2007年12月23日
ばかばかしさ超A級のコメディー
俺たちフィギュアスケーター(米)
日本生まれ日本育ちの私には正直、米国人の笑いのツボが分からない。米国でヒットしたコメディーを見て大爆笑することはまれだが、そんな私でも爆笑しっぱなし。超B級おバカ映画だが、おバカ作品としては“超A級”の逸品だ。
物語は大会で大げんかして追放された男子フィギュアスケート選手2人がペアを組み、栄光を取り戻そうとする爆笑コメディー。お互いの股間(こかん)に顔をうずめるリフトアップ。さらには、コーチが北朝鮮で開発し死者も出した伝説の殺人技の猛特訓。暑苦しい技ばかりの一方、男ならではのダイナミックさに目がくぎ付けになる。
B級作品に必須の分かりやすいキャラもいい。主人公2人は自信家でセックス中毒のマッチョ男とナルシシストで気弱な金髪少年。勘違い系の2人が力を合わせる姿を見ると、なぜか応援したくなる。また、ライバルの双子の兄妹ペアの意地悪ぶりもなかなかのもの。妹にライバルの練習を盗撮させたり、試合に出られないよう相手ペアを監禁。安直な手法で邪魔をしようとする安っぽさがB級にマッチしている。
見どころはまだある。米国有名スケート選手が大勢このおバカ映画に喜んで出演。中にはトリノ五輪銀メダリスト、サーシャ・コーエンが、マッチョ男が捨てたパンツを手にうっとりするシーンも。米フィギュアスケート界の懐の深さにも驚くばかりである。
やりたい放題の1時間33分。映画に意味はないが、クリスマスの予定がない寂しい気持ちを忘れさせてくれる、楽しいひとときだった。【近藤由美子】
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2007年12月16日
阿部、堤、椎名の43歳トリオ、絶妙の「間」
「魍魎(もうりょう)の匣(はこ)」(日)
よくできている。京極夏彦氏の原作は広辞苑のように分厚い。2時間あまりの映画にすること自体が困難な作業に思える。ところが原作に引きずられることもなく、あれもこれもと欲張らなかった脚色が映画を成功に導いている。
こだわっているのは、メーンとなる登場人物4人のキャラクター像の色分けと関係性。どんな男なのか。どんな関係なのか。前半は寄り道せず、じっくりと人物像を浮かび上がらせる。キャラクターがしっかり見えたところで、後半は怒濤(どとう)の展開。ぐいぐい引き込まれる。見ながらよく練られたシナリオだと感心した。
俳優たちものっている。
立ち上がりから重厚感、存在感ある空気を醸し出し、剛速球を投げる阿部寛は先発エース投手の貫録。低音ボイスも味わい深い。
サスペンスの勝負どころに登場する堤真一は抑えの切り札のよう。キレのいい演技をポンポン投げてくる。見ているだけで楽しくさせる技術の高さを感じた。
2人を結ぶ立ち位置でクセのあるキャラクターを巧妙に操る椎名桔平は安定感抜群のセットアッパーといったところか。
いずれも43歳同い年。アドリブを要求されたという会話場面も絶妙な間と掛け合いが楽しい。脂が乗りきった3人が最後まで危なげない投手リレーを見せてくれる。
原作はシリーズで発表されている。同じ顔合わせですぐに次回作を見てみたい。【松田秀彦】
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2007年12月09日
紛争から12年ボスニアの“今”描く
「サラエボの花」(ボスニア)
正直、ボスニア紛争っていつごろだっけ、どう終結したんだっけという状況でした。サッカー日本代表前監督のオシム氏が、倒れる3日前に、生まれ育った地区を舞台にした今作にメッセージを寄せていたというので調べてみると、紛争は92~95年。学生で遊んでばっかりいたころです。
作品は紛争から12年後の今。戦争シーンがあるわけでも、過去の記憶の忌まわしい残像が差し込まれているわけでもありませんが、雪がちな灰色の空や景色、弾丸の跡が残る建物を見ていると、心底、寒々しくなってくるような。さらに「父は殉教者よ」と叫ぶサラや、「41人クラスの同窓会に11人しか集まらない」と嘆くエスマの友人の言葉が、直接的なシーンがなくても、戦争は近くにあったこと、まだ生々しいことを十分に感じさせるのです。物理的にも、精神的にも。
母娘の自宅は温かさに満ちている…ように見えるのですが、そこにも危うさは潜んでいます。ささいなことで互いに口を閉ざしたり、反発し合ったり、見ていてもどかしくて、危なっかしく、強く思い過ぎて傷つけ合う感じが痛々しくて。
それでも、最後には本当に小さな小さな希望を感じさせてくれ、終わってみると、いくつかのシーンがずーっと心に引っ掛かっているような、そんな作品です。
わたしと同い年の女性監督が体験や記憶をたどってつくったという作品。何がどう違って、自分の今のこの環境があるんだろうと、思わずにいられません。【小林千穂】
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2007年12月02日
ギラギラ三船と違う織田の優しさ
「椿三十郎」(日)
「織田三十郎」もなかなかの腕前である。言わずと知れた黒沢明監督作品のリメーク。オリジナルとは完全な別物と思って見ると、人間味あふれる時代劇として素直に楽しむことができた。
物語やセリフは驚くほどオリジナルに忠実だが、作りはすっかり現代版。三船敏郎のイメージとは違う、織田裕二ならではの色をしっかり打ち出している。
三船演じる三十郎は、一匹おおかみならではのすごみやギラギラ感がスクリーンからあふれ出ていた。一方、織田にそれはない。2人を比べて特に印象的だったシーンがある。「10人だ! 手前たちのやるこたあ、危なくて見ちゃいられねぇ」。思い詰めた9人の若侍を見て、加勢を決めた三十郎のセリフである。
三船も織田も口にしたが、イメージが全然違う。勝手に解釈するならば、三船は「オレに黙ってついてこい!」。一方、織田は「しょうがないなぁ。お兄ちゃんがサポートしてやる」。有無を言わせぬ強烈なリーダーシップを感じさせる三船とは対照的だ。織田三十郎には終始、相手を思いやる優しさがあふれている。豪腕無口な侍が珍しい現代には、織田のような親しみやすいキャラクターの方がなじみやすいのかもしれない。
この機会にオリジナルをあらためてDVDで見た。三船の21人斬りなど名場面ばかりで、今見ても少しも色あせていない。若い世代には、45年前の名作を手に取るきっかけになるかもしれない。その意味でも、リメークは十分意義があると思う。【近藤由美子】
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