2007年11月25日
動と静のバランス絶妙
「ミッドナイトイーグル」(日)
「山岳サスペンスアクション」のうたい文句通り、大仕掛けのスリルは味わえる。登山するだけでも命懸けという厳冬期の北アルプス。特殊爆弾を搭載したまま墜落した米軍ステルス戦闘機の確保をめぐる某国工作員と自衛隊の攻防戦に、戦場カメラマンと新聞記者が巻き込まれる。雪崩などの大自然の脅威。銃撃戦による緊迫感も走るが、それ以上に印象的だったのは、一息ついた時の何とも言えない山の静けさだった。
互いに身動きがとりづらいこともあり、張りつめた中で時折静けさが訪れる。実はその時間が、物語が放つメッセージがこちらに届く猶予を与えてくれる効果を生み出している。葛藤(かっとう)を抱えた登場人物たちの心情も、かみしめながら見ることができる。
ただでさえめまぐるしい展開を、大胆なカメラワークや高揚感につながる激しい音楽を使ってさらに加速させ、勢いで見せ倒すハリウッド系アクション大作とは違う。穏やかな日本的な間(ま)だった。主人公を演じる大沢たかおも、その間を生かして、じっくりと表情やしぐさで心の内を表現している。
畳み掛ける“動”でサスペンス度を上げながら“静”でしっかり思いを伝えるバランスの妙味を感じた。もっとも“静”の部分が、とにかく心臓の鼓動が早まるようなスリルだけを求めている人にとって、映画的な緊張感に水を差す“失速”に映るかも知れないが。【松田秀彦】
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2007年11月18日
小ネタ満載 よ~く見てください
「転々」(日)
舞台は東京、しかも吉祥寺から霞が関というかなりミクロなお話です。しかも「あー、あるある」的な、いわゆる小ネタ満載なので、目をよーくこらして見ないと、面白さ半減です。逆にいえば、よーく見れば見るほど、おもしろポイントが見つかるってワケです。さあ、目を凝らしましょう。
大学8年生(オダギリジョー)と借金取り(三浦友和)が、借金返済の代わりに東京を散歩する、という始まりからして不思議な感じ。理由は出発初日にちゃんと明かしてくれるので、私たちは散歩に集中(あくまでものんびりね)すればいいわけです。
スタートから小ネタ満載なので、どの辺りからつぼにはまれるかで、彼らの東京散歩に同行できるかどうか、ってのが決まる、そんな感じです。私は、散歩始まる前から、すでに同行しま~すって気分になりました。オダジョーが駅前でコインロッカーのかぎを拾うんです。いかにも幸運、訳あり…かと思いきや、次のシーンでは公園のベンチにかばんから次々に出てくるだるまを並べている…。
ああっ、文字で書いても微妙な感じでしょう? これなんですよ、小ネタの面白さ、面白くなさって。まあ、とにかく、見てみてください。あと「時効警察」ファンにはうれしいカメオ出演も見つかります。
岩松了、ふせえり、松重豊の3人組がスパイスです。3人の会話はまるでコントです。
いい季節なので、たまには歩く速度の映画もいいです。東京散歩、行ってみますかね。【小林千穂】
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2007年11月11日
泥臭くないローテクヒーロー
「ボーン・アルティメイタム」(米)
際立っていたのは、アクション物にありがちな泥臭さよりもスマートさ。シリーズ3作目だが、さらにスタイリッシュな作品に進化した気がする。
映像の見せ方がすごい。最初から手ぶれ感たっぷりの映像が続き、緊迫感に引きずり込まれていく。前作「ボーン・スプレマシー」同様コマ数が多く、すぐ場面が転換。主人公同様、こちらも息つく暇がない。圧巻は異国情緒たっぷりのモロッコでのアクションシーン。迷路のような街並みの中、屋上から屋上へと飛び回るボーンの姿はホレボレするほど格好いい。
前作のような派手なカーチェイスはないが、特定の武器を持たず1人でマシンのように敵をなぎ倒していく姿は、逆にスピード感を増した印象だ。前作の序盤のような甘ったるいロマンスもセーブ。変にロマンスに邪魔されず、テンポよく進んでいくストーリーに集中することができる。
力勝負のシーンが続いても泥臭くないのは、キャラクターによるものだろう。
ボーンは基本的にローテクだ。ローテクのヒーローといえば、「ダイ・ハード」のジョン・マクレーン。力業でねじ伏せるタイプだが、ボーンのローテクはずばぬけた頭脳の裏返し。天才を天才に見せたマット・デイモンの功績は大きい。
デイモンはハーバート大に入り、「グッド・ウィル・ハンティング」の脚本でアカデミー賞を受賞した才能あふれる人物。戦闘にも語学能力にもたけたボーンのスマートさは、デイモン自身とダブる。
今回が完結編。今後、ボーンが生まれるまでを描いた作品などができて、シリーズに傷を付けたらどうしよう…。完結編への満足感から、思わず変な心配をしてしまった。【近藤由美子】
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2007年11月04日
生活感ないのに自然体魅力りえ
「オリヲン座からの招待状」(日)
宮沢りえは、ファンタジーの世界と相性がいいのかも知れません。10代から活躍を続け、私生活ではすったもんだも経験しました。激やせなんて言われ、マスコミに海外まで追いかけられたことも。それだけ俗な存在としてクローズアップされてきたはずなのですが、スクリーンに映る姿から不思議と生活感が漂ってきません。別に浮世離れした雰囲気というわけでもなく、実に自然体の印象なのですが…。この生活感の乏しさは、日常を切り取ることが多いテレビドラマの世界では、説得力を欠いてしまうかも知れません。ところが映画の世界では、場合によって、これほどの役に立つ武器はありません。
今回の作品でも、そんな魅力が生かされています。映画館主だった夫の病死で小さな映画館を守ることになった妻を演じます。遺志を継ぐ弟子と映画館を切り盛りしていきますが、周囲から「不義理な妻」「師匠の妻を寝取った男」と冷たい視線を送られますが、そのピュアな関係を貫こうとします。現実的に見てしまえば、なじみにくい純愛物語です。ところがりえの表情を追っていくだけで、じゃまくさい現実的な常識がそぎ落とされ、引き込まれていく感覚を覚えます。
以前取材した時に「恋愛する上で結婚という形にはまったくこだわらない」と話していました。「現実」に引きずられることなく自分のスタイルを貫く。そんな姿勢が、同世代にはない個性を発揮する力になっているのかも知れません。【松田秀彦】
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