2006年02月25日
“織田様オーラ”にやけどしそう
「県庁の星」(日)
織田裕二は今、日本で観客を確実に呼べる数少ないスターだと、また実感させられた。いつも演技を超えた存在感に圧倒されてしまう。日本の実写映画興行収入歴代1位の金字塔を打ち立てた「踊る大捜査線2」以来の新作だが、あの熱い“織田様オーラ”はパワーアップしている。物事に冷めた視線を送りがちの私もまた、うっかりやけどしそうになってしまった。
熱い男を演じたら天下一品なのは、彼自身がそうだからなのだろう。その熱血ぶりは「くどいな~」なんて思いを軽くねじ伏せてしまう不思議な力がある。そういえば、世界陸上のキャスターを務め、予選落ちしそうになった選手に「バカッ!」と思わず叫んだ“フライング”も、世間からはおとがめなしだった。
同じような熱い役ばかり選んでいるのではない。今回演じたのは悪戦苦闘するエリート地方公務員。「ホワイトアウト」でダムを占拠したテロリストたちに1人で挑むダム職員や「踊る-」の熱血刑事よりも、現実味がある役どころだ。挫折を味わい、ボロボロになって、また立ち上がろうとする姿は人間味たっぷり。現実にはいそうにないヒーローよりも、ずっと親近感がわいてくる。
「踊る-」のスリーアミーゴスのようなユニーク脇キャラは不在。ストレートな泥くささにたっぷり浸るのに、2時間11分はちょっと長いかもしれない。【近藤由美子】
2006年02月18日
「またか」でも退屈しない
「ウォーク・ザ・ライン」(米)
ドラッグによるカリスマミュージシャンの栄光と挫折、というよくある話。ベット・ミドラーがジャニス・ジョプリンを演じた「ローズ」、ジェイミー・フォックスがレイ・チャールズを演じた「レイ」など映画史に残る傑作も多い。この手の伝記映画の成否はキャスティングにかかっているが、その点でこの作品は「成功」といえそうだ。50年代、プレスリーらとともにロカビリー黄金時代を築き上げたジョニー・キャッシュの半生に、ホアキン・フェニックスが挑んだ。
転落の背景にあるのは「兄の死」と「ドラッグ」。ホアキン自身、93年にスター俳優だった兄、リバー・フェニックスをドラッグ中毒で亡くしている。生木を裂くようなつらいキーワードと向き合った心意気は、ガラスのように危ういリバーの魅力とは対極の、生きる男の色気となってスクリーンに広がっている。女を抱くようにギターを扱うワイルドな色気、孤独をコントロールできないダメ男の色気、あれだけの中毒でも死ねないぶざまな色気、40回断られてもプロポーズをやめない図太い色気…。ラストが究極のハッピーエンド(CMでネタバレ中)であることも、よくあるロック野郎の安い結末とはひと味違う。
個人的には麻薬に演出された不幸や波瀾万丈にはドラマ性を感じないので、話の大筋は「またか」という感じ。それでも退屈さを感じないのは、ホアキンとリーズ・ウィザースプーンの吹き替えなしの歌声が、極上のライブビデオを見ているように楽しかったから。ラストシーンも実話だというのだから、純愛にもほどがある。何をウォーク・ザ・ライン(まっすぐ歩く)すればいいのか、分かった彼らがうらやましい。【梅田恵子】
2006年02月11日
立ち位置考えさせる
「ミュンヘン」(米)
観賞後、ホッとする。やっと深呼吸ができる。72年ミュンヘン五輪の選手村で11人のイスラエル人がパレスチナゲリラに殺された。国家の命を受けてテロ首謀者たちに報復する暗殺者。観客にも休息を許さない、実話ベースの特A級サスペンス映画はまた、人間の立ち位置について考えさせる。先月、脳内出血で危篤に陥ったイスラエルのシャロン首相について、イランのアハマディネジャド大統領が「このまま死んでくれ」的発言をした。パレスチナの殺し合い連鎖の中心人物であり続けたシャロン(主人公が指令を受ける場面で姿を見せる)とはいえ、一国の長が公に口にする言葉か。立ち位置が違うだけで、どっちもどっちな「歯には歯を。テロにはテロを」。30年たっても映画の緊張は現在進行形なのだ。
米国人でありユダヤ人であり映画人でもあるスピルバーク監督の立ち位置も難しい。ナチのホロコーストを描いた「シンドラーのリスト」より善悪が複雑だ。イスラエル側に立っているようで、殺されるアラブ人を絶対悪に描いてもいない(実際イスラエルもパレスチナも、この映画に批判的)。
強調されるのは「個」の立ち位置。身重の妻を残して狩りに出る主人公は、殺しにまひすることで追いつめられる。疲れ切った彼を最後に救うのは妻の心からの「アイ・ラブ・ユー」だ。国も大儀もへったくれもない。
かつてチャプリンが言った。「1人殺せば犯罪だが100万人殺せば英雄だ」。殺人狂時代はいつまで続くのか。9・11テロの残虐映像に歓声を上げる民もいる。米軍の誤爆で子供が死んでも何も感じない民もいる。どっちもどっちだ。大それた政治的立ち位置を持たない私は「単身赴任のパパの悲哀物語」だと思いながら、エンドロールを迎えた。夫として親としての立ち位置。それでいいんですよね、スピルバークさん。【高田博之】
2006年02月04日
ジメジメ100%また見つけた
「オリバー・ツイスト」(米)
こってり濃密な作品を作り続けてきたポランスキー監督。3年前、ついに「戦場のピアニスト」でアカデミー賞監督賞を受賞しちゃったからなのかもしれない。どうしちゃったのさ、ポランスキー、と言いたくなってしまった。
「ローズマリーの赤ちゃん」にしても「死と処女(おとめ)」にしても、ねっちょりじっとりした風情が得意だったはずじゃない。「ナインスゲート」なんてオカルト×ジョニー・デップで、これ以上ないくらい暗くて、ほんっとジメジメしてたでしょう。今作はさわやかすぎるんだよ。「一生懸命生きてれば幸せになれる」って、現実的じゃないというか、ある意味で現実を超えているというか。
それでも、ジメジメ100%を見つけましたよ。製作費を80億円もかけて再現した(さすがアカデミー監督。かけられるお金のケタが変わってきた)19世紀のロンドン。にちゃにちゃと音がする、ぐっちょんぐっちょんの道、川の汚さなんてヘビー級。もちろん、し尿を窓からざっばーん、というシーンもあり。街全体が湿度100%なのです。監督の粘着質は、こんなところに生きてたのね…。
ただ、主人公の名前がタイトルになってるくらいだから、主役の魅力は必須なのに、バーニー・クラークくんの魅力が「?」なんです。「かわいい! あれ、かわいい? かわいい…のかな。ああ、まあかわいいんじゃない」ってな感じ。名優ベン・キングズレーも、やりすぎメークにつぶされちゃった。さみしゅうございました。【小林千穂】