2006年03月25日
8匹の犬たちの演技力がいい!
「南極物語」(米)
本家の「南極物語」(83年、蔵原惟繕監督)の評価は人それぞれだが、仮にも「踊る大捜査線2」に抜かれるまで、20年間邦画の実写興収第1位に君臨した作品である。リメークするなら、オリジナルの世界観にそれなりの敬意を払ってほしい。
ディズニーだからだろうが、人間の弱さや、大自然の前に犬たちが次々と討ち死に(15匹中、生存2匹)していく痛ましさなど、オリジナルに漂う暗さ、生臭さがまるで排除されている。スクリーン全体が「イヤッホー!」というノリ。チームワークで逆境を乗り越えて勝利し、裏テーマはロマンスといういつものパターン。犬と人間でいえば、米国版「フランダースの犬」は、ネロもパトラッシュも死なずに大成功のハッピーエンドで終わるが、今作もそんなお国柄が全開だ。
2時間飽きずに見ていられるのは“主演”である8匹の犬たちの演技力に尽きる。本家・南極物語で立派にリーダー犬の務めを果たして死んだリキの役どころを演じるハスキー犬がいい。常に緊張感を保ち、冷静に仲間に目を配る孤高のツラ構えに感銘を受ける。
彼らに主演俳優の自覚はないだろうが、人間のためにここまで頑張って結果を出す犬の底力に、あらためて恐れ入る。「動物映画は動物が輝いていればいい」という本来の視点に立てば大成功だろう。犬好きな人は幸せになれること間違いなく、実際、私の両サイドは号泣していた。
昭和33年の南極観測隊ならまだしも、団体ツアーで南極観光ができる時代に、犬を置き去りにする理由が弱い。南極に戻れない理由が「金がない」というのも脱力だ。リアリティーのなさを力まかせに乗り切ろうとする人間の穴を、犬が自力で埋めている。ナイスリカバリーと、声を掛けたい。【梅田恵子】
(このコラムの更新は毎週土曜日です)
2006年03月18日
何もかも気にくわない人にオススメ
「かもめ食堂」(日)
劇中にも出てくるせいか、ホカホカのおにぎりをほおばった瞬間のような、至福のひとときに包まれた。ささやかな幸せで満たしてくれる、優しい作品だった。
何やら思いきりクセがありそうなタイトルは、北欧フィンランドの首都ヘルシンキに日本人女性が開店した食堂の名前。内容は裏腹で、物語、人物、映像…どれも潔いほどシンプルだ。
毎日を一生懸命生きた上で流れに身を任せれば、必ずいいことがある。女主人サチエ(小林聡美)はそれを忠実に実行する。手抜きはしない。客が来なくても、毎日食器をピカピカに磨く。まごころを込めて料理を作る。仕事を言い訳に料理、掃除、交遊関係まで怠って、「いいことないかな〜」なんて、のんきに言っている自分が恥ずかしくなる。
サチエ同様、ミドリ(片桐はいり)、マサコ(もたいまさこ)も日本にすべてを置いてきて、何も持たない人である。しかし、現実逃避して慰め合っているのではない。ほどよい距離感を保った3人のやりとりが心地よいのは、肩の力の抜き方が決して無理をして、そうしているのではないからだ。
雄大な自然を背景に、規則正しく生活し、食事を丁寧につくり、それを大切に味わう。何か大事件が起きるわけではない。実に不幸なことに、現代日本からみると、そんな日常こそが特別なことに見えてしまう。ちょっと行き詰まっている、人生こんなんでいいのかなあと疑問を持っちゃった、何もかも気にくわない…そんな人にオススメの薬だと思う。【近藤由美子】
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2006年03月11日
陰謀暴く「知り穴」
「シリアナ」(米)
片仮名タイトルを漢字に変換しても通じる映画がたまにある。「キル・ビル」は、ビルという男に日本刀で復讐(ふくしゅう)する「斬(き)るビル」な内容だった。「シリアナ」は、中東で油を掘ることに関する知られざる陰謀を暴く「知り穴」(「尻」ではない)な内容だ。
「シリアナ」の本当の語義はイラン、イラク、シリアの3国を1つの民族国家とする中東再建計画。ワシントンのシンクタンクが使っているそうだが、いかにも地球警察米国らしい、ごう慢な用語だ。それに、何やら裏に複雑なドロドロがありそうじゃないか。
予想にたがわず、映画はドロドロな状況をキビキビと描写する。中東専門のCIA工作員。若きエネルギー・アナリスト。石油メジャーのために働く野心家弁護士。自爆テロに走る出稼ぎ青年。この4人が「地球的石油利権」の陰謀に絡み合う超絶脚本にウナる。
静かで複雑で専門的な展開に、正直眠くなるが、ある登場人物のセリフで目が覚める。「腐敗のおかげで我々は勝つのだよ」。我々とは巨大企業と国家。「この物語はフィクションであり、実在する団体等とは関係ありません」なんてただし書きが最後に出てくるスポンサー付テレビ番組では絶対見られない肝っ玉。経済原理のタブーを暴露した地味な作品が、批評的にも興行的にも評価される大国は、ごう慢ではあるが懐が深い。
かたや、懐が寒い私。灯油を買いにガソリンスタンドへ行くと驚いた。18リットル1430円! 去年は800円ぐらいじゃなかったか。これも「知り穴」の地球的陰謀の余波かと思えば納得がいった。【高田博之】
2006年03月04日
心の旅に出ないで下さい
「ナルニア国物語 第1章ライオンと魔女」(米)
それなりにドキドキして見始めた冒険ファンタジーシリーズ「ロード・オブ・ザ・リング」「ハリー・ポッター」が2、3作と続くにつれてだんだん苦痛になってきたのは、主人公が1人で「心の旅」に出掛けちゃったからです。
「ロード-」のフロドは弱っちいのに「1人で行くんだ」とか言っちゃって、親友を置いてけぼりにしちゃうし、ハリーは両親の幻影から逃れられなくて、暗いのなんのって。ちょいとナルシスト入ってるから「どうしてぇ~、なぜなんだぁ~」という心の叫びがぐるぐる渦巻いちゃってました。仲間はいるけど基本的に孤独だし。ただでさえ、前はどんなとこで終わったっけ、これだれだっけ、なんて考えなきゃいけなかったのに、主人公も考え込んじゃうから、スクリーンと見る側、ダブルでドツボにはまっていってました。
今作は主人公が4人きょうだい。4人まとめてかかってくるので、たった1人の心の旅に置いてけぼりをくうことはありません。リーダーシップを発揮したい長男、あきらめが異様によい長女、甘えたいけど強がっちゃう弟に、実は一番しっかり者の妹。キャラクターも分かりやすくて安心感あり、です。
たんすの扉を開けたら魔法の国だもんね~。そりゃびっくりするって。ってなことで、まだ皆があたふたしてて、ウジウジ(あ、言っちゃった)してる者はおりませぬ。楽しめました。
危険なところがあるといえば、弟の暗い感じ、ちょっとマズいかもしれません。同じキャストがそろう次回作で、弟が心の旅に出ちゃったら…。お兄ちゃんに「どこ行ってんだ、消えるなよ」(一応、決めゼリフなのかな)と言ってもらいましょう。【小林千穂】