もいますし、夏場が強くなるという人もいます。患者さんそれぞれの状態を聞くとともに、それがいかに生活の質を下げているか、精神的ダメージになっているかまで、把握するようにしています」。そして、目で、手で触って汗の状態を確認する。これを総合して以下の3段階に分類する。

 ★グレード1 手は汗で湿っているものの、光の反射を利用してよく見ないと汗ばみが分からない程度。

 ★グレード2 手のひらの汗ばみがはっきり見える。水滴までも見えるが、水滴が滴り落ちるほどではない。

 ★グレード3 手のひらに汗の水滴ができ、汗が滴り落ちる状態。

 以上のグレードにすべてがピタリと当てはまるとは限らない。「グレードが1と2の中間とか2と3の中間といった分類もします」。患者の多汗症の重症度が客観的に分かればいいのである。ただし、グレード=治療が決定とはいかない。

 「グレード3でも、可能性として手荒れすることはあっても、皮膚がんになるといったことはありません。これを患者さんに話しただけで『それならこのままでいいです』と言って帰られた人もいらっしゃいます」。治療は患者本人の「悩みの大きさ」に強く関係するのである。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆多汗症の名医
 ▼昭和大学病院(東京都品川区)麻酔科・増田豊 教授
 ▼山本兼平クリニック(東京都渋谷区)山本英博医師、兼平暁夫医師
 ▼大和徳洲会病院(神奈川県大和市)心臓血管外科・中村勝利部長
 ▼金沢循環器病院(石川県金沢市)心臓血管外科・上山武史顧問

May 25, 2006 10:10 AM | トラックバック (0)

2006年05月24日

2006年05月24日

【第132回】遺伝的要因も/大和徳州会病院中村勝利部長

多汗症(上)

 「スポーツの熱い戦いを見ているわけではない」「自分自身が激しいスポーツを行っていたわけでもない」「じっとしていても汗をかくほど暑い日ではない」…なのに手のひら、足の裏にビショビショ汗をかいている。そのため「握手ができない」「フローリングの床に足跡がつく」「げたを履くと足の形が残る」「試験中には答案用紙が汗でぬれて破れてしまう」など、汗が原因でさまざまなことが起こり、悩んでいる人は多い。

 「単なる汗かきを超えたこのような状態は『多汗症』という病気です。手が常にぬれているとあって、演奏に支障が出る人もいます。職業選択の自由があっても、多汗症のために職業が絞られてくるケースが少なからずあるのです」と、大和徳洲会病院(神奈川県大和市)心臓血管外科の中村勝利部長は指摘する。

 汗のメカニズムは「温熱性発汗」と「精神性発汗」の2つに分けられる。温熱性発汗は体温が上昇して高くなったときに、汗を出して体温を調節する生理現象。汗が蒸発するときに体の熱を逃がすのである。一方、精神性発汗は体温とは無関係で精神的興奮によって起こる。

 「多汗症の場合は精神性発汗と同じように手のひら、足の裏、脇の下、額などに汗をかきます。しかし、精神的要因は2次的で、多汗症の人は汗を出す体の仕組みに異常が起こっているためです」。

 汗のメカニズムは脳の視床下部から信号が出され、自律神経でコントロールされている。自律神経は人間の意志と関係なく働いている内臓の機能などを調節している神経。これには活動しているときに優位になる交感神経と、リラックス時や睡眠時に優位になる副交感神経がある。発汗は交感神経の働きによるものである。

 「多汗症の人は、交感神経の反応が強く過敏なために起こっているのは分かっているのですが、なぜそうなるのか分かっていません。ただ、親子で多汗症が現れるケースも少なくないので、遺伝的要因もあると考えられています」。まだ、多汗症のメカニズムには不明な点の多いのが現状である。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆多汗症の名医
 ▼筑波大学付属病院(茨城県つくば市)呼吸器外科・山本達生講師
 ▼塩谷ペインクリニック(東京都目黒区)塩谷正弘院長
 ▼東京医科歯科大学医学部付属病院(東京都文京区)血管外科・岩井武尚教授
 ▼NTT東日本関東病院(東京都品川区)ペインクリニック科・大瀬戸清茂部長

May 24, 2006 11:42 AM | トラックバック (0)

2006年05月23日

2006年05月23日

【第131回】自臭症は認知&薬物療法/日大歯科病院後藤実助教授

口臭症の治療(下)

 口腔(こうくう)心身症の1つである口のにおいを気にし過ぎる「口臭症」は、「問診」「口腔内診察」「唾液(だえき)量検査」「口腔内pH試験」で他の疾患と口臭症の中の他臭症(他人から口臭を指摘されて気になり出した)の診断がつく。「鼻の病気が原因の場合は耳鼻咽喉(いんこう)科へ紹介し、歯周病が原因の場合は歯科の歯周病科へ紹介します」と対応を話すのは、日本大学歯科病院(東京・千代田区)口腔診断科の後藤実助教授。

 自臭症(周囲の人は気付くかないのに自分は口臭がすると悩むケース)が疑われると、さらに「口臭測定検査」「心理テスト」を加えて診断する。「自臭症の方々は口臭がするどころか、逆に口の中はきれいです。性格的には潔癖症できちょうめん、清潔好きで責任感が強いのです。そして、大きな特徴として、自意識過剰で対人関係も過敏です。他臭症は原因を治療すれば治ります。自臭症の場合はその裏に不安神経症といった精神的疾患があるので、時間をかけて治療していくことになります」。

 自臭症の治療は「カウンセリング」と「薬物療法」。カウンセリングで取り入れるのが「認知療法」。それは患者の持っているゆがみを医師と患者で探して検討し、より現実的なものの見方を患者が身に付けるように援助する。「患者さんは自意識過剰のケースが多いので、その自意識過剰を意識させ、思っているほど他人は気にしていないことを認識させるのです」。

 次に、薬物療法。不安が強く出ているので「抗不安薬」が使われる。「ゆったりした気持ちになれます。薬はこれだけで十分ですが、更年期にある方に対しては漢方薬を加えることもあります」。用いる漢方薬は、後藤助教授の場合は「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」と「加味逍遥散(かみしょうようさん)」など。「治りのよい人、1年以上治療を必要とする人、さまざまです」。

 中には、家族や職場の人々の協力を必要とする場合もある。

 ◆不安神経症 不安な気持ちを自分でコントロールできなくなる「心の病」。精神的な原因、つまり、環境的なストレスやショックからくる心理的葛藤(かっとう)によって発症すると考えられている。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆口臭症の名医
 ▼東京医科歯科大学歯学部付属病院(東京都文京区)頭頸部心療科・小野繁教授
 ▼東京女子医科大学病院(東京都新宿区)歯科・口腔外科・扇内秀樹教授
 ▼福岡大学病院(福岡市城南区)歯科口腔外科・豊福明講師

May 23, 2006 08:43 AM | トラックバック (8)

2006年05月22日

2006年05月22日

【第130回】自臭症には心理テストも/日大歯科病院後藤実助教授

口臭症の治療(上)

 口のにおいを病的なまでに気にしてしまう口臭症。その診断は考えられる原因疾患を除外していく「除外診断」になるという。

 まずは、なぜ口臭が気になるのか、いつからか、どのようなときにか、など問診からスタート。「患者さんの訴えをしっかりキャッチしなければなりません。それは、原因疾患を発見する道であるとともに、口臭症には他臭症と自臭症がありますが、その診断でもあります」と、日本大学歯科病院(東京・千代田区)口腔(こうくう)診断科の後藤実助教授は言う。

 他臭症は他人から口臭を指摘されたケースで、実際に強い口臭がある。自臭症は、周囲の人は気付かないのに、自分は口臭がすると悩むケースである。

 ◆口腔内診察 問診に次いで行われるのが口の中のにおいの原因チェック。「虫歯」「歯肉からの出血」「歯の根尖(こんせん)の病気」「舌苔(ぜったい)の状態」「鼻・咽喉(いんこう)頭・消化器疾患など」を消去法で診察していく。

 ◆唾液(だえき)量検査 15分間に出てきた唾液量を測定する。唾液を飲み込まずにコップの中にためる。正常域は30代までは10CC以上、40代は6CC以上、50代以上は4CC以上。「唾液があまりに少ない場合は、唾液を減少させる病気も疑われます。また、感情の起伏の激しいことも分かります」。

 ◆口腔内pH試験 口腔内が酸性に傾いているか、アルカリ性かをpH(ペーハー)を測る試験紙でチェック。「前日眠れなかったというような人、いわゆる緊張状態にある人は酸性に。アルカリ性になる人は気持ちがリラックス状態にあり、唾液も十分に出ています」。

 ここまででにおいの原因の多い人は、それらの原因を取り除き、治療が終了した時点で再検査となる。他臭症やほかの疾患のある人は、この時点で診断がつく。

 自臭症の考えられる人は、以下の2つの検査を加えて診断する。

 ◆口臭測定検査 口臭をセンサーで客観的に測定する機器で、150ppbくらいを超えると口臭が問題になる。が、自臭症の多くは異常値を示さないことが多い。

 ◆心理テスト 不安・恐怖、情動、社会協調性などを心理テストで読み取る。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆口臭症の名医
 ▼岩手医科大学歯学部付属病院(岩手県盛岡市)歯科口腔外科・石橋寛二教授
 ▼東北大学歯学部付属病院(仙台市青葉区)予防歯科・岩倉政城助教授
 ▼東京歯科大学千葉病院(千葉市美浜区)口臭外来・角田正健助教授
 ▼日本大学歯学部付属歯科病院(東京都千代田区)口腔診断科・後藤実助教授、心療歯科・小池一喜助教授

May 22, 2006 12:35 PM | トラックバック (0)

2006年05月21日

2006年05月21日

【第129回】原因突き止め治療へ/日大歯科病院後藤実助教授

口臭症(下)

 「口が臭い」-この状態を過剰に気にしてしまうのが「口臭症」。これには「他臭症」と「自臭症」がある。違いを日本大学歯科病院(東京・千代田区)口腔(こうくう)診断科の後藤実助教授は、次のように言う。「他臭症は他人から口臭を指摘されて過剰に気になり始めたもの。自臭症は周囲の人は気付かないのに、自分は口臭がすると悩むケースです」。

 問題となる口臭の原因は大きく分けて以下の5点が指摘されている。

 (1)虫歯 虫歯が欠けたりすると、虫歯の周辺には食べ物のカスが残り、それが発酵して口臭を引き起こす。

 (2)歯周病 歯周炎を起こして歯肉から出血していると、その血のにおいが口臭に結び付く。また、歯石やプラーク(細菌叢=そう)による口臭もある。

 (3)歯の根尖(こんせん)の病気 歯の根ともいえる根尖部に病巣ができ、うみが出る状態になると、腐敗臭が口臭となる。

 (4)舌苔(ぜったい) 舌の上の白色や黄色の軟らかな苔(こけ)状のものを舌苔という。「若い方々にはほとんどみられません。中・高年になり、唾液(だえき)量が減ってくると舌苔が増えてきます」。その舌苔による口臭。加えて、シスチンという細胞も舌苔のにおいに関係する。「ほおの内側は弾力がありますが、本当は硬い細胞のシスチンでできています。それが新陳代謝ではがれ落ちて舌苔にくっつくと、それも口臭を引き起こす、と私は考えています」。

 (5)鼻、消化器などの病気 鼻腔や副鼻腔といった耳鼻科疾患、咽喉(いんこう)頭の疾患、胃の疾患、肺の疾患、便秘といった大腸の疾患など、口腔内以外の病気が口臭に結び付く。「涙が減少する、唾液が減少する、その他の粘液の分泌も減少する自己免疫疾患の1つ、シューグレン症候群が原因で口臭が発生するケースもあります」。

 口臭症の場合、まずは口臭の原因をしっかりと突き止めることが重要。その正しい診断から治療へと進んでいくのである。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆口臭症の名医
 ▼東京医科歯科大学歯学部付属病院(東京都文京区)頭頸部心療科・小野繁教授
 ▼東京女子医科大学病院(東京都新宿区)歯科・口腔外科・扇内秀樹教授
 ▼福岡大学病院(福岡市城南区)歯科口腔外科・豊福明講師

May 21, 2006 10:49 AM | トラックバック (2)

2006年05月20日

2006年05月20日

【第128回】他臭症と自臭症/日大歯科病院後藤実助教授

口臭症(上)

 においを消す消臭剤があるかと思えば芳香剤もある。香りでリラックス効果を導くものもあれば、口臭で悩んで登校拒否にまで至ってしまうケースもある。「口が臭いと悩むのは『口臭症』という立派な病気です」と、口腔(こうくう)心身症の治療で活躍する日本大学歯科病院(東京・千代田区)口腔診断科の後藤実助教授は言う。

 「口臭症は1つではなく、他臭症と自臭症の2つに分類されます。他臭症は他人から口臭を指摘されて気になり始め、それが普通よりも過剰になった状態です。一方、自臭症は周囲の人は気付かないのに、自分自身で口臭がすると思い込んで悩んでしまうケースです」。

 他臭症と自臭症。

 ある営業マンのケースは他臭症だった。付き合っていた彼女から「ときどき息が臭いことがあるよ。営業だから、もっと気を付けないと成績落ちちゃうよ」と何げなくアドバイスされた。が、彼にとって大事な彼女からの口臭の指摘に大きなショックを受けた。

 彼は朝食前、後、昼食後、夕食後、就寝前と1日5回も歯磨きをするばかりか、それだけ磨いても「まだ口がにおうのでは」と悩み、口腔診断科を受診。「まずは、口臭の原因をしっかりと突き止めることです。彼の場合は歯並びが悪い上に詰め物が上手にできていなかったのです。だから、1日に5回磨いても歯間に食べカスが残り、そこからにおいが出ていたのです」。

 原因を突き止めて、そこを改善することで、この他臭症は一件落着。一方、自臭症で悩むのはリーダー格の人に多い。あるメーカーの営業部長のケース。部長はある日の会議でも、いつものように部員に話をしていた。そのとき、隣にいた次長がスーッと顔を横に向けたのである。

 部長はそれを見逃さなかった。「おれの口臭で次長は耐えきれず横を向いた」と思い込んでしまった。「部長さんのような自臭症の方々の特徴は、口の中はきれいで性格的には潔癖症できちょうめん、清潔好きで責任感が強いのです。そして、自意識が過剰で対人関係も過敏です」。

 他臭症と自臭症。問題なのは心の問題が大きく関係する自臭症である。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆口臭症の名医
 ▼岩手医科大学歯学部付属病院(岩手県盛岡市)歯科口腔外科・石橋寛二教授
 ▼東北大学歯学部付属病院(仙台市青葉区)予防歯科・岩倉政城助教授
 ▼東京歯科大学千葉病院(千葉市美浜区)口臭外来・角田正健助教授
 ▼日本大学歯学部付属歯科病院(東京都千代田区)口腔診断科・後藤実助教授、心療歯科・小池一喜助教授

May 20, 2006 08:48 AM | トラックバック (1)

2006年05月19日

2006年05月19日

【第127回】手術の85%占めるメッシュ法/執行クリニック執行友成理事長

鼠径ヘルニアの治療(下)

 鼠径(そけい)ヘルニア、いわゆる「脱腸」の治療は手術しか対応策がない。手術には「従来法の手術」「腹腔(ふくくう)鏡下手術」「メッシュ法」と、大きく分けると3種類になる。が、その中核となっているのは「メッシュ法」。全世界の鼠径ヘルニア手術の90%を占め、日本でも85%をも占めている。

 「再発率が全世界の統計で3%と極めて低い。従来法の手術が15%の再発率ですから、その好成績が分かっていただけると思います」と、鼠径ヘルニア手術を年間に330例も行う執行クリニック(東京・新宿区)の執行友成理事長は言う。

 好成績以外にもメリットは数多い。

 ▼手術時間が15~20分と短い。
 ▼全身麻酔ではなく、局所麻酔で行える。
 ▼手術創が3~4センチ程度と小さい。
 ▼術後の痛みが軽い。
 ▼医療機関によっては日帰り手術も行える。

 「メッシュ法」には「リヒテンシュタイン法」「メッシュ&プラグ法」「クーゲル法」「PHS(プロリン・ヘルニア・システム)」などがあるが、多く行われているのは「メッシュ&プラグ法」と「クーゲル法」である。

 ◆メッシュ&プラグ法 ポリプロピレン製のメッシュのシートと、それで作られたバドミントンの羽根のような形のプラグを使う。脱出した腹膜から成るヘルニア嚢(のう)を押し戻し、その孔(あな)にフタをするようにプラグを入れ、さらに鼠径管内にシートを入れて補強する。これで皮膚を縫合すると終了する。「切開部分が小さくても、きっちり患部を確認して治療ができるので、私の場合は再発率0・8%と良好です」。

 ◆クーゲル法 メッシュ&プラグ法は患部にメスを入れるがクーゲル法は患部のそばにメスを入れる。そして、患部の筋肉と腹膜の間に形状記憶のメッシュのシートを入れる。あとは皮膚を縫合して終了。「メッシュのシートを患部を目で確認することなく筋肉と腹膜の間に入れます。だから、この治療を100例以上は行わないと再発率が高くなる点が問題としてあります」。

 とまれ、メッシュ法を受ける場合も十分な説明を受け、納得できて初めて受けるべきである。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆鼠径ヘルニアの名医
 ▼広島市立舟入病院(広島市中区)外科・津村裕昭部長
 ▼勝本外科日帰り手術クリニック(北九州市小倉北区)勝本富士夫院長
 ▼佐田病院(福岡市中央区)佐田正之院長

May 19, 2006 11:47 AM | トラックバック (1)

2006年05月18日

2006年05月18日

【第126回】手術以外の方法はない/執行クリニック執行友成理事長

鼠径ヘルニアの治療(上)

 日本人の100人に1人は鼠径(そけい)ヘルニアがあるといわれているが、年間の手術数は約15万件。ところが、米国では80万件といわれている。「日本人は場所が太ももの付け根の鼠径部とあって恥ずかしくて受診しない方も多いようです」と、鼠径ヘルニアの手術を数多く行ってきた執行クリニック(東京・新宿区)の執行友成理事長はいう。

 しかし、ほっておいて鼠径ヘルニアが自然治癒することはない。逆に、嵌頓(かんとん)ヘルニアを引き起こして緊急手術になり、下手をすると生死にかかわるリスクにさらされている。それがあって、鼠径ヘルニアの場合は診断がつくと手術が勧められる、それ以外に治療法がないということもある。

 手術は大きく分けて3種類。「従来法の手術」「腹腔(ふくくう)鏡下手術」「メッシュ法」である。

 ◆従来法の手術 太ももの付け根に当たる下腹部の皮下へおなかの中にある腸管などが腹膜の袋に包まれて、ある孔(あな)から飛び出してくるため、その孔を周囲の筋肉を引き寄せて縫い合わせてふさぐ方法。「この場合は『入院期間が1週間と長い』『術後に痛みがある』『再発率が15%と高い』といった問題があります。今は極めて少ない治療法になってしまいました」。

 ◆腹腔鏡下手術 腹部に小さな孔(あな)を3カ所にあける。へその下の腹腔鏡を入れるところだけは10ミリ幅の孔で、あとの2つの孔は5ミリ。腹腔鏡からモニターに映し出された腹腔内を見ながら手術を行う。脱出部を腹腔内からポリプロピレン性のメッシュで閉鎖固定をして補強する。「全身麻酔下で行わねばならない」「手術時間はメッシュ法が15分程度に対し、約1時間かかってしまう」と、傷が小さいというメリットはあっても、デメリットが意外に多くある。

 ◆メッシュ法 ポリプロピレン製のメッシュを使う治療法。「日帰り手術で行えるほど患者さんの体に優しい治療で、再発率も全世界で3%と良好な成績です」

 メッシュ法には「リヒテンシュタイン法」「メッシュ&プラグ法」「クーゲル法」「PHS(プロリン・ヘルニア・システム)』などがあり、今日の鼠径ヘルニア手術の中核となっている。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆鼠径ヘルニアの名医
 ▼市立四日市病院(三重県四日市市)外科・蜂須賀丈博手術部長
 ▼多根総合病院(大阪市西区)外科・丹羽英記副院長、刀山五郎部長
 ▼楽クリニック(和歌山市)藤田定則院長

May 18, 2006 12:14 PM | トラックバック (0)

2006年05月17日

2006年05月17日

【第125回】超音波検査で納得して手術へ/執行クリニック執行友成理事長

鼠径ヘルニア(下)

 鼠径(そけい)ヘルニア、いわゆる脱腸は太ももの付け根の鼠径部の皮下に、内臓の小腸などが脱出して膨れる疾患。日本人には100人に1人、この疾患があるといわれている。が、手術自体は年間約15万件である。「ちょっと出てもすぐに戻るので、そのままにしている方が多いのだと思います」とは、年間330例の鼠径ヘルニア手術を行っている執行クリニック(東京・新宿区)の執行友成理事長。

 ただし、脱出した小腸が戻らず、脱出部の孔(あな)が小腸を締め付け、小腸への血流がストップして小腸が腐ると生死にかかわってしまう。このような嵌頓(かんとん)ヘルニアを起こさないためには-。「鼠径ヘルニアの治療には薬物療法はありません。手術が唯一の治療法です」。

 日常生活に支障がない場合、多くの人は放置しているが、嵌頓ヘルニアのケースも起こり得るので、手術が勧められる。が、手術と思うと受診しようという気持ちが後退する人も多い。「それは、患者さんへの説明不足です。鼠径ヘルニアは良性疾患です。がんを得意とする医師の中には、良性疾患はどうでもいい、と考えている人がいるんです。実は、良性疾患だからこそ、より十分に説明をする必要がありますし、それで患者さんが十分納得されてこそ、手術という道を歩むわけです」。

 そのためにも、まずは受診が第1歩。この場合、一般外科を受診する。診察は、まずは問診、視診、触診が行われる。「いつから」「どのようなときに脱出するか」など、状況を聞くとともに、今の状態を目で見て、手で触れて確認する。「これで診断はつきますが、患者さんに納得していただくためと、手術の方法を決めるために超音波検査を必ず行い、患者さんにもその画像をみてもらいます」。

 ◆超音波(エコー)検査 鼠径部に超音波が通りやすいようにゼリーを塗って超音波発信器のプローベを滑らせていく。そして、超音波の反射波(エコー)を受け、その画像化したものをモニターで見て行う検査。脱出物の状況がはっきりと確認できる。「これで患者さんにも納得していただけます」。

 さらに、巨大な鼠径ヘルニアではCT(コンピューター断層撮影)検査も行われるが、これは極めてまれである。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆鼠径ヘルニアの名医
 ▼湘南厚木病院(神奈川県厚木市)篠崎伸明院長
 ▼湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)外科・渡部和巨部長
 ▼いまず外科(名古屋市西区)今津浩喜院長

May 17, 2006 09:44 AM | トラックバック (0)

2006年05月16日

2006年05月16日

【第124回】男性が85%を占める/執行クリニック執行友成理事長

鼠径ヘルニア(上)

 病名に「ヘルニア」という名称がついているものといえば、多くの人は「鼠径(そけい)ヘルニア」と「椎間板(ついかんばん)ヘルニア」を思い浮かべる。ヘルニアとは「突出する」などの意味。つまり、体の組織が本来あるべき場所からはみ出してしまった状態をいう。

 椎間板ヘルニアは、脊椎(せきつい)の1つの骨のブロックである椎体と椎体の間に、クッションの役割をする椎間板があり、その中心部はゼリー状の髄核、その髄核が突出して神経を圧迫する疾患。一方、今回取り上げる鼠径ヘルニアは、いわゆる「脱腸」のことである。太ももの付け根の部分(鼠径部)には鼠径管という管が腹腔(ふくくう)と外を結んでいる。この管の中を、男性では「精索(せいさく)」が通っている。精巣で作られた精子はこの管を通って腹腔内に入り、そこから尿道を経て射精される。

 「もともと精巣は腹部の背中側についていたものが下へ下へと降りて、ポケット状の袋をつくる。出生時には腹腔内と外が閉じられてしまいます。女性では、この管の中を子宮を支える『子宮円靭帯(じんたい)』が通っています。その構造上、女性より男性がなりやすく、男性が85%を占めるといわれています」と、執行クリニック(東京・新宿区)の執行友成理事長は説明する。

 子供に多いヘルニアは腹腔内と外が十分に閉じられないケースがあり、内臓、特に小腸などが突出してくる。それに対し、大人の場合は、基本的に腹壁のその弱い部分が、加齢などでより弱くなって腹膜が袋状に突出してくる。年齢的には40代以降で、それ以外に次の人々がなりやすい。「立ち仕事の人」「重い物を持ち上げることの多い人」「せきをよくする」「妊娠している」「便秘症の人」「太っている人」など。「男性の場合は小腸のみならず、大腸や脂肪組織の大網(だいもう)も出て、陰嚢(いんのう)が大きく膨れ上がった人もいます。女性では卵巣などが脱出することもあります」。

 脱出しても戻り、また、脱出してそのままでもQOL(生活の質)は悪くなるが生死にかかわることはない。ただし-。「脱出した内臓を締め付ける『嵌頓(かんとん)ヘルニア』になると激烈な痛みとなり、小腸が腐ると生命を落としかねません」。そのようなことにならないためにも、鼠径ヘルニアでは手術が勧められるし、手術しか治療法がないのである。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆鼠径ヘルニアの名医
 ▼みやざき外科・ヘルニアクリニック(札幌市中央区)宮崎恭介院長
 ▼執行クリニック(東京都新宿区)執行友成理事長
 ▼九段下D・S・マイクリニック(東京都千代田区)松橋亘院長

May 16, 2006 11:11 AM | トラックバック (0)

2006年05月15日

2006年05月15日

【第123回】薬物中心、2~5年服用/西新宿プラザクリニック出村博院長

バセドー病の治療(下)

 「動悸(どうき)・発汗・手の震え」「眼球突出」「やせる」-甲状腺疾患のバセドー病の3大症状である。この症状に気付いて内分泌内科を受診し、診断がつくと治療に入る。バセドー病の治療は「薬物療法」「放射線ヨード療法」「手術療法」が行われている。「患者さんは20代、30代といった若い女性が多いとあって、首に傷をつけないためにも、薬物療法が中心になります」と、日本内分泌学会の元理事長で西新宿プラザクリニック(東京・新宿区)の出村博院長(東京女子医大名誉教授)は状況を話す。

 ◆薬物療法 使われるのは抗甲状腺薬。甲状腺ホルモンの生成を抑える薬で、経口薬のみである。基本的に2~5年間服用する。「その期間で寛解する人も結構いらっしゃいますが、その一方で、20~30年も薬を服用し続けるケースもあります」。副作用としては「発疹(ほっしん)」や「じんましん」がある。副作用で最も注意が必要なのは免疫力が低下する「無顆粒球症(むかりゅうきゅうしょう)」。医師から十分に説明をされるので、副作用に気付いたら、すぐに受診する。1~2カ月に1度は受診して検査を行っていくが、1年たってから副作用の出る人もいる。

 ◆放射線ヨード療法 甲状腺は血液中のヨードを取り入れて甲状腺ホルモンを作る。この甲状腺の特徴を利用した治療法である。放射性物質とヨードをくっつけた放射性ヨードのカプセルを服用。すると、甲状腺に取り込まれ、甲状腺細胞は放射線でたたかれてしまう。「大量に細胞をたたくと機能低下になり、少量ではバセドー病が治りません。ぴったりのところにもってくるのは難しいのです。特に日本人は核に対する拒否反応が強いので希望される方が少ないですね。米国ではこの方法でたたいて機能低下症になれば、薬で補うようにしています」。

 ◆手術療法 手術は腫れた甲状腺を切除する。手術の適用は「薬の副作用が強い人」「甲状腺の腫れが重度の人」など。甲状腺機能は正常化するものの、切除し過ぎると機能低下症になることも十分に知っておく必要がある。

 「どの治療を選択するかは、主治医と十分に話し合うことが大事です。治療中は甲状腺ホルモンが正常になります。これまでのように食べていると太ってしまいます。それは注意してください」。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆バセドー病の名医
 ▼隈病院(神戸市中央区)宮内昭院長
 ▼鳥取大学医学部付属病院(鳥取県米子市)第1内科・重政千秋教授
 ▼野口病院(大分県別府市)野口志郎院長

May 15, 2006 10:07 AM | トラックバック (0)

2006年05月14日

2006年05月14日

【番外編】患者側のチェック大事

浸透してきた日帰り手術

 日帰り手術が日本でもかなり浸透してきた。
 日帰り手術とは、手術当日の朝に入院し、午前中に手術を終え、夕方には退院するシステム。もちろん、患者の状態によっては1泊2日、2泊3日に延びることもある。

 多忙なビジネスマン、子供のいる主婦など仕事から離れられない人々に人気だったが、今日では60代、70代の方々にも人気になっている。日帰り手術の対象はシックペーシェント(病気の患者)ではなく、ヘルシーペーシェント(健康な患者)。つまり、その患部さえ手術してしまえば全くの健康人という人。そのような年配者も増えているからである。

 人気になっている日帰り手術は80年代に米国で始められ、急速に発展。日本では96年にスタートした。患者のニーズのみならず、医療機器・用具、麻酔などが大いに進歩したために、日帰り手術が浸透してきたのである。

 医療機器については、開腹・開胸を減らした腹腔(ふくくう)鏡、胸腔鏡の登場。これも内視鏡を使った治療で、この進歩が大きく貢献した。ただ、これだけ浸透すると、医師側にも患者側にも油断が出ることもある。それを防ぐためにも、患者自身、以下の点を十分にチェックしておく必要がある。

 ●日帰り手術数が多いか 日帰り手術を希望した患者が、日帰りできている率が高いほど、スムーズに医療が行われていることになる。手術数と日帰り率をしっかり確認するべきで、それを公開しないような病院、クリニックは避ける方が無難である。

 ●医師やケア・コーディネーター(看護師)のインフォームド・コンセント(説明と同意)は十分か 十分に納得いく説明が行われていないと患者は不安になる。日帰りといっても手術であることに変わりはない。それを認識し、十分な説明が行われると、患者は安心して治療が受けられるのである。

 ●外来の術前診療・検査は的確か ここで患者が不安を感じるようではいけない。もし、不安を感じるようであれば、その医療機関での日帰り手術は中止すべきで、不安のまま日帰り手術日程を進めていくのは、けっして得策ではない。
 日帰り手術は今後ますます増加するが、それだからこそ、患者側のチェックは大事なのである。

May 14, 2006 11:15 AM | トラックバック (0)

2006年05月13日

2006年05月13日

【第122回】首の腫れ、眼球の様子を診る/西新宿プラザクリニック出村博院長

バセドー病の治療(上)

 男性より約4・5倍女性に多い甲状腺疾患のバセドー病は、甲状腺機能高進症の1つ。「食べてもやせる」「動悸(どうき)、発汗、手の震え」「目が大きく、突出する」などの症状に気付いたら、内分泌内科を受診する。

 診察は問診、視診、触診から始まる。「症状を聞いて、首の腫れや眼球の様子を診ます。そして、首の甲状腺を触診すると、ほぼこの段階でバセドー病か否かは絞り込めます」と、日本内分泌学会の元理事長で西新宿プラザクリニック(東京・新宿区)の出村博院長(東京女子医大名誉教授)は言う。専門医であればここですでに分かってしまうのである。

 これに脈拍と血圧のチェックを加える。脈拍は1分に100回を超えるほどに増加し、血圧は上と下の差が大きく開いてくる特徴がある。

 次に血液検査。甲状腺に関係する検査項目の「T4(サイロキシン)」「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」「TSH受容体抗体」「甲状腺刺激抗体」「放射性ヨード摂取率」を調べる。

 「血液検査での特徴としては、TSHが下がってT4が上昇しています。それは、甲状腺ホルモンのT4濃度がアップすると、脳の下垂体からTSHが分泌されて『抑えるように』指示を出す必要があるからです。そして、TSH受容体抗体が陽性になることが多いのです。多いというのはごくわずかバセドー病であっても陰性の方がいらっしゃるからです」。

 さらに「超音波(エコー)検査」と「CT(コンピューター断層撮影)」を行う。「がんを疑うケースもあるので超音波を行います。これで十分ですが、念のためにCTでも確認します」。

 この結果、バセドー病と診断されると治療に入る。治療には「薬物療法」「放射性ヨード療法」「手術療法」の3つの方法が行われている。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆バセドー病の名医
 ▼信州大学医学部付属病院(長野県松本市)加齢総合診療科・橋爪潔志教授
 ▼浜松医科大学付属病院(静岡県浜松市)第2内科・中村浩淑教授
 ▼藤田保健衛生大学病院(愛知県豊明市)内分泌内科・伊藤光泰教授
 ▼関西医科大学付属病院(大阪府守口市)第2内科・西川光重教授

May 13, 2006 10:20 AM | トラックバック (0)

2006年05月12日

2006年05月12日

【第121回】眼球突出が代表的症状/西新宿プラザクリニック出村博院長

バセドー病(下)

 甲状腺の病気は、がん以外では「甲状腺機能高進症」と「甲状腺機能低下症」に分けられる。機能が高進する疾患の代表がバセドー病で、機能が低下する疾患の代表が橋本病である。バセドー病の症状は以下のようである。

 ◆眼球突出 最初は目が大きくパッチリとしてくると表現されるが、症状が進むに従って目が飛び出しているのが目立ってくる。「眼球の後方の脂肪組織などが腫れて目を前面に押し出すようになるからです。最も知られている症状です」と、日本内分泌学会の元理事長で、西新宿プラザクリニック(東京・新宿区)の出村博院長は言う。

 ◆動悸(どうき)、発汗、手の震え 甲状腺ホルモンの過剰分泌のため、新陳代謝がより以上に活発になるので、じっとしていても汗をかき、手も震える。更年期障害のような症状でもある。さらに、心臓もパワフルに脈を打つ。それまでよりも20%以上も多くなる。動悸はそのためで、血圧にも変化が生じる。「例えば、それまで下が80、上が120だった人が60の140といった具合に下が下がって上が上がる。つまり、血圧の幅が大きくなるのです。そのために心房細動が起きやすくなり、脳梗塞(こうそく)を引き起こすこともあります」。また、心臓への負担が大きくなるので、心不全へも結び付いていく。

 ◆体重減少 新陳代謝が激しくなるので基礎代謝がアップ。すると、運動もしていないのに運動をしているのと同じエネルギー消費となる。食べているのにやせるというのは、そのためである。

 ◆下肢の粘膜水腫 下肢にポッポッと水が入った発疹(ほっしん)ができ、赤っぽくなる。

 ◆首が太くなる 甲状腺の活性化が首を太くする。

 「そのほかに、男性であればED(インポテンス)に、女性では生理不順になったり止まったりします。不眠、イライラといった更年期障害のような症状も出てきます」。このような症状に気付いたら、早めに内分泌内科、内分泌科を受診すべきである。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆バセドー病の名医
 ▼帝京大学医学部付属病院(東京都板橋区)外科内分泌外来・高見博教授
 ▼西新宿プラザクリニック(東京都新宿区)出村博院長
 ▼東京女子医科大学病院(東京都新宿区)内分泌外科・小原孝男教授
 ▼伊藤病院(東京都渋谷区)伊藤公一院長

May 12, 2006 09:38 AM | トラックバック (0)

2006年05月11日

2006年05月11日

【第120回】20~30代の女性に多い/西新宿プラザクリニック出村博院長

バセドー病(上)

 ダイエットをしているわけではない。それどころか、食欲があってしっかり食べているのにやせていく。これだけなら、糖尿病の症状にもあるが、糖尿病が40代に多いのに対し、こちらは20代、30代といった女性に多い特徴がある。

 「食べても食べてもやせていく。その症状以外に『動悸(どうき)』『発汗』『手の震え』『目がパッチリ』といった症状が加わってくると、バセドー病が疑われます」と指摘するのは、日本内分泌学会の元理事長で西新宿プラザクリニックの出村博院長(東京女子医大名誉教授)。

 バセドー病は甲状腺疾患の1つ。甲状腺はのど仏の下あたりにあり、チョウが羽を広げた形をしている。甲状腺ホルモンを分泌しており、体の新陳代謝を正常に機能させる。脳、心臓、肝臓などの働きも正常に保つので血流もスムーズに全身をめぐる。汗の量や体温の調節も甲状腺ホルモンによって調節されている。

 「甲状腺ホルモンは常に血液中に一定の濃度でコントロールされていますが、その指令を出しているのが脳の下垂体です」。下垂体は頭蓋(ずがい)内のほぼ中心、眉間(みけん)の奥7センチのところにある。女性の小指の先端程度の大きさで、前葉と後葉に分かれており、重さはわずか1グラム。ここがホルモンの中枢である。

 下垂体は血液中の甲状腺の濃度の変化を素早くキャッチし、甲状腺ホルモンが少ないときには甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌されて甲状腺ホルモンを作らせる。甲状腺は血液中のヨードを取り入れて甲状腺ホルモンを分泌する。逆に甲状腺ホルモンが多いときにはTSHの分泌は抑えられる。

 「バセドー病は甲状腺機能高進症の1つで、甲状腺ホルモンの分泌が過剰になります。それは指令を受け取る甲状腺の受容体に自己抗体、つまり免疫異常が起き、TSHの指令とは関係なく、どんどん甲状腺ホルモンを作ってしまうのです」。まさしく、常に全力疾走をしているような状態になるため、前述したような症状が出てきてしまうのである。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆バセドー病の名医
 ▼栗原クリニック(岩手県盛岡市)栗原英夫名誉院長
 ▼独協医科大学病院(栃木県壬生町)臨床検査部・家入蒼生夫教授
 ▼群馬大学医学部付属病院(群馬県前橋市)第1内科・森昌朋教授
 ▼埼玉医科大学病院(埼玉県毛呂山町)小児科・佐々木望教授

May 11, 2006 11:03 AM | トラックバック (10)

2006年05月10日

2006年05月10日

【第119回】GTRとエムドゲイン法/スウェーデンデンタルセンター弘岡秀明院長

歯周病の治療(下)

 歯肉炎から始まって、重症になると歯を支えている歯槽(しそう)骨がどんどん退縮していく歯周病。最後はグラついた歯が支えを失って抜けていく。スケーラーでバイオフィルム(細菌叢=そう=を表すプラークのこと)や歯石を除去。それで対応できないときは歯肉を切開して治療を行うことになる。そして、その後はしっかりと歯磨きを行うことで再発を抑え、定期的に歯科でのチェックも行う。

 ところが、歯槽骨がすっかり退縮してしまっていると、オーソドックスな治療では全く歯が立たない。その場合の方法を、歯周病治療の第一人者であるスウェーデン デンタル センター(東京・千代田区)の弘岡秀明院長は、次のように言う。「歯槽骨を再生しない限り、歯は抜けます。その再生治療としては『GTR法(組織誘導再生法)』と『エムドゲイン法』の2つが行われています」。

 ●GTR法 スウェーデンのイエーテボリ大学で開発され、日本では高度先進医療の対象として、東京医科歯科大、東京歯科大、日本歯科大、鹿児島大などで行われている。治療方法は、まず歯肉を切開して歯石除去などを行い、患部を清潔にする。次に、歯肉と歯槽骨との間に「自然吸収される膜」を入れ、歯槽骨を覆うように保持させる。さらに、歯肉もその上に覆うようにし、もともとの歯肉の高さで縫合糸を使って縫い合わせる。それ以降、1週間ごとに患部が清掃され、4~6週間後には歯周組織はでき始め、半年後には完全に歯槽骨などの歯周組織は再生してしまう。

 ●エムドゲイン法 歯ができ、歯根ができるときにある種のたんぱく質が分泌され、そのたんぱく質の誘導で歯周組織ができる。エムドゲインとはそのたんぱく質で、ブタの歯の周囲から抽出されたもの。これもスウェーデンで開発された。歯肉を切開し、歯石を除去した後、ゲル状のエムドゲインを患部に塗って歯肉を縫合する。歯周組織の再生はエックス線を撮ってみていく。およそ6カ月で再生する。

 「両方法とも、しっかり口腔(こうくう)衛生が保持できる患者さんと歯科医であって初めてできる。これを忘れないでほしいと思います」と、弘岡院長は忠告を忘れない。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆歯周病の名医
 ▼日本大学歯学部付属歯科病院(東京都千代田区)歯周病科・伊藤公一教授(病院長)
 ▼九州歯科大学付属病院(北九州市)歯周病科・横田誠教授
 ▼長崎大学医学部歯学部付属病院(長崎市)虫歯・歯周病治療室・原宣興教授

May 10, 2006 09:25 AM | トラックバック (0)

2006年05月09日

2006年05月09日

【第118回】歯肉より上は患者の責任/スウェーデンデンタルセンター弘岡秀明院長

歯周病の治療(上)

 歯周病の検査が行われ、歯周病と診断されると、治療に入る。が、すべて歯科医だけが行うのではない。「歯肉より上は患者さんが責任を持って磨いていただき、歯肉より下は歯科医が責任を持ちます。一緒に協力して治療に歩み出す必要があります」と、スウェーデン デンタル センター(東京・千代田区)の弘岡秀明院長は言う。

 実際に、それが歯周病治療に役立つと、科学的根拠が示されている。

 1984年、スウェーデンのアニタ・バーダー・シュタイン博士が歯肉が腫れ、出血している歯周病患者に、3カ月間歯磨き指導を行った。しかし、指導のかいなく患者の歯肉縁下バイオフィルム(細菌叢=そう=を表わすプラークのこと)はほとんど減少しなかった。

 そこで、今度は患者の歯肉縁下バイオフィルムとその死がいが石のように硬くなった歯石を除去。すると、歯肉縁下バイオフィルムがガクンと減少するとともに、歯肉の炎症も治ってしまった。「歯肉より下は歯科医が責任を持つ必要があるのです。だから、歯石もバイオフィルムも取り除くのです。もちろん、歯石が歯周炎を引き起こすのではありません。歯石があるとバイオフィルムが付きやすいからです」。

 バイオフィルムとともに歯石を取り除くには、スケーラーという器具を使う。削り取る形になる。奥深いところを削るには痛みが生じるので、局所麻酔をかけて行う。今日ではスケーラー以外に、超音波で刃の先端を振動させて歯石を除去する「超音波スケーラー」も使われている。

 そして、重症になると、歯肉を切開して歯石を除去する外科的治療が行われる。そのとき、補助的に抗生物質・メトロニタゾールが使われる。「最初から使うのではありません。スケーラーで歯石やバイオフィルムを取り残したと思われるときに、メトロニタゾールを使います」。

 あとは患者自身がバイオフィルム・コントロールをいかにしっかり行っていけるか、である。十分にコントロールできない患者に対しては、定期的に歯科衛生士による歯磨き指導とバイオフィルム・コントロールを行う。これを行わないと、治療後4週間で元のもくあみになることが研究で分かっているからである。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆歯周病の名医
 ▼ドルフィン歯科(千葉県佐倉市)中原達郎院長
 ▼古賀テクノガーデン歯科(千葉市美浜区)古賀剛人院長
 ▼スウェーデン デンタル センター(弘岡歯科医院)(東京都千代田区)弘岡秀明院長
 ▼昭和大学歯科病院(東京都大田区)歯周治療科・山本松男教授

May 9, 2006 09:24 AM | トラックバック (0)

2006年05月08日

2006年05月08日

【第117回】プラークスコアなどでチェック/スウェーデンデンタルセンター弘岡秀明院長

歯周病(下)

 歯を失う最大原因の歯周病は大きく2つに分類される。(1)慢性型歯周炎と(2)侵襲型歯周炎。(1)はバイオフィルム(細菌叢=そう=を表わすプラークのこと)の出す毒素で歯肉に慢性的に炎症が起きている状態で、∧2∨は急激に歯周炎が悪化するタイプで遺伝によるといわれている。

 「侵襲型歯周炎は20代、30代で急激に歯周病が重症化するタイプで、歯周病菌の1つ、Aa菌が関係しているといわれています」と、歯周病の治療で有名なスウェーデン デンタル センター(東京・千代田区)の弘岡秀明院長は言う。

 (1)(2)は、さらに限局型で、歯肉の炎症が一定の部分に限られているものと、広い範囲に炎症が起きているケースに分類される。

 とまれ、歯肉に炎症が起きた場合は、歯周病を得意とする歯科を受診すべきである。まずは問診が行われ、次に「プラークスコア」「プロービング」「動揺度検査」「エックス線検査」「歯間離開検査」「PCR法」「BANAテスト」などを行う。

 ●プラークスコア 赤い染め出し液を使う。これはプラークの周囲につく液なので、赤くなったところの面積を見る。「歯は前面、左右面、後面と4面あります。それをすべてチェックし、赤い部分が25%以上となると、しっかり磨けていないことになります。どれだけ赤くなるかをチェックするのです」。

 ●プロービング 歯と歯肉の間のポケットがどれだけ深くなっているか、その深さをプローブという器具を用いて測る。「深さで重症度が分かります。また、歯周ポケットにプローブを入れると出血するようならば、炎症があります。バイオフィルムが付いている証拠でもあります」。

 ●動揺度検査 ピンセットで歯を動かしてみて、その動きの程度を知る。重症になると歯のぐらつきも大きくなってくる。

 ●エックス線検査 歯、歯肉、歯槽(しそう)骨の部分をエックス線撮影する。そして、歯槽骨の状態をみる。「歯周病の状態が重いと歯槽骨が退縮しています。それをチェックします」。

 このほか「PCR法」や「BANAテスト」で、歯周病菌のチェックを行う。以上の検査を行った上で、歯周病と診断されたら、重症度に合わせた治療が行われることになる。
 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆歯周病の名医
 ▼つるや歯科医院(茨城県阿見町)鶴屋誠人院長
 ▼清水デンタルクリニック(群馬県高崎市)清水善明院長
 ▼明海大学付属病院(埼玉県坂戸市)歯周病科・申基喆教授
 ▼やまわき歯科医院(千葉県館山市)山脇健史院長

May 8, 2006 12:00 PM | トラックバック (0)

2006年05月07日

2006年05月07日

【第116回】細菌による感染症/スウェーデンデンタルセンター弘岡秀明院長

歯周病(上)

 歯を失う原因は虫歯と歯周病。これが2大疾患だが、歯磨きの徹底や早期治療で虫歯で歯を失う人が減少し、歯周病で歯を失う人が最も多くなった。

 「どちらも細菌による感染症です」と言うのは、スウェーデン デンタル センター(東京・千代田区)の弘岡秀明院長。「歯につく細菌は15年前は350種、10年前には450種に増え、今では600種に増えました。正確には増えたのではなく、これまでもいたのですが、より詳しく分析できるようになったということです」。

 口の中は細菌にとって格好のすみか。十分な水分と適度な温度、さらに栄養も十分とあって、まさに〝細菌天国〟。その中に虫歯菌もいれば歯周病菌もいる。

 歯を失う最大原因、歯周病は以下のような流れで進行していく。歯の周囲についたバイオフィルム(細菌叢=そう=を表わすプラークのこと)は歯の面に沿って下へ下へと降りていく。「歯周病菌は空気を嫌うので歯と歯肉の間を下へと入っていきます。そして、バイオフィルムの出す毒素で、まずは歯茎に炎症が起こります」。

 この炎症は人間が体を守ろうとする免疫反応。細菌と闘う細胞(白血球等)がここに集合するために血管は太く壊れやすくなり、出血も起きやすいのである。「これが歯肉炎の状態です」。いわゆる歯周病の第1段階。ここで抑えないと、さらに悪化する。

 バイオフィルムは進行し、毒素はどんどん増える。体を守るために歯が埋まっている歯槽骨(しそうこつ)は退く。「この状態は歯周炎、いわゆる歯槽膿漏(しそうのうろう)症。さらに歯が埋まっている歯槽骨が退いてしまうと、歯を支えきれなくなって、歯は抜け落ちてしまいます」。

 原因は3点。
 (1)生まれつき歯を支えている組織が歯周病菌に対して弱い。
 (2)歯と歯茎の防御機能が弱かった時期がある。
 (3)約十数種類の歯周病菌をすみやすくしている(バイオフィルム・コントロールが悪い)。

 患者自身がすぐに対応できるのは∧3∨のみで、これも歯科医や歯科衛生士と共同作業となるところも含まれている。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆歯周病の名医
 ▼北海道医療大学病院(札幌市北区)歯周病科・古市保志教授
 ▼サッポロインプラントセンター(札幌市中央区)舘山佳季院長
 ▼いのまたデンタルクリニック(仙台市青葉区)猪俣祐士院長
 ▼新潟大学医歯学総合病院(新潟市)歯科・吉江弘正教授

May 7, 2006 08:36 AM | トラックバック (4)

2006年05月06日

2006年05月06日

【第115回】心身医学的アプローチ必要/日大板橋病院村上正人科長

線維筋痛症の治療(下)

 原因不明の痛みに苦しめられる「線維筋痛症」。全身の筋肉や関節のあちこちが痛み、最終的診断を決定づけるのは「痛みが3カ月以上続いている」に加え、医師が「全身に18カ所ある圧痛ポイントのうち、11カ所以上が痛む」と線維筋痛症と診断される。

 もちろん、ほかの疾患のないことをしっかりと鑑別診断済みである。ここから治療がスタートする。

 ●薬物療法

 まず、治療は「薬物療法」。「痛みがあると普通は消炎鎮痛薬を処方します。ところが、線維筋痛症の痛みは炎症があって起きているのではありません。患部は熱を持っているというより、逆に冷たいのです」と言うのは、線維筋痛症を15年以上も治療している日本大学医学部付属板橋病院(東京・板橋区)心療内科の村上正人科長。

 そこで処方されるのが「抗うつ薬」「抗けいれん薬」「漢方薬」。抗うつ薬は痛みを抑え、落ち込んだ気分を高進させるためにも適している。重症のケースでは新しい抗うつ薬の「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」や「SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)」が主に使われる。ノイトロピンという薬が有効なケースもある。

 抗けいれん薬は筋肉がけいれんしたりして筋肉への血流の低下を改善するために使われる。痛みの場所が「冷えている」状態の改善に結び付くのである。「漢方薬も処方します。更年期障害のような症状も多いので、自律神経のバランスを改善するために使います」。

 ●生活指導

 患者は心療内科を受診するまでに平均36カ月間かかっている。長い期間、苦しくつらい状況に置かれている。だから、痛みをとる対症療法のほかに、心もいやしていく必要がある。「心身医学的アプローチが必要なのです。それが『心理療法』と『リラクゼーション』で生活指導の1つです」。心理療法では認知行動療法が最も良いとされ、リラクゼーションでは呼吸法やマッサージなどを行う。

 このほかに「運動療法」がある。「反動をつけるような体操は痛みを起こすので、ゆったりした動きの太極拳、ヨガ、気功などの類がいいと思います。お風呂で体を温めるのも良い、39度くらいのお風呂にゆっくり入るのがいいでしょう」。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆認知行動療法
 ストレスに対する対応の悪い習慣があるのを修正し、よりよい思考・行動パターンを身につける治療方法。

 ◆線維筋痛症の名医
 ▽行岡病院(大阪市北区)行岡正雄理事長
 ▽広島県立身体障害者リハビリテーションセンター(広島県東広島市)整形外科・戸田克広医師
 ▽九州大学病院(福岡市東区)心療内科・久保千春教授

May 6, 2006 12:49 PM | トラックバック (1)

2006年05月05日

2006年05月05日

【第114回】全身18カ所中11カ所痛いと/日大板橋病院村上正人科長

線維筋痛症の治療(上)

 原因不明の痛みが全身のあちらこちらの筋肉や関節に生じる「線維筋痛症」。原因は分からないものの、痛みが生じた背景が多少分かってきた。日本大学医学部付属板橋病院(東京・板橋区)心療内科の村上正人科長によると「出産、外傷といった身体的負担が原因となって発症するケースが多いこと。また、社会生活的ストレスによって発症するケースも多いことが分かってきたのです」。

 原因が分からないと不安は大きくなる。そこで、まずは正しい診断が重要。それだけでも不安は軽減され、それが症状を多少は改善に向けることもある。

 痛みがあるので患者の多くは整形外科やリウマチ科を受診することが多い。最近はそれらの診療科でも線維筋痛症が知られるようになり、正しい診断に結び付くケースが増えてきた。「患者さんが受診されると、積極的な鑑別診断を行います。消極的な除外診断ではありません」。

 診察は、まずは問診、触診から始まる。どの場所がどの程度、どのように痛いのか。どれくらい痛みが続いているのかといった状態を聞く。そして、実際に痛い場所を触れて診る。「線維筋痛症の場合。原因不明の痛みが3カ月以上続くのです。その痛む場所は別に炎症を起こしているのではありませんから、温かいとか、熱を持っているということはなく、むしろ冷たいのが特徴的です。そして、筋肉の張りや圧痛点も調べます」。

 線維筋痛症の診断基準はアメリカでは90年にすでにアメリカリウマチ学会が作っている。「全身に原因不明の痛みが3カ月以上続き、全身18カ所の圧迫ポイントのうち11カ所以上押すと痛い場合、線維筋痛症と診断する」。圧痛ポイントを押すときは、約4キロの強度で押す。

 その一方で、痛みの原因を特定するためにエックス線検査、MRI(磁気共鳴画像装置)検査、血液検査を行う。「器質的異常がないと、線維筋痛症が強く疑われることになります」。もちろん、器質的疾患が発見されても、その疾患と線維筋痛症の2つの疾患が合併していることもあるので、注意が必要である。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆線維筋痛症の名医
 ▽篠ノ井総合病院(長野市)リウマチ科・浦野房三主任医長
 ▽中部労災病院(名古屋市港区)心療内科・芦原睦部長
 ▽関西医科大学付属病院(大阪府守口市)心療内科・中井吉英教授

May 5, 2006 10:29 AM | トラックバック (0)

2006年05月04日

2006年05月04日

【第113回】更年期障害と似た症状/日大板橋病院村上正人科長

線維筋痛症(下)

 全身のあちらこちらの筋肉や関節に痛みが生じる「線維筋痛症」。痛みの度合いには差があり、重症のケースともなると、体にちょっと触れただけでも飛び上がるほどだという。

 「このような状態のときには、これまでであれば何ともない動きなのに痛みが生じてしまうこともあります。例えば、普段行ってきた体操で痛みが生じる、電車が駅に入り、ブレーキをかけて止まるときに、立っていて体が前に行かないように踏んばったら足に痛みが生じた、などさまざまです」と、日本大学医学部付属板橋病院(東京・板橋区)心療内科の村上正人科長は言う。

 基本的な原因不明の痛みに、さらに痛みが加わるのだから、つらい。「痛みの度合いによっては家事もままならなくなり、また、会社へも行けなくなるというように、日常生活や仕事に支障が出てしまいます」。症状は痛みのみならず、痛みに関連して起こるものなど多くの合併症状にも苦しんでいる人が多い。

 「環境や状況の変化・心理的ストレスで病態が影響を受けるといった心身症(ストレスが原因となって身体疾患を起こす病気の総称)の側面を持っている病気です。だから、さまざまな合併症状が起こるのです」。

 村上科長は多くみられる「身体症状」として以下を挙げた。

 ●睡眠障害 眠っているときには無意識のうちに寝返りをうつ、そのたびに激痛が全身を走るので眠れず、不眠症に陥ってしまう。
 ●頭痛 痛みが痛みを呼ぶといったように頭痛が起こりやすい。
 ●下痢 痛みによるストレス状態が強く、下痢を起こす人が多い。
 ●月経異常 月経困難症を起こしやすい。
 次に「精神症状」として以下が挙げられる。
 ●抑うつ、いらだち、焦燥感、疲労感、気力減退など。

 「更年期障害とよく似た症状も多いのです。患者さんたちは痛みの原因が分からないから不安が強いのです。正しく診断がつくだけでも不安が軽減されることになります」。長引く全身の痛みの場合は、線維筋痛症も疑ってみる必要がある。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆線維筋痛症の患者の年齢と性別 04年厚生労働省線維筋痛症研究班による調査では、患者の83%が女性、年齢では50代をピークにして10代から80代にみられるが、多いのは30~70代である。

 ◆線維筋痛症の名医
 ▽聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター(川崎市宮前区)西岡久寿樹センター長
 ▽安曇総合病院(長野県池田町)整形外科(心療内科)・谷川浩隆副院長
 ▽浜松医科大学付属病院(静岡県浜松市)心療内科・永田勝太郎講師

May 4, 2006 10:26 AM | トラックバック (0)

2006年05月03日

2006年05月03日

【第112回】別名「心因性リウマチ」/日大板橋病院村上正人科長

線維筋痛症(上)

 03年に日本の患者数16万人と推定された疾患がある。このときは日本リウマチ学会専門医3012人を対象とした。その後、全国の一般住民調査が行われ、推定患者数約200万人となった。

 大きな開きなのだが-。「例えば、過敏性腸症候群や緊張型頭痛などの症状があっても、実際に受診する方は10%以下であることを考えると、納得できる数字だと思います」と、日本大学医学部付属板橋病院(東京・板橋区)心療内科の村上正人科長は納得したように言う。

 このような調査が行われるようになったのも「線維筋痛症」が多少は認知されてきたからである。「心身症の1つの疾患として15年くらい前から学会で発表していましたが、当時はほとんど注目もされませんでした」。それだから、線維筋痛症の患者の多くは、さまざまな診療科をしたくもないのにドクターショッピング。それでも正確な診断や治療が受けられないままになっていた。

 注目を集め始めた線維筋痛症とは、全身のあちらこちらの筋肉や関節に痛みが生じ、それが長い期間続く病気である。「痛みとしては帯状疱疹(たいじょうほうしん)後神経痛と似ています。ちょっと体に触れただけでも飛び上がるほどの痛さでもあります」。

 もちろん、強い痛みが四六時中続くのではない。日によって、時間によって変化はする。が、痛みそのものは続くから患者はつらい。「痛みは不安、精神的な緊張、天候や環境の変化、ストレスなどに影響されます」。

 そのほか、患者の訴えには睡眠障害、慢性的な頭痛、疲れやすい、冷えまたはほてり、うつ気分、下痢または便秘、目や口の渇き、胃の痛みなどの不定愁訴が多い。「いかにも心身症の様相を呈しているので、別名『心因性リウマチ』とさえ呼ばれています」。

 それだけに、関節リウマチと診断されていることもある。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆心身症 ストレスが原因となって身体疾患を引き起こす病気の総称。線維筋痛症もその1つだが、ほかに胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群など病気は300を超えるといわれている。それを対象とするのが心療内科

 ◆線維筋痛症の名医
 ▽北見クリニック(札幌市中央区)脳神経外科・心療内科・北見公一院長
 ▽日本大学医学部付属板橋病院(東京都板橋区)心療内科・村上正人科長
 ▽東京医科歯科大学医学部付属病院(東京都文京区)頭頸部心身医学科・小野繁教授
 ▽ひめのともみクリニック(東京都品川区)姫野友美院長

May 3, 2006 11:16 AM | トラックバック (0)

2006年05月02日

2006年05月02日

【第111回】活性化した白血球を除去/慶応大学病院日比紀文教授

潰瘍性大腸炎の治療(下)

 潰瘍(かいよう)性大腸炎は原因不明の大腸の炎症で「下痢、粘液便、粘血便」の主症状が悪化したり良くなったりを繰り返す。

 治療は薬物療法が中心となるが、それだけでは十分にコントロールできない時や、QOL(生活の質)が悪いときなどは「白血球除去療法」や「手術」を考える。

 ●白血球除去療法 原因は不明の潰瘍性大腸炎だが、免疫異常という考え方が多い。事実、大腸で炎症が起きているときは白血球が大いに活性化している。白血球が大腸粘膜での炎症を引き起こし悪化させていると考えられる。そこで、その白血球だけを除去してしまえば炎症は抑えられるのでは、というのがこの療法である。「1週間に1回1時間、血液を体外に取り出し、フィルターを通して白血球を取り除いた後、血液を体に戻します。体外循環させるのです。1・8~3・0リットルの血液がフィルターを通ります」と、慶応義塾大学病院(東京・新宿区)消化器内科の日比紀文教授は説明する。

 治療は最高10回(激症では11回)保険適用が認められており、症状を改善している。この治療法は兵庫医大前教授の故下山孝氏と前講師の沢田康史氏らが開発した方法。「発想は素晴らしいし、患者さんの症状が良くなります。ただし、まだ科学的根拠に乏しいとあって、米国、ヨーロッパでは04年6月から臨床研究が始まっており、その研究に日本からは私どもの施設だけが参加しています」。

 ●手術 薬物療法、白血球除去療法でもコントロールがうまくいかない場合には手術を考える。炎症を起こす大腸をすべて切除するので根本的な治療といえます。「緊急手術が行われるのは危険な状態となる次の3つの場合です。『大腸が破れた』『大量出血をした』『中毒症状が出た』ときです。少し待っても行われるのは『がんの合併した』ときなどです」。

 また、内科的治療でQOLが悪いときも手術を考える。逆に、断固手術を拒否する人もいる。昔は手術は人工肛門(こうもん)になっていたが、今は大腸すべてを切除後、小腸で「回腸嚢(のう)」をつくって大腸の代わりとするため肛門はそのままである。「平均寿命は普通の人と全く変わりありません」という時代が到来している。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆潰瘍性大腸炎の名医
 ▽兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市)下部消化管内科・松本誉之教授
 ▽沢田医院(奈良県香芝市)沢田康史副院長
 ▽九州大学病院(福岡市東区)第2内科・飯田三雄教授

May 2, 2006 11:57 AM | トラックバック (0)

2006年05月01日

2006年05月01日

【第110回】基本は薬と食事/慶応大学病院日比紀文教授

潰瘍性大腸炎の治療(上)

 的確な「除外診断」で、潰瘍(かいよう)性大腸炎と診断されると、治療が始まる。多くは適切な治療で軽快し、難病とはいえなくなってきた。

 治療の基本は「薬物療法」と「食事療法」で、その薬物療法の効果が弱いといったときには、バックアップとして「白血球除去療法」などが行われる。そしてそれでも効果が得られないといった段階となると「手術」が選択されることになる。

 ●食事療法 「症状が強い活動期には、脂肪の少ない良質のタンパク質である白身魚や大豆、卵を取ります。欧米型食生活によって病気が増えてきたと考えられており、脂肪や消化の悪いものは避けて体力維持を心掛けるのが大事です」とアドバイスするのは、慶応義塾大学病院(東京・新宿区)消化器内科の日比紀文教授。香辛料やコーヒーなどの刺激物は急性期には避ける。お酒も禁酒である。ただ、活動期から緩解期になると、食生活を厳しく制限することはなく、普通の人と同じようにバランスの良い食事を心掛ければ良い。

 ●薬物療法 薬物療法は「5-ASA製剤」「ステロイド(副腎皮質ホルモン)薬」「シクロスポリン」などが使われる。「基本となるのは5-ASA製剤で、炎症を抑えます。ただ、炎症が強い活動期には効果が強いステロイド薬を使います」。ステロイド薬にも経口薬のほかに、点滴、座薬、注腸薬などがあり、それらのタイプを工夫して使い分ける。「緩解期をより長く維持するためには、免疫抑制剤の6MPやアザチオプリンなどが使われることがあります」。最近は基本薬として5-ASA製剤の「メサラジン製剤」が使われている。これは直接に炎症を抑えるのみならず、炎症が再び燃え上がる再燃を抑える働きもある。副作用が少ないのもよく用いられる理由であろう。

 「患者さんは普通の人と同じような生活がしたいと希望されています。根本的な治療はなくてもQOL(生活の質)を良くすることはできます。私たちは、QOLの向上を第1に考えています」。そして、薬の効果が弱いときは、白血球除去療法や手術も視野に入れることとなる。

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

 ◆潰瘍性大腸炎の名医
 ▽横浜市立市民病院(横浜市保土ケ谷区)外科・杉田昭部長
 ▽北野病院(大阪市北区)消化器内科・伊藤裕章部長
 ▽関西医科大学付属滝井病院(大阪府守口市)消化器肝臓内科・岡崎和一教授

 【医学ジャーナリスト松井宏夫】

May 1, 2006 11:08 AM | トラックバック (0)