2006年07月06日
高級スシ店の「おまかせ」原理
先日おなくなりになった橋本龍太郎さんは、「美味しんぼ首相」とも言われた。入院する1ヶ月前に行きつけの東京・東中野の高級スシ店「名登利寿司」で「10年後もここで結婚記念日(の祝いを)やれたらいいんだけどなあ」とつぶやいたという。本当にスシがお好きな方であった。
ところで橋本さんおすすめの店もそうだが、日本の高級スシ店には、「おまかせ」という注文の仕方がある。客が、スシ・シェフを信頼して、その日のメニューを任せてしまうことだ。厳格なおまかせでは、スシのタネ選びから、提供するニギリの順番、そして飲み物の選択、デザートの有無をも完全に任せてしまう。客はただ与えられた料理を食べ、支払額までも、店に請求された金額をクレームなしに支払う。クレームはつけないが、後で一人でブツブツ自分の愚かしさに文句を言うことはある。
自分の自由意思で何かを選択すること自体が大切にされる欧米人では、自由意思を封じ込まれるこうした、一種のパターナリズム的注文の仕方は、奇妙に見えるらしい。彼らにとっては、アラカルトで選択して注文することの方がしっくりくるようだ。しかし「おまかせ」自体選択の一つである。それは、「おまかせ」を頼むという最初の一歩に自由な選択がある点で、その原理は一種の自由意思の行使でもある、という説明をしている。
実際には「おまかせ」は、与えられるものという以上に複雑な内容をもっている。「おまかせ」を注文されるスシ・シェフは確かに強いある権威をもっているようだ。そうでなければ、客はそういう強い信頼を置いた注文をしない。しかし、シェフは「おまかせ」の注文を受けたら、古い社会の長老たちのように、決して悠然と振舞ってはいられない。シェフは「おまかせ」注文を受けたことを誇りに思う以上に、内心びくびくしているのだ。それは、なぜか。
「おまかせ」とは提供する料理をまかせられることだ。ご存知のように、客の好みはいろいろである。たとえ注文の最初の段階に、客の好き嫌いを聞くことはあっても、原則的には、シェフが「考えて」「相手の好み」を読んで、提供する料理を組み立てねばならない。そういう意味で、任せられた「後」がシェフにとっては大変緊張した時間なのである。
世田谷区でこの「おまかせ」を一種の芸術的味の試みとして組み立てるスシ・マスターは、客にインパクトを与える料理を提供することに腐心するという。客の好みの多様性を越えるには、平均的な好みを統合することだけではかなえられない。それらの総合を超えて、「インパクト」を与えねば、客は満足しない。客に不満を残す「おまかせ」は、いわばシェフの敗北である、というのである。
それにしても日本人はこの「おまかせ」注文が好きである。スシ店に限らず、割烹(かっぽう)においても、「適当なところをみつくろう」ように、店側に注文を任せてしまう。西洋的な注文の仕方では、「適当なところ」という風に限定されない注文では、何を提供してよいかわからない。しかしこれは、多くの客が好んで最初に注文するものを提供しろとか、客の姿形や雰囲気を察知して何を食べたがっているのか、を読んで料理を持ってくるようにと、指示しているのだ。
つまり「おまかせ」とは、料理を客に提供する側の力を試すために客が出した難しいテスト問題とも言えるわけだ。そのテストの結果は、もし客が気に入らなければ、その店から足が遠のくということで判断されるかも知れない。店側は、客が「なじみ」になってくれれば、テストは最高点をとったと思えばよいが、客が来るたびに、スシ・シェフは、その都度、テストを受けねばならない。むろん、客はいろいろ質問してくるから、口答試験も用意されている。「おまかせ」が提供される時間は、くつろぐ客とシェフとの緊張した対峙の時間と言えるかもしれない。
関連記事
「のり巻はいかが?」(5月1日)
July 6, 2006 11:49 AM
コメント
早く「おまかせ」が出来るぐらいの
心の余裕と経済的な余裕を身に付けたい
ものです。
投稿者 よしかず : 2006年07月06日 15:12
和食の職人をしている弟は
「馴染み」の客にふらっと立ち寄られて「おまかせ」がキツイ・・といつも言っております。
あらかじめ予約して予算はこのくらい、でこの方・・なら、仕入れ、仕込みから仕事は始まりますから、目度がつくのですが、
今日の仕込みがこれだけ、他の客もいるというときに、お好みにあった、毎回、趣向を凝らした料理をお待たせせずにお出しするのは、大変だと思います。
でも、そこで力量を買って頂けて、他のお客さまにも紹介してくださいますし・・
お馴染みさんも、悪いことばかりではありません。
お寿司というのは、ネタもそうですがシャリ。
シャリ、ネタと言えば、新潟から北陸のお米どころ、日本海に面した地域はお寿司もおいしいですね。
社主さまも「手まり寿司」のことなどおっしゃっていましたが・・
父はこういう海沿いの寿司屋に入るとき、雨の後や連休後、季節など、地元の漁ができないときは避けていました。
そこで、きょうの漁の様子などを聞きながら、板前さんに注文していました。
山国で、ふらっと一見の寿司屋に立ち寄るということはありません。
とんでもない額を請求されることもあると知っています。
「時価」、或いは京都の割烹などでは「はも」とか札が下がっているだけで値段がないことがしばしばです。
こういうところで「おまかせ」などと言える一見の客は、よっぽどのお金持ちかものを知らない人でしょう。
料理人のほうでも客を値踏みするものです。
わたしはこのところ、回転寿司オンリーです。
値段もわかって、ちょっと高級な回転寿司にいけば、その日のオススメも値段とともに張り出してあります。
そういうところで、流れてくるお皿じゃなくて、注文してその場で握ってもらうのがおいしいです。
橋本さんは、やはり、お金に糸目をつけずに食べられる方だったんでしょうね。。
「おまかせ」は、庶民には程遠いです;
投稿者 うふ♪ : 2006年07月06日 16:09
OMAKASE、今では世界中の有名寿司店で外国の人がはにかみながら使う言葉でもある。
元々、料理人は外国では地位が高いとは言えなかった。まして、シェフがオーナーで、店で一番偉い人がシェフというのは基本的に寿司屋くらいである。
しかも、寿司屋は原則として目の前で料理を創る。
その独特の文化の象徴が、OMAKASEなのだと私は解釈している。
ところで、連日のミサイル報道、たまにはこのような話ホッとします。「世界一小さな新聞」は紙面割りが大変ですが、日々のバランスが素敵です。
投稿者 三枝誠 : 2006年07月06日 17:16
開店直後のあまりコンベアに寿司が乗っていない状態のときに入店して、あれこれと注文してその場で握ってもらって食べるのが最近のマイブームです。(笑)
好きなネタだけを食べられるので、財布の中身も減りません。
札幌で「おまかせ」で食べたことがありましたが、一人一万円くらいでした。予約しておいたのでこの値段だったのかもしれません。
投稿者 なんでだよー : 2006年07月06日 23:37
スシ・シェフと言う響き、感慨深く思います。お寿司はすでに世界の”スシ”なのですね。
回っていないお寿司屋さんとは無縁に生きて参りましたので、「おまかせ」というものに込められた思いを初めて詳しく知ったような気がします。好みを考慮するのは、お得意様でも難しいのでしょうね。客は、それはもう真剣に、そのテストの答えを待っているでしょうから。食べ物に関する人間の本気加減、時に凄まじいものを感じます。それにどう答えるか考える料理人も、それはもう真剣なのでしょうね。
いつか「おまかせ」テストをしてみたいものです。
投稿者 チェッカア : 2006年07月07日 00:32
先月ドイツW杯でデュッセルドルフのレストランを訪れた時も、ドイツ語のメニューがよくわからなかったので困っていたら、ウェイターのおじさんが「ドイツははじめてか?だったらまかせなさい」と英語で話し掛けてくれたのでおもわず"Good!We accept your opinion."と答えました。
本当においしくて、ドイツ料理を満喫しました。
ドイツ人は結構世話焼き好きな人が多いんでしょうね。
投稿者 buschan : 2006年07月07日 10:10
ちょっと気になったのですが、どうして「スシ・シェフ」「スシ・マスター」なのでしょうか?
「板前」「店主」ではいけないのですか?
初めてのコメントですが、拝読していて赤面してしまいました。
・・・・・・・
ベビー日刊のコメント
「板前」「店主」でもいいですよ。
ただ、友人の欧米人との間で、そういう言い方をしているもので、
その言葉を使っただけです。
寿司=和という固定観念がなくなり、
スシはグローバルな言葉になっていますからね。
# こんなことで赤面しますか?
ちょっと翻訳調で書いているでしょ?
まあ、いわば、少しおしゃれに凝った言い回しのつもりです。
板前・店主のようなありきたりの言葉を使いたくなかっただけです。
2006-7-7 14:31
投稿者 Visitor : 2006年07月07日 13:35
回っていない寿司屋は、お義母さまに連れてってもらった一回きりです、経験は。
その時、「おまかせ」どころか、好きなハマチだけをたらふく食べるという無礼千万な事をしでかしたため、二度とは連れてってもらえません・・。
今回のエントリで、礼儀という部分に気付かされました。
お義母さま、言いはしませんが、さぞ恥ずかしかった事でしょうね・・・反省します。
投稿者 主婦A : 2006年07月07日 14:06
回転寿司というものを知ったのは、親元を離れてからだったなあ。私が親元を離れる前には、多分、地元には回転寿司店というものが存在しなかった。<-年齢ばればれ。
寿司店に連れて行ってもらって食べたのは、親元を離れる直前のお祝いの時が初めてじゃないかな。勿論、おまかせとはいかなかったけどね。
我が家では、大事なお客さんをおもてなしするのに、自宅に出前をしてもらうことが稀にあったことが記憶にあるくらいですね。
回転寿司店のおかげで随分、身近になりましたよね。
投稿者 風刺子 : 2006年07月07日 15:41
カウンター寿司では、店主とのコミュニケーションもかなり大きな楽しみの一つです^^
「今日は白身でどんなのが入ってます?」
「マスター、今日のトロはニギリがおすすめ?それともあぶりですか?」
「何か珍しいネタ入ってませんか?」
「脂の乗ったネタで何かいいのあります?」
等々々々・・・・・
いかん。ボキャブラリーの貧困さが・・・(笑)
初めて行ったお店でも、手が空いてそうなタイミングを見計らってとりあえず店主さんに何かしら話しかけみます。
コミュニケーションが取れるようになると、予算を伝えて「これぐらいで○人前お願いします」とか、
半おまかせ、みたいなオーダーもやりやすくていいですね^^
言われてみれば確かに、店主側はプレッシャーを感じてしまうのかもしれませんね。
でも、少しでも親しく会話を交わすことでそれが軽減されれば・・・・・って、変な考えですかね(笑)
いや、きっと大丈夫だろう(笑)
投稿者 RAP : 2006年07月07日 19:49
「おまかせ」というのは、結局のところ、板前と客の勝負なんですね。これの行き着く先が魯山人というわけですか。
回らない寿司屋に行くことがあっても、「おまかせ」はしないでしょう。それよりも、タイムマシンで車内でにぎりずしが食べられた電車に乗ってみたいです。
・・・・・・・
ベビー日刊のコメント
> 車内でにぎりずしがたべられた電車
これ、ちょっとわからないんですが。
説明してくださいますか。
2006-7-7 21:35
投稿者 口は災いのもと : 2006年07月07日 21:00
すし食いてー♪すし食いてー♪
ちょっと違うか(^_^;)
大昔はスナック感覚だったらしいけど、鰯のグラムあたりの単価がトロを上回る変な時代では、特別な食べ物に成ってしまいましたね。
おまかせは板さんとの信頼関係が大事なので、自分の身の丈に合った馴染みの店を持てるかどうかに掛かる。
自腹で通えるかどうかで判断していた。
寿司職人の修行は勿論、結局行き着く所は人と人とのつながり合いだから、板さんの人間の幅が大きくモノを言う。
無論サービスを受けるこちらの許容度も問われるが(関係壊し型は何処でもノーサンキュー)そうしたアナログの所が厭わしく、ドライに行きたければ、ベルトコンベアーで流されてくる舎利に刺身が乗ったモノが有る。
回転寿司のクオリティーが上がったと言われても、養鶏場のニワトリを連想してしまい、ハレの日のハレの食べ物が穢れてしまう。
安ければ安い方が良いと言った考え方が、色々な文化を破壊し、味気ない世の中に変えて行ってしまうと思うのは自分だけだろうか。
現に、厳しい修行に付いていけず、客との遣り取りを負担に感じる若者が増え、後継者が育たないと言った話も聞いた。
早晩、おまかせの出来る寿司屋は消えていってしまうのでは無いだろうか。
馴染みの店が次々姿を消し、おまかせで意外なモノに巡り会えるという楽しみを奪われ、悶々とする今日この頃、皆さんは回転寿司で満(腹)足ですか~
投稿者 あるぱか : 2006年07月07日 22:33
すみません、トラックバックさせて頂きました。
ただちょっとライブドアの調子が悪いようで重複して入ってしまったようです。
申し訳ありませんでした。
投稿者 小○さん : 2006年07月08日 09:38
先日大阪北新地で創作フレンチ系のお店に行きました。
「ドリンクは?」
「あなたのお任せで^^」
一瞬固まるギャルソン風店員。
姉妹店のイタリアンではスラスラとお任せが通じていたので
「おやや?」
サラダは?と聞くので
「お腹すいているのでちょっとこってりしたのが良いな」
「えーーーーーーーとーーーーーーー…」
焦りに焦っている様子、
今まで聞かれたこと無いの??
そのあとの料理も「これどうですか?「はい美味しいですよ」
このレベル。
お一人様6000円。まぁ普通?
「接客」とはなんでしょう?
北新地にお店出すなら味と内装だけではなく
「こなれた演出」も期待したいのにな。
客との会話を途切れさせないこと、
会話と料理を全体をまとめて流すこと。
食事を外でするってことは
会話と料理と流れを遊びに行くのよん?
会話のタイミングを見て皿を引く、
たまに居ますよね?
「食べてるって」のに片付けに来る店員。
客を緊張させてどうするの~!
別の人に2杯目のお奨めを聞いたドリンクは
料理も中盤なので「イチジクの果実酒」
甘すぎずさっぱりでこれは大当たり。
その後行ったチープなダーツバーでの店長のお奨めカクテル
は「お腹いっぱいなのでグレープフルーツ系を」
満足の行く内容でした。
店の質や敷居、
立っている場所ではなく「接客の本質」=「お任せです」な。
投稿者 cream : 2006年07月09日 11:08
> 車内でにぎりずしがたべられた電車
1960年代の東海・山陽スジの153系急行列車のことですね。
設計上の手違いで軽食堂車の調理用の電源の容量が不足したという「災いを福に転じ」て,火を使わなくても提供できる「寿司」が好評を博しました。同じ事情から「蕎麦屋」を営業していた列車もありました。
投稿者 レイルファン : 2006年07月14日 09:40
なんとモスクワの空港の三階にもスシバー?スシカフェ?があります。たべたことはないけど・・・
投稿者 MINTTEA : 2006年07月18日 16:46
