2005年10月29日
S男とM女の悲恋話
「春の雪」(日)
好きな相手にいじわるしたいS男(清さま=妻夫木聡)と、いじわるされたいM女(聡子=竹内結子)のお話です。この単純な構造を極めていくと悲恋が一丁出来上がり。
同情の余地ないんだな~。大正時代の華族同士、身分違いの恋でもなし、遠くに行かねばならぬ身でもなし。しかも、相手の縁談話を聞いて、親に「言うなら今だぞ」って念押しされちゃったりしてる。ああ、これを悲恋と言うべきか…。
だがしかし、美しい物語にしてしまうのは、原作同様あっぱれ力業。原作では、許されない恋(のつもり)をしている2人には、波間にきらめく月の光が「100万の目」に見え、終わりが見えた2人には、お椀(わん)から垂れたしるこが「春の泥」のように見えたと表現。ため息1つ、目配せ1つとっても、無駄なものはなく、世の中すべてが2人の悲恋を象徴してます、ってな感じ。
その表現力の代わりになったのは、映像の美しさ。朝に夕に、雨に雪、桜にもみじ、華麗な貴族たちの生活と場末の宿で結ばれる2人…。めまぐるしく展開する場面に加え、榎木孝明、大楠道代ら出てきただけで「何かありそう感」を漂わせる役者陣が、スパイラルで“悲恋”を高めていきます。そのぐぐーっと高められた緊張感が、パチンと切られた後は「何のこっちゃい」なんですけどね。
それはさておき、竹内の唇からこぼれる「清さま」の響き。何でこんな甘い響きで呼ばれて意地悪しちゃうんだと思うほど。それが男ってもんですか。なるほど。【小林千穂】
2005年10月22日
ヒロイン気分にひたり涙…
「私の頭の中の消しゴム」(韓)
罪な映画である。うかつにも、29歳、独身の自分の中に封じ込めていたヒロイン願望が刺激されてしまった。超イケメンがとにかく尽くす。ヒロインが病気と知ると「僕が一生面倒を見ます」と即答。目まいでフラッと倒れると、サッとお姫さま抱っこ。頭の片側で「こんなに紳士的で男らしい人、現実にいるわけないじゃん」と思っても、もう片側で「いつかはこんな人と…」と期待をふくらませている自分を発見して、驚いた。
これは何より配役の力だろう。王子さまはチョン・ウソン。「MUSA」などに出演し、韓国では今やチャン・ドンゴンらに並ぶ人気俳優。元モデルだけに、妻のために1つ1つ小さなメモを書いていく姿ですら美しい。ヒロインのソン・イェジンには、前公開作「四月の雪」の不倫に苦悩する主婦から、かわいくはかなげな女性への変ぼうに驚かされる。両作とも背負うものは重いのだが、1対1の愛の分だけ、救いや明るさも感じる。「電車男」のように最近のラブストーリーは美女と野獣の組み合わせも多いけれど、やっぱり正統派美男美女は強い。
展開も巧みだ。2人が結ばれる過程、幸せな時間を丹念に描き、若年性アルツハイマーが本格的に発症してからは急展開。時間的にもコンパクトにまとめてある。この激しい落差が、どっぷりヒロイン気分にひたっていた観客の涙を有無を言わせずしぼり取ってしまう。
本当は救いのない悲劇なのだが、どんな女性でもついソノ気にさせる、強力なシンデレラストーリーだと思う。【近藤由美子】
2005年10月15日
後半生き生き…観客をロック・オン
「ステルス」(米)
★の数に迷う映画だ。腰が抜けるほど退屈な前半はゼロ、監督が代わったのかと思うくらい見違えてスクリーンが生き生きする後半は5。仕方がないので中途半端に3とする。我慢して観続ける忍耐力が、この作品を楽しむポイントだ。
海軍航空隊の3人の精鋭チームに、4人目のメンバーが加入する。人工知能を搭載した無人ステルス戦闘機のエディ号。先輩である人間を見下し「並んで飛べ」と言われてもアクロバット飛行でスタンドプレーをするような問題児だ(私は杉村太蔵号と命名した)。やがて恐怖の暴走を始めるエディに、3人が立ち向かう。
人類の未来を米国人が救うという、いつものパターン。戦闘機乗りの恋、軍上層部の陰謀、人工知能の暴走…。「アルマゲドン」「トップガン」「ナイトライダー」など、さまざまな要素をごった煮にして拡小再生産した感じ。声だけ発する赤い発光体というエディの恐怖描写は「2001年宇宙の旅」のHAL(ハル)そのものだ。
後半、1分間8000万円のCG映像が火を噴き始めると、一気に観客をロック・オン。戦闘機のスピード、風圧、4G(重力)の世界を体感するような迫力で、こちらもスクランブル状態の気分になる。それまでの薄っぺらい人物描写や演出が反転し、機械VS人間力のギリギリの知恵比べ。途中から両者が共闘という「アイ、ロボット」のような展開を経て、結局エディは敵なのか、味方なのか。最後にひとひねりある。
女パイロットの緊急脱出シーンは、あれを見るためにもう1度映画館に行こうと思うほど、シビれる場面だった。深夜テレビで「24」が放送されていたけれど、またもや足手まといな女をさく裂させるジャックの娘にうんざりしていたので、余計にスカッとした。【梅田恵子】
2005年10月08日
マッチョ野郎とキレキレ美女にシビれる
「シン・シティ」(米)
衆院選の自民党みたく力ずくなマッチョ野郎は、選挙で勝っても女にはモテない。でもマッチョの中にも「自分をリスペクトするマッチョ」と「女をリスペクトするマッチョ」がある。変人首相は前者かもしれない。一方、このはじけて斬新でヤバいくらいに暴力的な映画は後者だ。出てくる女性は娼婦かストリッパー。若く性的でなければ女じゃないなんて訴えられそうなくらいマッチョな設定だけど、女を神のごとく敬い死んでいく男たちのやせ我慢的ごう慢がいとおしい。
監督はロバート・ロドリゲス(個人的にはヤンキースのAロッドにちなみRロッドと呼んでます)。脚本も音楽もカメラも兼ねる、Aロッド以上のオールラウンダー。「フロム・ダスク・ティル・ドーン」は途中で突然別の話になっちゃう支離滅裂吸血鬼物。「スパイキッズ3」は赤青メガネの子供だまし3D映画。はたまた「デスペラード」は暑苦し過ぎなラテン系殺し合い。ハチャメチャ作品歴に共通するのは、力ずくだけじゃない乱暴者が活躍することだ。
だから、女を立てるマッチョ野郎ウィリスとロークにシビれるのは当然。それ以上に目を見張るのはキレキレ美女たち。デヴォン青木(「ベニハナ」ロッキー青木氏の令嬢)演じる赤線娼婦自警団の殺し屋忍者は、自民くノ一代議士より集票力があるのでは。必殺技は「人間ペッツ」。リスペクトしない男はスライスされちゃう。恐ろしい。
原作アメコミを忠実に再現した世界観。遠近法無視なめあげ構図。スタイリシュな残酷描写。デジタルかつアナログな超人アクション。棟方志功が映画を撮ったらこうなるのでは、と思わせる版画のごとき極彩モノクロ画面。血ヘドが口紅が、赤より赤く見えるパートカラー…。まだ言い足りん。男も女も、ついでに(小泉)チルドレンも、映画館へ急げ!【高田博之】
2005年10月01日
生き方、映像、俳優、原作どれもピシーっ
「蝉しぐれ」(日)
ピシーっと姿勢の良い作品です。背中にものさし入れられちゃった、ってな気分なんです。
登場人物の生き方。「汚れちまった心」には、本当にまぶしいのです。誠実に生きるということが、どれだけシンプルで難しいことか。原作の読後もそうでしたが、自分に問い掛けてしまいそうです。
映像。桜に見とれ、汗とかげろうにこちらまでくらっとし、短い秋と深い雪に、藤沢周平作品でおなじみの「海坂(うなさか)藩」が見えました。ただ美しい映像というのではなく、文字を見て想像をふくらませた東北の小藩の、広がりや距離感が見えたような。田舎育ちの人間には懐かしさを覚えるような風景が次々に展開していき、圧倒されっぱなしでした。
俳優。市川染五郎がいい! 父を慕い、幼なじみを思い続けるまっすぐな牧文四郎の役がこれ以上ないくらいぴったりはまってる。歌舞伎役者ということもあって立ち姿がとてもキレイなので、ピシーッという雰囲気がよく出ているのです。確か昨夏、今作と同時に「阿修羅城の瞳」を撮っていたはず。鬼殺し役でハジけていた同一人物とは思えないほど、静に徹しています。
原作は藤沢作品群の中でも、とびきりの傑作。どうしても小説にあることを確認していく「作業」をしてしまいます。「作業」をしながらも、引き込まれた2時間11分でした。これってやっぱり原作の力、ですか。
【小林千穂】