2004年08月28日

2時間ひたすら斬り続ける…怖い

「IZO」(日)

 「前代未聞の怪作」とでも呼べばいいのだろうか。まず感じるのは、怖さだ。生身に真剣をスーッと当てられたような感覚は、そこらのホラー映画では太刀打ちできない。

 設定からして怖い。ビートたけし、緒方拳、原田芳雄、内田裕也、片岡鶴太郎、樹木希林、ボブ・サップ…。よくぞここまで集めたという個性派豪華キャスト200人以上が、容赦なく斬(き)られていく。しかも主人公のIZOは、あの中山一也。それが日本刀を振り回し「天誅(てんちゅう)!」と叫びながら、約2時間ひたすら斬り続けるのだから、怖いのは当たり前だ。

 IZOは、幕末に“人斬り”と異名をとった岡田以蔵のこと。処刑されるが、そのおん念が現代によみがえり、時空を超えて刺客と戦う。幕末を舞台にヤクザやヤンキーと、はたまた現代の新宿・歌舞伎町で侍と斬り合い、想像を絶する死体の山ができていく。

 なぜIZOが戦うのか、明快な説明はない。しかし、その殺人マシンのような戦いぶりを見ているうちに、じわじわと社会の理不尽さ、人間の不条理さが迫ってくる。命令で人を斬ることしか、生きるすべがなかった男の、社会、人間、そして自分への怒りが血を求めている。IZOは、観客のあなたをも斬り捨てているのだ。

 メガホンは「新・仁義の墓場」「ゼブラーマン」など、バイオレンスから人情ものまで独特の世界観を表現する三池崇史監督。圧倒的なパワーと恐怖の果てに、不思議な悲しさを残してみせた。

 【近藤由美子】

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2004年08月21日

盛大な“ブッシュ祭り”…!?

「華氏911」(米)

 ぜひとも見に行ってほしい作品だが、切れ味は前作「ボウリング・フォー・コロンバイン」の方が断然上だ。

 「ボウリング-」でのマイケル・ムーア監督(50)は、銃社会の悲劇を突破口に、いつも地球上のどこかに爆弾を落としていないと気が済まない母国米国の体質に迫った。“カメラを担いだお笑いゲリラ”が、不敵に、時に自虐的に繰り広げるアポなし突撃は驚きの連続。持ち前の複眼で「なぜだ」「なぜだ」とストーカーのように疑問を追いかけ回し、笑いでえぐり出された結論の切なさにグッときた。

 今作も同じ反戦テーマを扱ってはいるが、作品を貫く軸は100%「打倒ブッシュ」。ブッシュ大統領とその側近がひたすらバカに見える映像を連発し、こんなアホたちが好き放題に戦争を仕掛けて儲けている、と訴える。笑えるし、そのデタラメぶりに怒りもこみ上げるのだが、逆に「ブッシュ政権が倒れさえすればすべて解決する問題なのか」と問いたくなる。今回、ムーア監督は「打倒ブッシュ」だけを目的に作ったと公言しているから仕方ないが、なんだか盛大な“ブッシュ祭り”に見えなくもない。

 テロップなど1つも使わずに、映像でこれだけ笑わせ、泣かせ、約2時間のドキュメンタリーを見せてしまう編集力は神ワザ。すったもんだはあっても、これだけの政権批判映画がきちんと劇場公開されるところもまた、米国のすごいところである。

 【梅田恵子】

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2004年08月14日

自分の信じることを貫けますか?

「堕天使のパスポート」(英)

 「あなたは自分の信じることを貫けますか?」。こんな問いかけをされてしまったような気がします。

 ロンドンにあるホテルを舞台に、不法移民、臓器売買問題を軸にしたサスペンス調の物語ですが、描かれているのは“気高さ”です。メイドとして働くトルコ移民シェナイ(オドレイ・トトゥ)、ナイジェリアで罪を着せられ逃亡してきたフロントマン、オクウェ(キウェテル・イジョフォー)。どんな過酷な状況にも流されず、人としての気高さを失うまいともがく2人の姿に、思わず我が身を振り返ってしまいます。彼女たちのように生きられるのかな、と。

 気高さを持つ彼女たちは強い。もどかしいながらもストレートに愛情を表現して、見返りなしに相手を守ろうとします。でも、いつも美しく生きられる訳ではなく、現実は否応なく2人を「堕天使」にしてしまいます。でもでも、最後の最後まで“堕ちて”しまわないのは、やっぱり気高さがあるからこそなんでしょう。

 胸のすくような結末ですが、2人の行く末は決して明るいものではないかもしれません。それを2人はよく分かっています。現実はいつも過酷で、夢物語は転がってはいないんだ、ということを。気高く正しく生きようという最後の砦(とりで)を持つ2人が、物語の先もそれを失わないことを願わずにいられません。

 状況に流されっぱなしの私。あなたも? そんな人は何度でも見て、問いかけられちゃいましょう。

 シェナイ役のトトゥは、あの不思議ちゃん「アメリ」です。これからはもう、そんな冠は必要ないかも。

 【小林千穂】

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2004年08月07日

ドキュメンタリーのような感覚

「誰も知らない」(日)

 現地で取材していた5月のカンヌ国際映画祭の最終日、実は少しフクザツな気持ちになった。主演の柳楽優弥が、史上最年少で最優秀男優賞を獲得した。従来の記録27歳(「ピアニスト」のブノワ・マジメル)を大幅に更新する14歳の受賞は、世界を驚がくさせた。

 タランティーノ監督は「彼の顔が最後まで忘れられなかった」と絶賛した。確かに、名演技だった。日本人としてこれほど誇らしいこともない。でも現地の下馬評も私も、作品か是枝裕和監督が何かの賞を取ると確信していた。男優賞ばかりに脚光が集まり、作品そのものの素晴らしさが薄れてしまうことへの心配が頭をかすめたものだ。
 賞をあげるなら、柳楽以外の子役、母親役YOUらにも与えたい。子役は全員、演技経験がない。その自然さが、柳楽に負けないほど輝いている。例えば、二男茂役の木村飛影君の無邪気なにやけ顔。二女ゆき役の清水萌々子ちゃんのあどけない笑顔。YOUの独特の存在感…。

 是枝監督は台本を覚えさせるのではなく、1シーンごとにセリフを伝える手法を取った。それがドキュメンタリーのような、たたずまいを生んだ。観客は彼らが現実に生活するアパートをのぞくような感覚を味わう。そして子供の無邪気な明るさと、置かれた境遇とのコントラストが大人1人ひとりに重い問いを突きつけてくる。

 小津安二郎がカメラに刻みつけた子供たち同様、この作品の子供たちも見た人の心にいつまでも住み続けるだろう。

 【近藤由美子】

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