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北海道発・記者ブログ

2007年11月30日言正貧語

 先日、久々に東京・国立競技場に足を運んだ。サッカーU-22(22歳以下)日本代表の北京五輪アジア最終予選最終戦(対サウジアラビア)をスタンドで観戦した。反町ジャパンは0-0で引き分け、C組1位となり、4大会連続8度目の五輪出場を決めた。同代表の試合で過去最多となる、4万2913人のサポーターが、スタジアムを埋め尽くした▼入場時、無料で配布されたブルーのフラッグに「オレたちには声という武器がある」と記されていた。しかし、である。あくまで個人的な感覚ながら、ピッチ上のエネルギーは、スタンドまで伝わってこなかった。やるか、やられるか。刹那(せつな)のプレーに、観衆を巻き込むまでの闘志や気迫は、感じられなかった。だから、呼応できなかった。五輪出場をかけた大一番で、唯一の『武器』を使うことなく、試合終了のホイッスルを聞いた▼確かに、チームコンセプトは機能していた。次代のA代表を担う、若く、才能あふれる選手たちは90分間、泥臭く、体を張った。前半9分、無人のゴールに打ち込まれたシュートをクリアする、MF青山敏のプレーが、この日の試合を象徴していた。個々の身体能力やスピード、スキルに勝る強豪相手に最後まで得点を許さなかった。ただ、勝てなかった▼「ライオンに追われたウサギが逃げ出す時に、肉離れをしますか?」。試合後、イビチャ・オシム日本代表監督の『語録』をかみしめた。サッカーはときに、生死をかけた、戦争に例えられる。国家の威信と誇りをかけた代表戦なら、なおさらである。だからこそ、ひた向きなプレーが、見る者の心を打つ。祖国である旧ユーゴスラビアの崩壊やボスニア紛争といった、戦火をくぐり抜けてきたオシム監督の言葉は深く、重い▼北京五輪アジア最終予選の対ベトナム戦を翌日に控えた11月16日、オシム監督が病に倒れた。急性脳梗塞(こうそく)で入院加療を余儀なくされた。日本サッカー協会の川淵三郎キャプテンは「治って欲しい」と、涙した。かつて率いたJ1千葉の選手およびサポーターは千羽鶴を折り、回復を願った。ベトナム戦、サウジアラビア戦のスタンドに『頑張れオシム』の横断幕が掲げられた▼自身の経験を重ね合わせた。00年晩秋、当時65歳の父親が、体調の異変を訴えた。母親からのSOSで出社前に実家に立ち寄り、車で病院まで送り届けた。診断は脳梗塞(こうそく)だった。大事に至らず、一命を取り留めた。その後、寝たきりとなり、後遺症で言葉を失った。「大丈夫?」「いいから…、早く、仕事に行きなさい…」。病院の待合室で交わしたやりとりが、最後の会話となった▼言葉のない世界は、想像できない。人と人、心と心の懸け橋であり、意思疎通や自由な発想の原点である。雑誌ブルータス(マガジンハウス刊)は、10月15日号で『言葉の力』を特集している。<一篇の詩が世界を変える><詩人は死して言葉を残す><一流のリーダーの言葉は詩である>…。古今東西のアーティスト、作家、詩人、政治家らの言霊を取り上げ、その影響力を説いている。同誌の表紙は『WAR IS OVER! IF YOU WANT IT』のポスターを手にする、ジョン・レノンとオノ・ヨーコだった▼ジョン・レノンは、ビートルズ脱退・解散後の71年にソロアルバム「イマジン」を発表した。タイトル曲は、全世界で共感を呼んだ。心安らぐ旋律にシンプルな言葉で反戦のメッセージをちりばめた。<国なんかないと思ってごらん 難しいことじゃない 殺し合いのもともなくなり 宗教もなくなり みんなが 平和な人生を送っていると思ってごらん>(対訳・今野雄二)▼そして、同年発表のシングル「ハッピー・クリスマス」(戦争は終わった)で、こう訴えた。<さあ この辺で争いはやめようじゃないか>(同・山本安見)。12月8日は、凶弾に倒れた希代の才人の27度目の命日である。同日、ドキュメンタリー映画「PEACE BED アメリカVSジョン・レノン」が公開される▼以前、戦争の悲劇を心と体に刻む、オシム監督からある言葉の真意を学んだ。自著「日本人よ!」(新潮社刊、長束恭行訳)で次のように語っている。<私の言うリスペクトとは、「すべてを客観的に見通す」という意味である。すなわち、「客観的な価値を見極める」ということだ>…。だから、謙虚になれる。ニュートラルな目を養える。「敬う」という行為に至る、奥深さであり、尊さである、と痛感した▼さらに、である。同著のエピローグでサッカー観を語っている。<サッカーとは、人生である><なぜなら、人生で起こることは、すべてサッカーでも起こるからだ>-。巡り合わせなのか。病魔に襲われた『11・16』は、W杯初出場を決めた、あの「ジョホールバルの歓喜」から、ちょうど10年の節目だった。後任人事に着手した日本サッカー協会は、当時の代表監督、岡田武史氏と正式交渉する、という▼10年W杯南アフリカ大会の各大陸予選の組み合わせが25日、決まった。アジア3次予選に臨む日本は2組に入り、タイ、バーレーン、オマーンと対戦する。祖国から遠く離れた極東の地に根を下ろし、志半ばで倒れたオシム監督が健在なら、どのようなチームを編成するだろうか。U-22世代から、何人の選手が、A代表入りを果たすだろうか。今はただ、早期の回復を願うしかない。

白船 誠日(しらふね まさひ)

 北海道札幌市出身。92年北海道本社入社。編集部、販売部、編集部、営業部、編集部を経て07年4月から編集部東京駐在。過去にサッカー、高校野球など担当。1963年12月生まれ。

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