2007年06月24日

周囲は落語的で強烈も主人公いい子すぎ!?

「憑神」(日)

 時は幕末。貧乏神、疫病神、死に神に憑(つ)かれちゃった下級武士、彦四郎(妻夫木聡)のお話でございます。友人がお参りして出世したというお稲荷(いなり)さん。彦さんも偶然、酔っぱらって通りかかって手を合わせたのですが、ちょっと別のお稲荷さんだったようで。しかも、これが3大「来ちゃいやっ!」神様連だったという筋立てで…。

 彦さんとそれぞれの神様とのやりとりで、2時間弱で3つの展開がテンポよく進んでいきます。テンポのよさやせりふの言い回しに、ちょっと落語のにおいを感じました。やはり、原作も落語を意識して書かれたとのことでした。

 憑かれちゃう彦さんよりも、周りの人々の方が落語的で、はちゃめちゃ、強烈。特に、佐々木蔵之助演じる兄左兵衛。「何があるか分からない時代だぞ~」と、金のために武士の株を売ろうとしちゃうし、家康から授かったという家宝の刀はさび付かせたまま放置。母上さまの「たっての話があるのです」にも「『立って』は聞けませんから、寝たままで」。この楽天的で、どうにでもしておくれ的な感じ、まさに落語に出てきそうです。

 ほかにも、貧乏神(西田敏行)やそば屋(香川照之)など、ちっとばかしうっとうしくて、いいかげんでも憎めない人々がいっぱい出てきます。でもその分、彦さんがいい子すぎに見えちゃったかも。前半の突っ走りキャラでいってほしかったな~。【小林千穂】

 ◆「憑神」 将軍の影武者を務めてきた別所家。文武両道の二男彦四郎(妻夫木)だが、むこ養子に入った家から、部下のけんかを理由に離縁されてしまう。ツイてない彦四郎が偶然会ったのが、旧知の榎本武揚。榎本をとんとん拍子に出世させたというウワサのお稲荷(いなり)さんに手を合わせたものの、どうやら間違っていたらしい。貧乏神、疫病神(赤井英和)、死に神(森迫永依)が次々にやってきてしまう。降旗康男監督。

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2007年06月17日

達者な役者に練られた脚本…期待通り

「キサラギ」(日)

完全な密室劇の上、登場人物は男性5人で華はない。ちょっと息苦しいかも、などという一抹の不安は杞憂(きゆう)だった。バラエティーに富んだ俳優が勢ぞろいして面白くない訳がない。期待は最後まで裏切られなかった。

 自殺したアイドルの追悼会を開いた男5人が、純粋な思いからアイドルの死を推理していく。シンプルなストーリーだが、ちょっとしたひねりが効いている。

 例えばキャラクターの設定だ。ユースケ・サンタマリアが演じるのはオダ・ユージ。アイドルの死の背景にある証拠を淡々と挙げていく。冷静に状況説明する姿は、織田裕二主演「踊る大捜査線」シリーズで演じた真下正義とダブる。真下がオダ・ユージ役…と大胆な発想に驚きながら他のキャラクターに目を移すと、塚地演じる安男は菓子作りが趣味。香川はカチューシャを付けている。個性派ぞろいでまとまりなさそうだが、アイドルへの思いは同じだからだろう。不思議にも、5人の世界は絶妙なハーモニーを奏でているようにすら見えてくる。

 また、アイドルとの接点など、個々のエピソードもしっかり描かれ、飽きさせない。最後までストーリーに引き付けられたのは、この練られた脚本があったからだろう。

 1つ残念なのは、全体を映す引きのカットが意外に多いこと。もう少し、5人の表情やしぐさを同時に見たいし、迫力を感じたかった。ただ、こんなわがままな要望をかなえてもらうためには、舞台化してもらうしかないのだろうが。【近藤由美子】

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2007年06月10日

ムッシュやマドモアゼルが落涙

「殯(もがり)の森」(日)

 カンヌ映画祭でグランプリ(審査員特別大賞)を獲得した作品です。上映会では終映後、場内は静まり返りました。海外映画祭ではエンドクレジットが流れ始めた途端、条件反射のように拍手が起こることがほとんどなのです。ちょっと珍しい状況に「おいおい、フランス人、無反応かよ」と突っ込みたくなりましたが、それはとんだ勘違い。

 明るくなった場内を見渡せばタキシードやドレスで着飾り、パーティー気分だったムッシュやマドモアゼルも余韻に浸り、涙をぬぐうおばちゃんまで見えました。どこからともなく聞こえてきた小さな拍手をきっかけに観客は総立ちに。あとは波のような拍手が監督や出演者に押し寄せました。一拍おいた反応は、心の奥にゆっくりと、静かに何かが届いたからでしょう。

 掛け替えのない人を失った人間がその現実をどう受け止め、生きていけばいいのか。河瀬監督は、若くして妻に先立たれた認知症の老人と事故で幼い子供を失い自分を責め続ける女性を深い森の中でさまよわせます。におい立つような緑深い森。木々を揺らす風。移ろう雲。激しく降り注ぐ雨。自然の洗礼を浴びながら、2人は迷走を続けます。

 人間死んだらそこでおしまい。ただでさえ生きている人間同士の関係で精いっぱいの慌ただしい毎日を送っていれば、故人と心のつながりが希薄になっていくのも仕方ない。でもそれで本当にいいの? 目に見えないものになったからといって、心から切り離していいの? 臨場感たっぷりの映像の中でさまよう2人を見詰めながら、自分も答えを探し始めていました。【松田秀彦】

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2007年06月03日

落語好きも楽しめる

「しゃべれども しゃべれども」(日)

 う~、寄席に行きたいっ、行きたい、行きたいーっ、って気にさせる作品でした。客席から見上げる明るい高座、ぎゅうぎゅう満員で熱気あふれる客席…。いろんな寄席風景をていねいに見せてくれてます。色合いでいえば、白熱灯のあったかい感じ。同じく落語が題材のドラマ「タイガー&ドラゴン」は、もうちょっと蛍光灯な感じでしょうかね。

 国分太一演じる2ツ目の落語家、今昔亭三つ葉の元に、話し下手な3人が「話し方を教えてくれー」と集まるのが、事の発端。「しゃべれども しゃべれども」伝わらない思いをもどかしく思うのは、三つ葉も含めてみーんな一緒。見てるこっちがもどかしくなるような、スローライフ? な作品です。

 そんな雰囲気の作品らしく、太一の落語もすごくていねいです。うまいです。ただ、うまい=面白いとは限らないので、大笑いできるかと言えば、そうでもなく。でも、とにかくお上手です。拍手です。俳優が落語家を演じると、俳優の個性が圧倒的に前面に出すぎて(それが個性なんでしょうが)すーっと冷めることがあるのですが、今作では、苦戦中の2ツ目は三つ葉でした。

 脇を固める俳優陣もいい味出してます。伊東四朗の今昔亭小三文師匠は風格、祖母役の八千草薫はちゃめっ気と気品。安心、安心、って感じです。あと、客席で笑いの場面のほとんどを持っていっていたのが、森永悠希が演じた阪神好きのナニワの小学生。小生意気だけど、ちっとも憎めないというよくありがちな役柄ながら、見事に、大いに笑わされました。

 個人的なことですが、わたし、落語好きです。本職もたくさん出演してて、結構楽しめます。ということで、点数もちょいと甘くなっちゃった。【小林千穂】

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