2007年11月16日

最愛の夫失った場所で復活の女子レーサー:山本善憲

 最愛の夫や妻を突然、失うショックの大きさは、記者のような独身の身でも容易に想像はできる。競艇女子レーサーの佐々木裕美(28=山口)は今年2月、夫の坂谷真史(享年27)をレース中の事故で亡くした。

 誰もが危険を伴う職業だと覚悟はしていても、身近に起こった悲しみを割る切ることは容易ではない。記者は佐々木が引退しても仕方ないと思っていたし、もし自分が同じ立場に置かれても『復帰』という選択はできないだろうと感じていた。

 しかし、10月13日に佐々木は水面に帰ってきた。場所は事故の起きた悪夢の住之江競艇場だった。「夫と一緒に参加するつもりで、あえて(復帰の場所は)住之江を選びました。私が頑張って走ることによって、ファンの方々に坂谷を忘れないでほしい…」。

 できることなら忘れてしまいたいほどの深い悲しみ。それを自らが抱え込むことで、夫の存在をいつまでもファンの胸に刻みつけたい。壮絶な覚悟を胸に住之江参戦を決断した。

 復帰を決めた裏には別の思いもあった。忘れ形見となった子どものことだ。「父親がどんな仕事をしていたかを教えるためには、私が選手をしていた方が分かりやすいと思った。悩んだけど、子どものために選手を続けることにしました」。死と隣り合わせの危険な職業、子どものために選手を辞める選択肢もあっただろう。だが、佐々木は違った。父親はどんな人だったのか。どれほど尊敬できる人物だったのか。それを身を持って子どもに教えるために、あえて復帰の道を選んだ。

 復帰後4走は大敗が続いたが5走目には1着を取った。スタートを決めて、強気に攻め込む佐々木らしいレースだった。いったんは別の艇に抜かれたが、道中の再逆転で待望の白星。実戦から遠ざかるブランクは感じさせたが、レースの合間にはひたすら試運転を繰り返し、勘を取り戻そうとした。その姿は単純に、佐々木自身が『レーサーとして真の復帰を遂げる!』という思いだけのように映った。

 悲しみを乗り越えて、新たに前へと歩き始めた佐々木。ともすれば、涙のエピソードばかりが注目を浴びるが、記者はひとりの選手として真の復活を期待する。愛らしいルックスとは裏腹に、水面では勝ち気な姿勢を前面に押し出す。そんな場面を何度も見てきた。「旦那は私が出産したときも、選手をやめろとは言わなかった。私を応援してくれたし、尊敬してるとまで言ってくれた」。悲しみと絶望の淵から甦った佐々木の今後を心から応援したい。

November 16, 2007 08:20 PM 投稿者:山本善憲

2007年11月04日

名古屋の名伯楽が大毅にエール:八反誠

 「内藤-大毅」。社会問題化した10月11日のボクシング世界戦については日刊スポーツ紙上を含め、さまざまな報道が続いている。少し落ち着いてはきたが、依然としてJBC、所属ジムによる処分。当事者の会見など、新しい動きもある。

 東京が舞台のこの大騒動に、名古屋で複雑な思いを抱いている人がいる。名古屋きっての名門、松田ジムの松田鉱二会長だ。

 日本ボクシング史を彩る「世紀の一戦」の当事者。94年12月4日の「薬師寺-辰吉」の興行権を破格の3億4200万円で落札し、地元開催を実現させた。詰め掛けた9800人の大観衆を計903発のパンチの応酬で熱狂させ、2-0判定で薬師寺が勝利を収めた歴史に残る一戦を取り仕切った人物だ。当時大学生だった筆者も会場で熱狂した1人だった。

 「内藤-大毅」も入札ではなかったが、ファイトマネーの合計額3億ともいわれる破格の条件での日本人対決だった。

 共通点はあるが、違いは大きい。同会長はいまでも2~3カ月に1度は13年前の名勝負を録画したビデオをデッキに入れ、じっと見入るという。「とにかく見とると、気持ちがいいんだよね」。まな弟子の薬師寺が勝ったこともある。だが、両者が力を出し切り、正面からぶつかり合った名勝負だったから、格別な気持ちになれるという。

 大毅の今後も気遣っていた。実は薬師寺も世界を獲る前に、今回の大毅と似たような出場停止処分(6カ月)を経験している。原因はリング外の不祥事(公道での暴走行為)によるもので、今回のリング上の暴挙とは一線を画す。だだ、リングに上がれない状況はほぼ同じだった。

 耐えるしかない6カ月。厳しいトレーニングに付き合った日々を思い返し同会長は「(大毅は)まだ若い。6カ月と1年は違うかもしれないが、もう1度やり直すことは、できるはず」とも口にした。

 表面上は父離れから出直した格好になった亀田3兄弟。もちろんベルトも大事だが、現役引退から10年以上たっても何度も見返したくなるような名勝負、心躍るそんな財産を目指したらどうか--名古屋の名伯楽の優しい口調は、そう訴えかけているようにも感じた。

November 4, 2007 07:18 PM 投稿者:八反誠