2008年02月24日
上野樹里の表情にきゅいーん
「奈緒子」(日)
はためく旗に海からの風、セミの声に波の音、フェリーの汽笛…。高校駅伝を描いた作品と聞いていたので、ちょっと苦手な「スポ根、青春」ものを想像していたのですが、いい意味で裏切られました。登場人物たちの心情に沿うような自然の音が心地よくて、かなり切なくて。
陸上部のマネジャー奈緒子役の上野樹里、ランナーを演じた三浦春馬のセリフも少なく、その分、表情で見せています。口をとんがらせて「ぶ~」「うきゅきゅ~」と擬音語を連発していた「のだめカンタービレ」のイメージが強かった上野ですが、新境地と言ってもいいくらい。コメディエンヌの称号に加え、勝手に演技派を進呈したいです。台本にはきっと「…」が多かったんでしょうが、いろんな表情の「…」が。きゅいーんとします。
途中の長回しも必見。奈緒子が東京から、小さな島へ来た日。笑福亭鶴瓶演じる陸上部監督の自宅裏にごみを捨てに行くシーンです。歩いて来る奈緒子。木々を見て、風を感じるように空を見上げる奈緒子をカメラがずーっと追っていきます。こういう感じ分かるなあ、分かる、分かるよってな感じ。奈緒子が子供のころに負った心の傷を知っているので、このシーンもまたツボなのです。ここでも、そよそよと吹く風の音が優しげに聞こえてきます。
静かで切ない青春映画。青春まっただ中の人にも、かなり昔に青春を終えた大人の方にもおすすめです。【小林千穂】
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2008年02月17日
走るL自転車のL、ウ~ン…
「L change the WorLd」(日)
女子中高生の間で「松ケン」と言えば、松平健ではなく、松山ケンイチを指すらしい。「デスノート」は若き松ケンの名前を浸透させた出世作の1つ。熱い支持からスピンオフ企画が生まれて主役に出世したが、いろいろな意味で孤軍奮闘が光っていた。
天才探偵L役は3作目。猫背やひざを抱えるようにして座る独特なしぐさ。「原作に似ている」と激賞される丁寧なキャラクター作りは、相変わらずホレボレする職人芸だった。
今回は引きこもりの天才が外に出て全力疾走したり必死で自転車をこぐなど、隠れざる人間性に焦点を当てた。だが、孤高の天才ぶりがLというキャラクターの最大の魅力。意図は分かるが、キャラを薄めることに納得できる展開にはあと1歩だった気がする。
「デスノート」の見どころは、Lとキラ(藤原竜也)の息詰まる頭脳戦。一方、本作の敵はバイオテロ集団。菌力で瞬時に人が殺され、生死をかけたスリリングな駆け引きも少ない。
「リング」の中田秀夫監督が3作目にして初めてメガホンを執った。人が叫びながら死ぬシーンでは、「リング」をほうふつとさせる場面も。スリリングな展開が持ち味の作品に微妙なホラー…。ハリウッドも認めるホラーの巨匠に中途半端な演出はもったいない。
ベテランを多用したがキャラクターが濃すぎる感も。たとえば南原清隆のFBI捜査官役。お笑いのイメージが離れず、捜査官は仮の姿で実は悪役なのではと、最後まで勘ぐっていたほど。突っ込みどころは満載。そういった面から楽しむという手もある。【近藤由美子】
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2008年02月10日
小説とは違い味付けあっさり
「チーム・バチスタの栄光」(日)
“手術”の成果に注目して見ました。原作はとにかくキャラクターが立ち、味付けは濃く徹底していました。主人公は、難易度の高い心臓手術の専門集団「チーム・バチスタ」を襲う、不可解な術中死の解明を命じられる医師。出世欲もなく病院内の人間模様をシニカルに見つめています。そして真相究明のため厚生労働省から派遣された役人に対する目線は、原作の大きな魅力でした。
この役人はKY(空気を読めない)なんて言い方はなまぬるい。目的達成のためには時に人の心を傷つけても構わないという怪物。あっけにとられ戸惑う主人公がとにかく面白い。
映画は主人公の味付けを薄味にしました。設定を中年男から若い女性に変えました。竹内結子演じる医師は、おっとりとしたお人よし。だらしなく内またでふらふら歩き、話し口調もしまりがない。頼りない印象ですが、周囲を見つめる目線はあくまでやさしく繊細です。小説同様、阿部寛演じる破天荒な役人に振り回されます。ところがどうにもあっさりとした印象なのです。
原作は主人公が「こいつだけは理解できない」「いいかげんにしろ」と感情的になっていきます。相手はそんな気持ちをことごとく踏みにじり、暴れ回ります。時折ユーモアも交えた葛藤(かっとう)が魅力でしたから、流されるままの印象が強かった映画に少し物足りなさを感じてしまいました。
のめり込んで読んだ小説だけに、比べても仕方ないという意見もあるでしょうが、厳しい目で見てしまいました。【松田秀彦】
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2008年02月03日
全世代に響く拓郎ソング
「結婚しようよ」(日)
映画にはR15とかR18とか、年齢制限がある作品もあることはご存じの通り。今作のチラシには小さく「R45? 45歳以上の人におすすめ」と書いてあります。というのは全編通して吉田拓郎の曲で満載だからでして。確かにタイトルになっている「結婚しようよ」をはじめ、70年代前半の曲が多く、私だって「懐かしのあの名曲」です。でもR45とは言わずR35、いや、このさいRは取っ払ちゃいましょう。全世代、全方向OKです。
主役の会社員香取(三宅裕司)は学生時代に歌手になる夢を持っていたが、今は家族をこよなく愛する父親。そんなキャラクター設定もあり、全編を途切れることなく拓郎ソングが流れます。ざっと22曲。でもしつこくはまーったくなく、古さもぜーんぜん感じません。いい歌はいつの時代もいいってことなんだとしか言えないんですが、まあそういうこと。
あとは、物語が今とこれからに焦点を当てているからでしょう。夢破れた会社員が主人公と聞くと「歌に再挑戦→頑張りすぎた歌唱シーン」という、こっちが恥ずかしくなる図式が思い浮かぶのですが、これは違います。長女(藤沢恵麻)と青年(金井勇太)の恋に、田舎暮らしを始める老夫婦、二女(中ノ森BANDのAYAKO)のバンド活動と、全部が前を向いているのです。押しつけがましい汗や涙、「昔は良かった」と言うだけのノスタルジックさはありません。
名曲の数々が「結婚しようよ」の大団円へ収束していく感じもすてきです。【小林千穂】
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