2005年01月29日

前作上回る高級寄せ鍋映画

「オーシャンズ12」(米)

 鍋がおいしい季節に公開されるのも何かの縁か。オーシャンの12人の仲間たちの欧州大強奪編は、超高級素材の寄せ鍋風。高級肉が、高級魚が、高級野菜が、高級キノコが相乗効果でうまみ倍増。締めの雑炊も、こってり味かと思いきや、あっさり軽やかな後味に仕上がっている。

 美味なる高級寄せ鍋は「さりげなさ」がポイントだ。クルーニーとロバーツの(あくまで軽い)キス。ブラピとゼタ・ジョーンズの(コンマ何秒の)目配せ。知性派デイモンの(そこはかとない)天然坊ちゃんぶり…。スティーブン・ソダーバーグ監督は嫌味スレスレのスタイリッシュな演出で、マーネメーキングスターたちのオレ様的灰汁(あく)を除き取る。それぞれに見せ場がつくられ、彼ら全員の「主演作」になっている公平さが、前作「11」より楽しく仕上がっている理由だろう。

 主役級ズラリ映画(近年はあまりお目にかからないが)といえば、戦争物か災害物が定番だった。ジョン・ウェイン&ヘンリー・フォンダの「史上最大の作戦」しかり、マックイーン&ニューマンの「タワーリング・インフェルノ」しかり。しかし、どうしてもスターたちが順番に顔見せする「デパ地下試食めぐり」的色合いが濃くなる。「12」のエラいところは、試食にとどまらず、お金をかけて食材を集め、キチンとレシピを立てて鍋をつくった点だ。

 第2次大戦や高層ビル火災といった大掛かりな設定がなくとも、頭を使えばオールスター映画ができる。料理も映画も、手間ひまを惜しんではいけない。デパ地下をそぞろ歩くのも楽しいけどね。

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2005年01月22日

2時間48分…涙、飽きさせません

「北の零年」(日)

 2時間48分。長尺化している映画に慣れたとはいえ、ちょっとため息をつきそうな長さ。でも、あっけなく、ストンと物語に入ってしまいました。日の暖かさに包まれる淡路の冒頭から一転、長い船旅で一番うれしいはずの陸が見えた瞬間にさえ、北の大地の厳しさに息を飲む面々。どちらが夢かまぼろしか、できれば私も淡路に戻りたい…と思うほど、知らず知らずのうちに肩を突っ張って見ていました。

 長さも感じさせず、飽きさせません。涙のポイントをまんべんなく散らし、そしてきっちり押さえています。書状のシーンでじわり、まげのシーンでぽろり、再会のシーンでひとすすり…。書状のシーンなんて、2時間48分のほんの序盤です。涙は最後に取っておこう、と思った覚悟は崩れ去り、いとも簡単に泣いちゃいました。中盤以降も特に、アイヌの老人とともに行動する男を演じた豊川悦司のシーンは、どれも切なくて出色でした。

 ただ、群像劇でもあるので、細かく均質なエピソードの連続という感もあって、強烈に突き抜けた印象を持つシーンがなかったような気がしないでも…。流してきた涙はどこにつながるのかと考えると、そのシーンだけのもの。感動よりも“見終えた達成感”が先にきてしまったのも確かです。

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2005年01月15日

素顔をさらけだしたデップ

「ネバーランド」(米、英)

 03年に「世界一セクシーな男」に選ばれたジョニー・デップ。どこかミステリアスでアウトローのイメージが強く、家族、子供など生活感とは最もかけ離れた男のようだが、実生活では5歳の女児と2歳の男児を持つマイホームパパである。この作品では、そんな素顔を珍しくさらけだしている。

 100年前の1903年、ロンドンの舞台で「ピーター・パン」が初演された。デップ演じる劇作家バリが、この不朽の名作を生み出す過程を描いていく。バリは世渡りがへたな男。現実生活では、実に居心地が悪そうにしている。

 それが未亡人、その4人の子供と出会い、父親のような存在になっていくにつれて、いきいきとしていく。まるで自分の居場所を見つけたように。特に、兄弟と遊ぶときの笑顔、子供に注ぐ優しい視線には、生の感情があふれ、とても演技とは思えない。

 作家の2面性が、そのままデップの実人生における、仕事とプライベートのギャップにオーバーラップする。「スリーピー・ホロウ」の刑事、「パイレーツ・オブ・カリビアン」の海賊…。どんな役でも“仕事用”のデップ色に染めてきたが、出世作の「シザーハンズ」の繊細すぎるハサミ男が、一番実像に近かったということにも気付かされる。

 今回の演技でアカデミー賞候補といわれているが、まさしくハマリ役だった。

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2005年01月08日

おもしろくないなんて、ありえねー

「カンフーハッスル」(中、米)

 笑撃の「少林サッカー」から2年。個人的に待ちに待ったチャウ・シンチーの監督主演最新作である。バカバカしさもアクションも前作よりスケールアップし、待ってて良かった、の大爆笑。本物が本気でバカをやっているからかっこいいし、あろうことか、ほろりと泣けたりもする。彼のカンフー愛と人間愛が、スクリーンから波動拳のように伝わってくる。

 サッカーに特化した“こんなのあり?”だった前作に比べ、今作はカンフーそのものに取り組んでいる。貧乏長屋を経営するカカア天下の夫婦は、太極拳と獅子の咆哮(ほうこう)の達人。「異人類研究所」なる刑務所から脱獄したじい様は崑崙派(こんろんは)の使い手。

 どの描き方も流派の基本は踏まえつつ、やっていることはドラゴンボールのカメハメ波そのもの。“ありえねー”のキャッチコピー通り、突っ込まずにいられない超絶カンフーが展開する。幽霊兵士の大群が襲ってくるのは「ハムナプトラ」、黒ずくめの集団を光速で蹴散らすのは「マトリックス」…。おもしろければ何でもパロってしまえという、ちゃっかり精神もすがすがしい。

 主人公は少年時代、小遣い全額をはたいて秘技「如来神掌」の指南書を買う。香港の有名なマンガに出てくる必殺拳で、日本でいえば「北斗の拳」の北斗神拳のようなもの。頑張ればマスターできると信じて独学に励み、当たり前のように挫折するピュアな情熱がほほえましい。このいちずさ、9歳でブルース・リーにあこがれて1人で練習を始めたチャウ・シンチー少年に重なる。貧乏だった少年がカンフー一筋、42歳でここまできた。そんな男が情熱を傾けたカンフー映画である。おもしろくないなんて、ありえねー。

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2005年01月01日

完ぺき!だが、右脳に焼きつかない

「ターミナル」(米)

 見て損はない。地球一の優良銘柄スピルバーグ監督の高値安定的佳作だ。

 人食いサメの背びれで巨匠の仲間入りをして約30年。ストーカートラック、巨大UFO接近遭遇、考古学者のムチ使い、恐竜の足音、ノルマンディーの弾丸…。続けざまに繰り出される体感型ムービーとともに成長した私の右脳は、慢性スピルバーグ中毒である。今度も面白いぞと(たまに裏切られても)映画館に足を運んでしまう。興行的にも大きな失敗がないから、きっと世界中の人々が同じ症状なのだろう。

 そんな罪づくりな巨匠の最新作の舞台は、米国の巨大空港。東欧の小国でクーデターが起き、パスポートが無効になった旅人(トム・ハンクス)がターミナル内での生活を余儀なくされる。未知の場所に迷い込む異邦人。「ET」にも通じるシチュエーションだけで勝ったも同然。

 雑多な人種と階級が、いかにも移民の国らしく交錯する。恋もあれば官僚的な敵もいる。最後まで明かされないミステリーも用意されている。ドラマとドラマがち密にからみ合い泣いて笑わせる。実際、ラストはまぶたが熱くなった。完ぺきだ。

 しかし、右脳の反応が鈍い。理屈っぽい左脳は、どう見たって星条旗なハンクスが英語を話せない役を演じることに抵抗を感じている。「頑張れ右脳!」と叱咤(しった)してもだめだった。

 スピルバーグ・ジャンキーの要求は独り善がりだ。高値安定的佳作では満足できない。圧倒的な絵が見たい。右脳に焼きつく映画的記憶が欲しい。自転車が月夜を飛翔した衝撃よ、もう1度。近くつくられるであろう「インディ・ジョーンズ4」が、たまらなく待ち遠しい。

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