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北海道発・記者ブログ

2007年6月10日「カレーなる一族」の味

 「カレーなる一族」の味は格別? だった。先日、自宅マンションからほど近い、東京・築地市場を散策した。魚河岸内を縦横無尽に行き交うターレ(注1)にひかれそうになりながら、青果部の北東に位置する、1号軒の食堂街にたどり着いた。ほのかに漂う「カレー臭」ならぬ「スパイスの香り」に誘われ、築地名物「印度カレー中栄(なかえい)」(注2)ののれんをくぐった。

 メニューは「インドカレー」「ビーフカレー」「ハヤシライス」(以上500円)「合がけ」(注3=600円)の4種類。店名にある「インドカレー」の大盛り(100円増)とみそ汁(50円)を注文した。オーダーからわずか10秒足らずの早業で自慢の逸品が運ばれてきた。てんこ盛りのキャベツの千切りに戸惑いつつ、大ぶりのスプーンを口に運んだ。ほどよい辛さとコクのある甘み…。昔なつかしい、味がした。

 1912年創業の中栄は関東大震災後、日本橋から築地に移転した。4代目店主は「場内といえば、世襲制が当たり前ですから。ただ、景気が悪くなって、後を継ぎたくないっていう人も…」と話す。常連さんは「合がけの大っ! 3つで」と、ルー3種盛りの大皿をあっという間に平らげる。10数席の店内は入れ替わり、立ち替わり、客であふれている。早く、安く、うまく、ボリュームたっぷり。95年間守り続ける伝統の味が、気っ風のよい魚河岸衆(注4)の胃袋を満たしている。

 「ばぁちゃんのカレー」を思い出した。中栄と同じ、12年生まれの祖母は「カレーライス」じゃなく「ライスカレー」(注5)にこだわっていた。タマネギ、ニンジンなどの野菜と豚バラ肉をしお・こしょうでおおざっぱにいため、お湯を加え、じっくり煮込んだ。市販のルーを使わず、目分量で水溶きの小麦粉を加え、S社のカレー粉で仕上げた。隠し味はしょうゆだった、と記憶している。中途で一部取り出す「野菜いため」は、祖父の酒のさかなとなった。

 ごろごろしていたジャガイモが溶け始めたら、食べごろだった。飾り気のない、素朴な味わいだった。翌日は、使い古したなべ底で淡黄色に固まっているカレーにお湯を加え、再び煮込み、揚げたてのトンカツをトッピングもらった。当時、両親ともに仕事を持っていた。祖母が家事一切を仕切っていた。96年に他界した、頑固でかわいい、ばぁちゃんの「味」に育てられた。満州(中国北東部)で終戦を迎え「世のため、人のため」が口癖だった。

 この時期、札幌・円山球場(注6)の「カレーライス」(500円)が無性に恋しくなる。白船きよの「手作りカレー」(無料)に負けない? 昔ながらの素朴な風味が食欲をそそる。取材の合間に食堂に駆け込み、大盛り(600円)の食券を購入する。なじみのおばちゃんは、皿からあふれんばかりに、カレーを盛りつけてくれる。高校野球や大学野球の大会期間中は連日、通称「特盛り」のお世話になる。なぜか、食べあきない味である。

 同球場内の食堂および売店は野球シーズンの期間限定営業である。4月下旬から10月中旬の約6カ月間、野球ファンのために腕を振るう。おばちゃんに「味の秘けつ」を聞いてみた。「特別なことはしてないさ。最初に肉をいためるとき、ニンニクとおろししょうがを使うくらい。何年も前に退職した人が作ったレシピを受け継いでね。隠し味はケチャップかな…」。仕上げにカレールーを加え、1日に最大200食を仕込むという。

 夏の甲子園につながる、高校野球の道内各地区予選は23日の函館地区を皮切りに、熱戦の火ぶたを切る。天王山の南北北海道大会は7月14日(北北海道=旭川スタルヒン)と同16日(南同=札幌円山)に開幕する。昨夏、高校野球を担当した。円山カレーを堪能しつつ、エース田中将大(楽天)率いる駒大苫小牧の南大会4連覇(注7)を見届けた。特待制度問題に揺れるこの夏、いったいどのチームが頂点に立つのだろうか。球児たちにカレーでライス(ナイス?)なプレーを期待したい。

 ※注1=ターレ(たーれ) 正式名称は「ターレット・トラック」で朝霞製作所の登録商標。ターレットは「旋回するもの」の意。せまい通路で小回りが利き、低い荷台を持つ運搬車。市場で活躍。

 注2=印度カレー中栄(いんどかれーなかえい) 1912年創業のカレー店。現在の所在地は東京都築地5の2の1 中央卸売市場内1号軒。前身は日本橋の和食処「中江」。メニューは辛口インドカレー、甘口ビーフカレー、トマト風味ハヤシライス、合いがけ、野菜スープ(300円)など。大盛り100円増、特大200円増。びんづめのおみやげカレー、お弁当カレーあり。営業時間は午前5時~午後2時。

 注3=合いがけ(あいがけ) 中栄の人気メニューでインド、ビーフ、ハヤシから2種類のルーを選ぶ「ハーフ&ハーフ」。常連さんの裏メニュー? は3種類の合いがけ。人気漫画「築地魚河岸三代目」(ビックコミック掲載)に登場。

 注4=魚河岸衆(うおがししゅう) 広辞苑によると、魚河岸は魚市場のある河岸(かし)の意。東京都中央卸売市場本場魚類部の通称。河岸は(1)河川の岸の舟から人または荷物を揚げおろしする所(2)河岸に立つ市場、など。「河岸を変える」は飲み食いや遊びの場所をかえること。魚河岸衆は魚河岸で働く人々。

 注5=ライスカレー(らいすかれー) 和製語でカレーライスに同じ。カレーライス【curry and rice:curriied rice】はインド風の料理。肉・野菜などをまぜて煮た汁にカレー粉・小麦粉を加え、米飯にかけたもの(以上広辞苑)。テレビドラマ「ライスカレー」(86年にフジテレ系で放映)は劇中でカレーライスとライスカレーの違いに言及。田中邦衛のせりふに「ライスカレーってのは、ジャガイモやニンジンが最初からごちゃごちゃ入っていて、らっきょうと福神漬けが横についてて、スプーンがコップの中に突っ立って出てきて、うんでもって…(略)」とある。

 注6=札幌・円山球場(さっぽろ・まるやまきゅうじょう) 1934年に札幌神社外苑球場として竣工。35年に札幌市に移管され、札幌市円山球場としてオープン。53年に道内初の日米野球を開催。74年の大規模改修を経て、現在に至る。77年から中島球場(80年閉鎖)に代わり、高校野球南北海道大会の舞台となる。96年は長嶋巨人のメークドラマの起点に。正面玄関右手に00年当時のプロ野球12球団監督の直筆サインが飾られている。所在地は札幌市中央区宮ヶ丘3。

 注7=駒大苫小牧の南大会4連覇は史上初の快挙。2連覇は北海の2度(50~51年、53~54年)、札幌商(79~80年)、函館大有斗(81~82年)の各1度。連続出場の最多連勝は駒大苫小牧の16連勝(03年1回戦~06年決勝)で現在継続中。

白船 誠日(しらふね まさひ)

 北海道札幌市出身。92年北海道本社入社。編集部、販売部、編集部、営業部、編集部を経て07年4月から編集部東京駐在。過去にサッカー、高校野球など担当。1963年12月生まれ。

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