2004年06月26日
「戦争終わって!」覚悟して見てください
「ブラザーフッド」(韓)
実は、時計ばかり見てました。退屈だったわけでも、予定があったわけでもないです。むしろ、映像の1つ1つが頭に焼きついて離れません。後頭部が吹っ飛んで脳漿(しょう)が飛び散るシーン、爆発や銃弾で鮮やかに散る土くれやがれき、カメラのレンズに飛ぶ血のり、ざんごうにうずくまる「私」から見た、目の前で手足がもげる仲間…。
あまりの凄惨(せいさん)さに「まだ続くの~」と思っていたんですが、次に考えたのは「この戦争、早く終わって」。もしかしたら、自覚のないままに反戦を刷り込まれたのかも。それほどなんです。覚悟して見てください。
戦場経験がない人間が「リアル」と言うのは気が引けるんですが、少なくともこれまでのどのハリウッド映画より、きっと、戦場に近づいているはず。「プライベート・ライアン」冒頭のノルマンディー上陸作戦のシーンやソマリア内戦を背景にした「ブラックホーク・ダウン」…。リアルさという点で、戦場シーンだけはハリウッドの独壇場でした。この映画でも「プライベート-」で多用されたハンディカメラが使用されています。“デジャビュ(既視感)”な感じもあるんですが、骨太で容赦ない、息つくヒマも許してくれないという意味で迫力はこっちに軍配が上がります。というわけで、時計ばかり見ていたのです。2時間28分の間「戦争、早く終わって」と思いながら。
物語のメーンテーマは兄弟愛。戦場シーンに打ちのめされ、2人の苦悩を十分に読み取れなかったので、また見に行きます…。
【小林千穂】
2004年06月18日
娯楽でなく「修行」のような大作
「白いカラス」(米)
人種差別、虐待、孤独、絶望など、人間が背負ったネガティブテーマへの問い掛けが「カミングアウト」という形で108分間延々と続く。映画を見ることが娯楽ではなく「修行」のように感じられる大作。暗い色彩、禅問答のようなセリフ…。スクリーンの前では、製作者一同の肩の力を受け止める覚悟が必要だ。
生い立ちや、見舞われた不幸による絶望感で世の中からドロップアウトした若い女と老学者が出会い、互いの傷に心を寄せていく。「私たちは他人の痛みに共感したり理解を示したり、許したりしながら生きていけるはずです」。主演のニコール・キッドマンが語る、この映画のテーマだ。
でも…。義父が悪い、夫が悪い、倒れたストーブが悪い。すべて人のせいにして、この世も他人にも絶望してみせる自己愛の強さにはまだ救いがあるような。ピエトロ・ジェルミ監督の昔のイタリア映画のように、底なし沼に首まではまったような人たちが必死に笑いながら、それでももっと不幸になって終わる切なさの方が胸に突き刺さったりもする。キッドマンが1度でいいから笑ってみせたら。絶望の深さが切なくて泣けたかもしれないけれど。見る人の好みにもよるが、エンディングは私にはハッピーエンドにみえる。
インテリの美人女優に限って「私は顔とスタイルだけじゃない」とあえて難役をやりたがる。今回のやさぐれた色気もそうだし「コールドマウンテン」「めぐりあう時間たち」など、このところ文芸作品ばかり選んで演技派のアピールに余念がない。急速な“メリル・ストリープ化”には驚かされるばかりだ。今作のロバート・ベントン監督はストリープの出世作「クレイマー・クレイマー」の監督でもある。個人的にはそろそろ「誘う女」(95年)のような、エンターテインメント性抜群のはじけた個性も見てみたい。
【梅田恵子】
2004年06月12日
七色に変化する目に存在感あり
「21グラム」(米)
全く、この人の眼力(めぢから)はすごい。「トロ様」ことベニチオ・デル・トロ。「目で妊娠させる男」の異名を持つが、この作品でも、今年3月のアカデミー賞主演男優賞のショーン・ペン、同主演女優賞候補ナオミ・ワッツを目だけで圧倒している。
タイトルは、人は死ぬと21グラム軽くなるという意味。トロ演じる男は、前科を持ちながらも信仰の力で人生をやり直そうと必死にもがいているが、交通事故を起こしワッツ演じる女の家族を死なせてしまう。女の夫の心臓がペン演じる男に移植され、3人の運命が交錯していく。
ワッツとペンが絶望→希望→絶望→希望という過程をたどるのに対し、トロだけは絶望→希望、そして絶望で終わる。ふと犯罪者の顔を出す時の、すっと細めた凶暴な目。信仰の中でかすかに望みを見いだした時の、平穏で澄んだ目。事故を起こした時の困惑、自分への怒り、神へののろいを表す、震える目…。背負った十字架から逃れられないことを悟った後の、瞳孔が開いた目…。文字通り、七色に変化させていく。
劇的な運命の変化に対して、体の動きは決して激しくない。むしろ抑えた演技といっていいだろう。それを目の動きだけで補っていく。そのスタイルが、ペンやワッツをはるかにしのぐリアリティーを感じさせている。
先日の来日会見で見た実物は、ごく平凡な外国人のおじさんだった。二重アゴ。目は垂れてよどんでいる。とてもイイ男とはいえない。むしろ37歳という年齢をひしひしと実感させるたたずまいだ。日常とスクリーン。一見、ギャップは大きいが、どちらの目も存在感という意味で等しい。
【近藤由美子】
2004年06月05日
135分間親子のきずなに1000万人動員
「シルミド」(韓)
カテゴリーで分ければ、「シュリ」「JSA」…韓国ヒット映画の定型の1つともいえる“北朝鮮もの”だ。しかし、135分間を費やして描かれているのは、親子のきずなだった。
「金日成の首を取るため」に殺人集団に育てられる韓国の極秘部隊「684部隊」のメンバー、主人公のカン・インチャン(ソル・ギョング)は、北朝鮮に亡命した父親を持つ。「連座責任制」でまともな職に就くことができず罪を犯し、行き着く先が部隊なのだが、彼にとって真の目的は恩赦でも英雄になることでもない。平壌に行って父親に、母と自分を捨てたことを「なぜだ」と問いたいからだ。
生死をさまよう訓練で焼きごてを当てられても、悲鳴1つ上げない姿から、父親を激しく求める子の心の叫びがあふれてくる。「会いたい」…。
だからこそ、実行直前に計画が取り消された時の失望はあまりに大きかった。韓国政府が部隊の存在を消し、メンバーを抹殺すると知った時、彼は「大統領に会って、自分たちの存在を知らせよう」と言う。それは、遠く離れた父親に存在を知ってもらうための行動でもあった。
無謀としかいいようがないが、子が親を求める心に、理屈などない。ボロボロになった母の写真を胸にひそませて、彼は戦い続ける。親子のきずなの強さ、そこから決して逃れられない姿が、特殊な状況を描いた物語に普遍性を与えている。韓国では史上初めて1000万人を動員した。儒教が根付いた国民の琴線を強く刺激したものがここにある。
【小林千穂】