2007年09月30日
五感くすぐる映像、心地よい満腹感
「幸せのレシピ」(米)
身分不相応な高価なフルコースを食べても、すべてがおいしいとは限らない。時には、新鮮な野菜に塩、コショウをふっただけのいため物が絶品に思えたりする。本作は後者のようなシンプルな料理。素材を生かした絶妙な味付けは、また味わいたいと願うような、満ち足りた一品だった。
取り立てて特別なストーリーではない。
料理一筋の女性シェフ(キャサリン・ゼタジョーンズ)が新しい自分を見つけていく姿を描く。美ぼう、能力を兼ね備えた女性がすべてを手に入れる平凡なサクセスストーリーに思わせない。うまくキャスティングがハマったからだろう。
中でも、めいを演じたアビゲイル・ブレスリン(11)がいい。子役ながら、ゼタジョーンズを脇役にするほどの存在感がある。
病院のベッドで母親が死んだことを知らされ、ポロポロと涙をこぼす。調理場では、空腹のあまり夢中で大盛りパスタの皿を抱えてガツガツと食べる。心細そうな背中もキュートな笑顔も、思わずギュッと抱き締めたくなる。どれも演技とは思えないからだろう。「リトル・ミス・サンシャイン」で美少女コンテスト優勝を目指すぽっちゃり気味の少女役で、菊地凛子とともにアカデミー助演女優賞にノミネートされた実力に納得がいく。
最後の仕上げは、おいしそうな料理の数々とパバロッティらのオペラ。美男美女の恋を軸に少女の笑顔、絶品料理、音楽が加われば、最強の一品にならないはずがない。五感をくすぐる映像の連続に心地よい満腹感を覚えた。【近藤由美子】
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2007年09月23日
クルーニー’40へのリスペクト
「さらば、ベルリン」(米)
木村拓哉が黄金期の日活アクション映画に出演していたら。佐藤浩市が全盛期の時代劇映画に出演していたら。そんな遊び心いっぱいの夢を格好よく実現させてしまうのが、今まさに乗っている証拠なのでしょうか。あのジョージ・クルーニーが、「カサブランカ」など次々に名作が誕生した1940年代のハリウッドで活躍していたらという“もしも”な雰囲気を味わえる作品をつくりました。
敗戦の混乱が続く1945年のドイツ・ベルリン。クルーニー演じる米国ジャーナリストが、ある事件に直面し、真相を追いかけるうちに巨大な陰謀に巻き込まれていきます。第二次大戦下のレジスタンスを扱った「カサブランカ」のように、当時映画化されてもおかしくない物語。これを「オーシャンズ」シリーズなどでクルーニーとコンビを組んできたスティーブン・ソダーバーグ監督が、こだわりの手法で映画化にチャレンジしました。
映像はモノクロ。カメラレンズは年代物を使いました。オーソドックスな撮影方法で丁寧にカットを積み重ね、音楽もどこかレトロ。往年の名作的雰囲気たっぷりの映像の中を泳ぐクルーニーも得意の軽妙な演技を封印。40年代スタイルに対するリスペクトを感じました。
いっそ名画の世界にみんなでそのまま飛び込んでしまえという発想を楽しめる本作は、スリリングな展開もあって、オリジナルとの比較が宿命となってしまう名作のリメークよりもよっぽど新鮮さを感じました。【松田秀彦】
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2007年09月16日
派手さないけどじわじわ効く
「ミス・ポター」(米=英)
これまでの実在人物もの映画のイメージはこんな感じです。特に音楽、作家系の人物ものに多いような…。
(1)やたらと長い
(2)ジェットコースターなみの激しい人生のアップダウン
(3)ドラッグもしくは刃傷ざた登場
(4)失意のうちにご臨終…
確かに、よほどの波瀾(はらん)万丈がないと映画にはならないんだけど、何だか、救われない結末へ突き進んでいるだけって気になってしまうことも。
今作の主人公は、ピーターラビットを生み出した、女性作家ビアトリクス・ポター。これまでの実在ものパターンと比べてみると…。まず(1)。1時間半にまとめていて、逆にもっと彼女の物語を見たいと思ってしまうくらい。1つ飛ばして(3)は、癒やし系的なうさぎのタッチからも分かるように、ドラッグは似合わないんです。(4)はネタバレになるのでやめておきます。
じゃあ(2)。背景は女性が働くなんてとんでもないという時代だけに、ベストセラー作家になるまでにはやっぱり映画になるようなドラマに満ちています。でもそのドラマが静かだったり、ポターの心の中で進んでいったり。見た目の派手さはないけど、すーっと感情移入しやすいのです。
あっさりしすぎているかもしれませんが、意外とじわじわ効いてきます。挿入されたアニメのうさぎたちも、ストーリーをじゃましない控えめでマル。【小林千穂】
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2007年09月09日
色あせない物語…でも予習必要かも
「HERO」(日)
ドラマシリーズが放送されたのは01年。そんなに昔だったのかと驚くほど、少しも色あせた感じがしない。個性豊かなキャラクターと正義を追求する物語はいい意味で変わらず、安心感を持って見ることができる。続き物ではない劇場版とあり、エンターテインメント性がギュッと凝縮され、安定感がある作品だった。
松本幸四郎や森田一義(タモリ)、イ・ビョンホンまで登場。ドラマ以上に豪華キャストのオンパレードを眺めるだけでも楽しい。出演者が多すぎて散漫にならないのは、物語の本筋にブレがないからだろう。
本作では木村拓哉演じる検事が、傷害致死事件からつながる巨大な陰謀に立ち向かっていく。
木村は廃棄処理された車の山に埋もれながら探し回る。韓国まで足を延ばし、延々と聞き込みをする。足で稼ぐという地道な努力で正義を貫こうとする姿勢に、反発するスキは見当たらない。「an・an」好きな男1位を14年連続キープし続けているイイ男だから、という理由だけではない。小さな証拠に対しても汗をかき続ける限り、正義のヒーローは6年と言わず永遠に支持されるはずだ。
一方、設定上の死角は避けられない。物語は木村が地方赴任を終えて東京に戻ってくるところから始まる。昨年放送の地方赴任時代を描いた特別編を見なかったせいだろう。ファンと思われる人が時折、クスクス笑っている意味が分からなかったりと、寂しい気持ちになる瞬間も。「一見さん」でも十分楽しめるが、私のように置き去り感を味わないためには、やっぱり多少なりとも予習が必要なのかもしれない。【近藤由美子】
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2007年09月02日
魅力たっぷりヤンキー翔太
「ワルボロ」(日)
これまでの出演作のどれよりも、松田翔太の魅力があふれていました。シャープな作りの目鼻立ちが、もはや懐かしいとしかいいようのないリーゼントにぴったり。実年齢は22歳というのに、短ランにボンタンという不良ファッションがこれまた似合っています。
兄の松田龍平が、どちらかといえばすっとぼけた男役が似合うにの比べ、翔太はヒットドラマ「花より男子」で見せたクールな味わいの印象が強かったのですが、なかなかどうして。ケンカに明け暮れる無軌道でやんちゃな今回の中学生役はとても自然。あこがれのクラスメートに素直になれない戸惑いぶりや、聖子ちゃんカットのぶりっ子中学生にのぼせ上がる青臭さも、クスっと笑えるほど違和感なく演じています。仲間が欲しくてヤンキーの道に足を踏み入れる寂しがり屋の性格も、父優作さん譲りのナイーブな表情でさりげなく表現しています。
80年代の東京・立川が舞台。当時は校内暴力なんていう言葉がマスコミをにぎわせ、暴走族も大ブーム。ぺしゃんこにつぶして中に鉄板を入れるケンカ仕様の学生カバン。タバコはトイレで吸って、授業さぼりは屋上で。喫茶店デートはもちろんナポリタン。劇画チックな描写が楽しいケンカシーンなど久しくなかったヤンキー青春映画の王道をたっぷり味わえます。卒業アルバムをめくっても見当たらない、格好悪かったけどどこか切ない、青春時代のNG集を見ているようで楽しめました。【松田秀彦】
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