2006年04月07日
「世界一」帰国して実感した福留:鈴木忠平
3月23日、東京駅。前日にワールドベースボールクラシック(WBC)から帰国したばかりの中日福留はうれしいショックを受けていた。名古屋行きの新幹線に乗り込むと、いきなり初老の紳士が右手を差し出してきた。「福留さん、ありがとう」。サインを求められたわけではない。およそ野球ファンとは見えない人から、ただ感謝だけを告げられた。世界一の立役者は一瞬おどろいたような表情を見せ、すぐに笑顔で握手に応じた。
WBC戦士が米国へ行っていた2週間、日本人の野球を見る目が変わった。たまたま休暇中だった記者は、準決勝の韓国戦での福留の代打決勝2ランを東北地方の温泉旅館で見た。その瞬間、ロビーのテレビ前では療養中の老人たちが大きな拍手。そのことを福留に伝えると「そうか。ハハハッ」と笑った。これが国際大会のパワーだと思う。
世界のサッカー少年はみなその国々の代表チームを夢見る。世界最大のスポーツイベントW杯があるからだ。ただ、これまでの野球は「巨人に入りたい」「メジャーリーガーになりたい」という少年はいても「日本代表になりたい」という子供はいなかったはずだ。世界各国が国を代表し、誇りをかけて戦う。ファン拡大を目指すなら、これほど魅力的な大会はない。帰国したばかりの選手、関係者はそれを強く実感したはずだ。
もちろん代表に関わった者には尊敬が集まり、義務と責任が生じる。名古屋への移動中の車内でトイレに立った福留が、また笑顔で戻ってきた。「今度はおばあさんに声をかけられたよ」。今度もサインを求められたわけではなく、祝福と感謝の言葉を受けたそうだ。世界一となった代表選手はこれまで野球に関心のなかった老若男女からも注目される。名古屋に帰る新幹線で、福留に新しい自覚が芽生えたのは間違いない。無様なプレーは出来ない…。そう、この日、車内であった2人の老人もおそらくこれからの福留を見ている-。
April 7, 2006 11:24 AM 投稿者:鈴木忠平
