2007年04月29日
運命の「糸」に操られる新人形劇
「ストリングス~愛と絆の旅路~」(デンマーク)
「操り人形」と聞いて、明るく前向きなイメージを浮かべる人はあまりいないでしょう。他人に制御され、操る人がいなくなれば、無力感漂うただの置物になってしまう。「後ろで糸を引く」という言い回しもあるように、糸で操る行為はネガティブに映ることが多いようです。
特撮人形劇「サンダーバード」は糸が極力見えないように透明なピアノ線を使いました。人命救助を描く前向きな物語でしたから、「操られている」という後ろ向きな印象を避けたかったのでしょう。本作は、その「糸」に別の意味とドラマ性を持たせる大胆な発想を生かした、デンマーク生まれのまったく新しいタイプの人形劇映画です。
人間のドラマを人形に再現させているわけではありません。天上から糸でつられた人形たちが生きる世界を描いています。だから、糸ははっきりと見えていいのです。黒く太い糸が何本も見えます。頭頂部に付くひと際太い糸が、生命を宿らせている“生命線”。これを切られると死んでしまうのです。さらに“運命の相手”とは天上で糸同士がつながっています。このファンタジーに入り込めれば最後まで一気に楽しめます。天上から細く美しい糸が下がり、赤ん坊人形が誕生する場面では、あれだけネガティブな印象だった「糸」が、不思議とぬくもりあふれるものに見えてきます。
隠すことが当たり前とされるものにあえて焦点を当て、さらけ出す。“逆転の発想”の魅力と新鮮さを、素朴な顔つきの木彫りのマリオネットたちから教えられた気がします。【松田秀彦】
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2007年04月22日
ムラサキ色がもう少し鮮やかなら…
「ハンニバル・ライジング」(米)
連続猟奇殺人犯、ハンニバル・レクター。その名を知らしめた「羊たちの沈黙」(91年)では、サイコサスペンスな物語にも、レクター(アンソニー・ホプキンス)とFBI女性捜査官(ジョディ・フォスター)の危うい関係にもドキドキさせられたことが懐かしい。あれから16年。カリスマ的ダークヒーローの生い立ち、「スター・ウォーズ」でいうならば「エピソード1」が描かれている。
脚本は原作のトマス・ハリス氏。そのためか、原作の緊迫感が損なわれていない。レクターは悲劇的な過去から、静かに強く、復讐(ふくしゅう)の炎を燃やす。畳み込むような展開に引き込まれた。
ホプキンスとフォスターに勝るコンビはないと思っていたが、本作に登場する男女2人も見応え十分。レクターの青年時代を演じた美形俳優、ギャスパー・ウリエルの冷たい笑顔はゾッとするほど色っぽい。一方、レクターに影響を与える日本人女性レディ・ムラサキ役は中国トップ女優コン・リー。「SAYURI」で演じた芸者同様、圧倒的な存在感は、日本人ではあり得ない所作に突っ込みを入れるスキすら与えない。美少年と熟女の微妙な関係は、2人の放つ色気でなまめかしさすら漂わせている。
一方、闇に引きずり込まれていくレクターの心理描写に徹底したせいか、レディ・ムラサキから影響を受けた優雅な振る舞いや高尚な趣味など、趣味嗜好(しこう)を決定づけたシーンがあまりない。ここが、ただの殺人鬼に終わらない魅力的なキャラクターや物語を彩るキーになっていたからこそ、もう少し描いてほしかった。【近藤由美子】
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2007年04月15日
枯れても燃えても素敵
「ロッキー・ザ・ファイナル」(米)
団塊オヤジのボクシング闘魂記である。主演のシルベスター・スタローンも、オヤオヤ、もう実年齢60歳。
それでも、あのロッキーのテーマが流れ出すと、走る走る。階段を一気に駆け上がり、得意の腕立て。「あれじゃぁ、次の日、たちまち腰痛だね」と、こちらの心配をよそに、次はバーベル上げ。次第に見る方も前のめり。手に汗握って、いよいよ最後はリングへと上がっていった。
ロッキー6作目。最終章。1作目に続く快作に仕上がったように思う。特に前半がいい。
映画が始まりスクリーンに出てきた彼は、最初、すっかり、太っちまってLLLサイズ。最愛の妻エイドリアンを亡くし、年ごろの青年に成長した1人息子は、オヤジを煙たがって寄り付きゃしない。
で、彼? 彼は街のイタリアレストランのオーナー。といっても地味な街のレストラン。小じゃれた感じはありません。
そんな彼の日常は、例えば息子に「たまにはメシでも一緒にどうだ?」と誘っても断られ、奥さんの命日には独りで寂しく墓参り。
昔の栄光はどこに? 年を取るとはこういうことなのでしょうか。
世間体は関係なし。物欲もなし。落ち着いた枯れ方というのだろうか? しみじみして、逆にいいのです。
自然体。脱力の美学。これが映画の前半です。
でも、それだけならば、『あぁ、枯れ山水』。ロッキー映画になりません。
で、後半。あるきっかけで、ロッキーのボクサー本能に火が付いた! それからは一気! 一気!
そう。「枯れてるアナタもすてき!」「でも、もう1度、立ち上がったアナタは、もっとすてき!」どうぞ、ご覧あれ。【馬場龍彦】
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2007年04月08日
坊ちゃん臭さ抜けたレオ様
「ブラッド・ダイヤモンド」(米)
レオナルド・ディカプリオが社会派作品の中で、ダーティーヒーロー像をしっかりと自分のものにしている姿が印象的でした。
映画で描かれている現実をもとにした背景はかなり残酷です。武器購入のためダイヤモンドを密売する反政府勢力。紛争とは無縁の村を襲い、働き盛りの男を拉致し、採掘場の労働力に充て、子供は兵士として教育する。ドラッグ漬けの洗脳後に戦場に送られる少年兵たち。先進国の物欲が内戦を継続させ、悲劇の連鎖を生み出す現実に胸が苦しくなります。命が簡単に奪われていく惨劇の連続に、目を覆いたくなる瞬間もありました。
ディカプリオは反政府組織に武器を提供して得たダイヤモンドを密輸業者に流す男。血も涙もないとはまさにこの男のこと。傭(よう)兵として育った過去から内戦の悲惨な現実もクールに受け止めています。
これまでワイルドな役を演じても、どこか坊ちゃん臭さが抜けなかった。ところが今回はふてぶてしい表情や粗野な振る舞い、野性味あふれキレのあるアクションをごく自然に表現しているのいです。衝撃度の強い物語に埋もれることのない存在感も印象的でした。主人公の心情変化に生かしていた繊細な感情表現は子役時代から折り紙付き。今回発揮した骨太なキャラクター表現を加え、将来がますます楽しみになってきました。
5年前にインタビューした際には、夜遊びがたたって20分遅刻してきました。腫れたまぶたと充血した目に冷たいお絞りを当てる姿にやんちゃさを感じたことが懐かしい。それほど大人のたくましさも伝わってきました。【松田秀彦】
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2007年04月01日
どんなに小汚くても京香の美貌じゃ…
「アルゼンチンババア」(日)
ドラマ「華麗なる一族」は珍しく毎週ビデオに撮ってまで見た。法廷画家が描く木村拓哉そっくりな肖像画や怪しげな動きをするニシキゴイ、ショーグン。小道具チェックも楽しみだったが、引き付けられたのは豪華キャストの火花の散らし合った演技だった。中でも目を奪われたのは鈴木京香。演じたのは万俵家を取り仕切る美ぼうの執事で父親(北大路欣也)の愛人、高須相子。意思に関係なく政略結婚を決め正妻に冷たく当たる。清そなイメージとは正反対の憎まれ美人役だが、驚くほどハマリ役だった。
そんな記憶が強烈に残る中、京香が本作で演じたのは“謎のババア”。ボサボサの白髪に厚化粧。高級品を身に着けこざっぱりとした身なりの相子とは180度違う。見た目はもちろん、現実的な相子と浮世離れした生き方も正反対だ。
物語は妻に先立たれ心の支えを失った男(役所広司)と娘(堀北真希)が、謎の女性ユリ(京香)との交流を通じて家族のきずなを取り戻していく姿を描く。
ボサボサ頭の京香が来客にラーメンをうれしそうに勧める表情は実に人間味豊か。清そなイメージとのギャップが新鮮だった。だが、徹底的に小汚くしているのにどうしても美しく見えてしまうのが残念。美ぼうは隠しきれないようだ。
田舎町が舞台のせいか、かなりスローなテンポで展開していく。のんびりした雰囲気に浸り、テンポにのまれてしまったせいか、テーマがぼやけて見えなかった。京香、役所、堀北と俳優はそろっているのに、もったいない。【近藤由美子】
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