2004年05月29日
何とかなるよ…気持ちいい映画
「深呼吸の必要」(日)
スクリーンを見ながら、深呼吸している確率、かなり高いです。
主人公のひなみ(香里奈)の言葉が、頭に残る。「深呼吸してみると、楽しくなるよ」。手を目いっぱい広げて深呼吸したときの、体の隅々まで血液がかけめぐるようなリフレッシュ感がふとよみがえってくる。
沖縄の季節アルバイト「キビ刈り隊」として農家に雇われた男女7人が名前の通り、サトウキビを刈り続ける物語。35日間で7万本。スクリーンに登場する畑を見ると、気が遠くなりそうだ。元医者の池永(谷原章介)、ほとんど無言の加奈子(長沢まさみ)、何かとつっかかる大輔(成宮寛貴)…。集まった7人はみんながみんなワケありっぽく、何かから「逃げて」きたようだ。時折、息を吸うのさえ苦しそうな表情を見せる。
しかし、彼らが心に何を抱えているのか、多くは語られない。「過去についての告白」なんて重いシーンがあるのかと思っていると、さらっと肩透かしをくう。押し付けがましく「聞いて聞いて、私はね、こんなにつらいのよ」なんて人は出てこない。
ぶつかり合いを次第に包み込んでいく、この「さらり感」が、宮古島を舞台にした「キビ刈り」に何ともよく似合う。汗をかきながらの作業や、畑のそばで食べるお昼ごはん。くたくたに疲れて、ごろーんと布団に横になる感じ。おじぃの口グセ「なんくるないさぁ~」(何とかなるよ)が、日常の中で忘れていたことを思い出させて、気持ちいい。
【小林千穂】
2004年05月22日
冬ソナ絶対主義派は見ない方がいい
「スキャンダル」(韓)
美女の全身をなめ回す、バストをわしづかみにしてもみまくる、おしり丸出しで腰を動かしまくる。ヨン様って意外と筋肉質で毛深い…。“微笑みの貴公子”こと「冬のソナタ」のペ・ヨンジュン(31)が、李朝時代のプレーボーイ役で冬ソナとは対極のキャラクターに挑んだ。「にやけたエロいヨン様なんて…」と拒否反応を示す冬ソナ絶対主義派は見ない方がいいかも。濃厚なセックス描写で、R-18指定(18歳未満観賞不可)になっている。
幅広い演技力が生き残りを左右する韓国芸能界では、俳優は芸風がひとつの色に偏ることを極端に嫌う。今が人気のピーク、正念場のヨン様。冬ソナ後に殺到した80もの出演依頼の中からあえてこの「スキャンダル」を選んで勝負に出た。ほんの数年前まで映像・出版物でのヌードはタブー中のタブー、今月初めてソウルに成人映画館ができたという韓国にあって、決断の大胆さがうかがえる。韓国では、公開5日間の観客動員数(110万人)など新記録4冠を達成した。
冬ソナでは、高校時代の雪の日、アクシデントで互いの口が触れたのが最大のラブシーン。「僕がポラリス(北極星)のように同じ場所で待っていたら、君は道に迷わないよね」。赤面のセリフや、プラトニックを貫くいちずさが「純愛」ブームを巻き起こした。高校時代から確かな愛情が見えていた冬ソナの2人はいいけれど、今作のように、それが見えずに迷走した人たちの場合は…。自分の純愛の深さに気付いたのは、すべてが手遅れになった後。愚かな男の純愛の果ては、見ちゃいられないほど痛い。ぶざまにこそ、リアルな純愛はある。
【梅田恵子】
2004年05月15日
自分の痛みが癒される映画
「世界の中心で、愛をさけぶ」(日)
原作と映画。どちらも涙腺を刺激される。しかし、その2つの涙は少し意味合いが違う。前者はいわば「喪失の物語」だった。行定勲監督は最後の数ページに目をつけ、深い喪失感を抱えた人間がどう再生していくかという視点を加えて、救済の物語にした。この工夫が、より多く、濃厚な涙を誘っている。
まず涙の蛇口をひねるのは、高校時代のアキ(長沢まさみ)とサク(森山未来)だ。スクーターの2人乗り、無心に焼きそばパンをほお張るサクの姿を見つけたアキの笑顔、決して特別でない、だれもが持っている最も楽しい思い出を実にみずみずしく丁寧に描ききる。渡辺美里や佐野元春の懐かしい曲が、未来を信じて生きる2人を後押ししている。まるで見る者一人ひとりが、お気に入りの音楽を聴きながら、自分のアルバムを見るかのような気持ちにさせられる。
その幸福感があまりに鮮烈だからこそ、残されたサク=朔太郎(大沢たかお)が抱える痛みの深さが突き刺さってくる。しかし、残された者には未来という現実が厳然としてある。絶望だけでは、それこそ現実世界のままに終わりかねない。映画は、1つの救済を提示した。原作にない婚約者、律子(柴咲コウ)だ。
「思い出、面影、楽しかった時間がシミのように残るんだよ」。やはり痛みを抱えた重じい(山崎努)の言葉だ。確かにシミは簡単に消えるものではない。人によっては目をそむけていたいこともあるだろう。だが、朔太郎は律子によって未来をみいだすとともに、高校時代の輝きの重さ、大切さと初めて正面から向き合い、それまで以上に理解できるようになる。すべてがそううまくいくとは限らないけれど、いつか自分が持っている痛みもこんな風に癒やされる可能性がある。そう思わせてくれる映画である。
【近藤由美子】
2004年05月01日
前作と足して2で割れば逸品
「キル・ビル2」(米)
思わせぶりな「VOL・1」のラストから待つこと半年。タランティーノ監督(以下タラちゃん)が送る完結編はラブストーリー。ユマ・サーマン(以下ユマ様)演じる殺し屋が、かつての恋人と縁を「切るビル」できるのか。日本刀で「斬るビル」できるのか。あっと言う間の2時間強ですべてのなぞが解明されチャンチャンとなる。
でも、やっぱタラちゃん。映画愛ランク世界1位の彼だから、大切なのは筋よりディテール。色調と時間軸をあっち行きこっち行きさせて(十八番!)マカロニウエスタンやカンフー映画を引用しながら(十八番!)うんざりなクドい会話とクールな音楽を駆使して(十八番!)ラブを語る。
タラちゃんにとってラブとは何ぞや。それは映画監督としてより、さえない不惑オタクとしてのユマ様への恋心だ(と思われる)。秘めた片思いは10年前「パルプフィクション」の時から続いていた(に違いない)。多用される足元からのカメラはいつくばりカットや、棺(ひつぎ)に生き埋めにされるユマ様の暗闇息遣いは、恋する目であり耳である。
ユマ様は最近、美形夫イーサン・ホークと別居も、次々とセレブと浮名を流している。やっぱタラちゃん片思い。ラスト近く、ビルのセリフを借りて語られる監督のラブな独白は胸が切なくなるよ。
けん騒の「VOL・1」と静ひつの「VOL・2」。ギャップたるや甚だしいが足して2で割れば大満足の逸品です。
【高田博之】