2007年10月28日

幸せそうな寝顔、眠るの悪くない

「ナルコ」(仏)

 いつも、寝過ぎた休日の後悔は果てしなくて「何を削るって睡眠時間を削りたい」と思うのですが、この物語の主人公ギュスを見たら、眠るのも悪くないかも、と思っちゃいました。

 ギュスは発作的に眠ってしまう睡眠障害ナルコレプシーを抱えている男。女の子とのイザという時、結婚式、労働中…とにかく突然、ばたーん、ごろーん! そして見ている夢は、ハリウッド映画に影響を受けたハードボイルド、戦争、SFと何でもあり。夢の中では、いつも主人公でかっこ良くてハッピーなのです。幸せそうに眠る顔を見ていると、こんな夢見られるんなら、眠るのも悪くない、って。

 物語の筋にもひかれましたが、何と言っても主人公が魅力的です。家族には、定職に就けない情けない男にされてますが、いやいや、こういう内に秘めた系がいいのですよ。物静かだけど優しくて、家族思いで友人思いで。(見る方の)夢をコミックにする(目指す方の)夢に打ち込む姿とかね。こういった種類の物語だと、エキセントリックでぶっ飛んだキャラにされがちですが、ギュスの普通さ具合が逆に新鮮でした。かわいいぞっ!

 ただ、ギュスが最後に選んだ道には、不満です。不満と言っても、脚本がどうとかじゃなくて「いいの、いいの? ギュス、それでいいの?」と、完全に肩入れした不満。それくらい、幸せ願っちゃいたくなるキャラだったってことです。【小林千穂】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)

トラックバック (3)


2007年10月21日

松尾スズキ監督描く対比具合がいい

「クワイエットルーム」(日)

 精神科の病院が舞台の名作といえば「17歳のカルテ」「カッコーの巣の上で」が浮かぶ。女性ばかりの病棟が舞台というテイストは「17歳-」を思い出すが、内容は似て非なるもの。主演ウィノナ・ライダーをかすませたアンジェリーナ・ジョリーの演技ばかりが印象深い「17歳-」に比べ、本作は肉厚な群像劇といえる。原作、脚本、監督は「大人計画」の松尾スズキ。多少説明や演出が過剰な所もあるが、登場人物をそれぞれ丁寧に描いた。

 役者もそろった。「私は悪くない」が口癖の大竹しのぶ、拒食症少女の蒼井優、規則で統制する冷たい感じがピッタリの看護士にりょう。そして主人公の恋人が宮藤官九郎で、その弟子に妻夫木聡。誰もがジョリー級の怪演だ。一方、主演の“普通の女性”に内田有紀を起用。正統派かつ埋もれない存在感を放ち、個性的な面々の中でいいバランスを保っている。

 本作でもそうだが、松尾氏はよく「面白くないことを受け入れる人生」と「面白さを取る人生」の対比をテーマにしているという。きちんと生きようとして精神のバランスを崩した患者たちのある種「大人な生き方」と、病棟外の宮藤、妻夫木の面白く生きようとする「大人ではない生き方」。このコントラストがスパイスとして効いている。

 題名だが、「精神科の閉鎖病棟」より「クワイエットルーム」の方がソフトな感じがする。内容も同様。場所が持つ緊迫感より、無機質な舞台だからこそ映える人間ドラマが印象に残った。【近藤由美子】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)

トラックバック (4)


2007年10月14日

大人が共感「板挟み」に重点

「グッド・シェパード」(米)

 CIA(米中央情報局)ほど映画にとって魅力的な組織はないでしょう。情報収集、秘密工作、クーデター支援。さらには世界を相手にする裏稼業。聞いただけでワクワクしてきます。陰謀や裏切りが物語を複雑にさせ、徹底した秘密主義や、個人よりも組織、組織よりも国家という序列が、最前線のスパイに冷酷な運命を強いる時があります。そこに生まれる理不尽な悲劇が、作品に深みと味わいを与えてくれるわけです。

 生きる俳優伝説ロバート・デニーロも13年ぶりの監督作に、CIA創設期の人間ドラマを題材に選びました。諜報(ちょうほう)活動のスリルも十分楽しめますが、重点を置いたのは「板挟み」。国家のために諜報活動に身をささげた主人公は、家族を顧みず、任務のために恩師さえ裏切ります。妻に見放され、子供の心も離れていきます。それでも仕事はどんどん舞い込む。背景こそ東西冷戦をめぐる諜報合戦とはいえ、そのスケール感をそぎ落として見れば、働く大人ならだれでも共感を覚えそうな、実にシンプルな「板挟み」が描かれます。

 デニーロは心理劇を奇をてらわず、丁寧にじっくり描きます。カメラを固定して、ゆったりとした時間の流れを表現。アップを多用して俳優の表情に頼る手法も抑え、引いた位置から、静かに人間を見つめます。主張しすぎない映像が、主人公の心の揺れや孤独感、組織の非情さなどを、じわじわとしみるように伝える効果を生み出します。主演のマット・デイモンも抑えた演技でデニーロの狙いに応えています。優雅な大人の映画です。【松田秀彦】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)

トラックバック (5)


2007年10月07日

な~んか納得いかない

「サウスバウンド」(日)

 元過激派リーダーのお父さん一郎(豊川悦司)が率いる一家が、うっとうしい東京を脱出して西表島へ! でも、一郎は発表するでもない文章を書いて過ごしていて、収入源はお母さんのさくら(天海祐希)の喫茶店だけ。子供たちの問題もあったりして「移住だ、自給自足だ、日本国民をやめてしまえ」って西表島に向かうわけです。

 騒動とか、きれいな景色に気を取られてしまいますが、どこかで「それでいいの?」と思ってしまったかなあ。結局はどこに行っても同じじじゃなかろうか、と。「サウスバウンド」(南に行くという意味)はそりゃ魅力的ですが。

 で、移住初日。昼間は太陽さんさん、肉体作業もしてテンション上がりますとも、子供でも。わあわあ言っていざ夕食。食卓の上は寂しくないし、お父さんもお母さんもいる。でも娘がついに言っちゃうんだな。「帰りたい…」って。それは、見ている私の「そりゃ、自給自足いいだろうけど、これからどうすんのさ」って思いも代弁しているようで、うんうんとうなずいてしまいました。

 一郎は「とにかく今日が始まりだ。安心しろ、これが永遠に続くわけじゃない」。この言葉いいねーって思いました。今しんどくても、その気持ちはずっと続くわけじゃないって。ちょっと安心させて、希望を持たせてくれるような言葉というか。

 うーん、でもまた何だかだまされてしまったような、根本的なところをつかまえ損ねてしまったような…。納得いかなさが残ったままだったのですが、松山ケンイチの警官役のしっくりさは疑問なし! 地元の人かと思いました、ほんとに。【小林千穂】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)

トラックバック (3)


このページの先頭へ