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北海道発・記者ブログ

2007年9月13日転成貧語

 ▼映画「HERO」が8日、公開された。主演の木村拓哉は日刊スポーツの連載企画で「(主人公の久利生は)等身大なんです」と話している。サンスクリット文法学者のバルトリハリは著書「処世百頌」に「最も偉大な英雄はだれであろうか。おのれの欲望を支配する者である」と記す。古今東西、時代は常に、ヒーローを求めている▼オリコンは先ごろ「世界に誇れる日本人ランキング」を発表した。男性編1位はイチロー。女性編1位は吉永小百合と菊地凛子だった。男性編3位の北野武、4位の木村、8位の宮崎駿、女性編4位タイの谷亮子、9位のオノ・ヨーコ、10位タイの緒方貞子ら、各界の著名人が名を連ねた。男女計21人のトップランナー中、男性編10位にただ1人、故人がランクインした。映画監督の黒沢明(享年88)である▼にわかに、黒沢ブームである。缶コーヒーのテレビCMで桑田佳祐と共演? テレビ朝日は8、9日の2夜連続で黒沢作品の平成版ドラマを放送した。「天国と地獄」(63年)「生きる」(52年)をリメーク。佐藤浩市主演の「天国と地獄」は小樽市で撮影された。演出の鶴橋康夫氏は「黒沢さんへのオマージュになっています」と話した▼まさに「温故知新」である。先日、東京・築地の鉄板焼レストラン「Kurosawa」に足を運んだ。中小路にたたずむ築80年の民家で映画「乱」(85年)のポスターに出迎えられ、黒毛和牛のステーキを堪能した。摂氏300度の鉄板と複数のタナー(調理用のコテ)を自在に操るシェフは、付け合わせのモヤシでさえ、妥協を許さなかった。「熱の与え方ひとつで、その姿を変えてしまいますから…」。世界のクロサワに通じる、職人気質(かたぎ)を体感した▼黒沢監督の「こだわり」は半端じゃなかった、と聞く。映画「夢」(90年)の撮影時、たった1カットのため、女満別町(現大空町)の畑を丸ごと1年間借り上げ、カメラを据えた。ときに、予算や演出方針をめぐり、製作会社や出演者と衝突した。森鴎外は「舞姫・うたかたの記」に「英雄豪傑、名匠大家となるには、多少の狂気なくてかなはぬこと」と著す。だからこそ、ジョージ・ルーカス、フランシス・F・コッポラ、スティーブン・スピルバーグなど、クロサワ崇拝者は多い▼さらに、である。名作「椿三十郎」(62年)が現代によみがえる。森田芳光監督、織田裕二主演で12月に公開される。「の・ようなもの」(81年)でデビューした森田監督は「家族ゲーム」(83年)「失楽園」(97年)などの作品に世相を反映させてきた。今回の制作発表時に「時代によってヒーロー像は変わる。三船さんのような映画界のヒーローはだれか? 直感的に織田裕二じゃないかな、と思った」と話した▼同作のオリジナル版をビデオで見た。主演の三船敏郎(享年77)はまぎれもなく「昭和のヒーロー」だった。宿敵役の仲代達矢、若侍役の加山雄三、田中邦衛らをわきに従え、圧倒的な存在感を誇示した。クライマックスの決闘シーンで日本映画史上に残る、ざん新な殺陣を披露した。また、城代家老・睦田夫人役の入江たか子が秀逸だった。絶妙な間合いとセリフまわしで「男は黙って…」の三船からコミカルな一面を引き出していた。痛快時代劇たる、ゆえんだった▼オリジナル版の三船はラストシーンで「あばよっ」と、肩で風切り、去っていった。映画評論家の故淀川長治氏は著書「黒澤明を語る。」で「黒澤作品がすばらしいのはなんといっても映像で、画がぜんぶ詩になっているものね。そのうえ音楽がいいのね」と評する。織田主演の「椿三十郎」は、森田流の調理法で、どのように姿を変えるのか。つばきの花言葉は「気取らぬ優美」「理想的な愛情」である。

白船 誠日(しらふね まさひ)

 北海道札幌市出身。92年北海道本社入社。編集部、販売部、編集部、営業部、編集部を経て07年4月から編集部東京駐在。過去にサッカー、高校野球など担当。1963年12月生まれ。

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