2005年06月25日
誕生秘話が明かされ「なるほど」
「バットマン ビギンズ」(米)
ポスターは、逆光で“考える人”風にうつむくバットマンのシルエット。原作コミックやこれまでのバットマン映画のファンからは、早くも物語が「暗い!」と評判のシリーズ第5弾である。
ペンギン男や冷凍科学者など、バケモノにならざるを得なかった悪役たちのトラウマに焦点を当ててきた過去のシリーズとは違い、今回は、大資産家の御曹司ブルース・ウェインがいかなる心の傷を抱えてバットマンになったのかを描く。戦うことに悩む心の内は、映像とともに思い切りダーク。無敵なだけの単細胞ヒーローよりも人間くさくていい。原作コミックの世界観を知らないので、男の冒険譚(たん)として素直に楽しめた。
「ビギンズ(起源)」のタイトル通り、バットマンの誕生秘話が明かされる。生身の男がなぜコスプレで戦うのか、そもそもなぜコウモリなのか。バットマンスーツやバットモービルなど、軍事レベルの最先端ツールを自在にグッズ化できる背景は何なのか。現実離れしたディテールも、観ている時はそれはそれで「なるほど」と納得できる不思議なリアリティーがある。バットマンになるまでのプロセスにおのれの変身(コスプレ)願望が勝手にシンクロ。私のようなバットマン初心者には入門編のように楽しい。
マイケル・ケイン、モーガン・フリーマンなど、脇を固める豪華な名優陣も話題になっているが、大好きなゲイリー・オールドマンがやってくれた。キレた悪役を演じると猛烈に輝く男だが、いい人役でもこんなに泣かせるおやじだったとは。両親を殺され保護されたブルース少年に向ける、震える笑顔がいい。そして注目の渡辺謙。こちらはあらゆる意味で衝撃的、とだけ付け加えておく。
【梅田恵子】
2005年06月18日
ザラザラよりサラサラ感
「戦国自衛隊1549」(日)
「自衛隊は軍隊だ。軍隊とは敵を殺す集団だ」。26年前に公開された元祖「戦国自衛隊」は、そんな声高に叫ぶことがはばかれるメッセージを行間ににじませた反戦エンターテインメントだったように思う。
近代兵器を装備した自衛隊が戦国時代にタイムスリップする設定を、ギラギラした俳優たちが(400年前でも違和感ゼロ「影の軍団」千葉真一隊長)、ザラザラした肌触りのフィルムに仕立てた。殺りく、斬首、略奪、女性暴行、夜ばい…とハチャメチャだった。
さて、平成の世にリメークされた本作は、昭和版のワクワク設定だけを借りた全く新しい物語。さわやかキラキラな江口洋介が、時空に迷い込んだ先輩自衛官の救出に旅立つ。タイムスリップに科学的根拠が与えられ、昭和版の「行き当たりばったり感」は解消された。陸上自衛隊の全面協力(前回は協力ゼロだったとか)による最新ヘリ&戦車の迫力も売りだ。でも、サラサラした肌触りなのはなぜだろう。
「そんなに人を殺したいのか」。実弾攻撃を進言する主人公に、上官が返す言葉だ。救出隊は歴史に配慮して人を殺さない。連発される「自衛官として」というセリフの居心地の悪さ。中東のかの国に駐留する平成自衛隊の現実。声高に「人を殺すこともあるんだ」とは言えない、ビミョーな立場。ある意味、時代のリアリティーに満ちたサラサラ感なのである。
決して小難しい映画ではない。ブッ飛んだSF世界観を継承した真っ当な娯楽作。映画は時代を映す鏡だ。昭和のザラザラした哀(かな)しさと、平成のサラサラした哀しさを見比べるのも楽しい。
【高田博之】
2005年06月11日
全編シリアスも相当“楽しめる”
「フォーガットン」(米)
キャッチコピーは「最も衝撃的なスリラー」。ハイ、おっしゃる通りです。いろんな意味で衝撃的な“ぶっ飛び”映画です!! 飛ぶわ、飛ぶわ、人も飛ぶし、ストーリーもトンじゃってます。前半は、突然死んだ息子の存在そのものがなかったことになってしまうというミステリーを、緊張感たっぷりに描いていきます。風向きが変わるのは中盤。とにかく飛ぶんです! ネタバレしたくないのでこれで、カンベンしてください。
全編シリアスタッチなんですが、1粒で2度(おいしいかどうかはご判断を)的に、ガラリと変わります。あの名作(?)、ロバート・ロドリゲス監督×クエンティン・タランティーノ脚本の「フロム・ダスク・ティル・ドーン」(96年)ばりの変ぼう。ただ「フロム-」は、ばかばかしいことを分かった上で楽しんで作ってるという感じでしたが、こっちはどこまでもシリアスにいこうとしているのが、ちょっとイタイかも。
役者は1粒でかなりおいしいです。オスカー候補常連のジュリアン・ムーアが息子を思う母親。夫を演じるのはドラマ「ER 緊急救命室」のグリーン先生ことアンソニー・エドワーズ。出てくるだけで一筋縄じゃいかないぞと期待させるゲイリー・シニーズは心理カウンセラー。消えた娘を持つ父親は「モナリザ・スマイル」(04年)でジュリア・ロバーツをとりこにしたドミニク・ウェストです。演技派がそろっちゃってるんです。
衝撃にのけぞるか、笑うか、怒るか、それとも役者に一点集中か…。もしかしたら相当“楽しめる”映画かも。見た人と存分に、ネタバレトークしたい映画だったりして。
【小林千穂】
2005年06月04日
「魂の救済・再生」が伝わってくる
「四日間の奇蹟」(日)
既読のベストセラー小説の映画化には、がっかりさせられることが少なくない。物語が知られているというハンディに加え、時間的制約がある。原作に忠実であるほど、既読観賞者のハードルは高くなる。昨年大ヒットした「世界の中心で、愛をさけぶ」は“その後”という要素を創作し、映画としてアイデンティティーを確立したことも成功の要因だったと思う。
同じ「泣かせます系」の今作にも工夫がみられる。100万部を突破した原作に沿って物語は進められるが、視点が違う。原作は主人公のピアニストの1人称で語られていくが、映画はヒロイン真理子(石田ゆり子)の視点に重心を移して描かれている。既読者にとっては原作を補完し、2つによって“完全版”になった印象を受ける。
主要登場人物は3人。不慮の事故で指を負傷し演奏できなくなった天才ピアニスト(吉岡秀隆)、音楽に天才的才能をみせながら障害を持つ天涯孤独な少女(尾高杏奈)、結婚に失敗した真理子(石田)。非凡な2人と平凡な1人という構図だが、後者をしっかり描いたことによって、感情移入がより容易になり、「魂の救済・再生」という哲学的テーマが、より身近に現実的に伝わってくる。
佐々部清監督は「半落ち」や「チルソクの夏」を手掛けてきた。いずれもハッピーエンドではないが、厳しい現実に真っ向から取り組んで人間ドラマを展開し、その中に希望や救済を描き出した。今作ではファンタジーをどう料理するのかも注目されたが、この点はちょっとベタ。もっとこれまでのような佐々部色を出してほしかった。
【近藤由美子】