2007年05月27日
スパロウ不在前半は凪、後半スリル満点
「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」(米)
果てしない海を舞台に個性豊かな海賊が繰り広げる「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズも、ついに完結編。最初の荒波を乗り越えさえすれば、物語を締めくくるにふさわしい楽しい航海になるはずだ。
勝負は前半戦。荒波というより無風状態が続く。
ジョニー・デップ演じるジャック・スパロウが30分以上も出てこない。この間、前作で海の墓場にとらわれたスパロウを探す旅が語られる。2時間49分の上映時間をふんだんに使っているのだろう。せっかちな私にとって主人公がまったく出てこないのは、じらされているようでたまらない。前2作の復習をしなかったせいなのだろうか。数多いキャラクターのそれぞれの背景を思い出すのに必死で物語に乗り切れず、船酔い気分になってしまった。
だが、後半は前半の船酔いがうそのような勢いで物語に引き込まれていく。
スパロウとウィル(オーランド・ブルーム)の間で揺れるエリザベス(キーラ・ナイトレイ)の愛の行方など、様々な謎が次々と解き明かされていく。畳みかけるような展開は海賊の世界にふさわしくスリル満点だ。さらに解き明かされた謎のどれもがふに落ちる。
スパロウの行方のカギを握るチョウ・ユンファ演じる海賊や、デップがスパロウ役の参考にしていたキース・リチャーズが、スパロウの父親役で初登場。個性豊かなキャラクターがパワーアップし、壮大な旅をさらに盛り上げてくれた。
ドラマと映画の境界線がない作品が少なくない昨今。物語も映像もスケールも壮大なエンターテインメント作品への飢餓感が、すっかり解消された気がした。【近藤由美子】
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2007年05月20日
若者の人物像が通り一遍
「俺は、君のためにこそ死ににいく」(日)
石原慎太郎という人はきまじめなのかもしれない。脚本家として特攻隊の悲劇を取り上げると聞き、威勢のいい慎太郎節を連想。当然、劇的な戦争映画を予想しました。
これが意外にも淡々と進んでいくのです。もちろん国を守るという大義名分で命を散らす若者の姿に、何も感じない訳はありません。2度とあってはならないと強く感じました。
ところが、登場してくる若者たちの人間像の掘り下げに物足りなさを感じてしまうのです。親、妻、友人たちとのやりとりが、通り一遍の印象をぬぐえません。一体どんな人なのかと想像し始めた途端、話がぷっつり切れてしまう。少し大げさに言えば、抑揚なく悲劇がきれいに並べられている印象を受けました。
原案は隊員たちから母のように慕われた食堂のおばちゃんが石原氏に語った実話です。「語り部として作った」という同氏は、客観的にエピソードを連ねることで事実の重みを伝えようとしたのでしょう。
同氏は、クリント・イーストウッド監督「硫黄島からの手紙」を「戦況を俯瞰(ふかん)でとらえていない」と一蹴。同じ特攻隊員の悲劇を描いた高倉健主演「ホタル」も「事実と違う」と非難しました。
しかし、この2作品は作り手の思いがはっきりと伝わってきました。劇的だったから伝わってきたのではなく、人間を見つめる深さ、謙虚さに感動したのです。戦争の不条理さもじんわりと胸に届きました。同氏は「私の映画の方がよほどましだ」と言っていました。でも、残念ながら、私にはどうしてもそうは思えませんでした。【松田秀彦】
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2007年05月13日
心にもおなかにもおいしい
「The 焼肉ムービー プルコギ」(日)
焼き肉がおいしそう。見終わったら焼き肉を食べたくなる。そりゃそうです。あんな大画面で、あんな大接近して、じゅうじゅうと炭火で焼かれる肉を見せられたら、そうなりますって。でも、そんなことよりも、何だかいろんなポイントできゅーん、ずぎゅーんときちゃったのです。
きゅーんなポイント。北九州の人気ホルモン焼き店「プルコギ食堂」で働くタツジ(松田龍平)と、店主の焼き肉の達人の孫ヨリ(山田優)の、付かず離れずの恋模様。ヨリは跳び蹴りしたり、脳天チョップしたり、活発というよりは軽くDVな女の子なんですが、2人っきりになっちゃうと、ちょっと黙っちゃう。「タツジ好きっ」みたいな表情が超かわいいのです。この状況、そりゃ2人はくっつくだろ、ってバレバレなんですけど、何かこういう時期が一番楽しいんだよなーって。
ずぎゅーんなポイント。1年前に亡くなった田村高広さん演じる焼き肉の達人の言葉。せりふはほんっと、少ないです。回想シーン以外では5つ? 6つ? しかも単語だけが多し。でもいいこと言うんですよ。汚いだの、下品だのと店をけなされキレたタツジに「お前、この店好きか? 好きならそれでいいやろ」って。ほほお~。仕事にも愛情にも自分にも自信を持っている、この言葉。こんな言葉、言ってみたいわ~。ちなみに本作は田村さんの遺作です。余計に言葉が響いてくるような気がしたのでした。
そんなこんなで、心に言葉が響いたら、おなかにも響きました。ぎゅる~。焼き肉行くぞー。やっぱりそっちかいっ。【小林千穂】
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2007年05月06日
行間を読む読解力必要…疲れていない時にどうぞ
「バベル」(米)
本作が日本で大きな注目を集めたことは2点。1つは菊地凛子がアカデミー助演女優賞にノミネートされたこと。もう1つは菊地が登場するクラブシーンで、「ポケモン」で有名になった高速点滅「パカパカ」により体調不良者を出したことである。
「パカパカ」は気にはならなかった。それ以上に、言葉以外で疎外感やいらだちを表現した菊地の演技は堂々たるものだった。いずれも緻密(ちみつ)に構成されたパズルの1ピースとして作品になじんでいた。ただ、複雑かつ多様なピースで構成されたこのパズルの完成形を見いだすことができるのか。私は詳しい説明がないパズルを自分なりに楽しんだが、意見ははっきりと二分される気がする。
日本、モロッコ、メキシコなどを舞台に、銃撃事件から物語が展開していく。イニャリトゥ監督は交通事故から3人の悲劇と再生を描いた前作「21グラム」同様、時間軸を交差させるお得意の手法を取った。前作より世界が広がった分、時間軸の幅の触れ方も大きくなり、頭の中で整理しながらたどる必要が生じる。
羊飼い一家のなりわいなど、手ぶれ感たっぷりにそれぞれの生活をドキュメンタリータッチで描いた映像はリアルだ。一方、映像とは異なり、神のように世界中をふかんしているかのような視点は、登場人物との間に微妙な距離を感じる。
各国のパートが密接に結び付いていない分、自力で解釈しなければならない。分かりやすい物語が多い中、深く行間を読む必要がある映画もたまにはいいかも。ただし、疲れていない時に、ですが。【近藤由美子】
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