2004年02月28日

ホラー忘れ演技に見入ってしまう

「ゴシカ」(米)

 精神科医ミランダ(ハル・ベリー)はある日目覚めると、身に覚えのない夫殺しの犯人として勤務先の病棟に入れられていた。精神分析をする側からされる側へ、一夜にして立場が変わってしまう。無実を訴えても、誰にも信じてもらえず、同僚にも患者としか見られない。1人も味方のいない絶望的な孤独。この状況が怖い。

 ホラー映画だが、首が飛んだり、血しぶきが上がるシーンはない。たくさん切り傷を負った少女の霊が唯一のホラーらしいキャストだ。この霊を見た後、ミランダは夫殺しの嫌疑をかけられる。霊は彼女の腕を傷つけたりして、何らかのサインを送ってくる。じわじわ胸が締め付けられるような怖さだ。

 論理的な思考のミランダが、次第に心の声にも耳を傾けて行動をするようになる。苦しむ心の内を表現する難役だが、ベリーの演技が光っている。「007」シリーズのボンドガールもこなした美女が、錯乱しながらも必死に見えない恐怖と戦う。共演のペネロペ・クルスもインパクトがあった。それにしてもベリーの存在感はすごい。いつの間にかホラーであるのを忘れて、ベリーの演技にただただ見入っていた。

 【近藤由美子】

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2004年02月21日

中井「来栖」が見せた強さと孤独

「ヘブン・アンド・アース」(中)

 「生きたい」「帰りたい」「役に立ちたい」。登場人物たちそれぞれの夢がほんろうされ、無残な形で粉々にされていく。漢語タイトルは「天地英雄」。あきれるほど大きな国土をはいずり回るちっぽけな人間の無力さを、文字通り天界から俯瞰(ふかん)しているようだ。

 この数年話題になった中国映画は、この手の無情を描いたものが多い。今回、皇帝への反逆罪で追われる男・李を演じたチアン・ウェンの監督作品「鬼が来た!」は、日本軍と中国軍の間でほんろうされた村人が首をはねられるまでを描き、カンヌ映画祭でグランプリを獲得した。昨年ヒットした「HERO」は秦王の残虐を止めようとした刺客があと1歩で敗北する物語だ。人間に対する見方はシニカルだが、個人の苦悩やけなげに生きようとする姿を丹念に描くことで、人間への温かい視線を貫いている。「ヘブン-」が描く1人1人の死にざまも、救いのなさが逆にリアルで、人間賛歌の見せ場として迫ってくる。

 戦闘シーンはすべて実写。新彊(しんきょう)ウイグル自治区の大地を舞台に、数百騎の人馬が激突する壮絶な合戦、火を放った夜戦などが大スケールで展開する。なぜか宗教色の濃いスペクタクルも登場し、神も奇跡も総動員した迫力の映像だ。

 遣唐使として大陸に渡り、25年間帰国を夢見た日本人・来栖(くるす)を中井貴一が演じた。来栖の強さと孤独に、たった1人の日本人俳優としてこの映画に参加した中井がダブる。セリフは全編中国語。苦労を感じさせない存在感で広大な大地になじんでいる。役者魂の迫力にも注目だ。

 【梅田恵子】

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2004年02月14日

完結編で友情物語に深み

「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」(米)

 「滅びの山」に指輪を葬りに行くフロド(イライジャ・ウッド)とサム(ショーン・アスティン)の熱い友情に胸を打たれた。サムはもともとフロド家の使用人で、フロドが「指輪」を葬る使命を与えられると、一緒に旅に出ることを名乗り出る。

 「指輪の重荷は背負えなくても、あなたは背負えます!」。旅の途中、くじけそうになって自分を見失いかけたフロドを元気づけるためにサムが語りかけた言葉だ。第1部では9人いた旅の仲間も最後にはフロドとサムの2人だけになる。途中、フロドがサムに疑心暗鬼になることもあるが、サムは最後の最後までフロドと運命を共にしようと決心する。太っていて動きの鈍いサムが、フロドを守るために勇気を振り絞って敵に立ち向かっていく姿は目頭が熱くなった。

 撮影はトータル15カ月間、ニュージーランドで行われた。俳優たちは寝食を共にしてこの3部作を完成させた。イライジャが「素晴らしいきずなが生まれた」と言うように、イライジャとショーンの間にも本物の友情が芽生えた。だからこそ劇中のフロドとサムの友情物語にも深みが加わったように思える。

 「男同士の友情」。描き尽くされたテーマではあるが、いつの時代にも通用する永遠のテーマなのかもしれない。完結編は上映時間3時間23分の大作。決して長くは感じないが、見る前にはトイレを済ませておくことをお勧めします。

 【大越慈】

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2004年02月07日

常盤が熱演、生きるために愛は必要

「赤い月」(日)

 「風と共に去りぬ」を思い出した。舞台は1860年代、アメリカ南部の町、タラ。ビビアン・リー演じる大農場主の娘、スカーレット・オハラは、南北戦争という時代の波にほんろうされながらもたくましく生き抜く。「家族に2度とひもじい思いはさせません。きっと生き抜いて見せます」。夕焼けの中、タラの大地にしっかりと立ち、拳を握りしめて誓うスカーレットは力強かった。

 「赤い月」の主人公・波子(常盤貴子)も第2次大戦という激動の時代を子供たちとともに生き抜く。満州(現中国東北部)での何不自由ない生活から一転して、敗戦国の一国民としてすべてを失い「私は生きたいんです。生きて子どもたちを生かしたいんです」と土下座もする。

 波子は3人の男を愛したが、それは「生きるための愛」。波子にとっては生き続けるために愛し合う人が必要だった。わがままで奔放な女性にも見えるが、時代に縛られず大切なものは何が何でも守り抜く。つらい思いもしたのに「ありがとう、満州」とつぶやく姿は、真に自立した女性を見た気がした。

 スケールは壮大だ。中国の雄大な風景が目に焼き付く。撮影期間は夏、冬合わせて3カ月。群衆シーンではエキストラ延べ4000人を動員したという。常盤は文句なしの熱演。周囲のキャストをひと工夫すれば、と惜しまれる。

 【近藤由美子】

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