2005年09月24日
新解釈「男の成長物語」
「ルパン」(仏)
ルパンシリーズを、学校図書で夢中で読んだ人も多いのではないか。王家の財宝を追って奇巌城にたどり着く大冒険から、無許可で登場させたシャーロック・ホームズに妻を射殺されるというトンデモ展開(コナン・ドイルが激怒!)に至るまで、私にとってルパンは怪盗というより冒険紳士のイメージ。頭が良くて女に甘い。新潮の堀口大学訳が格調高くて最高なのだけれど、次は、次はとページをめくりたくなるハラハラ、ドキドキ感がルパン小説の魅力だ。
で、この映画にはそれが感じられない…。ジャン=ポール・サロメ監督は58編あるモーリス・ルブランのルパン小説を現代によみがえらせるため“新解釈”に挑戦したという。父親に関する複雑な記憶を軸に、ルパンの悲しみと解脱を描く「男の成長物語」ということになっている。文芸路線で、映像も展開も心の闇でどんより。ルパンのダンディズムや生き生きとした小説名場面が、新解釈のトラウマに飲み込まれてしまった感じだ。原作ルパンとルパン3世、どちらのファンも新解釈ルパンのファンにはならないのではないか。
とはいえ、ルパン愛読者なら気づく仕掛けがたくさんあって、名作めぐりの点では楽しい。冒頭、ノルマンディーの奇巌城が空撮されただけで泣きそうになった。物語は「カリオストロ伯爵夫人」「女王の首飾り」などを中心に進み「青い目の令嬢」のクラリス(ルパン3世でもおなじみ)も主要キャスト。冒頭の豪華客船は記念すべき第1作「ルパン逮捕される」だし、名作「813」はどうでもいいキーワードで登場して笑わせてくれる。
振り返ると、結構楽しんでいたのかも。要は、ルパンの顔が趣味でなく(胸毛すごすぎ)、クラリスに魅力がない-。残念ポイントは、そんな基本部分なのかもしれない。
【梅田恵子】
2005年09月17日
ファンじゃなくてもヨン様に泥酔
「四月の雪」(韓)
女がこの作品について書くとき、必ず聞かれそうなので最初に記しておく。ぺ・ヨンジュンのファンではない。でも、好きな作品だった。
理由1 名作「八月のクリスマス」から、ホ・ジノ監督の演出が性に合う。セリフも説明も極力抑え、映像を丁寧につむいで客観的に語りかけてくる。今作の現場では台本のセリフをさらに半分カットしたそうだ。ラストが代表的だが、それぞれのシーンの解釈は見る側に預けられている。分かりやすい映画がもてはやされる今。それを「説明過多」と思っている人には心地いいだろうし、「白黒はっきりしてよ」と求める人は辛口になる作品だろう。
理由2 微笑みを封印したヨン様の演技に驚かされ、初めて親近感のようなものを覚えた。「冬のソナタ」は白馬の王子風、前作「スキャンダル」では李王朝時代のプレイボーイを演じ、どこか非日常的な印象が強かったが、この作品からは確実に33歳の役者の体温や息づかいが伝わってくる。泥酔する。疲れがにじむ顔を洗うと鼻血がこぼれる。ひざを抱えて涙をこぼす。こう書くと大げさな感じがするが、演技はほどよく抑制され繊細だ。妻の不倫を知った苦しみ、人妻にひかれていく罪悪感を切々と訴えてくる。そして「同じ状況に陥ったら、あなたならどうしますか」という、重い問いを静かに突きつけてくる。
惜しむらくはラスト。あんなに激しい雪ではなく、はかなくとけてゆく春らしい雪であれば、見る者の心に余韻がもっと降り積もったと思う。
【近藤由美子】
2005年09月10日
長沢まさみ候補に清き不純な1票を
「タッチ」(日)
長沢まさみの長沢まさみによる長沢まさみのための映画、と決め付けちゃっていいんじゃないか。累計6500万部の原作漫画。視聴率30%を超えたテレビアニメ。興行収入38億円の劇場用アニメ3部作。ストーリーは誰でも知ってる。実写化の楽しみは「浅倉南を誰が演じるのか」だけだ。
「セカチュー」の前半(陸上選手!)は大好きだが、後半(助けてくださ~いウルウル病室)は大嫌いだ(泣いたけど)。長沢は健康的でこそ、目にまぶしい。初主演映画「ロボコン」でダサいジャージー着て青春してたころから全面降伏の私。顔アップ満載。捕手コスプレほかサービスカット満載。割り切った犬堂一心監督の演出は正しい。
ひねくれた見解。「タッチ」の魅力は「不純愛」にある。双子の兄弟と美少女の三角関係。生まれた時からお隣さんで3人がそれぞれ愛し合う…。フツー男女の愛は1対1だぜ。何てうらやましいんだと、少年サンデーをめくりながら思ったものだ。南と達也が弟に隠れてかわす2段ベッドのキスなんて背徳の香りすら漂う。男2人と女1人は「冒険者たち」「突然炎のごとく」など名作ひしめく古典的非日常シチュエーションだが、「長沢が幼なじみなら、そりゃ取り合うよな」と納得の不純愛。大人の金勘定が透けて見える不純な純愛ブームとは一線を画す。
原作は、何うじうじ悩んどるんじゃ卓袱(ちゃぶ)台ひっくり返すぞ的展開で読者をじらしまくった。上映時間の関係か、その神髄がスカッとサワヤカにスポ根化され薄まってはいる。南が新体操をしないし(レオタード見たかった)、脇キャラの個性も乏しい。ドキドキなラストのセリフの見せ方も議論が分かれるところだろう。とはいえ、長沢の舌足らずな魅力は抗し難い。つべこべ言わず「長沢候補に清き不純な1票を」なのである。
【高田博之】
2005年09月03日
昨日と今日を行ったり来たり…
「サマータイムマシン・ブルース」(日)
超ミニマムなタイムトラベル作品です。未来を変えるとか命を救うとか、壮大なストーリーは一切なし。大学の部室を中心に、昨日と今日を行ったり来たりする、ただそれだけ! おバカで楽しそうな学生たちが昨日に行く理由ってのが、壊れたクーラーのリモコンを、壊れる前に奪取してこようという、これまためちゃめちゃミニマムなもの。
時間の流れをパズルのようにバラバラにして、最初にちょこっと見せちゃうやり方はよくありますが、本作はテンポがいいし(いったい何回タイムトリップしたんだ!?)、何しろ出てくる人たちがみんなノーテンキ。「まじ? タイムマシーン、すごくね?」のノリで昨日に行っちゃうし。「昨日」ってとこが、微妙に小心で笑えます。
脚本はハイペースだけど、コンビニもない田舎町が舞台だけあって、ほのぼの感満載。ハイテンションな登場人物も、若手コメディエンヌ一番手の上野樹里、「電車男」で引きこもりを演じた瑛太のユルさ加減が、いい具合にブレーキになっているんだよな~。
でも、楽しいだけの作品じゃないんです。作品全体で夏という1つの季節の流れを感じるんですよね。暑くてバカみたいに盛り上がったんだけど、最後のちょっと切ない感じが、ひぐらしカナカナ…ってな雰囲気。もう9月、戻れない夏を感じるにもいい作品です。
【小林千穂】