2006年11月25日

震災から11年、明るい復興映画完成

「ありがとう」(日)

 説教系を思わせる「文部科学省選定」で、宗教系を思わせるタイトル、演歌系のポスター(縦書きの筆文字!)。まず見る気がしないパッケージなのだが、中身は意外なもうけものだった。阪神・淡路大震災の初映像化と、59歳でゴルフのプロテストに合格したおっさんの爆笑ミラクル。シリアスな前半と、ゴルフ漫画みたいな後半が、両A面でつながる、痛快エンターテインメントである。

 物語がプロテストに移る中盤以降が抜群に面白い。この手のスポ根大逆転モノにハズレはないが、実話だけにそう快感が違う。

 家を失い、金もない。若きゴルフエリート2000人の中で、あろうことか59歳。逆転勝利を盛り上げる要素はそろっている。ゴルフは個人競技だが、貧乏アイデアトレーニングを手伝ってくれた神戸の人々、遠征費を工面してくれた妻と娘、4日間の最終テスト日程をともにしたキャディー(薬師丸ひろ子が素晴らしい)など、無敵のチームワークも描かれる。主人公が人情丸出しのプラス思考家で、見る人を落ち込ませないのがいい。

 震災部分もしっかり描かれている。製作費15億円をかけ、セットで壊滅後の神戸・鷹取商店街を再現した。痛ましさと、その後の復興への歩みを時系列で追えば、最後に主人公が手にしたものの重みが分かる。

 ヒューマニズムに押しつけがましさがないのは、ユーモア精神で必死に踏ん張ろうとした関西人気質のおかげかもしれない。当時「活気を取り戻そう」とボソボソ演説する神戸市長に市民が「お前のしゃべりが一番活気ないんや」と突っ込んで笑いをとっていたと聞く。あれから11年。神戸市の全面協力でこれだけ明るい復興映画が完成したことを素直にたたえたい。つくづく、守りに入ったダサいパッケージが残念ではある。【梅田恵子】

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2006年11月18日

10年後に見ても楽しめそう

「ウィンター・ソング」(香)

 10年。

 10年間、誰かを思い続ける、しかも相手がここにいないのに、その思いを保つって可能なのかなあ。美化されそうだし、気持ちは悪い方に変質しそうだし、とにもかくにも相手がいない状況なんだから、実際は精神衛生上、まっこと、よろしくありません。でも「10年の愛」を作らせたらピカイチのピーター・チャン監督ですから、美しく仕上げております。

 金城武演じる映画監督を目指した男と、ジョウ・シュウ(目に吸い込まれそうでした)演じる女優を目指す女の10年愛。出会った時は互いに貧しかった2人が、それぞれ俳優と女優として成功して映画共演で再会。監督を交えた三角関係、現実と映画のストーリーが交錯して、2人の気持ちも関係も揺れ動く…。

 チャン監督のもう1つの10年愛「ラヴソング」(名作です、切ないです、感動です)は、2人の気持ちにぐーっと寄って寄って、波瀾(はらん)万丈で壮大ながら、シンプルなラブストーリーになってましたが、今作はミュージカルだし、ちょっとファンタジック。この場面は現実なのか劇中劇なのか、夢か現(うつつ)かといった感じです。筋は同じくシンプルですが、同じ監督、10年というキーワードも同じでも、こうも変わるものかと。

 そういえば「ラヴソング」が公開されたのは偶然にも10年前。見る側の状況も気持ちも変わっているわけで。ということで、こちらも10年後に見たら、ちょっと違う感想を持つのかもしれません。映画でも音楽でも小説でも、その時の状況や気持ちによって、思いが変わるのが楽しくて、楽しみの1つ。そんな期待を込めて、10年後に見てみますか。【小林千穂】

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2006年11月11日

元気もらえる「電車男」の女性版

「7月24日通りのクリスマス」(日)

 「女心と秋の空」とお嘆きの日本男児の皆さま。「ラブコメディーは女が見るもの」なんて、侮らないでください。少しは大和なでしこたちの女ゴコロが理解できるはず。女心をくすぐる材料があふれています。

 まだまだ男性中心に物事が回るニッポン。その中で仕事に恋に頑張る女性たちは少々お疲れ気味。家庭を顧みないダンナよりも、ヨン様に癒やしを求める。女性たちが求めているのは、傷ついた羽を包み込むやさしさや包容力なのだ。

 映画に登場するのは、阿部力(学生)、佐藤隆太(20代)、大沢たかお(30代)、小日向文世(40代以上)。温かいまなざしや笑顔にホッとする。まさに各世代の王子様たち。この映画に出てくる男性は、例外なく懐が深い。

 物語はオタク男性が高嶺の花“エルメス嬢”(中谷美紀!)に恋をして変わっていく「電車男」の女性版。元エルメス嬢は今回、女優オーラをすっかり消去した。「嫌われ松子の一生」で女性の転落人生を演じきった力は健在だった。ボサボサの頭に化粧気がまるでなしの顔。地味なOLからエビちゃん似女性に本当に変身していくからすごい。コンプレックスの殻を打ち破っていく姿に、素直に元気をもらえる気がする。

 最近の当たりラブコメ映画といえば「ブリジット・ジョーンズの日記」。主人公は好きな人に対し、場の空気も読まず、なりふり構わずアタックする。常識的な大和なでしこはうらやましく思いつつも、そこまでの暴走はやっぱりできないのが現実なのだ。

 そしてもう1つ。シンデレラストーリーが嫌いな女性はまずいない。口に出さなくても。【近藤由美子】

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2006年11月04日

「大きな力があるんやで」

「手紙」(日)

 古今東西、手紙が出てくる映画はたくさんあるが、一番もらいたかったのは、「男はつらいよ」シリーズでほぼ毎回、寅さんが旅先から柴又の妹に送る誤字脱字だらけのはがきだ。肉親を思うストレートな情。ミミズがはい回るような筆跡から、孤独なんだけど温かい生き方がにじみ出る。

 そのものズバリ「手紙」というタイトルの本作。犯罪者の家族への克服できない差別。つぐないきれない罪。深刻で今日的なテーマを掘り下げるために使われるのが手紙。刑務所の兄から弟への手紙。メールですべてがすんでしまう現代だが、刑務所ではパソコンもケータイも使えない。設定に説得力がある。

 主人公を励ます少女役の沢尻エリカがいい。彼女が書く数通の手紙が、物語の隠れ主役だ。「手紙にはこんなに大きな力があるんやで。めちゃ大事やねん」。沢尻の関西弁がカワユく心に響く。そして「大きな力」はあるにしても、差別や偏見は絶対になくならないという絶望感。感動のドラマが終息しても、被害者だけでなく加害者にもなりうる怖さを突きつけられていたことに気付き、背筋が凍る。

 小田和正が歌う「言葉にできない」がかぶさりながら泣かせにかかるクライマックスが少しあざとい。感傷に流されるなと涙腺を律しながら見た。観客を呼ぶために「泣ける映画」というレッテル(もちろん悪い意味)をはられたとしたら、この重くまじめな佳作にとって不幸なことだ。

 匿名掲示板の残酷さ、無神経さが「大きな力」になりつつあるネット時代。車寅次郎は遠くなりにけり…と嘆きつつも、ついつい「2ちゃんねる」をのぞいてしまう私である。【高田博之】

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