2004年03月27日
50代独身、しわが魅力のキートン
「恋愛適齢期」(米)
しわが刻まれた笑顔がとてもチャーミングだ。主演のダイアン・キートン(58)。海辺でジャック・ニコルソンのユーモアたっぷりの話に笑い転げ「着飾る必要もない」とパジャマ姿で2人でおしゃべりをする。口を大きく開けて笑うと、目尻や首筋のしわが目立つのだが、それがかえって彼女の魅力を引き立たせている。
劇中で演じているのは、54歳のバツイチ劇作家エリカ。ニコルソン演じる63歳のプレーボーイ、ハリーと恋に落ちるという設定だ。私生活でも恋多き女性といわれるキートン。公私にわたるパートナーだったウディ・アレンとの出会いと別れ、数多くの男性との恋愛が、彼女のしわを輝かせているのだろうか。そういえばニコルソンとも恋のうわさがあった。
ナンシー・メイヤーズ監督は「大人の男女が初めて恋に落ちる映画」という。結ばれた2人はあまりの幸せに泣いたのに「大人の関係」として、すぐに終止符を打つ。エリカが失恋を癒やすため、泣きながら2人の関係をモチーフにした舞台をつくり上げる。物語の中でハリーを殺してしまうあたりに、エリカの複雑な心境がのぞく。ほろ苦い大人のラブコメディーに仕上がっている。
劇中でも私生活でも、バリバリの恋の現役のキートンとニコルソン。エリカに恋する若き医師役のキアヌ・リーブスも「恋に年齢は関係ない」と言う。日本では「負け犬(30代以上、未婚、子供なし)」なる言葉が流行しているが、50代独身のキートンが聞いたら、即座に笑い飛ばすだろう。
【近藤由美子】
2004年03月20日
パーフェクト!ロドリゲス映画
「レジェンド・オブ・メキシコ デスペラード」(米)
タランティーノはすっかり大物になり、昨年公開した「キル・ビル」は、見る人の“イケてる度”を試すような屈折ぶり。しかし、もう1人のB級映画の雄、ロバート・ロドリゲス監督(35)は今回もどえらい娯楽映画をつくってくれた。赤い大地のメキシカンテイストと、しびれるようなガンアクション、劇画のようにセクシーで無敵な男。3拍子そろったロドリゲスワールドが今作も全開だ。
ギターを手にさすらうヒーロー、エル・マリアッチの活躍を描くシリーズで「エル・マリアッチ」(92年)「デスペラード」(95年)に続く第3章。今回は、失った妻と子の復しゅうのため、クーデター阻止の戦いに身を投じていく。8000発の弾丸を使い切った前作同様、アイデア満載のアクション&銃撃シーンは客席がどよめくカッコ良さ。デビュー作の第1章を人体実験で稼いだ7000ドル(約77万円)で製作したという。骨太監督の美学はダテじゃない。
個性派俳優ジョニー・デップがCIA捜査官として登場するのも話題だ。陰湿さ、頭の良さ、衝撃の後半の人間臭い横顔。ジョニー独特の色気が漂う。バンデラスが汗臭さなら、ジョニーの色気はワイルドなコロンのイメージ。正反対の色気がスクリーンで1つになる。いつもはキャラが濃すぎて取り扱い注意のウィレム・デフォー、ミッキー・ロークらも、得意分野で生き生きとしている。愛すべき映画オタク、ロドリゲス監督のもとに集まった大物俳優たちのわくわく感が伝わってくる。
見終わって何か心に残るわけでもないが、見ている時はパーフェクトにおもしろい。「キル・ビル」の不完全燃焼が吹き飛んだ。
【梅田恵子】
2004年03月13日
クイールの表情が心を揺さぶる
「クイール」(日)
主人公の「クイール」を演じたラブラドルレトリバー、ラフィーの表情が目に焼き付いて離れない。当初はテスト用として用意されていた犬だったが、崔監督がその表情に一目ぼれし、主役に抜てきした。
育ての親(パピーウオーカー)との別れのシーン。訓練士(椎名桔平)が運転する車の後部座席に乗せられたクイール。車がゆっくりと発進すると、後ろを振り返り、車のリアガラスごしに育ての親2人(香川照之、寺島しのぶ)をじっと見つめた。その目の不安げなこと。2人の顔がだんだん小さくなってくると、今度は前を向いて運転席の訓練士をチラリと見る。そして観念したかのように、身動きひとつせず鼻を1回だけ小さく鳴らした。
ラフィーの微妙な表情が、別れのシーンに見事にはまっていた。もちろん犬に細かい演技を指導できるわけはない。崔監督は、とにかく“待つ”ことで、ラフィーの表情を引き出したという。訓練センターの卒業式で、落第したクイールとパートナーの渡辺さん(小林薫)だけが取り残されるシーンでは、ラフィーの切ない表情を求めて、なんと36回撮り直した。結果、通常の映画の5倍にあたる45時間分のフィルムを要したという。スタッフ、キャストが一丸となってつくり上げたクイールの表情が、随所で心を揺さぶる。
【大越慈】