2005年08月27日
シリーズ第2弾は「陰」
「容疑者 室井慎次」(日)
「踊る大捜査線」シリーズのスピンオフ(派生)企画第1弾「交渉人 真下正義」が「陽」ならば、第2弾の今作は「陰」である。いや、軽快なタッチでザッツエンターテインメントを追求してきたシリーズの中で、異色の作品といえる。見終わった後には、みけんにしわを寄せ、口を真一文字に結んだ室井の姿ばかりが残る。
全く異なるテーストに、つくり手側の「キャラ」に対する揺るぎない自信を感じる。しかも自信が自己満足に終わっていないから、シリーズのファンも受け入れ、新鮮に楽しむことができる。骨格はシリーズそのもの。何人もの個性豊かなキャラクターが配置され、室井という縦軸の周りで複雑な人間模様を展開していく。北村総一朗ら湾岸署の3人組スリーアミーゴスも登場するなど、シリーズのエッセンスもちゃんとまぶされている。
言うまでもなく、室井は、信念を曲げられない不器用な正義漢。重厚な大人向けの仕上がりになって当然なのだが、自己満足に終わらないサービス精神が、心地よいバランスを生み出している。ただ1点、新宿北署のセットがあまりにレトロすぎて、シリアスなクライマックスが“お芝居”に見えてしまったのは残念。
シリーズ化の成否は「キャラが立つ」か否かにかかっている。主役から脇役まで、すべての登場人物(動物、宇宙人、ロボット…)の人物造形がきちんとなされ、観客の記憶に刻むことができれば、物語は無限に広がる。その世界的成功例が「スター・ウォーズ」だろう。「踊る大捜査線」シリーズもその条件を十二分に満たし、今作でさらに客層を拡大するかもしれない。長いおつきあいになりそうである。
【近藤由美子】
2005年08月20日
ダンカン監督のマル珍感動作
「七人の弔」(日)
「命」と「残酷さ」のファンタジー仕立て。童話のような映画だ。グリム童話の子捨てホラー、ヘンゼルとグレーテルを思い出す。この映画の背景は「児童虐待」と「臓器売買」。ファミリー向きでないファミリー映画だが、残酷童話のような後味の悪さはない。ダンカン監督の優しさがスクリーンににじむ、マル珍感動作である。
子供の虐待に明け暮れる7人の親が、邪魔なわが子を5000万円で臓器売買組織に売り飛ばすための2泊3日のピクニック。極秘裏にさまざまな内臓チェックを受ける7人の子供は、合宿最終日の晩に眠らされる運命にある。子供が1人脱落するごとに取り分が増えるため、親たちはライバルを蹴落とそうとおバカな行動を連発。さすがに様子がおかしいと気づいた子供たちが反撃に出る。途中でオチが分かってしまうのだが、その分、丁寧に描かれていて退屈しない。
愛人、宗教、借金、子だくさんなど7人の親たちの虐待理由はさまざまだが、子供の受ける傷は「親にすら愛されなかった」という共通の劣等感。ピクニックの指導員として登場するダンカン(死神のようです)は何度も「子供には無限の可能性がある」と口にする。直球スローガンは、監督の心からの願いなのだろう。自殺志願者のバスツアーを描いた脚本・主演映画「生きない」(98年)のどんでん返しも切なかったけれど、今作も劇場で号泣する人多数。中途半端に日和らない監督の強さに、真心を感じる。
ハッピーエンドなのか、ぞっとする光景なのか。解釈に悩むラストシーンは、これも一種の観客虐待か。「強いけど、そんな阪神でいいのか」という堂々めぐりに似た気分である。
【梅田恵子】
2005年08月13日
ユルくて楽しい…いいなあ
「妖怪大戦争」(日)
脱力系妖怪のオンパレードに大爆笑! このユルさ、たまらないです。さらに、妖怪って一芸入試なら一発合格の超個性集団。小豆を洗って人を驚かす「小豆洗い」とか、豆腐を持ってたたずむだけの「豆腐小僧」とか、ただのでっかい壁「ぬりかべ」とか…、なんじゃそりゃ的な個性。なまじ、中途半端に何でもできるタイプなんていないんです。あっぱれなのは「雪が降ってないのでお供できません」と、半径50センチに雪を降らせて言う雪女。私も「雨が降っているので、今日は休みます」と言ってみたいです。いいなあ…。
ユルい妖怪たちの中にいるからこそ、悪霊軍団と戦うタダシ(神木隆之介)と魔神加藤(豊川悦司)の本気モードがちょうど良い加減。みんな真剣だったら、見る方も疲れちゃいますからね。
教訓的な要素もちらほら。魔神加藤が人間を滅ぼすために、妖怪と人間に捨てられた物の怨念(おんねん)をミックスするんです。昔、靴を捨てる時「今までありがとうございました」と書いた紙を入れてましたが、最近はそんなことも忘れてしまってました。身の回りには怨念、渦巻いてるんだろうなあ、なんて思ったりして。
神木くんのうますぎる演技とかわいさが注目されてるみたいですが、あえて挙げたいのは、舞台で鍛えた阿部サダヲの美しい足。カッパの足がこんなにキレイでいいの? ってくらい。
こんな結論でいいですか…。いいですよね、ユルくて楽しい作品ですもん。
【小林千穂】
2005年08月06日
サラリーマンだって共感できる
「亡国のイージス」(日)
今や、すっかり映画先進国となった韓国では「シュリ」など軍事・政治サスペンス大作が次々とつくられている。一方、日本では、純愛映画と銘打った歯ごたえのない作品がヒットを飛ばし続けている。徴兵制、南北問題などお国の事情が違うとはいえ、難病で死去した学生時代の恋人への思いを引きずるトラウマ男や、死んだはずの妻が期間限定でよみがえる切なさに涙する純粋男の物語ばかりでは、なんだか物足りない。見た目も鮮やかで手の込んだスイーツも、そればかり食べさせられるとちょっぴりつらい。たまには、カツ丼みたいに腹にガツンとたまるどんぶり飯が食べたい。そんな不満を解消してくれたのが本作だった。
真田広之演じる主人公は、工作員に占拠されたイージス艦に残された部下を救うため、単身戦いを挑む。訓練を受けた自衛官といっても、ヒーロー映画にありがちな特殊能力を持ち合わせたスーパーマンではない。艦の構造を誰よりも知るという立場を生かし、創意工夫と勇気で難局を少しずつ乗り越えていく。ぼやきながらも、たった1人で戦い続ける「ダイ・ハード」のマクレーン刑事に覚えた親近感を感じる。ごく普通の人間が、局面を必死に打開する姿。場面ごとに「おれならどうする?」に手に汗握る。設定と事態の深刻さに差があるとはいえ、サラリーマンだって十分共感できるはず。真田をはじめとした俳優陣の、危うさを全く感じさせない安定感が、話の展開に集中させてくれた。久しぶりに「満腹感」を味わった。
【松田秀彦】