2006年07月01日

「魂」体現した杉田、物語の続き:北村泰彦

 6月のある日、畑中ボクシングジムをのぞくと懐かしい顔があった。杉田竜平(29)だ。今年2月の東洋太平洋タイトルマッチのTKO負けで現役引退。もう5カ月がたとうとしている。いつからジムに? 一心不乱にサンドバッグを打ち込む姿を見ながら、畑中会長に訊ねると「6月からほぼ毎日来ている」と言う。

n-sp-060701-02.jpg 今年2月の東洋太平洋戦で王者スイコ(左)と戦った杉田

 7月16日には引退式がある。けれど、記念スパーリングの予定はないから、体を鍛える必要もない。それでもジムを訪れるのは、ボクシングへの飢餓感なのだろうか。記者が抱いた疑問は当たりでもあり、外れでもあった。「やめた後、思い切りサンドバッグを叩きたくなることがあるんですよ。筋肉痛になるけど」。苦笑いをしながら、杉田は続けた。「後輩たちにハッパをかけに来てるんです。教えるのってけっこう面白い」。その答えを聞き、「そう来なくちゃ」とヒザを打つ思いだった。

 杉田のボクシング人生は畑中ジムの歩みそのものだった。創設間もない畑中ジムに、飛騨古川から単身入門。ひたむきなファイトで、網膜裂孔など逆境を乗り越え、日本王者に2度就いた。世界王者にはなれなかったが、同ジムのプロ1号生として、畑中会長が何より大切にする「魂」のボクシングを11年間続けた。引退後の進路は自由だ。それでも、畑中ジムの志を後進に伝える存在として、彼は適役なのではないか。そう思っていた。

 畑中会長は「トレーナーに? うん、いずれ戻ってくるのは分かっとるんだけどね」と確信の笑みを浮かべていた。杉田も否定しなかった。「自分でもそうなるのかなあ、という予感がなくはないですね」。あとは「ニート改めジプシーです(笑)」と自虐的に表現する生活基盤を整えてからだろうか。今度は畑中会長、杉田トレーナーのコンビで世界王者を-。号泣のTKO負けで幕を閉じた魂の物語には、まだ続きがありそうな気配だ。

July 1, 2006 11:11 AM 投稿者:北村泰彦