2008年05月21日

妻はアルツハイマー病患者

今までにも多くの映画を観てきたのに、
この一本は、観る前から惹かれたのは、
決して私だけではなかったようだ。

いつもの試写とは違って、満席。
やはり、テーマが観客を惹き付けたのだろう。

土曜日に封切りになる映画「アウェイ・フロム・ハー君を想う」について書こう。

主人公は、結婚44年目を迎えたグラント(夫)とフィオーナ(妻)。
二人は、元大学教授とその教え子だった。
深く愛し合っている二人は、
経済的、肉体的、精神的に満足な結婚生活を送ってきたかのように窺える・・・。
しかし、それでは物語にならない。

突然、妻のフィオーナにアルツハイマー病の症状が出る。
色の名前がわからなくなる。
洗ったフライパンを収納棚に入れず、間違って冷蔵庫に入れてしまう。
食事中「WINE」(ブドウ酒)という単語が思い出せない。
挙句は、散歩に出たまま、寒い夕暮れ時に道を見失う。

away1.jpg

冒頭からそういうエピソードがちりばめられ、
やがて観客に、フィオーナが病に冒されていることがわかってくる。

   アルツハイマー病に罹って苦悩する妻と
   介護する夫という構図か?

と、観客が我がことのように思い、
心の準備に入ると、新たな展開が待ち受けている。

夫のグラントは、妻をやさしくいたわっているのに、
観客の私は、

   どうも妻への献身さに不足しているのでは?

と思えてならない。

やがて、大学教授時代、女子大生と何度も浮気をして、
美貌の妻のフィオーナに惨めな思いをさせる
身勝手な夫だったことがわかってくる。

結婚生活44年を経た今、夫が妻へどれほど愛情を注ごうが、
教授時代の「罪」は消えていない。
妻の記憶の中に、夫が自分を裏切った時の気持ちは、
熾火(おきび)のように、消えないで残っている。

この映画のテーマの一つは「記憶」だ。
愛も憎しみも記憶があってこそ、
それらに関わった人間は確かめることができる。

やがてフィオーナは、アルツハイマー病患者用の訓練施設に入る。
施設の中ではちょっと浮いて見えるほどの気品と美しさを持つ彼女が、
この日以降どのように「崩れていく」か、見ごたえがある。

入所の規則として、

   グラントが妻と30日間会えない、

という愛し合う二人にとって厳しい状態が続いた。
この条件がついている理由は、アルツハイマー病患者が、
30日かけて施設になじみ、訓練に集中できるようにするためだ。

そして問題の30日を終えれば、フィオーナの外泊も
グラントと毎日面会することも自由にできる。

30日後、グラントは待ちかねるように妻に会いに行く。
しかし、訓練がうまく行き、二人が喜ぶというのでは、映画にならない。
脚本家は、残酷なエピソードを観客を用意して待っている。

グラントの目に映った妻は、彼の顔を認識できない重症患者だった。
代わって、グラントのポジションにいたのは、
同じ入所者のオーブリーという車椅子に乗った男性で、
フィオーナはまるで恋人に接するように
かいがいしく彼をサポートしていたのだ。

グラントが一番大事にしてほしい、自分への愛情、自分との幸せな日々を、
妻がすべて忘れてしまっていた。
私は、心の中で、

   フィオーナの苦しみが十分わからないおっさんへの罰だな、

と、妙に納得できた。

人は自分が一番思い出したくないものを忘れようとする。
結果、忘れられないにしても、そういう試みをして、
自分を守ろうとするものだ、と誰かが言ったっけ・・・。

実際、医学的に、アルツハイマー病患者が、この映画のような、
配偶者の存在自体をわずか30日の間に失念するのかどうかはわからないが、
この元大学教授に限っては、仕打ちをされても仕方がないし、
その方が小気味よく感じられた。

アルツハイマー病をテーマにしていながら、
この映画が現実との結びつきをどうも希薄にしている理由は何か、
と考えながら、私は映画を観続けることになる。

(次号に続く)

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May 21, 2008 12:02 PM

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コメント

忘れじの 行末までは かたければ

今日を限りの 命ともがな
         儀同三司母

投稿者 単独行 人 : 2008年05月21日 14:15

凄い内容ですね。アルツハイマーの患者が出てくる映画だと配偶者若しくは恋人と心を通わせて・・・が多いですが一味違いそうですね。ですが社主様、内容をここまで書いちゃって配給元からクレームきませんか?大丈夫?

・・・・・・・

ベビーコメ

ご愛読ありがとうございます。

>クレーム

今のところないです。
もし苦情が来たら、ここに掲載しますよ。
私としては、「書かざるを得ない」気持ちでした。

2008-5-25 18:00

投稿者 トスキ : 2008年05月21日 18:09

離婚した私に語る権利はないでしょう。
アルツハイマーは様々な形で皆を苦しめます。
一つだけ、社主にお願いがあります。

「八重子のハミング」  陽 信孝 著

を読んでください。

勿論、アルツハイマーに犯された妻とどう向き会ったのかというお話です。
私は、今回提示された秀作映画は観ていませんし、見る気はありません。見てはいけない範疇だとすら思っています。

映画であれ本であれ、優れた作品には(感動を呼ぶ作品には)ただ、言葉を失うものです。

語る権利?、資格・・・???このような話題に対しては、言葉はどうでもいいと、投げやりです。
 

投稿者 弧愁庵人 : 2008年06月23日 16:52

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