2006年05月27日

水面の好走支えるのは陸での走り:津波謙次

 約1400人いる競艇選手は、最低体重を男子50キロ、女子47キロに定めてレースしている。体格のある選手たちは、食事の量を減らしたり、宿舎内のサウナに長時間入るなど様々な減量方法に挑む。

 しかし、重野哲之(さとし・27=静岡)の場合はマラソンでダイエットに成功した。身長170センチと恵まれた体格だが、長野県・本栖競艇学校(97年当時)に入学する前の体重は60キロ。「減量をテーマにジョギングを始めた」。黙々と頑張ったが、体重は減らず56~58キロを行ったり来たり。そんな重野に突然の転機が訪れた。

 師匠となる片山友多加(43=静岡)との出会いだった。甘えを許さず、片山自身が厳しいトレーニングで体をイジめるため、重野も減量のペースが上がった。ジョギングする距離を年々延ばし、今ではフルマラソンとハーフマラソンを1年に2、3回ずつ走るまでに成長した。「僕って1つのことに没頭するのが好き。体重を落とすためにどうしたらいいのか、本をたくさん読みました」。食事にも気を配った。独学で食材の栄養素やカロリーを調べたりもした。「エンジンを出すためにプロペラを叩くのと考えは一緒。家のなかにはトレーニング機器だらけ」と重野は苦笑いする。

 現在は早朝5時に家を出て約2時間走り込み。1歳をすぎたばかりの子供が起きるまでに帰ってくる。新陳代謝が激しく1日3、4回の食事をしても体重は51キロ前後をキープ。先月16日に参加した「第1回掛川・新茶マラソン」では、3時間40分台でフルマラソンを駆け抜けた。体にキレが出た効果でレース面も地力が強化。今年はすでに3回優勝し、3月の住之江G1では自力で優勝戦1枠を獲得。惜しくも2着になったが「勉強になることが多かった」と振り返る。

 今の目標は、10月に福岡競艇場で行われるSG「全日本選手権」出場権をゲットすること。選考期間の7月いっぱいまで勝率アップに奮起する。「6月11日から1カ月、フライング休みがあるんで、その前後は頑張って勝率を取りたい」。心身とも充実している重野の活躍から、今後も目が離せない。

May 27, 2006 10:40 AM 投稿者:津波謙次

2006年05月19日

限界と戦い続ける鉄人・室伏の「金言」:八反誠

 鉄人の言葉である。そのまま記す。

 「ある所を超えると、そのトレーニングではその上には行けなくなるところがある。結局は自分自身が編み出す以外ない。最近は自分でつくった練習以外、効果がなくなってきた」

 

 アテネ五輪男子ハンマー投げ金メダルの室伏広治(31=ミズノ)が16日、会見で独創的な練習の意味を問われ、こう答えた。16 ポンド (7・26キロ)のハンマーを80メートル以上も遠くへ投げる鉄人は、自らの発想と感性を頼りに1センチでも遠くに目をむけていた。

 公開されたウエートトレ。そのすべてが初めて見る一風変わったものだった。バーベルのシャフト、体をねじる動作で抱えるプレート、すべてのトレーニングで使用する器具にハンマー(鉄球)がつり下げられていた。室伏は「全部が意味のあること」「筋力を鍛えるより、感覚を磨く」とその理由を補足した。充電期間中に編み出し、昨年取り入れたものだった。

 単純に飛距離はパワー=筋力に比例する、と考えるトレーニング法もあるという。「●メートルを投げる選手ならばフルスクワットで最低□キロ」といった具合。だが、室伏はそれはあくまで目安でしかないと考えているようだ。

 「奥底に眠っている可能性をどうやって目覚めさせられるかがウエートトレーニング。方法を開発していくことが大事」

 さまざまな競技に科学的なアプローチがなされ、どの競技でもウエートトレーニングは身近になった。だが鉄人と呼ばれる最強のアスリートは、器具よりも自らの体と向き合う姿勢を何より重視していた。
 五輪で世界の頂点に立ち、土台となる筋力を極限まで鍛え上げた室伏の理論を、他のすべての競技の選手に当てはめるのは無理があるし、何より失礼だ。だがその姿勢からなら、だれでも真似ができるのではないだろうか。

 さらに、冒頭のフレーズにはスポーツという枠を超えて訴えかけてくる重みがあるようにも感じた。

 これを「金言」といわずして、何という。

May 19, 2006 10:50 AM 投稿者:八反誠

2006年05月13日

水面去った御大が願うこと:山本善憲

 3月21日の常滑でのレースを最後に、愛知の名物競艇レーサーだった谷川宏之さん(66)が引退した。競艇は選手寿命が長く、例えば祖父と孫が同じレースで戦うような状況も珍しくない。60歳を超える選手と、10代の選手が一緒に走り、60代の選手が勝利する。競馬、競輪の公営競技はもちろん、体が資本の他のプロ競技では考えられないことだ。

 谷川さんを始め、競艇は60歳を超える選手が多くいるが、一定の成績を収めないと業界には残れない。当然、それなりの体力も要求される。「実家は料理屋で漁師もやっていた。小さいころから漁に出る船に乗ったりして仕事を手伝った。昔はみんなそうだったよ。その時に体が鍛えられて、この歳まで選手を続けられたと思う。今の若い子たちは60歳までは続けられないだろうね」。プライドに満ちた言葉には、42年以上も過酷な世界を生き抜いてきた重みがある。

 選手時代には数々の栄光もあったが、引退を機に口をつくのは業界を案じることばかり。特に、競艇人気の復活を思う心は強い。「今は選手の個性がない。レースが単調になって、ファンにも『最近は面白くない』とよく言われたよ…」。

 競艇は6人で争うが、レースでは枠番通りに並ぶとは限らない。昔は、ベテランや実力者が有利なインや内のコースへ入り、若手はアウトコースからスピードを磨いた。その構図が競艇のだいご味だった。ただ、近年は若い選手でもどんどんコースを主張する。それ自体はルール違反でも何でもないが、段階を経て強くなっていく、かつての流れはなくなりつつある。このことは若い世代の変化とも微妙にリンクしている。
 「今の選手は養成所から個室でしょ。団体行動の中でこそ学べる大切なこともあるのにね。先輩に教えてもらうこともそう。みんながそうではないけど、最近の若い子は、あいさつできない子も多いでしょ」。何も年功序列を盾に、先輩風を吹かせるわけではない。実際、レース場での谷川さんは、若い記者たちに対しても、いつも自分の方からあいさつをしてくれた。

 「本当はもっと選手を続けて、いろいろと教えてあげたかったけどね…」。本当にそう。地元御大が水面を去ったことは、一競艇ファンとして単純に寂しい。

May 13, 2006 10:33 AM 投稿者:山本善憲

2006年05月09日

きっと必要になるベテラン落合の「力」:伊藤馨一

 中日投手陣から、長年ブルペンのリーダーとして引っ張ってきたベテランの姿が消えた。98年からセットアッパーとしてフル回転してきた落合だ。開幕から1カ月。チーム防御率がリーグ5位と投手陣が低迷しているが、故障などもあり、かつての最優秀中継ぎ投手にはまだ1軍からの「お呼び」はかかっていない。実力の世界なのは分かっているが、何か「違和感」を感じながら試合を見ている。

 「なかなかチャンスが巡ってこないですね。でも頑張らないといけない」。落合は日焼けした顔でこう言った。今季は2軍で2試合に登板して防御率0・00。調子が上向いていた中でわき腹を痛めた不運もあって、4月8日の登板を最後に実戦から遠ざかっている。そんな状況に陥っても、決してグチはこぼさない。2軍で連日のようにランニング中心のメニューで精力的に汗を流している。

 今年37歳になるベテランにとって、背水の決意を胸に秘めたシーズンだ。昨年は先発としてスタートしたが、途中でリリーフに配置転換となった。だが、終盤には2軍落ち…。31試合に登板して2勝1敗、防御率は4・72。不本意な数字だけが残った。03年オフに結んだ3年契約の最終年ということはもちろんだが、それ以上に役割や1軍の確約がなかったことが落合の立場の厳しさを表している。

 3年契約最終年の落合監督は、優勝が至上命題。今季は我慢のないさい配で首位巨人を追撃している。開幕から結果が出なかった岡本、高橋聡の2人も簡単に2軍に落とされた。そんな状況では、ベテランへの配慮は期待できないだろう。それでも、落合は「今、上(1軍)のピッチャーが苦しい状況にあることは分かっていますよ。まず呼ばれるように頑張って、何とか力になりたい」と話した。

 落合監督の方針で今季、支配下選手69人のうち、半数以上の35人が投手が占める。1軍は12人。川上ら先発5人と平井、岩瀬は故障などがない限り、2軍落ちはないだろう。残り5枠。落合にとっては狭き門であることは間違いない。だが落合には他の投手にないものがある。ある投手は言った。「ブルペンに英二さん(落合)がいると落ち着きます」。苦境にも前向きなベテランの力が必要となる時は、きっとくる。

May 9, 2006 02:30 PM 投稿者:伊藤馨一