2006年07月29日
現代女子の「青春バイブル」実写版
「ハチミツとクローバー」(日)
告白するが、胸が切なくなった。そんな自分がこっぱずかしい。背中がこそばゆい。
少女漫画に対して抱く、男子側の先入観は「女から見た男の理想像」「性欲は二の次の清き恋愛」。620万部を突破したという人気コミックの実写版も、そんなイメージの範囲内にある。美大生の男女5人が全員片思いという、プラトニックな非現実的設定。しかし、性欲などどうでもいいじゃんと納得させる潔さがある。
剛速球なのである。登場人物が「青春」という言葉を堂々と口にするのは、高度経済成長時代の学園ドラマ以来ではないか。海が見たいなぁと車に箱乗りして浜辺に向かうのである。波とたわむれて楽しそうなのである(実際やってみると、それほど楽しくない)。太平洋に向かって「青春サイコー」と叫ぶのである(実際やろうとも思わない)。人間って何で生きているんだろう的なことを声に出して自問するのである(実際、酒を飲むと考えたりする)。
ね、こっぱずかしいでしょ? ただ、これは確信犯の青くささ。原作を換骨奪胎(かんこつだったい)しながら(詰め込みすぎの「NANA」と大違い)、「ハチクロ」特有の直球感を残す意図がある。俳優陣が必ずしもイメージ通りではなかったり、コミカルな部分が寒かったりするが、現代女子の「青春バイブル」の正統なる実写化と言い切ってしまおう。
このコラムを書くに当たり、コミック8巻(現在9巻が発売中)を妻と一気読みした。20年近く前、登場人物と同じ年代をともにすごしたカミさんの感想は「昔は私たちも、こんなだったよね。くだらないことに一生懸命になって」。それに対し、私は「覚えてないなぁ」。いい大人は心の中で「青春サイコー」と叫ぶのだ。【高田博之】
(このコラムの更新は毎週土曜日です)
2006年07月22日
2作目でも中だるみしない!
「パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト」(米)
ウナギ以上に夏にぴったりの作品だ。暑さで、思考力がガクンと低下する時期。小難しい作品より娯楽作品の方が心地いいのは当然だ。でも、人は勝手で、こういう季節だからこそ、薄っぺらなサービス精神、安っぽいだけの娯楽を押しつけられると、逆に不快になったり、場合によっては「金返せ」と逆ギレ状態になったりもする。つまりエンターテインメントのハードルが高い時期でもあると思う。それをジョニー・デップは軽々と跳び越えた。
海賊ブームを巻き起こしたディズニー3部作の第2弾。当人が「9000作までやりたい」とジョークを飛ばすほど気に入っているだけに、役柄へのなりきり度が違う。その意気込みという名のエネルギーが、前作以上にグイグイ伝わってくる。
はじけた海賊のキャラを引き立てているのが、正統派の若い美男美女。「ロード・オブ・ザ・リング」で弓の名手だったオーランド・ブルームと「英国のバラ」の異名を持つキーラ・ナイトレイは今回、デップを含む三角関係に発展する。前作以上に心理的なからみが濃密になったわけだが、若い2人が自分の立ち位置をしっかり自覚し、デップとの対比を鮮明にしている。
どんな名作、大作シリーズでも、3部作の中間作はとかく中だるみしがちなものだが、これに限ってはそんな心配は無用。次も見なきゃと刷り込まれるラストまで、存分に楽しませ、夏バテ防止のエネルギーまで充電してくれる。【近藤由美子】
(このコラムの更新は毎週土曜日です)
2006年07月15日
どんどん沈む…すごい映像
「日本沈没」(日)
あと338日で日本列島が消滅する。究極のシミュレーション映画。「自分ならどうする」。そんな問いかけをしながら見ようと思ったら、無理だった。静岡大地震で幕を開け、あっという間に北海道と九州が沈んでいく。ディスカバリーチャンネルの自然破壊版とでも名付けたくなるようなものすごい迫力で。パニック映画の傑作「ジョーズ」で味わったじわじわと忍び寄る恐怖を期待したらいけません。とにかくどんどん沈んでいきます。
前半は人間の無力さを痛感させます。聡明な指導者も、まるで自然が人間をあざ笑うかのように、あっけなく世を去る。阪神大震災など大災害をリアルタイムで見てきた。考える猶予も与えないこのテンポの速さは、観客にも追いつめられた感覚を共有させる効果を十分発揮するだろう。
日本映画のCG技術の進歩と、東宝お家芸の特撮の融合に感心した。見慣れた風景が徹底的に壊滅し無惨な姿をさらす。大人の私でもむなしく悲しい気持ちになった。これがきっと子供だったら、トラウマになっちゃうかな。
後半は絶望的な状況に立ち向かう、人間の強さに焦点を当てます。主人公の活躍も印象的だが、苦境にも笑顔を失わず、支えあって生き抜いた「普通の人々」に心打たれた。「自分なら」と最後に考えてみた時、そうありたいと思えた生き方だったから。それにしてもすごい映像でした。【松田秀彦】
(このコラムの更新は毎週土曜日です)
2006年07月08日
すべてが揺れ続けて怖い
「ゆれる」(日)
タイトルがいい。「ゆれる」。何が? どこで? どんなふうに? 何だか落ち着かない気分になるでしょう。この落ち着かなさ、不安定な気持ちが、見事に作品にはまっている。
オダギリジョー、香川照之演じる兄弟が遊びに行った渓谷で、幼なじみがつり橋から転落したところから、物語は大きく揺れ始める。といっても、その前から、兄弟の間には不安定な揺れが起こっている。静かに、でも、見ている者がはっきりと分かるように。2人の気持ちも記憶も揺れ続け、時に、ぐらりと傾いて崩壊する。
揺れ続け、物語を揺さぶり続ける俳優2人が、すごくいい。特に香川。目で、声で、背中で、体全体で、優しさと何を考えているのか分からない二面性を持った兄を表現した。そこはかとなく怖い。冒頭の笑顔は一体何だったんだろうと思いながら見ていたら、その笑顔さえ嫌悪感に変わってしまった。
兄弟の周囲でも、小規模な衝突が絶えず起こっている。安心できる場所(場面)がない。作品を見ている間ずっと、すべてが揺れ続けている。大きなアクションやホラーシーンがなくても、こんなに怖い気持ちになるなんて。何が怖いって、やっぱり人の心が一番怖くて分からない。それでも、ちょっと希望が持てる物語になっているのは、女性監督ならではの感性なのだろうか。【小林千穂】
(このコラムの更新は毎週土曜日です)
~西川監督、念願のカンヌデビューに感激~
新進の女性映画監督・西川美和さん(31)。
メガホンを握った2作目の映画「ゆれる」が23日、イイノホールのゴールデン試写会で上映された。香川照之とオダギリジョーが兄弟を演じ、家族のきずなの崩壊と再生を描く人間ドラマで、5月のカンヌ国際映画祭でも監督週間部門に出品された。念願のカンヌ・デビューに感動した。
「上映の前の舞台あいさつで拍手がとても長くて温かくて、すごく歓迎されていることを感じてうれしかったです」。会見で涙と報じられたが、「コンタクトレンズにゴミが入っただけ。報道に笑いました」。
大学時代は編集者やライターなどマスコミ志望だった。アルバイトで映画界に関わり、是枝裕和監督に才能を見出された。デビュー作の「蛇イチゴ」でヨコハマ映画祭の新人監督賞を獲得し将来を嘱望された。そんな才女も映画製作のきっかけはユニーク。
「実は夢を見て、2本とも自分の夢をモチーフにして作ったんです(笑い)。日頃押さえ込んでいる感情が夢に噴出してきたのでしょうが、次回作はそうはいかないですよね」。「ゆれる」は7月8日から公開。
◆西川美和(にしかわ・みわ) 1974年(昭49)7月8日、広島県生まれ。早大卒。03年に「蛇イチゴ」で監督デビュー、他に2本の短編映画を撮る。
2006年07月01日
YUIの歌声で鼻の奥がツーン
「タイヨウのうた」(日)
「Oh グッバイ デイズ~」というフレーズが耳から離れない。つけっぱなしの会社のテレビからガンガン流れてくるCMから刷り込まれたようだ。「LIMIT OF LOVE海猿」で伊藤由奈が歌う「信じよう~」の呪縛(じゅばく)からやっと、解かれたばかりだったのに…。近年、主題歌と作品のヒットはほとんどが同調している。その点で、本作もまずは合格点以上だろう。
あの印象的な高音ボイスの持ち主が、歌うことが生きがいの主人公に起用された。YUIは、実際に路上ライブで鍛えられた歌手だ。演技は初挑戦。ぎこちない部分もある。でも、あぐらをかいて歌う姿からは思いが切々と伝わってきて、マイナス部分を補ってあまりある。大胆なキャスティングをした小泉徳宏監督もまだ25歳。若さの長所がスクリーンにしっかり刻まれている。
こうした若い感性を支えているのが、岸谷五朗だ。太陽にあたれない病気を抱えた娘に注がれる視線、苦悩する姿がいい。最近はやりの「泣かせる純愛モノ」は当事者の実生活が希薄になりがちだが、ここでは岸谷の存在が物語に奥行きを与えている。
映画と接し続ける日々。もうこの手の作品には絶対に泣かされない自信があったのだが、あのYUIの歌声を聞くと、反射的に岸谷の顔が浮かんできて、鼻の奥がツーンとしてきてしまうのだ。【近藤由美子】
(このコラムの更新は毎週土曜日です)