2004年04月24日

長編ミュージッククリップ!?

「CASSHERN」(日)

 カラフルな衣装をまとい、旗を手に動物をコミカルに先導する「Traveling」、動物たちがのびのびと暮らすユートピアの中で優しさを込めて歌う「SAKURAドロップス」。宇多田ヒカルの最近のミュージッククリップは、どれもCGを多用し、近未来的で色彩鮮やかな世界が展開される。これらを手掛けたのが宇多田の夫の映像作家、紀里谷和明氏。同氏が初めて映画監督を務めた「CASSHERN」もテイストは同じだ。舞台は戦争で荒廃した近未来の地球。CGを駆使して編集された荒廃した世界も現実感はなく、美しさすら漂っている。

 映画は70年代に人気を博したヒーローアニメ「新造人間キャシャーン」を実写化したもの。キャシャーンに生まれ変わった東鉄也(伊勢谷友介)は平和のために戦い続ける。果てしない戦いに「何が正しくて、何が間違っているのか分からなくなってきた」と悩む。無敵を誇る絶対的な存在だけがヒーローではない。CGの無機質ともいえる世界に、悩めるヒーローが人間味を与えている。

 目もくらむような映像の連続。セリフが比較的少なめで音楽で喜怒哀楽を表現する「見せる」映画である。CGの世界に慣れている若い世代なら反応できるのかもしれない。私自身は、エンディングで宇多田の曲が流れた時、長編ミュージッククリップを見ていたような錯覚に陥ってしまった。

 【近藤由美子】

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2004年04月10日

心機一転ライアンの大胆シーン注目

「イン・ザ・カット」(米)

 メグ・ライアン(42)の体当たりの演技に注目だ。キュートな笑顔で「ラブコメディー(ラブコメ)の女王」として君臨してきたライアンが、自分の内面に潜む性(さが)をあらわにしていく女性を熱演している。

 幼少時代のトラウマから男性とのかかわりを嫌い、30歳を過ぎても独身でいる大学教師のフラニー(ライアン)は、ある殺人事件をきっかけに出会った刑事マロイ(マーク・ラファロ)によって目覚めていく。普段はメガネをかけ、茶色の地味なコートを着て、硬い表情を崩さないフラニーが、マロイの前では1人の女に変身する。

 キャミソール姿のままベットにうつぶせになり、彼を思って悩ましい声を出しながら自慰行為にふける。セックスシーンでは、自らブラウスを脱ぎ捨てて男の身体にからまりつき、愛撫(あいぶ)されると、恍惚(こうこつ)の表情を浮かべて男の髪をまさぐる。

 ライアンがこの役に挑んだのは、仕事と私生活の行き詰まりが無関係ではない。40歳を過ぎて、これまでのラブコメの役柄にも限界を感じ、プライベートでもラッセル・クロウとの不倫、デニス・クエイドとの離婚などトラブルが続いた。当初ジェーン・カンピオン監督はニコール・キッドマン主演で脚本を進めていたが、出演を直談判してきたライアンの熱意に打たれて起用を決めたという。仕事もプライベートも心機一転を図りたかったライアンの思いが、大胆なラブシーンに凝縮されているような気がする。

 【大越慈】

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2004年04月03日

「まさか」な出来事に虚無感…

「エレファント」(米)

 まさかと思う出来事は日常の中で足音も立てず、予兆もなくやってくる。だから「まさか」なのだ。

 99年に米コロラド州コロンバイン高校で起きた銃乱射事件。男子学生2人が昼休み、教師や生徒合わせて15人を校内で次々と撃ち殺した。当時、学校にいた生徒のだれが一体そんな恐ろしいことを覚悟していただろうか。映画は、この事件を題材に、事件が起きるまでの学校の1日を描く。

 なぜ事件は起きたのか。そうした犯罪心理学的アプローチはしない。同じ事件を扱ったマイケル・ムーア監督の傑作「ボウリング・フォー・コロンバイン」のように「なぜ米国には銃が必要なのか」と社会的背景を探ることもしない。

 描いているのは、事件直前までの学校の淡々とした日常そのもの。ガールフレンドとの会話を楽しむ男子生徒、自意識過剰で周囲にとけ込めない子、将来の進路を夢見る子、級友と他愛のない会話で時間をつぶす女生徒たちなど、暴力や事件とは無縁な、ありふれた光景ばかりだ。

 恐怖は突然訪れる。犯人の男子生徒2人は銃を乱射し続ける。狙われる理由などない生徒たちが次々と撃ち殺されていく。

 なぜ殺されなければいけないのかと、怒りに震えるというより、前触れなく襲いかかってくる狂気の前では、それぞれが抱える日常など、いとも簡単に吹き飛ぶという虚無感にぼう然とした。

 異常犯罪多発、テロの恐怖、原因不明の伝染病の発生。「まさか」な出来事が身近に迫ってきた今、この映画が放つ虚無感に背筋が凍った。昨年のカンヌ映画祭で、パルムドール(グランプリ)と監督賞を受賞。

 【松田秀彦】

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