2007年12月12日

Vにヤジ、競輪は人間が走るから面白い:村上正洋

 異様な表彰式だった。ファンから心ないヤジも飛んだ。ヒーローも複雑な表情だった。

 競輪はあくまで個人競技。しかし、最終4コーナーまではラインと呼ばれるいくつかのグループに分かれての対抗戦だ。風圧による体力ロスを避けるため、選手は前の選手を風よけに使う。レースが動き出すまで9人が1列棒状に並んで走っているのを見たことがないだろうか。だいたい残り1周半を迎えると各ラインの駆け引きが始まる。機動力に自信のある選手が仕掛けて、そこに同県、同地区、遠征同士、あるいは競輪学校の同期など、つながりのある追い込み選手が続く。

 各ラインの先頭を走る選手は、自転車1台分のリードを生かして逃げ切りを図るが、最後は力尽きることが多い。競輪選手のトップスピードは時速60キロを超える。先行した選手は全身で風を受けているのだから失速するのも無理はない。有利なのは先行選手の真後ろ(2番手)にいる選手だ。脚力を温存してゴール前で先行選手を抜けばいいのだから。3番手、4番手になるにつれて勝ち目は薄くなる。

 各競輪場では年に1度、全国からトップクラスを集めて開設記念競輪が開催される。お祭りであり、地元選手にとっては晴れ舞台だ。先日行われた一宮記念決勝戦で中部ラインの先陣を任されたのは北京五輪代表候補の永井清史(岐阜)。同県の山口幸二(岐阜)が続くと思われたが、地元の主役・一丸安貴(愛知)に2番手の位置を譲って自身は3番手と宣言した。ファンも山口の意図を感じ取ってか一丸が断トツの1番人気だ。

 レースは予想通り中部ラインが主導権を奪った。ゴール前で一丸が永井を捕らえたが、なんと3番手から山口が強襲して優勝をさらったのだ。一丸の優勝を信じて車券を買ったファンが、表彰式に臨む山口にば声を浴びせた。しかし、競輪は勝負なのだ。面食らった山口も一瞬、エキサイトしたが、すぐに冷静になり「ボクから買ってくれたお客さんもいる。全力で勝負しなきゃ一丸君にも失礼になる」とファンに説明した。地元Vを逃した一丸もだれを恨むわけでもなく「自分の力不足。ただ、それだけです」と潔かった。ラインの絆と個人の勝負。競輪は人間が走るから面白い。

December 12, 2007 03:37 PM 投稿者:村上正洋